【ネタバレ考察】このシーンに気づけた?『竜とそばかすの姫』にちりばめられた秘密たち

(C)2021 スタジオ地図

 

2021年、夏休みシーズンの映画興行が本格的にスタートしました。『東京リベンジャーズ』『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』など話題作が続々と公開しているなか、大ヒットとなっているのが『サマーウォーズ』や『バケモノの子』などで知られる細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』です。

オンライン上の仮想空間『U』を舞台に、少女・鈴が竜の姿をした世界の誰かと出会う物語となっており、演出の名手である細田守さんらしく、場面の随所に言葉では語られないいくつもの心情や秘密が隠されていました。

今回はそんな『竜とそばかすの姫』で描かれている演出の数々が、どういう意図で描かれているのかや、気づきにくい描写に至るまで、映画で隠された秘密を追っていきます。

※以降は劇中の結末などにも触れる内容となっています。本編のネタバレがありますので、あらかじめご注意ください。

 

 

『美女と野獣』への目配せ

 

多くの人が観ていて気づくであろう、“ある映画”のオマージュが『竜とそばかすの姫』には含まれています。その映画というのが、1991年に公開されたディズニーアニメーション映画『美女と野獣』です。わがままさゆえに野獣の姿に変えられてしまった王子が、町に住む少女ベルと出会い、改心する物語でしたが、『竜とそばかすの姫』には随所に同作を彷彿とさせる要素がちりばめられています。

まずはその設定からして重なるものがあります。『竜とそばかすの姫』の“怪物”と“姫”という組み合わせは『美女と野獣』に似ています。そして主人公・鈴の『U』上の名前は“Belle”であり、『美女と野獣』の主人公・ベルと同じです。竜の城に咲いた印象的なバラも『美女と野獣』では、野獣のリミットを表す重要なアイテムとして登場しました。

そして何よりも、中盤の山場である竜とベルがお城でダンスをするシーンは、映画『美女と野獣』でも同様のシーンがあり、明らかに意識して盛り込まれた見せ場となっています。

『美女と野獣』は、見かけで人を判断せず、内面の美しさを見出そうというメッセージを含んだ作品でした。実はそのメッセージは『竜とそばかすの姫』でも発信されており、外見と内面、さらにはオフラインとオンラインといったふたつの世界にまたがる“自分”がテーマにもなっていました。

細田監督自身が『美女と野獣』が好きであることは本人の口から語られており、オマージュを捧げているのは確かでしょうが、『美女と野獣』自体を補助線として添えると、『竜とそばかすの姫』が描くメッセージも受け取りやすくなりそうです。

 

あの人たちにもAsがあった?

『U』の世界を利用するためには、“ボディシェアリング”という自分の生体情報をスキャンすることによって、自分の分身となる存在『As』が自動生成される仕組みとなっています。

そのため、鈴のAsであるベルにはそばかすがあったり、竜のアバターには次第にあざが増えていったりと、我々が親しんでいるアバターの仕組みとは一風変わったものとなっています。

劇中に登場するAsはベルや竜のほかに、ベルのマネージャー的な立ち回りをするヒロちゃんのAsの活躍を多くの人が確認していると思いますが、そのほかにも現実世界とAsでの姿を推測することができる人物が多数います。

例えば鈴を見守る合唱隊のおばさんたち。彼女たちもAsを所有していて、Uの世界で正体を晒す鈴の姿を見守る姿が描かれていることに気づいた人も多いのではないでしょうか。また、カミシンとおぼしき大型犬のような姿のAsや、現実世界同様サックスのような楽器を持ったルカらしきAsも終盤の鈴の歌唱シーンで登場します。

そして忘れてはいけないのが、ベルの最初のファンとして現れたクリオネのような姿のAs。その正体ははっきりとは描かれませんが、竜と行動をともにしていたり、竜が弱るクリオネ型Asをかばうシーンがあったりすることから、竜の正体である恵の弟・知のAsと考えてよいでしょう。

 

欠けている鈴の身の回りや散らかる机

Uの世界だけでなく、鈴を取り巻く現実世界にも、鈴の現状を語る風景やアイテムが多数描かれています。

例えば、冒頭から驚かされるのが、鈴が使っているマグカップ。そのマグカップの縁は欠けているのですが、鈴はそれを使って飲み物を飲んでいます。そのシーンからも鈴が何かが欠けたままの存在であることや、いまにも一線を踏み越えかねない危うさを物語っています。

欠けているといえば、鈴の家で飼っている犬は前片足を失っています。マグカップ同様、鈴が何かを失っている存在であることを表しながらも、その根底にある優しさも語っており、この冒頭の1シーンだけでもその雄弁さに驚かされます。

その後も、母との思い出のシーンに登場した机。現在は荷物が積まれており、利用できないようになっている描写が登場しますが、これは鈴が母を失ったことに対して整理がついていなかったり、いまだにその思い出にわだかまりが残っていることが現れています。ぐしゃぐしゃに書かれた紙が散乱しているシーンには、鈴のどうしようもない感情がこちらにまで伝わってくる、辛く切ないシーンにもなっていました。

これらは冒頭のわずかなシーンながら、鈴がどんな人間でどんな状態なのか、その多くを語る見事なシーンとなっていました。

 

鈴とともに在り続ける川

現実世界の鈴とともにあり続ける存在として、忘れてはいけないのが川です。

登下校のシーンなど、この映画では数多くのシーンに川が登場しており、現実世界の鈴とともに在る存在です。決して水流も激しくなく美しい川なのですが、鈴は穏やかな顔ばかりではないことを痛感している、忌まわしき存在でもあります。
かつて、自分の大切な母を奪ったものこそ川であり、悪い思い出そのものです。しかし、そこで暮らす鈴にとっては切っても切ることができない存在であり、母との悲しい事件同様、どこか呪いのように鈴の側に在り続けます。

だからこそ、クライマックスで鈴がその土地を離れることにも意味を持たせているように感じられます。Uという仮想世界へ行かなくても、悲しい思い出から自ら踏み出すことができた。だからこそ鈴の成長をより強く感じることができたのかもしれません。

ちなみに、本作で登場するあの川は仁淀川(によどかわ)という高知県にある実在する川です。劇中同様、美しい川としても知られているので、新型コロナウイルスが収束した暁には、ぜひ聖地巡礼に赴きたいですね。

 

『As』とは何か

こうして追っていくと、劇中に登場するいくつもの物事や出来事に意味が込められているように思えてくるわけですが、実際に細田監督は、意識をして多くの状況や心情、メッセージに関する暗示を作品の中に潜ませているのでしょう。

前述のAsに関してもそうです。本来、自由に自分好みにカスタマイズできるはずのアバターを廃して、自由の効かないAsの方が席巻しているという状況には違和感を抱きますが、そこには、ネット社会においても隠しきれないアイデンティティや、決して離れることができない現実世界の自分のことを表しているといってもよいでしょう。

ついつい匿名の世界だからとネット上で他人に心ない言葉を吐いてしまう人もいるでしょうが、たとえ匿名でも「あなた」という人間からは離れることができないということを忘れないようにしたいです。

そして、現実世界がオフライン、Uの世界がオンラインというそのままの見方のほかに、外見と内面という見方をしてもよいでしょう。普段周りの人に見えている姿と、実は本性として隠し持っている気持ちや才能、痛み……Asは登場人物の内面を象徴するものでも在りました。

だからこそ、クライマックスでその境界線を破って鈴が外界の姿を晒したシーンは、危機感を持つ人もいれば、その融和に感動する人もいるという、センセーショナルな場面となっていました。皆さんには、あのシーンがどのように映りましたか? ネット社会への距離感や考えによってその映り方も大きく変わるかもしれませんね。

 

『竜とそばかすの姫』はひとつの物語として追っていったあとに、「あのシーンはどういう意図で描かれたんだろう」「あのシーンはなんでこんな画になっているんだろう」と、後から想像しがいのある映画となっています。一度目の鑑賞では気づかなかった登場人物たちの心情も、実は作品の中で描かれていることに後から気づかされることも多々あります。

『竜とそばかすの姫』が一度だけでなく二度、三度と噛みしめがいのある作品であることは間違いないので、劇中の演出や数多くの工夫を堪能して、ぜひ周囲の人とその真意について語り合ってみてください。意外な発見があるかもしれませんよ。

WRITER

  • ネジムラ89
  •        

  • 缶バッジ販売専門店「カンバーバッチ」のオーナー兼アニメ映画ライター。アニメ映画情報マガジン「読むと アニメ映画 知識が結構増えるラブレター」をnoteにて配信中。その他いろんなとこでアニメ映画話を執筆中。古今東西関係なくアニメ映画を中心とした有益な情報を多くの人に提供できるようにやっていきます。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ