西島秀俊×濱口竜介監督インタビュー「理屈を超えて、本当に魔法がかかる」<映画『ドライブ・マイ・カー』インタビュー>

 

俳優の西島秀俊さんが、8月20日(金)より全国公開される映画『ドライブ・マイ・カー』に主人公・家福悠介役で出演します。

本作は、村上春樹さんによる短編小説集『女のいない男たち』に収録された同編の実写映画化で、『第74回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門にて、日本映画では初となる脚本賞ほか全4賞を受賞しました。

舞台俳優兼演出家の家福(西島さん)が、秘密を打ち明けられぬまま急逝した妻への喪失感を抱えながら、自身の内面と向き合っていく物語。

めるもでは、西島さん&濱口竜介監督にインタビューを実施。もともと「ご一緒したかった」と双方思っていたというエピソードから始まり、作品について、役について、興味深いお話をたくさん語っていただきました。

 

 

――公開前から非常に話題を集めている『ドライブ・マイ・カー』です。西島さんは、もともと濱口監督作品がお好きで、濱口監督も西島さんとずっとご一緒したかったそうですね。

西島秀俊:濱口さんの『PASSION』を観ていて「すごい演出力の方だな」と感じていました。『寝ても覚めても』は、もう衝撃的で……もちろん濱口さんがすごいのはわかっていたけれど、本当にすさまじい才能が日本で生まれたんだな、という思いになったんです。画もテキストも演出も、その現実を映画の中に映すということも、総合力のすべてがすごくて。単純に、いち映画ファンとして、すごく興奮していました。

 

――ご一緒して、実際に演出を受けられていかがでしたか?

西島秀俊:やっぱり……それだけのことを監督は作品に入る前から、入ってからも、膨大なことをやり続けている結果が出ているんだな、と改めて感じました。渡されたテキストの量にしても、かける時間にしても、ちょっと桁違いなんですね。自分が考えることとはまた全然違うアプローチの考え方、いろいろなやり方を教えてもらって撮影に臨めたことはとても大きかったですね。自分ひとりだとどうしても限界があるので、「こんなやり方もある! あ、こんなやり方もあるんだ!」ということを監督は演出でも試すので、その全部が蓄積されていくんだろうなと思います。もともと頭の回転がものすごく速い人が、これだけ時間と労力をかけると「まぁ、それはそうなるな」と本当に思いましたね(笑)。

濱口監督:いやいや……!

西島秀俊:本当だからいいじゃないですか。

濱口監督:僕は20代の頃から西島さんの出ている映画をずっと拝見してきて、本当に好きな俳優さんだったので、今回改めてご一緒できることを、ものすごく喜びに感じていました。好きな作品はいくつかあって、ひとつは黒沢清監督の『LOFT ロフト』。西島さんが中谷美紀さんを縛り上げていく場面があるんです。……(西島さんに)ありますよね?

西島秀俊:あります(苦笑)。

濱口監督:喋りながら縛り上げていくんですけど、自動現象ぽいというか、まるでそうなることがひとつの運命かのように、巻いていくんです。「はあー、なんだこれは!」と、すごく思わされる場面でした。もうひとつ、『メゾン・ド・ヒミコ』 で、オダギリジョーさんと西島さんが並んでいる場面があって、何かの拍子で、西島さんが「ははっ!」と笑うんです。その笑いが、映画でそれまで観たことがないようなもので、「あ、この人、笑った……!」という驚きがあったりして。それと、『さよならみどりちゃん』も好きなんですけど。

西島秀俊:今挙げてもらったのは、ロクでもない人間ばかりですよね(笑)。

濱口監督:申し訳ないです(笑)。何でだろう? でも本当に驚くんですよね。西島さんの演技って急に役者とも役ともつかない存在がその場に現れるというような感じがあって。もちろんそれぞれの監督の力もすごくあると思うんですけど、そういう存在感を出せる役者さんは、あの世代でも西島さんが一番に思い浮かびます。存在感という言葉よりは、その「存在」が、急に「ばっ!」と入ってくるような感じで。そこに「この人が居る」感覚、「あ、居るんだ、この人」というのがある気がして。自分が役者さんにこういう風にあってほしいと思うような存在の仕方だったので、すごく好きでした。

 

――本作で、念願かなってご一緒できて。

濱口監督:一番ありがたかったのは、西島さんが、ちゃんと見て、聞いて、演じてくださっていることです。『ドライブ・マイ・カー』は、いろいろな人と家福が出会っていく物語でもあるんです。だから西島さんは出ずっぱりなんですが、西島さん自身が本当に見て、聞いてくださっていることを、おそらく相手役もずっと感じることができたんじゃないか、と思っていて。そのことが、演技の空間の基盤になっていたというのが、あると思います。そして、そういう役者さんというのは、決して多くないと、私は思います。

 

――西島さんとご一緒すると決めたときから、見たり聞いたりして感じられるような俳優さんだと思ってやられていたんですか?

濱口監督:どちらかというと「たたずむ力のある人」という印象がすごくあって。言い換えれば「余計なことをしない人」という印象といいますか。何かをしていないんじゃなくて、見たり聞いたりしているということなんだな、と今回すごく感じました。

 

――家福の台詞がなく黙っているとき、こちらが情報や感情を表情から必死に読み取ろうとする行為は、西島さんの演技ゆえ、ということなんでしょうか。

濱口監督:そうだと思いますよ、本当に。余計なことを観客が思わないですむというか、「本当にこの人が何か考えているんだろう」という気持ちで観ることができるのは、そういうことだと思います。

 

――そんな西島さんの俳優ぶりを言葉で表すなら、どんな表現になりますか?

濱口監督:「超安定したエンジン」みたいな感じです。出ずっぱりのシーンの中で、本当に一瞬たりともたゆむところもない感じで居ていただいたので。それはものすごいことだなと、現場にいて思いました。その中で、周りの人に気を遣ったり、周りの人がいやすいような雰囲気を常に作られていたので。僕自身そんなに経験のある監督ではないですけれど、おかげで自分の仕事を全うできたところがあります。西島さんのすごいところだと思います。

 

――西島さんは、本作の経験を通して「本読みが好きになった」とイベントでお話されていました。濱口監督の本読みは、これまでとは全然違うものでしたか?

西島秀俊:僕が経験してきた本読みというのは、それぞれの役者さんがどんな感じでやってくるか、最初に距離を測るところだったりするんですね。「あ、この役をこういう風に捉えて、こういう風にやられるんだ、じゃあこうしよう」と測ったりするものというか。けど濱口組の本読みは、感情を込めずにひたすら読み続けるというものでした。

 

――まさに、劇中で家福がやっていたような。濱口監督の本読みは、ジャン・ルノワールの演技指導のドキュメンタリーからインスパイアされているものですね。

西島秀俊:そうですね。理屈としては、相手のセリフがどれだけ長くても全部入っていき、本番で感情がこもるので、何かすごく感じるものがある、ということだと思います。理屈はそうなんですけど、それ以上に、よく知っているはずの人がまったく違う面を急に見せてくれたようなというか、秘密を自分にさらしてくれたような不思議な感動があって。だから、本当に何でもないシーンでも、こっちは実際すごく感動しているんですよね。それがスクリーンの上での強度みたいなものになっているのかな、と思います。

あれはちょっと……本当に魔法がかかるんですよね。理屈で「ああ、なるほど、だから新鮮に感じるんですね」というものを超えた、本当に隠されたものが目の前で明らかになったときみたいな感じがするので、不思議な体験です。

 

――濱口監督は、演者さんの様子を見て何かを言ったりされるんですか?

濱口監督:んー、そんなにしない感じです。言ったほうがやりやすいかもしれないな、というときに言うだけで、基本的にはお任せをしたいと思っているんです。今、西島さんがおっしゃったような感覚は、直接相手役から受けている俳優が一番強いと思うんですけど、端から見ているこっちもやっぱり感じるんですよ。
今、魔法と言われましたけど、その人が露わになっていくというか、演技だと知っているけれど「こんな風に言うんだな、この人は」と。「この人は」という感じがすごく迫ってくる感じは、すごく驚くんですよね。その驚きが欲しくてやっている感じは、僕もあるんです。当然、僕らは西島さんだということを知っているし、三浦さんだということを知っているし、岡田くんだということを知っているわけですけれど、得体のしれないものとして現れるところが、演技というものの面白さなんだと本当に思います。

 

――家福と高槻(岡田将生)の台詞のやり取りも、鮮烈に印象に残りました。おふたりのシーンについては、どう演出していかれたんですか?

濱口監督:本当に作るものでもないというか。何ですかね……原作だと、家福が高槻のことをちょっと軽く見ているんですよね。その要素は最初の脚本にも十分に書き込まれていたんですけど、家福が高槻を役者として実は認めているようなニュアンスは、西島さんと岡田さんとの関係の中からにじんできているんじゃないかな、という気はしています。最終的に編集段階でも、それを核にした気はしました。

西島秀俊:そうですね。ふたりでのとあるシーンでは……、そのシーンは本当に「何かすごいことが、この瞬間、ここで起きている」と感じたんです。あれは……本当にすごかったです。……で、岡田くんって「本当ですか!?」と思うくらい純粋なところを持っている人で(笑)。

濱口監督:ええ、ええ!

西島秀俊:こんな純粋な根っこの持ち主が、この世界にいていいんだろうか、というような純粋さを持っていて。そのことが、あのシーンのセリフで表れているというか。あれだけのすごいことになっているのだと思いますね。

 

――西島さんの演じた家福は俳優であり演出家です。家福という役を通して、演出家という視点で見て、俳優やお芝居というものへの発見があったりもしましたか?

西島秀俊:イン前から、監督に「本当に演出するつもりで、そこにいてください」と言われていました。実際、僕は人の演技を観ることが好きなんですけど、(演出家は)正しいとかではなく、自分にとっての判断をしていくということをやるので……正直、非常に過酷なことでした。本当に厳しい作業になってくるんですよね。自分を突き詰めて、やっていることを断罪していくことだから。
ただ、濱口さんなので、当然そのために丸投げはしないんです。プロセスをちゃんと作ってくれて、一緒にいろいろなものを観にいったり、話したりして、丁寧に濱口さんがずっと付き合ってやってくれていました。

実際の現場では、素晴らしい役者さんたちが集まって、本当に素晴らしいことが目の前で起きていたので、本当に楽しく観ていました。勝手に自分のジャッジとして、素晴らしかったり、ここはもうちょっと、とか、僕の心の中で起きていることはあるけれど、それも「それでいいのだ」と思えたというか。実際やってみて思えたことは、ありましたね。

 

――濱口監督とご一緒したからならでは、というエピソードですね。

西島秀俊:濱口監督と一緒じゃなくて、もし演出家の役をやるとなっていたら、僕はもっと何か違う……どこか外側だったり、何かを違う所からアプローチして、すごく自分の中で苦しい思いをしながら、役を演じたのかもしれないなと思います。

取材・文:赤山恭子、写真:iwa
ヘアメイク:亀田雅、スタイリスト:カワサキタカフミ

 

 

映画『ドライブ・マイ・カー』は2021年8月20日(金)より、TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開。

キャスト:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか/岡田将生 ほか
監督:濱口竜介
公式サイト:dmc.bitters.co.jp
(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

WRITER

  • 赤山恭子
  •        

  • エンタメ雑誌編集部に勤務後、ハリウッド映画の版権を買い付け日本国内で販売するディストリビューターを経て、フリーの映画/エンタメライターに。現在は、監督・俳優のインタビューを中心に、現場取材、映画紹介コーナーほかも担当。相手の心に寄り添い、時に突っ込みながら深めてゆくインタビューが持ち味。

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