『モン勇』レビュー:マッピング制限とレベルキャップがもたらすスリルとトレハンの中毒性

ガジェット通信



暗くジメジメしていてカビ臭い。おまけに恐ろしいモンスターやトラップに溢れていて、死の危険まである。それが地下迷宮、ダンジョン!

こうやって文字に起こすとまったくもって魅力のない、お近づきになりたくない場所だ。しかし、これがゲームとなると話は別。ダンジョンは魅力とロマンに溢れていて、できればずーっと閉じこもっていたい……。そんな感覚を味わわせてくれる作品のひとつが、エクスペリエンス社のダンジョンRPG最新作『モンスターを倒して強い剣や鎧を手にしなさい。死んでも諦めずに強くなりなさい。勇者隊が魔王を倒すその日を信じています』……略して『モン勇』だ。

エクスペリエンス社のダンジョンRPG最新作! そもそもエクスペリエンス社とダンジョンRPGとは





本作はダンジョンRPGの新作である前に、エクスペリエンス社の新作だ。エクスペリエンス社は、近年では『死印』『NG』といったホラーアドベンチャーゲームも手掛けているが、それまではダンジョンRPG一本に絞ってリリースしてきた。

前身であるTeam Muramasa(チームムラマサ)時代に手がけた『ウィザードリィエクス』に始まり、『Generation Xth(ジェネレーションエクス)』シリーズ、『円卓の生徒』『デモンゲイズ』シリーズ、『剣の街の異邦人』『黄泉ヲ裂ク華』…などなど、これまでリリースしてきたダンジョンRPGはいずれもクオリティの高い良作ばかり。

したがって、エクスペリエンス社とダンジョンRPGを知る人間であれば、エクスペリエンス社の新作ダンジョンRPGというだけで買い決定といっても過言ではない。



では、ダンジョンRPGもエクスペリエンス社も知らないというプレイヤーにとってはどうかというと、本作はご覧の通り、非常にキュートでポップなビジュアルをしている。エクスペリエンス社のダンジョンRPGとしてはひとつ前の作品にあたる『黄泉ヲ裂ク華』と比べると真逆といっていい世界観。

エクスペリエンス社の作品にはこれまで『デモンゲイズ』のように、ポップ路線の作品も存在しているが、それらと比べても圧倒的にキュートでポップ! これはつまり、ダンジョンRPGやエクスペリエンス社を知らないという新規プレイヤーにもプレイしてもらいたいということだろう。



なので、この記事でも「ダンジョンRPGって何?」という新規プレイヤーに向けて、ダンジョンRPGとは何かについて説明しておきたい。そもそもたいていのRPGに「ダンジョン」は登場する。なので、知識のない状態で「ダンジョンRPG」と言われても、名前だけでは他のRPGとどう違うのかわからないだろう。

さて、では「ダンジョンRPG」とは何かというと、一人称視点で描かれたダンジョンを、東西南北四方向移動で探索するタイプのRPGのこと。現代的なRPGの多くはフィールドもダンジョンも一人称視点で描いており、基本的に360°全方位へ自由に移動できる。

一方、「ダンジョンRPG」というのは3DCGが一般的でない時代に生み出されているので、東西南北四方向にしか移動できない。なので、ダンジョンの地図は正方形のマスを組み合わせた方眼紙のような形状になっており、移動はこのマス単位で行われる。1歩=1マスというわけだ。



また、「ダンジョンRPG」という名称には含まれないが、たいていの「ダンジョンRPG」が「ハック&スラッシュ」……通称「ハクスラ」という要素を持っている。これは「ハック(叩く)」&「スラッシュ(斬る)」という単語の組み合わせからイメージできる通り、敵とのバトルを中心としたゲームスタイルのこと。ただより正確に言えば、敵とのバトルの結果、強力なアイテムをゲットし、より強い敵に挑んでいくというスタイル。これらの要素は「ダンジョンRPG」の元祖といえる『ウィザードリィ』が持っていたもので、それが『モン勇』まで脈々と引き継がれてきたわけだ。



歯ごたえ抜群の迷宮ユグドラン! “モンスターを倒して強い剣や鎧を手にしなさい”





『モン勇』はビジュアルこそキュートでポップだが、中身は紛れもない「ダンジョンRPG」。そのことは、タイトルに含まれる“モンスターを倒して強い剣や鎧を手にしなさい”という言葉が端的に示している。この言葉、一言でいえば「ハック&スラッシュ」。なので、キュートでポップでとっつきやすそうな作品に見えるが、「ダンジョンRPG」としての歯ごたえを持っている。しかもその歯ごたえは、歴戦のダンジョンRPGプレイヤーですら唸るほど!



本作のゲームの流れは、「ダンジョンRPG」のものを完全に踏襲している。まずは「勇者隊」となるパーティーメンバーとなる6体のキャラクターを作成。キャラクターは、ランダムに獲得できるボーナスポイントを「腕力」や「知力」といったステータスに割り振ることで作り出す。

獲得できるボーナスポイントの量がランダムなので、強いキャラクターを生み出せるかどうかは運次第。ただ、ボーナスポイントはその場で何度も振り直すことができるので、大量のボーナスポイントが得られるまで粘りに粘って強力なキャラクターを作り出すことも可能だ。



キャラクターを作り出したら、いよいよダンジョンへ! 本作のダンジョンは、竜王の塔「ユグドラン」と呼ばれる迷宮。この塔には平和をもたらす秘宝が存在していたが、あるときどこからともなく「七つの魔王」が出現。秘宝を奪って塔に住み着いてしまった。「勇者隊が魔王を倒すその日を信じています」というタイトルの通り、この「七つの魔王」を倒し秘宝を取り戻すことがプレイヤーである「勇者隊」の目的だ。



先に紹介した通り、「ダンジョンRPG」である本作のダンジョンは、移動は正方形のマス単位で東西南北4方向へ行う。また、「ダンジョンRPG」の伝統的なスタイルとして、壁や床、天井といったパーツは基本的に同じ形状でできている。

このため、移動しても見た目的な違いが少なく、迷いやすい。一方で、正方形のマス単位でダンジョンが構成されているからこそ、地図さえあれば、現在どの位置に自分がいるのか把握しやすい。だからこそ、地図の作成、マッピングが重要になってくる。



最近の「ダンジョンRPG」では、基本的に自分が進んだ部分の地図が自動的に作成されるオートマッピングシステムが導入されている。本作はももちろんオートマッピングに対応。ただ、本作がちょっと違うのは、「地図の虫」を手に入れるまではマップが利用できないという点。

ダンジョンのどこかにいる「地図の虫」を捕まえることではじめてマップが見れるようになる。もちろん、その際、それまでに探索した場所はマップに反映済みだ。



先に書いた通り、「ダンジョンRPG」は迷いやすい。なのでこの「地図の虫」というシステムは難易度をいたずらに引き上げているようにプレイ前は感じた。しかし、プレイしてみるとそうではない。というのも、確かに「地図の虫」を手に入れるまでマップが利用できないのだが、常に画面上に小さなマップが表示されており、自分の周囲の状況については分かるようになっているからだ。



さらに、本作はひとつの階層の中で訪問可能な場所が細かく区切られている。このエリアでアイテムを手に入れたら次はこのエリア……という具合。なので、その階層を探索しはじめた序盤は小マップで問題ない。そして、いくつかのエリアをクリアして行動範囲が広がってきたころには、「地図の虫」が手に入る。なので、途中までオートマッピングが利用できないといってもさほど問題がないのだ。



ただ、「オートマッピングが利用できない」ということで若干の不安は感じる。現実世界でたとえるなら、スマートフォンを家に忘れて会社に行ったかのような不安感。どこかになくしたわけではなく、家に忘れたことは間違いない。だからそれほど不安に思うことはないんだけど、でも手元にスマートフォンがないのは不安……本作における「地図の虫」がない状態はそんな感じ。そして、これがイイ。絶妙なスリルをもたらしているのだ。



初代『ウィザードリィ』のころから筆者が「ダンジョンRPG」の魅力だと感じている点のひとつに、「スリル」がある。そもそも初代『ウィザードリィ』というゲームは非常にスリリングなゲームだった。そのスリルは、一撃食らうと死亡する「クリティカルヒット」という要素や、座標指定に失敗すると石の中にテレポートし全滅してしまう移動呪文といった要素によって、どんなに高レベルでも死ぬときは死ぬため。

さらに、万が一死亡した場合、蘇生に二度失敗するとデータから完全にロスト=消失する……という情け容赦のない要素も組み合わさることで、初代『ウィザードリィ』の「ダンジョン」は非常に怖かった。なにせ、どんなにキャラクターが高レベルであっても、死ぬときは死に、消失する時は消失する。しかし、この怖さ、緊張感が非常によかった。



もちろん、初代『ウィザードリィ』の移動呪文やロストといった要素は、さすがに今の時代は不親切といえる。なので、本作にもこうした要素はない。とはいえ「ダンジョンRPG」である以上、ダンジョン探索に緊張感は欲しいと感じてしまう。そんな思いに対して「地図の虫」システムは、絶妙なスリルをもたらしてくれている。



さらに、レベルキャップ制も本作にいい具合の「スリル」をもたらしている。レベルキャップとは、一定レベルに到達するとそれ以上レベルが上がらなくなるという仕組みのこと。この仕組み自体は、『Generation Xth(ジェネレーションエクス)』シリーズや『剣の街の異邦人』といったこれまでのエクスペリエンス社作品でも取り入れられていた。

ただ本作はそれが階層単位で細かく取り入れられている。レベルを上げるためにはその階層のボスを打倒し、次の階層に進まなければならない。逆にいえば、その階層のボスは必ず一定のレベル内で倒す必要がある。



レベルキャップがあるため、とにかくレベルを上げてボスを倒すというゴリ押しプレイはできない。その代わりに、倒すか倒されるかという緊張感の中で「どう戦えばよいか」という戦術を考え抜く楽しさが味わえる。この戦術という部分はとてもこだわって作られており、あらゆるボスには明確な強みと弱みが存在。

たとえば第一階層デミヘイムのボス「魔王フレイ」は以上に回避率が高く、こちらの物理攻撃がなかなかヒットしない。ではどう行動すればいいか? これを考えるのが非常におもしろい。



本作のバトルは「ダンジョンRPG」としてオーソドックスなターン制コマンド選択式バトル。だが、ボス戦においてはとりわけ「戦う」コマンドを繰り返し選んでいるだけでは勝利は難しい。戦術や戦略が必要だ。たとえば筆者の基本戦略は、騎士に攻撃を集中させること。

筆者のパーティーは防御力に優れる騎士、素早さに優れる反面防御力の低い武闘家、隠れることで攻撃から逃れられるがやはり防御力の低い忍者、遠距離攻撃を得意とする銃使い、回復要員の僧侶に攻撃魔法要員の魔法使いという構成。騎士は前列のパーティーメンバー全員を防御するというスキルを持ち合わせているため、武闘家、忍者を騎士に守らせ被ダメージを減らしつつ、武闘家、忍者、銃使い、魔法使いでダメージを稼ごうという戦略だ。

実際この戦略はザコ戦、ボス戦関わらずかなり有効で、さらに僧侶の魔法によって騎士の回避率を上げると被ダメージが一気に減少。バトルが楽になる。本作のバトルはこうした戦略・戦術を考えていくのが楽しい。



また、戦略戦術を考え抜くことにはゲーム的なボーナスもついてくる。「評価」システムだ。本作では魔王を倒し次の階層へと進む前に「評価」が行われる。魔王を倒すレベル、経過したターン、ダンジョンの踏破率といった要素が採点され、この「評価」によって次の階層に手に入るアイテムのレアリティが変化。つまり、本作は「考えて攻略する」ことを極めて重視した作品といえる。



ちなみに、中には賢い立ち回りより、キャラクター育成によってボスを倒したいと考えるプレイヤーもいるだろう。そういう嗜好のプレイヤーにとってレベルキャップはマイナスに思えるかもしれない。だが、本作には救済措置も用意されている。それは、スキルポイントと装備の強化だ。

本作の育成はプレイヤーキャラクターのステータス強化と、スキル強化、装備の強化が分けられており、レベルキャップによる制限があるのはステータス強化のみ。なので、ボスが強いと感じた場合にはスキルポイントを稼いでスキルを強化したり、装備を強化したりといった対応も行えるようになっている。



アイテムゲットの中毒性にハマる! ダンジョンがあるなら生きていける



「考えて攻略」できるバランスが常に維持される……これが「ダンジョンRPG」の一作品として本作を見た時の特徴だろう。そしてこの特徴があるからこそ本作はヒリつくようなスリルを味わえる。けど、もちろん、それだけじゃない。本作最大の魅力はやはり、アイテム獲得、トレジャーハンティング(トレハン)要素!



ダンジョンに潜り、強い敵の存在するポイントまで向かい、強敵を倒すことでより強力なアイテムをゲットする。トレハン要素は、本作のみならず「ダンジョンRPG」にとって最大の魅力といえるだろう。

『ウィザードリィ』ではこのトレハン要素を代表するアイテムとして「村正」「君主の聖衣」「手裏剣」などというアイテムが存在した。これらのアイテムは強力だが、非常に低い確率でしか手に入らないため、手に入った時には狂喜乱舞したものだ。

まずこのレアを追い求める楽しさが、トレハンのおもしろさ。だが、これはおもしろさの極端な例だ。



トレハンの本質的なおもしろさは、少しずつ強さがアップしていくことの中毒性にある。より強いアイテムを求めて強敵と戦い、現在のアイテムより少しでも強力なアイテムが出れば装備を変更。これによって、さっきまで苦戦していた敵との戦いが楽なものになる。すると、新たな強敵と戦いたくなり、新たな強敵と戦えば、さらに強力なアイテムが手に入っちゃう……。

単純だが、このループが楽しい! 脳から変な分泌物が出てるんじゃないかというくらい、ガチでハマる。いや、キマる。



筆者は30年ほど前、友達も少なくもちろん恋人もおらず、おまけに太っているせいでバカにされるという中学生時代を送っていた。これを読んで多くの人は「不遇な中学生時代だな」と思ったことだろう。ところがどっこい、不遇どころか筆者はかなりハッピーだった!

なぜなら、その時の筆者にはダンジョンRPG…『ウィザードリィ』があったから。家に帰ると『ウィザードリィ』があって即座にダンジョンに入ることができ、トレハンができるかと思うと、それだけでハッピー。なんなら、当時『ウィザードリィ』をプレイしていなかったクラスメイト達に申し訳ないと感じていた。だって、世の中にこんなに多幸感を味わわせてくれるものがあるんだぜ?

それぐらい「ダンジョンRPG」の持つハクスラの魅力がガンギマりしていたのだ。



先に書いた通り、本作を開発したエクスペリエンス社の前身「Team Muramasa(チーム・ムラマサ)」という。このムラマサはもちろん『ウィザードリィ』を代表するアイテム「村正」だろう。現在はエクスペリエンスという社名になったものの、かつて「村正」を名乗っていただけあって、エクスペリエンス社のゲームはいずれもトレハンに一工夫をこらしている。

たとえば、『剣の街の異邦人』では、マップ上の特定ポイントでモンスターを待ち伏せすることで、自分から戦闘をしかけることができた。トレハンを行う場合、基本的にプレイヤーは強敵が出てくる場所へと向かい、強敵を倒したらダンジョンから出て再び強敵の元へと向かうという行動を繰り返す。『剣の街の異邦人』の「待ち伏せ」は、この繰り返しの無駄を排除する便利システムといえる。



これに対し本作では、敵の位置を完全に可視化するという手法が採られている。本作にランダムエンカウントは存在しない。戦闘は敵シンボルと接触することでのみ行われる。シンボルはまったく移動しないもの、ランダムに移動するもの、プレイヤーから逃げるように動くもの、プレイヤーを追跡するもの、以上4タイプに分かれており、それぞれ色で判別することができる。

そして、タイプによって出てくるモンスターの強さも変化。プレイヤーから逃げるように動くタイプは大量の経験値を持つ敵が出現。一方、プレイヤーを追跡するタイプは強敵が登場する。



敵のタイプがシンボルによって明確化されているので、経験値を稼ぎたい、強敵からアイテムをゲットしたいといった目的に合わせてバトルが行える。このおかげで、本作のトレハンは非常に快適だ。



正直なところ、ダンジョンRPGファンの多くは既にエクスペリエンス社を知っているだろう。そして、エクスペリエンス社を知るダンジョンRPGファンは現時点で本作を買っているか、諸事情ゆえ買っていないもののいずれ買う予定だと思う。買った、あるいは買う予定というその判断は間違っていない。今回も楽しい。ハマれる。

一方、これまでダンジョンRPGファンを知らなかったというプレイヤーは、是非本作をプレイしてみて……いや、キメてみてほしい。この世には魅力とロマンに溢れていて、できればずーっと閉じこもっていたい場所があることに気づくだろう。多分エクスペリエンス社がある限り、その場所=ダンジョンは作られ続けるに違いない。

ああ、素晴らしきかなダンジョン!



文/田中一広

当記事はガジェット通信の提供記事です。

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