「働き過ぎ」「迷い過ぎ」…あなたの疲労は「し過ぎ」が原因? /栄養士、健康管理アドバイザー・笠井奈津子


ただでさえ社会人は忙しいものですが、とくにコロナ禍以降は、先が見えない不安や解消できないイライラ、モヤモヤがないまぜになった「疲労」を多くの人が抱えていると思います。現代人はなぜ、こんなに疲れているのでしょうか。

著書『何もしない習慣』(KADOKAWA)を上梓したばかりの栄養士・健康管理アドバイザーの笠井奈津子さんは、「現代人の疲労の要因は、『し過ぎ』にある」と指摘します。
○■現代人の疲労は、様々な行動における「し過ぎ」にある

——多くのメディアで「現代人は疲れている」と指摘されます。その要因はどこにあると思いますか?
笠井 いくつもあると思いますが、様々な「し過ぎ」であることがいちばんの要因だとわたしは見ています。

——たとえば、どんな「し過ぎ」でしょう?
笠井 「迷い過ぎ」「悩み過ぎ」もそのひとつですよね。テクノロジーの進化によって情報を得たり連絡を取ったりする手段がどんどん増え、それに伴って働き方が多様化しました。もちろんそれにはいい側面もありますが、様々な選択肢が増えたことで迷ったり悩んだりすることも増えたことは事実です。よって、それだけ心的疲労が大きくなっているのです。

——なるほど。便利になった反面、弊害もある。
笠井 他にも、SNS等の浸透による「他人と自分を比べる材料の増え過ぎ」も疲労の要因です。完璧な人間なんてどこにもいませんし、そもそもそんな人間を目指す必要もありません。それなのに、SNS等を通じて他人と自分を比べてしまい、自分に必要ない部分を強化しようと過剰な努力をしている人も見受けられます。過剰な努力なのですから、これもまた疲労につながることは明白です。

また、SNSでいえば、見ず知らずの人から揶揄されたり攻撃されたりすることもあります。つまり、「つながる必要のない人や世界とつながり過ぎる」こと自体が、心的疲労を増大させているという見方もできます。

——「し過ぎ」が問題だと感じたのは、どんなことがきっかけだったのですか?
笠井 栄養士として相談を受けたことでした。相談者の多くが、多種多様なダイエット法のなかから自分に合った方法を選べず迷子になり、そして疲れてしまっているように感じたのです。

食事法ひとつとっても、健康にいいとされるものはまさに多種多様です。世間でいいとされることをきちんとできなかったら劣等感にさいなまれますし、迷って悩みながらも選んだ方法が自分に合っていなかったとしたら、やはり疲れてしまいます。
○■「し過ぎ」により疲れている人は、必ず食事が乱れている

——栄養士としての立場から見える「し過ぎ」もありますか?
笠井 食事の乱れですね。過食にしろ拒食にしろ、やはり「し過ぎ」な人が多いようです。疲れやすい時代のなかで、「本当に自分がしたいことはなにか?」「自分の幸せとはどんなことか?」と考えるゆとりすらなくなっている人は、必ずといっていいほど食事が乱れています。少し大袈裟に思えるかもしれませんが、食事の乱れは自分の人生が制御不能な事態におちいる前兆だとわたしは見ています。

——人生が制御不能となるとちょっと怖いですね。どういうことでしょう?
笠井 食事は、日常的な行動のなかでもっとも犠牲にしやすいものです。日々の仕事に追われる多忙な人が、仕事をしながらカップ麺でランチを済ませたり朝食を抜いたりしても、その悪影響を即座に感じられるものではありません。

ただ、その影響は将来の自分に跳ね返ってきます。生活習慣病はもちろんのこと、不眠症やメンタルの不調など様々なかたちとなって表れるでしょう。もちろん、それでは自分の人生をきっちり制御してよりよいものにしていくことは難しくなります。

——食事が乱れている人に共通する特徴というものはありますか?
笠井 真面目でストイックな頑張り屋さんが多い印象ですね。わたしにダイエットと疲労回復の相談をしてきたいわゆるワーママはまさにそんな人でした。彼女は早朝4時や5時に起きて家族の朝食と弁当をつくり、夕食の仕込みをします。でも、彼女自身はダイエット中ということで朝食をとりません。

このとき彼女の頭のなかには、「家族のためになにをつくるべきか」「調理の時短のためには?」「ダイエット中の自分はなにを食べるべき?」「疲労回復のためになにを食べるべき?」といったたくさんのことが巡っています。とにかく「考え過ぎ」なのです。

考えることが多い状態では、「家族のため」「ダイエットのため」「疲労回復のため」というふうにその都度選択の基準が変わりますから、食事が乱れるのも当然です。結果として、太ってしまったり疲れやすくなったりしてしまうのです。彼女には、ダイエットや疲労回復を考える以前に、まずは生活そのものを見直して、「考え過ぎ」な生活から、不必要なものを引き算することを提案しました。
○■自分と向き合い自分に問いかける「なにもしない」時間

——そんなふうに「し過ぎ」によって疲れてしまっている人は、どうしたらいいでしょう?
笠井 ぜひ「なにもしない」ということを考えてほしいとい思います。「なにもしない」といっても、ただぼーっと過ごすということではありません。もちろん、慌ただしい日々のなかでときに立ち止まってなにもせずに過ごす時間も必要でしょう。わたしがいう「なにもしない」とは、毎日の生活のなかにあえて意識的につくり出す休む時間であり、「自分と向き合う時間」のことです。

いまは、仕事においても生活においても外からの刺激が多い時代です。いつでもスマホが通じるため、なにもしない時間、外の世界とつながらない静かな時間、自分だけの時間は、強く意識しないとなかなか得ることができません。「なにもしない」とは、いわば「能動的に休む」ことといえます。

——あえて意図的に自分から休むということですね?
笠井 こういうと真面目でストイックな頑張り屋さんは、「だったら、能動的に自分から休まなければならない!」なんて考えてしまうかもしれません。「能動的に休む」という先の言葉と矛盾するようですが、受動的であってもいいのです。平日の疲れが溜まって休日の多くをソファに寝転んで過ごしてしまいたいときもあるでしょう。

そのなかでも自分と向き合うことを意識してみてください。ソファに寝転がっていることが回復につながっているのか、そもそもの疲労の要因はなにか、その要因を軽減する手段はないのかと自分に問いかける——それこそが、わたしがいう「なにもしない」「能動的に休む」であり、生き生きと自分の人生を歩むために大切なことだと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司

笠井奈津子 かさいなつこ 1979年、東京都生まれ。カラダプラスマネジメント株式会社代表。栄養士。健康経営アドバイザー。聖心女子大学文学部哲学科卒業後に栄養士の資格を取得。企業研修では、数百人単位の参加者でも事前に食事記録をチェックし、労働環境にも配慮。コンビニでの買い方など、机上の空論にならないアドバイスを大事にしている。産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。自身の経験を生かして澤円氏の執筆・講演業のマネジメントに携るなど、各方面で活躍中。著書に、『10年後も見た目が変わらない食べ方のルール』(PHP新書)などがある。
『何もしない習慣』(KADOKAWA) この監修者の記事一覧はこちら

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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