最強のメンバーが集結したタワー・オブ・パワーの3rdアルバム『タワー・オブ・パワー』

OKMusic

タワー・オブ・パワーは1970年のデビューから現在まで続く、長い歴史を持つサンフランシスコのファンクグループだ。50年以上におよぶ活動の中で、彼らが最高の状態にあったのは本作『タワー・オブ・パワー』から7thアルバム『ライヴ・アンド・リビング・イン・カラー』(’76)あたりまでではないだろうか。それは、本作からレニー・ウィリアムス(Vo)、ブルース・コンテ(Gu)、チェスター・トンプソン(Key)、レニー・ピケット(Sax)の4人が新たに加入し、グループとしては最高の布陣となったことが大きい。このメンバー編成は5thアルバムの『オークランド・ストリート(原題:Urban Renewal)』(’75)まで続くことになるわけだが、中でも本作『タワー・オブ・パワー』が特に印象深いのは、彼らの代表曲である「ホワット・イズ・ヒップ?」の初演が収録されているからということに尽きるかもしれない。今年の8月8日、残念ながら黄金期のグループを支えたブルース・コンテが白血病で亡くなった。

■サンフランシスコの文化

1960年代、ベトナム戦争の無意味さと黒人差別が全米の喫緊の問題となり、若者たちは既成の道徳や体制側の政治に大きな疑問を抱く。そんなことから西海岸のサンフランシスコでは、愛や平和をスローガンに、ヒッピー文化に代表される多くのカウンターカルチャーが花開いていく。それは当時のロッカーたちにも影響を与え、ジェファーソン・エアプレイン、クイックシルバー・メッセンジャー・サービスなどはフラワー・チルドレンらの動きにも呼応し、大きなムーブメントへと広がっていく。

このムーブメントは自然回帰の運動とも同調、グレイトフル・デッドをはじめサンフランシスコで活躍する多くのロックグループが、サイケデリックロックからフォークやカントリーなどに影響された土臭いサウンドへと転身する。この転身は70年代初頭に激増するシンガーソングライターのサウンドとも呼応するのだが、同じサンフランシスコでもベイ・エリアは少し事情が異なる。オークランド、リッチモンド、ワッツなどの地域は人種の坩堝とも言える場所で、ビートの効いた激しい音楽を要求する場合も多く、R&Bをベースにした白黒混合のグループも少なくなかった。その中で、ラテン風味を前面に押し出したサンタナや、ジェームズ・ブラウンとマイルス・デイビスを範にしたスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンらはまったく新しいスタイルのダンサブルなロックを創造している。タワー・オブ・パワーはそういったグループに影響され登場してきたのであり、ホーンセクションのキレの良さとリズムセクションの技術の高さは群を抜いていた。彼らの実力は、ロック界の名プロモーターとして知られるビル・グレアムが設立したサンフランシスコレコードから『イースト・ベイ・グリース』(’70)でデビューしていることがその証拠になるだろう。

■フィルモア最後の日

ビル・グレアムがオーナーを務め、数多くの優れたライヴ録音を残したことでも知られるフィルモア・ウェストが閉館することになり、71年夏に1週間ほど、フィルモアの人気ライヴアクトが一堂に会するさよならコンサートが行なわれた。この模様を収めた映画『フィルモア最後の日』は72年に日本でも劇場公開され、併せてサウンドトラックとして3枚組のLPレコード(函入りで豪華な仕様)も発売された。ただ、権利関係のトラブルがあったらしく、映画もサントラもそれからしばらく再発されることはなかった(サントラは91年にCD化、映画がDVD化されたのは2008年)。この作品が他のロック映画のように何度もリリースされていれば、サンフランシスコ界隈のグループにもっと注目が集まったはずである。

この映画に登場するのは、60年代から70年代初頭にかけて西海岸で絶大な人気を誇ったグループやシンガーたち。グレイトフル・デッド、サンタナ、クイックシルバー・メッセンジャー・サービス、イッツ・ア・ビューティフル・デイ、マロ、コールド・ブラッド、タワー・オブ・パワー、ホット・ツナ、ボズ・スキャッグス、ニューライダース・オブ・ザ・パープル・セイジ、ラム、タジ・マハールなどであるが、残念ながら現在の日本で記憶されているのは、サンタナ、デッド、ボズ・スキャッグス、そしてタワー・オブ・パワーぐらいかもしれない。

さて、僕がこの3枚組のサントラ『フィルモア最後の日(原題:Fillmore: The Last Days)』を友達に借りて聴いたのは中学3年生の時。中でも、当時はブラスロックにカテゴライズされていたタワー・オブ・パワーのすごさにはぶっ飛んだ。彼らのサウンドはシカゴやBS&Tのようなブラスロックとはまったく違っていて、今から思えばブラスロックバンドはホーンセクションをメロディーのアクセントとして使っていたのに対し、タワーはホーンをリズムセクションの一部としても使い独特で圧倒的なグルーブ感を生み出していたのである。メンバー編成は、スライのグループやサンタナと同様にタワーも白黒混合グループであり、ヴォーカルとオルガンのふたりが黒人である。

■本作『タワー・オブ・パワー』について

そして、彼らの3rdアルバムとなる本作『タワー・オブ・パワー』(’73)を購入し(もちろん2ndの『バンプ・シティ』(’72)が先にリリースされていたが、購入したのはだいぶあとになってから)、そのカッコ良さに酔いしれる日々を過ごすのだ。ただ、ブラスロックと呼ばれることには違和感を感じ続けていたのも確かである。その後しばらくして、ブラスロックの範疇から外され“ベイ・エリア・ファンク”や“オークランド・ファンク”という肩書きに変わったと思う。ここでようやく僕の感じていた違和感は消えた。

サウンド面では、最も若いサックスのレニー・ピケットをメインに据えた印象的なホーンセクションはもちろん、ベースのフランシス・ロッコ・プレスティア(2020年9月29日逝去)とドラムのデビィッド・ガリバルディの卓越した技術に心を奪われた。当時、ティム・ボガート&カーマイン・アピス(ベック・ボガート&アピス)、ジェリー・ジェモット&バーナード・パーディー(キング・カーティス&キングピンズ)の2チームが最高のリズムセクションだと思っていたのだが、本作収録の「ホワット・イズ・ヒップ?」の演奏を聴いて、ロッコ・プレスティア&デビッド・ガリバルディのコンビにガツンとやられた。未だに僕は本作の彼らふたりの絡みを聴くたびにアドレナリンが出まくるが、これは彼らのファンなら誰しもが間違いなくそうだろう。

他の曲もいい曲、いい演奏が目白押しであるが、ファンクナンバーの「再起しろよ(原題:Get Yo' Feet Back on the Ground)」「ソウル・ヴァッシネイション」はよく練られたアレンジが聴きもので、メンフィスソウル風味の「ボス・ソーリー・オーバー・ナッシン」と同傾向の「つらい別れ(原題:So Very Hard to Go)」ではブルース・コンテのギターワークが光る。レニー・ウィリアムスのノリまくるボーカルは絶好調だし、ゲスト・ピアニストのジェイ・スペルのツボを押さえたプレイも素晴らしい。

本作のあとにリリースされた4thアルバム『バック・トゥ・オークランド』(’74)は録音が格段に良くなっていて、ロッコのベースとガリバルディのドラムがクリアな音で処理されているだけに、彼らの凄さがよりリアルに迫ってくる。ベースかドラムをやっていて彼らの演奏を聴いたことがないという人は、この機会にぜひ聴いてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Tower of Power』

1973年発表作品

\n<収録曲>
1. ホワット・イズ・ヒップ/What Is Hip?
2. クレヴァー・ガール/Clever Girl
3. ジス・タイム・イッツ・リアル/This Time It's Real
4. 恋ができるだろうか?/Will I Ever Find a Love?
5. 再起しろよ/Get Yo' Feet Back on the Ground
6. つらい別れ/So Very Hard to Go
7. ソウル・ヴァクシネイション/Soul Vaccination
8. ボス・ソリー・オーヴァー・ナッシン/Both Sorry over Nothin'
9. クリーン・スレイト/Clean Slate
10. ジャスト・アナザー・デイ/Just Another Day

\n

当記事はOKMusicの提供記事です。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ