林遣都『犬部!』が描く多頭飼育崩壊のリアルを、脚本家に聞く「犬猫110匹と住む女性も」

女子SPA!

 林遣都さん主演の映画『犬部!』が公開中です。本作の脚本を担当した、テレビディレクター、作家の山田あかねさんにインタビュー。

『犬部!』の主人公・颯太のモデルとなった獣医師・太田快作先生に密着した『ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年』(2020年フジテレビ)など、これまでに多くの動物関連の作品を生み出している山田さんに、実際に取材で見た多頭飼育崩壊現場のリアルと、日本の問題点を聞きました。

◆多頭飼育崩壊の現場を前に、警察が「問題ない」という日本

――本編に、多頭飼育崩壊を救おうとした颯太が、警察に通報されてしまうエピソードが登場します。山田さんの実体験がヒントになったとか。

山田あかねさん(以下、山田)「2017年くらいにある動物保護団体の人と、保健所の人も一緒に多頭飼育崩壊が起こっている家に行ったんです。飼い主さんは、最初から『お前らに相談することなんてない、帰れ!』と怒っていまして、『フードを持ってきましたよ、困ってませんか』と話しかけてもダメなんです。しばらく待とうと外で待っていたら、『警察呼ぶぞ!』と。そして本当に呼ばれてしまったんです」

――おお。

山田「警察の人に事情を話しても『少しでも入ったら家宅侵入になっちゃうよ』と。警察は私たちを追い返そうとするんです。でも飼い主さんも気が変わりやすく、『そんなに言うなら猫を見せてやってもいいよ』と入れてくれたんです。10畳くらいの部屋に猫が30匹ぐらいいて、さらに死体もあって、うんちだらけでぐちゃぐちゃ。ものすごく臭くて。警察に『これ、動物虐待ですよね』と言っても『認められない』と」

――猫はその女性の所有物だと?

山田「そう。所有権は飼い主さんにあるわけだから、問題はないと。『別に猫くらい死んでもいいだろう』という感じが伝わってくるんです。飼い主さんも気が変わりやすいし、こちらが逮捕されることも本当にあるなと感じました。都内のマンションで猫100匹と犬10匹と暮らしている女性にも会いました」

◆100匹以上の犬猫と暮らす女性

――100匹以上ですか!

山田「私が担当した『ザ・ノンフィクション』を見て、その女性から私の知り合いの団体に助けを求めてきたんです。身寄りがなく中学から働いていて、吉原の風俗店で20歳から40歳くらいまで働いて、そこで知り合った人と結婚したと。昔から憧れだった家庭を持って、ペットを飼いたかったと。でも旦那さんが捕まって刑務所に入ってしまって、お金がなくなってしまった。出ていけと言われていて『石油をまいて、犬猫と心中しようと思っていた』と言うんです」

――結局、どうなったんですか?

山田「悪い人じゃないし、話をしながら、コーヒーとかお菓子とか、出してくれるんです。結局、犬と猫はその愛護団体が保護しましたが、その女性は、失踪したと聞いています。修繕費とか払えなかったんじゃないですかね。

でも彼女の話を聞いていて、他人事とは思えなかったんですよね。動物が好きで人間関係がうまく築けないというのは自分もそうなのでよく分かる。過酷な環境に生まれてそうなってしまった部分もあると思う。他にも多頭飼育崩壊した男性からは『その撮った映像で、オレが不利になる使い方をしたら、タダじゃすまないぞ』とすごまれたこともあります。共通して彼らから感じるのは周囲からの孤立ですね」

◆日本にもアニマルポリスが必要

――社会から孤立している。

山田「疎外されて、人間はみんな敵だと絶望していて、犬とか猫に心を寄せていく。でもお金もないし知識もないから、不妊去勢手術をすることもできずに、どんどん増やしてしまう。もともと極悪非道な人ってわけじゃないんです。社会的弱者なんです。誰にも頼ることができずに、孤立しているんです。だからそういう人を救えるシステムが必要なんですよね」

――中には最初から虐待を目的に動物を飼う人もいます。

山田「そうですね。酷い人も中にはいます。あるときの取材で、猫の背中に毛がなかったので、『どうしたの』と聞いたら『熱湯をかけたんだ』と。

私はイギリスの団体でボランティアとして働いたこともありますが、インスペクターという職業の人がいて、動物が虐待されていないか地域を見回りしてるんです。動物愛護団体に所属していて、地域の警察や動物病院と連携しています。インスペクターが危ないと判断した場合、まず動物の状態を獣医師に写真などで見せて、命の危険がある場合、現場に、インスペクターと警察が一緒に行って、保護します。

動物愛護団体(インスペクター)、獣医師、警察が三位一体となっているんです。日本では虐待をしていても、所有権を主張されるとなかなか手が出せない。そこは変えて、アニマルポリスみたいなものができたらいいなと思います」

◆誰でも動物と暮らせるシステムを作るべき

――イギリスでは年齢も関係なく保護動物を引き取れて、飼い主が亡くなった場合も動物を救える制度があるとか。山田さんが作られた番組で拝見しました。

山田「80歳でもちゃんと飼えると判断されたら引き取れるし、二十歳でもダメな人はダメ。年齢じゃないんです。日本でもシステムが変わりつつありますが、まだまだですし、このままでは日本で動物を暮らすことは、お金持ちだけが楽しめる趣味になってしまう。それは違うだろうと思います。誰でも動物と暮らせるシステムを作らないと。そしてダメになったときに、セカンドチャンスがある、助けを求められる世の中がいいなと思います」

◆中川大志が演じた役にもモデルがいた

――中川大志さんの演じた役にもモデルがいるとか。

山田「辛い経験をしてしまう役柄でしたけど、実際にあったことを参考にしています。台湾で、動物愛護センターに勤務する獣医師が自ら命を絶つという事件がありました。そのセンターに取材に行って、その方が、愛護センターで飼っていた犬にも会いました。取材中、ずっとその犬が私達を見ていました。そのとき『わたしの飼い主のことをちゃんと伝えないと許しませんよ』と言われた気がして。

他にも日本で保健所に勤務していた方から、処分のあと、自分も一緒に燃やしてほしいと思ったと聞いたことがあり、処分の現場でギリギリの思いで闘っているひとがいることを伝えたかったんです。今回は中川大志さんが演じる役に、託させていただきました」

◆「林遣都さんによって、言葉に命が吹き込まれた」

――最後に読者にメッセージをお願いします。

山田「映画『犬部!』は自分の脚本ですし、セリフも展開も全部知っているのに泣きに泣きました。林遣都さんによって、言葉に命が吹き込まれたと思います。林さんと中川さんの2人が演じた役には、親友を超えた何か強烈なつながりのある関係に見えたらいいなと思っていました。その空気は出ていたと思いますし、若い人にはどう生きるかという選択の物語としても観ていただけると思います」

(C) 2021『犬部!』製作委員会

<文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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