【今週はこれを読め! SF編】アフリカの大地から、異種族が葛藤する宇宙へ

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 オコラフォーは1974年生まれのアフリカ系アメリカ人。2000年に作家デビュー、2010年発表の長篇Who Fears Deathで世界幻想文学大賞を受賞した、堂々たるキャリアの作家だ。本書の第一部にあたる「ビンティ」は、2016年のヒューゴー賞とネビュラ賞の中篇部門を受賞している。
 ビンティはヒンバ族の少女だ。種族ではじめて銀河系一の難関校ウウムザ大学に合格するが、家族も友人も入学を認めてくれない。思いつめた彼女は家出同然に出発したものの、宇宙空港でさっそく差別的扱いを受けてしまう。ヒンバ族の女性はオティーゼという調合した泥を全身に塗っており、これに奇異な目を向けられたのだ。
 このくだりからわかるように、本作品では種族の文化・習俗・歴史・価値観を保持しながら、個人の尊厳や意志を貫き、異種族といかに理解・共生していくかが大きなテーマとなる。
 ビンティが進む道は険しい。まず、ウウムザへむかう宇宙船(クーシュ族が保有する船)がクラゲ型異星種族メデュースの急襲を受け、乗員のほとんどが惨殺されてしまう。メデュースはクーシュ族と敵対関係にあり、ヒンバ族のビンティはとばっちりを受けたかたちだが、メデュースにとっては地球人種の違いなど些細なことだ。
 ビンティの命を救ったのは、彼女が子どものときに砂漠で見つけ、以来お守りのように持ち歩いていた使途不明のデバイス、エダンだった。どういうわけか、エダンに触れたメデュースは頓死する。エダンを唯一の武器としてビンティは部屋に立てこもるのだが、状勢は相変わらず危機的だ。このまま宇宙船がウウムザに着けば、メデュースはそこで大量殺戮をはじめるだろう。いまメデュースと対峙しているビンティが、なんらかの打開策を見出さなければならない。
 ビンディは調和師師範(マスター・ハーモナイザー)の家系で、数学の深層を理解し、数理フローをコントロールする方法を身につけている。この能力とオティーゼの効能(メデュースにとって治癒効果があることが判明する)によって、メデュースの若者オクゥとしだいに意志を通じあうようになっていく。
 オコラフォーが巧いのは、SFの意匠の使いかただ。たとえば、ビンティが大切にしているエダンは古代の失われたテクノロジーの産物だが、それが果たす役割はファンタジイにおける魔法のアイテムと同等だ。また、ビンティは気分を落ち着けるために数式を唱えるが、それぞれの数式の内容に意味はない。あくまで呪文なのだ。この時代の地球人はアストロラーベなる多機能モバイルギアを携帯しているが、高級品になると内蔵回路から外形的なデザインまで職人技によって手作りされ、一台ごとに性能が異なる。物語内での扱いは、ガジェットというよりも護符なのだ。作者がおこなっているのは修辞の操作であり、これによりアニミズム的感性が物理宇宙の設定と融合し、作品全体に独特の質感がもたらされる。
 また、民族対立・人種差別・惨殺といったシビアな要素が容赦なく織りこまれているとは言え、物語の展開はヤングアダルト冒険小説のフォーマットだ。ストレスなく読める。
(牧眞司)

当記事はBOOKSTANDの提供記事です。

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