東京オリパラに見るテレビがつくる共通体験とは 放送作家・鈴木しげきの「テレビを読む」

テレビドガッチ

東京五輪の開会式の平均世帯視聴率が56.4%。閉会式が46・7%。東京パラリンピックの開会式が23・8%。閉会式が20・6%(いずれも関東地区)。始まるまえは前途多難な東京オリパラでしたが、フタを開けてみればテレビの式典中継はいずれも高視聴率。今やテレビは国民に共通体験をつくるメディアになっているのかもしれません。

あるタレントさんが「五輪の開会式はあれだけモメたんだから、どんなものか見てやろうって人が多かったんじゃないの?」と言っていたそうですが、まさにその通りでしょう。前フリがバッチリなドキュメントがテレビで始まろうとするわけですから、これはもう大注目なわけです。

結果、五輪開会式は「まとまりのないバラバラなものを見せられた」「地味すぎ」「ご時世からして控えめなのは仕方ない」「あの状態でよくやった方だと思う」など、さまざまな声が続出。国内外から絶賛を集めたパラリンピックの開会式に比べて、明らかに賛否の“否”が多めでしたが、どうやらこういった賛否がないまぜになるものこそ、国民には関わっている意識が働くようで、これが現代の共通体験なのかもしれません。そしてそれを担っているのがテレビだったりします。

オリパラ、NHK紅白歌合戦、大型チャリティーなど、国民的番組はいくつかありますが、もはやそれらが簡単にひとつにまとまるはずはないのでしょう。「ホントにその人が適任?」「なぜその曲なの?」「マラソンする意味ってなに?」……あふれるそれらの声に対して、昨今の大型テレビ番組は「今回はこんな方法で課題を解決しています。いかがですか?」と投げかけているように見えます。

視聴者はチェックをする目で観ているので、批判はデフォルトです。ただ、そこからいかに面白さや感動へ飛躍できるか? 当然ですが、そこは試されています。

オリパラはテレビの企画としても人類最強コンテンツ

感動や奇跡が生まれる興奮については、今回の東京2020も見応えは十分にありました。近年のオリパラが必ず賛否が渦巻き、批判も噴出しながら、終わってみると「やってよかった」と答える人が多いのは、コンテンツとしての頑丈さでしょう。

今大会に登場したスケートボードやサーフィンなどの新競技を見ても、ビジュアル的でテレビを意識しており、コンテンツとして、さらに頑丈になっている印象を受けました。同時に若者を取り入れることにもぬかりがありません。

それに加え、オリパラにあまり興味のない若者層でもSNSでは話題に参加しているケースが増えました。「へぇ~、選手村はこうなっているのか?」「金メダルを取った人と間違えて、こんな人までフォロワーが増えてるんだ!」「ボッチャやってみたい! いろいろ調べちゃった」……テレビがつくる現代の共通体験は、こんな広がりまでを言うのでしょう。

楽しむ人、批判する人、派生した話題に興味を見つける人。世の中の多様化が進む中、国民レベルの共通体験は希少になってきました。昨今、“テレビ離れ”という言葉を耳にしますが、共通体験をつくるテレビの役割は、今後むしろ重要度を増していくのではないでしょうか。

調整、妥協……というと後ろ向きの印象を受けますが、そこから積み上げていくようなタイプのクリエイティブが大事なのかもしれません。

共通体験をつくるテレビと、個人にささるテレビ

しかし、そんな大型番組は年に数回ほどで、普段は視聴ターゲットを狙ったプログラムが並んでいるわけです。

日本テレビのこの秋の改編テーマは『OFFからONへ、ONからFANへ』だと発表されました。会見での説明によると、「視聴者は当然テレビを見てくれているだろうという前提から離れ、生活者の皆さんにテレビをつけ、日本テレビを選択いただく、さらにファンになっていただくという思いを込めたテーマ」だと言います。

このファン獲得型のテレビのあり方は、以前から少しずつ語られていました。詳しくは、境治さんの記事【インタビュー「テレビを書くやつら」徳力基彦氏に聞く、テレビのネット活用論(前編)~テレビはファン獲得型に変われるか~】を参照ください。

かいつまんで言いますと、ネットはバズる力より地道にファンと繋がる力のほうが得意で、むしろ瞬間的にバズが広がるのはテレビの独壇場。だから、テレビはネットの徐々に関係を深めていく強みを生かして、ファンを獲得していくことで番組を盛り上げたほうがよいのではという見方です。

何年か前から連続ドラマが話数を重ねるごとに視聴率を上昇させていく現象が見られました。これなどはネットで話題になることを上手に活用したパターンです。また、最近はバラエティーでもファンクラブ化をはかり、ネットで課金システムを取り入れるケースも出てきました。

ファン獲得は、つまりネットとの融合です。

もしかしたらこの先、新鮮野菜に生産者さんの顔が見えるように、ネットでキャストや制作者が積極的に視聴者へ語りかける流れができるのかもしれません。「今回はこういう意図で番組をつくったんですが、いかがでしたか?」などと思いを伝えたり、制作の姿勢を説明したり。

かつてテレビは、毎日のように同時共通体験を味わせてくれるメディアだったのかもしれません。今はその役割をハレの日に行いながら、それ以外の日は視聴者への寄り添いを強めていると感じます。つくられ方がさまざまになったのでしょう。

個人的には、新しい国民的大型番組の誕生を期待しています。アニメ『僕のヒーローアカデミア』では、雄英高校の体育祭がテレビ中継されて全国を熱狂させていますが、あんなの誕生しないでしょうか(笑)。M‐1グランプリをはじめとするお笑いコンテストも、箱根駅伝みたいに伝統をかけた戦いになるほど成長していってほしい。あとeスポーツなんかも盛り上がりそう。テレビ、まだまだ楽しめます。

【文:鈴木 しげき】

執筆者プロフィール
放送作家として『ダウンタウンDX』『志村けんのバカ殿様』などを担当。また脚本家として映画『ブルーハーツが聴こえる』連ドラ『黒猫、ときどき花屋』などを執筆。放送作家&ライター集団『リーゼント』主宰。

当記事はテレビドガッチの提供記事です。

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