「ドジでバカ」「女は家を守れ」女性の社会進出と逆行するロマコメの女性像

女子SPA!

 芸術性に欠けているからと、映画評論家やシネフィルからは低く評価されるロマコメ映画。ですが、ロマコメの女性性の表現にこそ、性差別や社会的課題が見いだせると教えてくれるドキュメンタリー、『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』が8月に登場します。

8月から始まる配信サービス「APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA」のオープニング作品の1本、エリザベス・サンキー監督が制作したこのドキュメンタリーは、ロマコメ映画をジェンダー視点から考察するフィルムエッセイです。

『APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA』は東京・渋谷の映画館 Bunkamuraル・シネマが運営するオンライン映画館ですが、月額等を支払うサブスクリプション形式ではなく、1本ごとに買い切りの有料鑑賞形式なので、ロマコメ好きの方にはぜひ観ていただきたい作品です。

1930年代から現代までの有名なロマコメのシーンをコラージュした本作から、興味深い視点を紹介しましょう。

◆キャリアウーマンがドジでバカに描かれた2000年代

まず、ロマコメでは、キャリアウーマンがなぜか“ドジでバカ”だと描かれている点。『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)のレニー・ゼルウィガー、『ウェディングプランナー』(2001)のジェニファー・ロペス、『トゥー・ウィークス・ノーティス』(2002)のサンドラ・ブロック、『ラブ・アクチュアリー』(2004)のマルティン・マカッチョン(ヒュー・グラントの相手役)らは、デキる女性のはずなのになぜかいつも失敗ばかり。そんな彼女たちを救出するのはいつも男性で、彼女たちは彼らと必ず恋に落ちてしまう……。

確かに、「軽いユーモアで語るラブストーリー」がロマコメの定義なので、コメディ要素は必須。しかし、サンキー監督はこういった女性の描写が性ステレオタイプとなり、特に、少女たちにとって有害なロールモデルとなる、と指摘します。

◆1930~40年代映画の女優は男性俳優よりもギャラが多かった!?

次に興味深い指摘は、1930~1940年代のロマコメに登場する女性像が現代の女性像よりも、ずっと強く知的に描かれていた点。

面白いことに、1930年代にはハリウッドがまだ一大ショービジネスとして確立されていなかったことから、移民や女性が多く活躍しており、女性の配役は男性よりも多く、ギャラも男性よりも高かったそう。

それから90年もたったいま、ハリウッドの男女間に大きな賃金格差があることは皆さんもご存知でしょう。例えば、『ゲティ家の身代金』(2017)の再撮影時には、主演のミシェル・ウィリアムズとマーク・ウォールバーグのギャラに1億円以上も差があったことが報じられて、大きな波紋を呼びました。結局、ウォールバーグがギャラの全額をミシェル・ウィリアムズの名前でセクハラ支援基金に寄付したことで騒ぎが静まりましたが、ウィリアムズのほうがウォールバーグよりも映画賞のノミネートが多いことを踏まえると、この格差は性差別だと言えます。

加えて、サンキー監督は、『赤ちゃん教育』(1938)のキャサリーン・ヘップバーンや、『ヒル・ガールズ・フライデー』(1940)のロザリンド・ラッセルの例をあげながら、この時代の女性キャラクターは、男性とウィットに富んだ会話を楽しみ、自分を救ってくれる男性ではなくて、自分を対等に扱ってくれる男性と恋に落ちていた、と言います。先述した2000年代前半の映画の女性キャラクターとは実に対照的ではないでしょうかーー。

◆第二次世界大戦で強化されたジェンダー規範とマリリン・モンロー

ところが、1930~1940年代のロマコメに見る男女平等は、残念なことに長く続きませんでした。第二次世界大戦が始まり、「男は外で戦い、女は家に守る」というジェンダー規範が強化され、ハリウッドが家父長制的な組織に変わっていったのです。そして、大戦が終結した1945年以降は、キャリアウーマンが結婚して家に入るという女性像がロマコメでは主流になっていきました。

興味深いのは、1950年代に入ると、マリリン・モンローが官能的で“主体的”な新しい女性像を打ち出して、ロマコメのジェンダー規範を一時、変えるかのように見受けられたこと。けれども、マリリン・モンローは1962年に急死してしまい、その後、ロマコメに出てくる女性キャラクターは、「貞淑な妻」というジェンダー規範に縛られるようになっていった、と監督は主張します。

その大きな理由が、ハリウッドの権力を握っている裕福な白人男性。彼らの価値観で映画が制作され、その結果、ロマコメのほとんどが、豊かな中流階級の白人キャラクターが織りなす“異性愛”のラブストーリーに偏ってしまったのです。

◆女性の社会進出と逆行するロマコメの女性像

1930年代から現代におけるロマコメで表現される女性性の変遷。1930~1940年代よりも、ロマコメ全盛期の1990年代から2000年代の女性のほうが社会進出を果たしているはずだし、性差別に対する社会意識も高いはず。それなのに、現実の女性の社会的地位が高くなるにつれ、ロマコメの女性像が家父長制にそったジェンダー規範に近づいていった……、ある意味、フェミニズムに対するバックラッシュ(反動)とも言えるこの現象を、私たち女性は自覚すべきでしょう。

ラブコメの構造を解き明かし、その魅力や課題を考察するエリザベス・サンキー監督のフィルムエッセイ『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』。1930年代から現代に至るまでのロマコメに表現される性的役割分業が女性の生き方や幸せにどれほど影響してきたのか、また、現実の女性の地位が映画の女性表象により“簡単に脅かされる”ものだということを、発見できる作品に仕上がっています。

<文/此花わか>

【此花わか】

映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。現在、アメリカン・カレッジ・オブ・国際セクソロジスト認定セックス・エデュケーターに向けて勉強しながら、「セックスレスのための性教育と映画」(noteマガジン)で映画とセクシュアリティに関する情報を発信中。墨描きとしても活動中。Twitter:@sakuya_kono Instagram:@wakakonohana

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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