不評の五輪閉会式で、「東京音頭」のベタさがウケた謎

女子SPA!

 8月8日に閉幕した東京オリンピック。同日に行われた閉会式への違和感が噴出しています。

グーグル検索をすると、「閉会式ひどい」と「閉会式つまらない」が同時にサジェストされる始末。デーブ・スペクター氏も自身のツイッターで「世界の誰もわからない、意味不明。」と全否定するなど、最後までケチの付き通しでした。

◆「カオスと意味不明なのは違うわ」

開閉会式の振付を担当した平原慎太郎氏は、「しっかり自分のカオスというのが自分の中にあって、ただその中に秩序を見出すのもまた個々のこれからの心の持ちようかなと、社会の取り組みなのかなと思いましたので、まずカオスを作ってそれを秩序化させていくプロセスをみんなで楽しむ、ひとつの音楽で楽しむ」と、ダンスやパフォーマンスの狙いを語りました(8月9日・記者会見)。

そんなプロジェクトチームの崇高な理念でしたが、ネット上では“カオスと意味不明なのは違うわ”と冷静にツッコまれていました。

ともあれ、閉会式でキーとなっていたのが音楽である点は確かです。東京スカパラダイスオーケストラとDJ松永(ヒップホップユニット・Creepy NutsのDJ)の演奏に、昨年の紅白歌合戦に初出場したmiletが次回開催国フランスの愛唱歌「愛の讃歌」を日本語とフランス語で披露。

加えてストリートダンスやロープスキッピング、サッカーのリフティングなどもごった煮にして、国際都市・Tokyoの多様性を表現しようとしていたところまでは理解できました。

◆多様性ってこういうことなの?

しかし、閉会式中、最高に冷え切っていたのが、この演出チーム肝いりのパートだったのは皮肉です。パフォーマー同士の距離がスカスカだわ、選手たちは音楽より涼むほうが先だわで、全く一体感がなかったからです。

っていうか、いきなり日本人のミュージシャンにスカ(ジャマイカ音楽)だのシャンソンだのやられても、そりゃ面食らいますわ。確かにスカパラはかっこいいけれども、日本人が期待する伝わり方まで求めるのは酷です。

それはスカパラがいい悪いではなくて、海外の人たちがスカパラを受け入れるための前提条件があまりにも不足していたという意味ですね。“海外のライブでもウケてるからイケる”というだけでは、音楽の力は保証できないのです。正直なところ、海外の選手たちはどう反応したらいいかわからなかったんじゃないでしょうか。

認識のズレが生んだ、不幸なミスマッチだったように思います。

◆東京音頭ぶっこみに、小さく踊った選手も

そんな雲行きが怪しくなりかけた閉会式の空気を一変させたのが、東京音頭でした。文脈ガン無視で、あのふざけたお囃子が無観客の国立競技場に鳴り響く。カオス? 多様性? んなもん知らねンだわといった具合で、ひょうひょうとフルコーラス鳴り響く。

するとどうでしょう。ダイバーシティ発表会パートでかったるそうに座り込んでいた外国人選手たちが、見よう見まねで盆踊りを踊りだす。日本独特の小さな手足の動きをかわいらしく真似ることで、少なくとも閉会式に参加する意思を見せ始めたのです。もちろん、満面の笑みでノリノリとまではいきませんでした。それでも、この摩訶不思議な音楽に興味を示してはいました。

スカパラのように熱いビートもなければ、大竹しのぶみたいに涙を誘うバラードでもない。東京音頭は、音も言葉もただ空気に溶けて消えていく。その冷ややかな情緒が、したたかに国際性を獲得した瞬間を目の当たりにしたのです。

なにかにつけて横文字を借りなければ説明できない出し物よりも、超絶ドメスティックで、国際性や時代性のかけらもない盆踊りが、海外選手の身体を動かした。この事実を見過ごすわけにはいきません。

◆有楽町の商店街がビクターに作成を頼んだ「東京音頭」

そして、この東京音頭が、文化も伝統も関係ないところから生まれた点も押さえておきたいところです。関東大震災後の景気回復を願い、昭和7年、有楽町の商店街の旦那衆がビクターレコードに作成を依頼した「丸の内音頭」が始まりだったといいます。それが「東京音頭」と改題され、プロ野球・東京ヤクルトスワローズの応援歌としても定着しました。

2003年以降は、日比谷公園の盆踊りで毎年、外国人も含む多くの人が踊る光景も有名になりました。2018年に亡くなった日比谷松本楼の前会長は、「いつか東京五輪で盆踊りをやりたい」と自民党の国会議員に頼んで回っていたのだそう(朝日新聞デジタル、2021年8月2日より)。

こうして泥臭く生々しい生活に揉まれてきた東京音頭が、ダダすべりする空虚なコンセプトを救った構図は、なかなか痛快でした。

この一点だけでも、東京五輪を開催してよかったと思います。

<文/音楽批評・石黒隆之>

【石黒隆之】

音楽批評。カラオケの十八番は『誰より好きなのに』(古内東子)

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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