<純烈物語>後上翔太(新人)を気にかけながら撮影は進んだ。『スーパー戦闘 純烈ジャー』秘話<第114回>

日刊SPA!

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第114回>プロデューサーの想像を上回った作品。純烈ジャーというトラベルは始まっている

「プロデューサーって、現場では何もやることがないんですよ。あとはクランクインして、何事もなくクランクアップするのを見守るしかない。とは言いつつ、全部は行けなかったですが、ほぼ現場には行っていましたね。クリエイティブに関しては純烈さん、キャスト、監督、各スタッフがいるので作ってもらえたらいいというだけでしたけど」

『スーパー戦闘 純烈ジャー』の中野剛プロデューサーは、そう言って撮影の様子を振り返り始めた。現場にいけば、脚本には書かれていない肉づけの部分をその場で見られる。

まったくの新しいヒーローが映像として形になった時は、グッとくるものがあったという。純烈ジャーのメンバーが変身し、名乗りをあげて大見得を切る。その中に、後上翔太がいるという現実。

東映ヒーロー経験者3人だけでなく、本当に後上がそこへ加わり横一列になった瞬間は特別な感慨があったと中野。現場でも二人でよくコミュニケーションを取るようにしたそうだ。

◆どんな演技をしたらいいのかと不安な後上が面白い

「後上君がどういう立ち振る舞いの演技をするかが心配だったので、悩んでいたらそれをサポートするというのも現場に足を運んだ理由の一つでしたね。自分がメインではない場面での演技こそが難しいものなんです。

酒井(一圭)君と(白川)裕二郎、小田井(涼平)さんがお風呂で変身するシーンがあって、後上君だけがなんだなんだ!? っていう顔をするんですけど、ああいうところのお芝居が見ていて面白い。どんな演技をしたらいいのかと不安な後上君という視点で見ると、その表情がリアルで。そこはやってきた人間との差があるものなんです」

酒井とも、後上を通じ新しいヒーローを生み出す過程の描き方に関して何度となく話し合った。スクリーンの中でもキーマンだが、現場でも「翔ちゃん」のことを誰もが思いつつ進んでいったのだ。

◆裸、お色気、全力疾走……なんでもこなした後上

作品からも伝わると思われるが、後上翔太という新人戦隊役者は演技力をカヴァーしてあまりあるほどの体当たりっぷりだった。裸は当たり前、色っぽいシーンもこなせばとにかく走りに走った。そして町中のきれいとは言えない川の中へ入り、駆けずり回った。

やるかやらぬかの選択肢など、後上にはない。やることが前提で、それをどう合理的に形とするか。そんな人間性がわかっている酒井だから主役に据えるのを前提として、純烈ジャーを発想したのだろう。

後上を理解する酒井がいて、酒井を信用する後上がいる。これは他の2人とはまた違った領域であり、また他者が立ち入るような関係性ではない。

「酒井君のリーダーとしての現場におけるアイデアやプランニング、プロデュース力が出た作品になったと思います。久々に裕二郎と一緒にやりましたけど、変わらないですね。カッコよさとお茶目なところが同居しているあたりは、ハリケンジャーの頃のままだった。小田井さんはいつものあの感じ。

◆2週間ほどで集中的に撮った

こうして話すとただ楽しそうなんですけど、純烈としてはほかの仕事がある中、2週間ほどで集中して撮ったのは大変だったはずです。にもかかわらず全員自然体だから、現場は本当に楽しかった」

関係者試写会で、できあがった作品を通しで見た時、中野氏は「これはすごいモノができたぞ」と唸ったという。プロデューサーとして予算は把握し、そこからだいたいどんな作りになるか読めるのだが、純烈ジャー関しては描き方やストーリー、物語の流れなどが想定以上の内容となっていた。

つまり、プロデューサーの想像を上回るものとして、世に出されるのだ。だからこそ中野氏は純烈ファン、特撮ファン以外の層にも届いてほしいと心から願っている。

「どんな届き方をするか……今日がその第一歩ですね」

中野氏の取材は、一般公開前の完成披露挨拶(先行上映会)が催された8月26日の日中に東映ビデオ株式会社内でおこなった。前日、長崎におけるディナーショーへ出演していた純烈のメンバーは、羽田空港から東銀座の同社へと直行。

完成披露挨拶の前に、5社の取材(リーダーは6社)をここで受けることとなっていた。相変わらずの忙しさである。

到着した4人は、東映ビデオが入ったビルの地下にあり、山本浩光マネジャーのお気に入りというステーキハウスでランチ。店の壁には、純烈ジャーのポスターが貼られていた。

「ダブルのダブルで!」

山本マネジャーの威勢のいい声が響いた。要はダブルステーキというメニューを2人前頼んだのだ。それでいて「ライスは1人前でいいです」と、体に気をつけることも忘れない。

「僕はリブロースで」

先の明治座公演で何度も口にした「おおローズ、ロース、リブロース」のセリフがまだ意識に染みついているのか。それを白川に突っ込むと、ニコッと笑った。

すでにほかのテーブルで先に食べ始めていたメンバーと山本マネジャーは店を飛び出し取材の準備へ。そんな純烈の日常を見るにつけ、いつも思うことがある。「この人たちは、いったいいつ舞台や映画の長ゼリフを覚えているのだろう」と。

取材用に2部屋が取られており、一方で進められるうちにもう一方では次の社が準備するという機能的な流れ。その中で何度となく同じ質問をされながら、4人は聞き手とその後ろにいるスタッフまで楽しませようとする姿勢を忘れない。

取材を終えた時には、どの社もニコニコ顔でいるのだ。酒井の単独取材終了を待って、17時に東映ビデオを出て新宿バルト9へ車で向かう。分刻みのスケジュールをこなすとは、こういうものなのか。同行させていただいたことで、その一端が味わえた。

メンバーが劇場のバックステージへ到着したのは、第1部の上映が佳境に入った頃だった。本当ならば、みんながどんな顔をしてスクリーンを眺めているか確認したかっただろう。

じっさい、上映後におこなわれた完成披露挨拶で登壇した酒井は、グルリと客席に並ぶ顔を見やった。さぞや、いい眺めだったに違いない。まだ一般封切りがされていないとはいえ、純烈結成時からの夢が本当に実現した場なのだから。

◆「寅さんの渥美清さんみたいにお客さんの顔を覗いてみたかった」

「やっぱり、ちょっと覗いてみたかったよね。寅さんの渥美清さんが、それぞれの生活ポイントが違うからと浅草や新宿など会場を変えてお客さんを見にいったっていう話があるんだけど、そういうのを自分もやってみたかった。でも、登壇したらみんなニコニコ笑っていたし、ソーシャルディスタンスを取りつつも高揚感がそこにあったので、楽しんでくれたんだなとは思えました」

これまでも映画の舞台挨拶は何度となく経験しているが、自分の発想が作品となり、発表されたケースはこれが初めて。そこは、ちゃんと夢がかなったという実感が得られたと酒井は笑った。

子役として早くからこの世界へ携わる中で、多くのクリエイターと仕事をやってきた。そこで思い続けてきたのが「やらなあかん」だった。

「そういう人たちとやってきた者としての役割っていうのかな。映画って、みんなで作るから思わぬものになっていったり、不思議なことがたくさん起こったりする。そこはいい勉強をさせてもらったと思うし、それによってビックリするようなものを作りたいとも思った。思いもよらぬことが起こるタネをポーンと投げた感触はありますよ。うん、ワクワクが始まったっていう感じかな」

完成披露挨拶の進行を務めたのは、山本康平。位置的にすぐ隣へいた小田井から何度もイジられながら、大役をこなした。

約3年前、ラクーアにおける純烈のイベントを現場で見てその意気を感じた自分が、企画から関わった作品の披露会で司会をやるなど、あの頃は想像もしなかった。話をもらった時は「映画はしっかりしたものだから、俺なんかでいいのか」と思った。

「でも、ここまで関わった上でやらせてもらえるならと頑張ってやったつもりだったのが、終わったら『グダグダだった』と言われてご迷惑をおかけしちゃったかと。(そばにいた後上に)後上君、俺、大丈夫だった? 最後も、写真撮影に自分が入っていいものかと思いましたけど、横が涼平さんだったので僕をやさしく包み込んでくれました。仮面ライダー龍騎の頃から話をしてくれて、やっぱりあったかいなあって思いましたね。

普通の劇場の舞台挨拶と違って、ペンライトが光っているのが純烈の映画ですよね。コンサートの見る側はあっても、ステージ側から眺めることってないから、すごく気持ちのいいものでした。人前に立つことはやっていても、ペンライトがあると気持ちが明るくなって、高ぶるものであることを知りました」

山本にとっても、そこは夢の舞台だった。だから、メンバーと佛田洋監督、そして純烈ジャーの4人の中へ加わる資格は十分にあった。

◆『純烈ジャー』を定番の作品にしたい

そんな光景を、中野プロデューサーも会場のどこかで見ていたと思われる。数時間前、中野はこんなことを言っていた。

「東映の昔の作品はシリーズモノとして続きましたけど、純烈ジャーもそういう定番作品になったらいいと思います。せっかく僕らも新しいヒーローを作ったわけですし、一回で終わるのはもったいない。これを作り続けることで純烈そのものもどうなっていくのかという興味もある。純烈ジャーとともに、トラベルしたいですよね――」

16日後の9月11日、改めて公開記念舞台挨拶に立った酒井から続編決定の報が明かされた。初回は後上のヒーローとなるための成長過程を描いたが、今度は純烈ジャーという作品そのものが進化していくことになる。トラベルは、すでに始まっている。

※文中敬称略

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

【鈴木健.txt】

(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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