アサヒ×キリン、ビール業界の巨人阪神戦。現在の勝者はどっちだ

日刊SPA!

―[あの企業の意外なミライ]―

◆ネオンが消えた2021年

「今度、よかったら飲みに行きましょう!」

こんなセリフを口にしなくなり、早くも1年以上が経過した日本。ガード下の赤提灯に灯がともらなくなり、駅前のネオンが輝きを失った2021年は、日本人の中で間違いなく「居酒屋でアルコールを飲まなかった一年」として記憶に刻まれるでしょう。では、そんな状況下でアルコール飲料を取り扱う飲料メーカーはどのような様相を呈しているでしょうか。

国内においては、成熟産業となったビール業界。この業界の2大巨頭がアサヒグループHD(以下、アサヒ)とキリンHD(以下、キリン)です。

“ビール一本”で世界展開を図るアサヒ。飲料だけでなく医薬品を強化し多角化しているキリン。いわばビール業界の巨人ー阪神戦、2021年の現在の勝者はどちらでしょうか。業界事情を“一気飲み”で解説します。

◆「とりあえず生で!」は令和の絶滅危惧種ワードか

〈飲もう~! 今日はとことん付き合うわよ~♪〉

このCMでお馴染みだった森高千里さんの22枚目のシングル「気分爽快」がリリースされたのが1994年。この曲はアサヒビールのCMに起用され、ロサンゼルスドジャースの野茂英雄投手の活躍とともに話題となりました(「野茂」と「飲もう」)。

実は、ビール系アルコール飲料の市場規模のピークはまさに森高千里さんがこの曲をリリースした1994年でした。ちなみに、ビール系アルコール飲料とは、ビールのほか、発泡酒、第3のビールを含んだ飲料のことです。この年のビール系アルコール飲料の年間出荷額は5億7,200万ケース。これがどれほどの規模だったかは、その後の衰退を見れば明らかです。

1994年をピークに年間出荷額は年々減少を続け、2019年は計3億8458万ケースと、15年連続で前年を割り込んでいます。そして、今や「ビール離れ」は世界的なトレンドとなっています。

◆自粛を促されたWHOの発表

2010年、WHOは「アルコールの有害な使用の低減のための世界戦略」を公表しました。この発表にアルコール業界では激震が走りました。かつて、WHOは嗜好品とされるたばこの健康への悪影響を問題視して規制した過去があります。つまり、これと同じことがアルコールにも起きる可能性があるのです。

このWHOの発表を受けて、飲料メーカー各社はたばこと同じことにならないように自ら飲み過ぎを避けるよう促す取り組みを始めています。こうした「飲み過ぎ注意!」を各社が行っていることに加え、飲食店の営業自粛やアルコール提供の自粛も加わり「とりあえず生で!」はますます現象傾向に進んでいくでしょう。

◆アサヒとキリン、何が違うの?

そんな激動の時代を迎える飲料メーカー。国内のビール企業の2大巨頭、アサヒとキリンではどのような戦略の違いがあるのでしょうか。

まず、アサヒ。

アサヒはコロナ禍の打撃が同業他社より大きいと言われています。なぜでしょうか。一口で言えば、仕事終わりに居酒屋で「とりあえず、生。スーパードライで!」と喉を潤す人が多かったからです。そう、アサヒはビール販売数量のうち、飲食店向けの業務用の比率が2019年で48%と、市場平均の約25%よりずっと高かったのです。通常であれば、家庭向けのように安売り競争にさらされない業務用飲料は利益率の高さにつながるはずです。が、コロナ禍ではその優位性が逆風となりました。

一方、キリンはどうでしょう。

元々、キリンは家庭用飲料市場が強く、2020年10月に発売した「一番搾り糖質ゼロ」は家飲み需要を取り込んでヒット商品になり、年間販売目標を上方修正しているほどです。結果、現在はキリンが一歩リードしている状況です。このように、強い場所の違いが明確に分かれているのがビール界の”阪神・巨人”なのです。

◆目立つキリンの「オセアニア」「医療事業」

続いて、2社のセグメント別売上高を見てみましょう。まずはアサヒ。

売上収益構成比は、酒類(37.4%)、飲料(17.4%)、食品(6.1%)、国際事業(39.1%)、その他(4.6%)と、国内の酒類事業と国際事業が大きな柱となっています。

一方のキリンはどうでしょうか。

売上収益構成比は国内ビール・スピリッツ(35.2%)、国内飲料(13.6%)、オセアニア(15.8%)、医薬事業(17.2%)、その他(18.2%)と、国内のビール以外にオセアニア事業、医薬事業、その他も18%占めており、アサヒに比べて多角化していることがわかります。

◆アサヒ過去最高益の要因

これらの売上収益構成比をさらに詳しく見ていきましょう。まずは、国内市場が成熟するなかで、国際事業が39%占めているアサヒ。

これは、M&Aによる海外企業の買収によるものです。2016年から2017年にかけて、アサヒは1兆円以上を投じて欧州、さらに2020年6月には約1.1兆円で豪州事業を買収しています。この狙いは、販路・商品群を広げて海外事業を通じて成長すること。これが同社の業績にも反映しています。

足元のアサヒの業績を見ると、2021年12月期第1四半期決算は四半期ベースで過去最高益を達成しています。売上収益が前年同期比11.6%増の4567億円、本業の儲けを示す事業利益が同78.3%増の283億円と、持ち株会社体制に移行した2011年以降でいずれも四半期ベースで過去最高です。

しかしその要因は、買収によるものなのです。2020年に買収した豪州のビール事業の底上げによるもので、本業の儲けによるものではないのです。実は、大黒柱である国内酒類事業は、業務用の比重が高いだけに、大苦戦を強いられています。

◆アサヒの「生ジョッキ缶」はヒットしたけれど…

あれ? それでも明るいニュースがあったはず?そう思った方もいるのではないんでしょうか。わかっています。

開栓するときめ細かい泡が自然に発生し、飲食店のジョッキで飲む樽生ビールのような味わいが楽しめる新商品、今年4月に発表した「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」の存在ですよね。この「生ジョッキ缶」が品切れ続出となっているニュースをSNSで目にした方も多いでしょう。

しかし「バズっていること」と売れていることは違います。

実は、アサヒは需要を見誤り供給が全く追いついていないため、ヒットしたものの、収益貢献には至っていないのです。この需要の取りこぼしも、大きな痛手となっています。

とはいえ、ヒット商品は他にもあります。アルコール度数わずか0.5%の微アルコール飲料『ビアリー』。これは三塁打レベルのヒットを放っています。

この微アルコール飲料、起死回生の一打になるかもしれません。アサヒビールによれば、20~60代人口8000万人のうち、日常的に飲酒を楽しむ人は2000万人。それ以外の「飲むこともあれば、飲まないこともある」層に「微アルコール」の商機があると同社は考えています。つまり、アルコール飲料市場はまだまだ成長の余地があるのです。

◆キリンの「医療分野」とは?

一方、キリンはどうでしょうか。こちらは現在、海外事業の売却を進めています。2017年に不振のブラジル事業を売却し、2019年にも豪州事業の一部を売却し、海外子会社を精算しつつあります。

今から遡ること10年前。

2011年にキリンはブラジルのビール大手、スキンカリオール(現ブラジルキリン)を約3000億円で買収。中国、米国に次いで世界3位のビール市場を持つブラジルを中長期の成長ドライバーに位置付けていました。ところが、事態は大きく変わります。

2014年ごろからブラジルでの販売数量が減り、2015年12月期には約1100億円もの減損損失を計上し、上場来初の最終赤字となったのです。その後、スキンカリオールの買い手が見つかり、キリンはブラジル事業から手が離れています。

その一方で、キリンは新たな成長源を見つけています。それが「ヘルスサイエンス事業」です。特に重点領域と定めるのが免疫、脳機能、腸内環境の3分野です。「飲料メーカーがヘルスケア? どういうこと?」そう思った方も多いかもしれません。

◆飲食メーカーが目指すもの

現在、世の中の食品メーカーが目指す最終ゴールは、「個別化(パーソナライズ化)」。つまり、個人個人に合わせた商品を展開していくことです。オーダーメイドのスーツを着るように、食べ物や飲み物もオーダーメイドで口に運べる社会をつくろうとしているのです。ただし、いきなりここを目指すのには、越えなければならないハードルがたくさんあります。そこでキリンが取り組んでいるのがヘルスケア領域への投資だったのです。

ポイントは、買収して傘下に治めた「ファンケル」と「協和発酵バイオ」の存在。ファンケルと言えば、化粧品やサプリメントの開発やマーケティングの知見が深い企業として知られています。つまり、キリンが目指す「個別化」のノウハウを持つ企業なのです。

すでに、2019年に傘下に入ったファンケルとの事業シナジーは2020年には約1億円だったとキリンは報告しています。さらに、2021年は傘下の協和発酵バイオの通販事業を強化することで、シナジー効果10億円を見込んでいます。この「オーダーメイドな食生活」はいかにして実現していくでしょうか。簡単にそのステップを解説します。

まずはキリンの強みである飲料・食品で「エントリーマス」を獲得していきます。機関となる商品を投入するわけですね。次に、より健康を意識した「サプリメント事業」を展開します。「健康を維持できる食生活」を支える商品を増やしていくフェーズと理解してもよいでしょう。

最後にファンケルの強みを生かしてひとりひとりに合った商品を提供する「オーダーメイドの食生活」、つまりパーソナルな商品展開していくのです。

この1年、大きな苦境に立たされたビール業界。1位と2位の詳細を調べてみると、両者で大きな戦略の違いがあったことがおわかりいただけたと思います。

一時的に売り上げは落ち込んでいるものの、また1994年のように、今度は消費者の健康を維持したうえで「ぐいぐいよしこい!」できる日が来ることを祈っています。

<文/馬渕磨理子>

―[あの企業の意外なミライ]―

【馬渕磨理子】

経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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