「牛が環境に悪い」ってなんで? わかるように説明して

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Image: Benjamin Currie

牛肉おいしいんだけど地球には悪いのね…。

世界のメタンガス排出の3分の1は農業由来で、わけても牛は米国のメタン排出量の27%を占める環境の天敵。全世界の家畜別の温室効果ガス排出量比較図(下)を見ても、豚、ニワトリが吹っ飛ぶ圧倒的な存在感です。
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Image: 国連食糧農業機関(FAO)

メタンで地球が茹で釜のようになってるって話は最近よく耳にするようになったけど、専門家の間ではずっと前から常識でした。牛がモ~と鳴く緑の牧場と環境破壊って、イメージが全然つながらない!という皆さまのために、基本的なサイエンスを世界の識者に伺ってきました。

なんでメタンが環境に悪いの?


イタリアの科学者アレッサンドロ・ボルタが、マッジョーレ湖の沼気を分解してメタンガスを発見したのは1776年。

大気中の温室効果ガスが初めて記録に残ったのは1948年。

両者が結びついてメタンが注目を浴びるようになったのは、1970年代半ば。二酸化炭素だけじゃなくメタンも温室効果ガスだという事実が、NASA研究員の調べでわかってからです。

これをきっかけに昔の大気はどうだったんだっけ!?ということになり、大気の変遷を知る手がかりを求めてグリーンランドや南極の氷床コアの解析が始まり、メタン濃度が1800年代から2倍以上になっていることが大判明。えらいこっちゃ…!となったのです。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が今月発表した最新報告書でも、今のメタン濃度は少なくとも過去80万年で最高水準とあります。排出を減らさないと気象変動の危機は止めようがないことが、初めて明記される画期的な報告書となりました。

こうした流れについて、スタンフォード大学ウッズ環境研究所所長のクリス・フィールド環境学教授は次のように語っています。

「メタンへの関心が高まっているのは何よりです」

「温室効果ガス排出を取り巻く環境は全体的に非常に厳しい局面。これまでは皆『二酸化炭素が主な排出ガスなんだし今はそっちにフォーカスしよう、メタンの話は後回しでいいから』という論調でしたが、今は気象変動の影響があまりにも明白ですからね。二酸化炭素以外の温室効果ガスにもフォーカスが向くのは当然の流れかと」

牛がメタンを生み出す仕組み


牛はほ乳類のなかでも、ルーメン(第一胃)と呼ばれる胃袋で硬い草をむしゃむしゃ消化する進化を遂げた「反芻動物」です。

牧草の主成分はセルロース。人間が食べる緑の野菜にも含まれていますが、牧草はほぼ全部セルロースなので、人間が消化するのはムリですよね? でも、牛は胃袋が4つに分かれていて発酵しながら完食します。つまり胃袋が発酵樽の役目を果たすというわけです。

「食べた草がルーメンに入ると、そこは酸欠状態。でも、微生物がうようよいて、人間が消化できないセルロース、靭帯、長鎖炭水化物の分解を助けてくれるんですね。牛がエネルギーを吸収できる状態になるまで細かく」(環境防衛基金上級サイエンティストのアリソン・イーグル氏)

で、腸内発酵の過程で微生物の一部からメタンが出て、牛のげっぷやおならとなって外に出るってなわけです。牛ふんからもメタンは出ますが、牛のメタン削減で一番厄介なのは腸内発酵で、これが本当に難しいのであります。

牛とメタンがつながってると気づいたのはいつごろ?


「牛の消化効率がどの程度かについては、何十年も前から全米の大学の畜産学部で数々の研究が行われてきました。家畜の仕組み、副産物については研究はかなり進んでいましたが、それは飼料などで家畜を補佐する観点からの研究であって、温室効果ガスを意識し始めたのはずっと後になってからです」(フィールド教授)

牛の消化で出るメタンと副産物に関しては、学会の関心も高かったので、メタン排出量推計は結構昔から記録に残っています。一番古い世界推計はなんと1949年のもの。そのときは反芻動物全般の見積もりでしたが、1970年に牛に絞ったメタン排出量推計も出ています。つまり酪農研究が先にあって、それに気象学が追いついた形です。

牛のメタン排出量はどう測る?


牛を1頭1頭測るアプローチから人工衛星で調べるものまで、測り方はさまざまです。

「牛にガスマスクをつけるのだってあるし、牛をちっちゃな換気のいい箱に入れたり、実験的な試行錯誤はいろいろ行われています」(フィールド教授)

飼い葉桶の上の空気の質や排出量を調べるのもあるそうな。で、こうしたあらゆるタイプの測量をもとに、州や地方レベルの排出量を算出しているみたい。

「スケールの大きな数学の問題ですね。データをボトムアップ、トップダウンで確かめながらやっています」(イーグル上級サイエンティスト)

なぜ悪いことなの?自然の営みなのに…


まあそうですよね。確かに腸内発酵は生まれつき牛に備わった自然のプロセスです。ただ数が問題で、人間が無闇やたらと増やしたせいで、問題が大きくなってしまったんですね…。

酪農業界も飼料に海藻を混ぜたり、近年いろんな削減策を試してはいます。

「飼料業界では何十年も前からメタンを減らすことが話題になっていました。成果が出た人もいますが、大規模に応用するとなるとこれが実に大変で…」(フィールド教授)

飼料に藻を加えるアプローチにしたところで、アマゾンの森林破壊や肥溜汚染といった排出問題については、なんの解決にもなりませんしね…。

畜産業界では「飼料の効率を高めることで、牛1頭あたりの肉や牛乳の穫量が上がった」という報告もあり、それだけ見ればメタン排出量は減るのかなと一瞬期待しちゃいますけど、それは牛がこれ以上増えない場合の話であって、牛肉需要は世界全体で2010年から2050年までに88%高まる見通しです。増えることはあっても減ることはなさそう。「牛肉を一生あきらめなくてもメタン削減は可能だ」というのが専門家の合言葉だけど、現実問題、食べる量は減らさないと削減はムリな気が…。

ただ、環境防衛基金(EDF)も人さまの口にするものまでとやかく言うつもりはないってポジションらしく、イーグル上級サイエンティストもその点は強調していましたよ。

「ほどほどに控えることを考えるべきかもしれませんね。ステーキはそこまで食べなくても間に合うかもしれないし」

「今頑張ってメタンを減らせば、近い将来きっと気象にも大きなプラスの効果が現れてくるはずです」

当記事はギズモード・ジャパンの提供記事です。

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