両極端なレア作品集 赤塚不二夫86歳の誕生日に“良い赤塚”と“悪い赤塚”を読もう!

9月14日は生きていれば赤塚不二夫の86歳の誕生日だ。1935年〈昭和10年〉に生まれ2008年に亡くなったので、もう13年も経ってしまった。2000年代に入って以降は体調を崩し、あまり目立った活動は出来なくなってしまった赤塚だが、CMや商品などで赤塚キャラは人気が高く、露出的にはずっと現役感のある特別な存在だった。

同世代だと1933年生まれが鈴木伸一、1934年生まれが藤子不二雄(A)、1936年生まれがつのだじろう、古谷三敏、楳図かずお、さいとう・たかをと、まだまだ元気な作家がたくさんいる。享年72歳は早すぎて残念でならない。元気であれば、国宝級落語家のような円熟味を増した芸と、ますます子ども返りしたようなアナーキーなギャグを織り交ぜた、誰も読んだことのないようなマンガを描いてくれたんじゃないかと夢想してしまう。

そこで、赤塚の誕生日をお祝いして最近出版された作品集をおススメしておきたい。一時期は『おそ松くん』『天才バカボン』『もーれつア太郎』といった大ヒット作以外の作品は入手困難だったが、いまはフジオプロとebookjapanがコツコツ整理してきた電子書籍で有難いことにほとんどの作品が読めるようになった。今回おススメする二冊は、その電子書籍に全く収録されていない、かなりレアな作品を集めた、そして笑っちゃうくらい内容が対称的な作品集になっている。

>>>各作品の書影・目次などを見る(写真7点)

5月に竹書房から発行された『ひらがなおそまつくん』は、1966年から67年にかけて小学館の学年誌『幼稚園』『小学一年生』『小学二年生』で連載された幻の『おそまつくん』29話分を初収録した単行本だ。TVアニメ放送にあわせて、掲載誌でわかるように幼児向けに描かれたもので、本家の『週刊少年サンデー』連載版に比べて当然かなり子供向けになっている。したがってギャグの角度はかなり丸いのだが、これが実にほのぼのとしていて心地良い。

そもそも『おそ松くん』には子供の生活の中心であろう学校の描写があまりなく、たいがいは家か町内が舞台なのだが、『おそまつくん』で描かれるささいな出来事からあふれる日常が優しくて優しくて、とにかく幸せな気持ちになってしまう。先生と生徒、生徒同士という少ない関係性に赤塚があまり興味を持っておらず、子どもの世界に広がる多様な関係性を赤塚がいかに大事に思っていたかがよくわかる。どの話もシンプルだが丁寧に考えられた、言わば赤塚の ”美しい” サイドを見ることが出来る単行本だ。

■『ひらがなおそまつくん』(竹書房)


そんな ”良い赤塚” の全く正反対、”悪い赤塚” を堪能出来るのが、7月になりなれ社から発行された『夜の赤塚不二夫』だ。これまで単行本に未収録だった、もちろん電子書籍にもなっていない大人向けの18作品を集めた作品集で、メインとなるのは『話のチャンネル』というちょっと下品な実話誌で1987年に連載された『花ちゃん寝る』全13話だ。毎晩、客の中から一人を選んでエッチなことをするママが経営するスナックが舞台という、おじさんが大好きそうな艶話で、雑誌の読者層を意識してるのはもちろんなのだが、これが非常に活き活きとしたマンガになっていて笑ってしまう。ママに群がるおじさんたちのキャラがまた秀逸で、赤塚が楽しんで描いていたのが伺える。なんとおそ松くんたちが客として登場してママとくんずほぐれつするシーンもあるので、もう何でもありだ。実はこの作品が描かれた時期は赤塚のキャリアにおいて重要な意味があって、そのあたり解説に詳しいのでご一読いただきたい。

解説は単行本冒頭に収録されているが、出来れば収録マンガを一通り目を通してから読まれるのをおススメする。そうするときっとすぐもう一回読み直したくなるに違いないだろう。その他にも、得意な過激で尖ったギャグはもちろん、風刺モノ、パチンコもの、ほのぼの系の大人向け、おなじみのウナギイヌやニャロメが登場するスピンアウト、そして生涯最後の読切短編などなど、非常にバラエティに富んでいて飽きない作品集だ。何にも縛られない、囚われない、遠慮がない赤塚の自由を堪能してもらいたい。

■『夜の赤塚不二夫』(なりなれ社)


さて、最後にフジオ・プロダクションが自ら制作した海外向けBOXセット『FUJIO AKATSUKA Original Gagsta』の国内先行発売がスタートしたので紹介しておこう。2019年に開催された大英博物館のMANGA展『The Citi exhibition Manga』で赤塚不二夫に触れた外国人のために企画されたBOXなのだが、とにかく内容がキッチュな玉手箱をひっくり返したみたいで楽しい。

メインはB5判140ページオールカラーの英語版コミック。『天才バカボン』の「実物大のバカボンなのだ」「整形手術の熊さんなのだ」や「ウナギイヌの最期」、『もーれつア太郎外伝』の「ギャグ+ギャグ サイケサイケビーチ」、『レッツラゴン』の「オタマン」など厳選された10作品が英訳され、さらにカラーリングされて収録されている。このカラーリングが見事で、カッコいいし面白い。さらに『おそ松くん』と『ひみつのアッコちゃん』から一篇ずつ再録されたA6判28ページモノクロのミニコミックブック、『レッツラゴン』の「スロービデオで勝負だベラ」の一部がペラペラマンガになったフリップブック、『おそ松くん』の江戸の風景の見開きのB全ポスター、ウナギイヌの手ぬぐい、缶バッジ、ポストカード、シール、ステッカーなどが同梱されている。

個人的に心を惹かれたのが「役に立たない印刷物」とサイトで紹介されている、色んなキャラやコマを切り抜いたりデザインしたりして様々な紙にただ印刷しただけの物たち。これが本当に楽しくてたまらない。やりたい事やってんなあと感心してしまった。芸術家としても活躍している娘の赤塚りえ子がアートディレクションを手掛けているだけあって、フォーマットに収まらない、自由さしか感じない素晴らしいBOXになっている。定価が税込みで1万円と少々値が張るが赤塚ファンにはぜひ手にしてもらいたい。

■『FUJIO AKATSUKA Original Gagsta』(フジオ・プロダクション)

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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