「ユリコ恐るべし」を印象付けた選挙。惜敗だが、実質は大勝だ/倉山満

日刊SPA!

―[言論ストロングスタイル]―

◆「ユリコ恐るべし」を印象付けた選挙で終わった

さすがに、これは狙ってできないだろう。「ユリコ恐るべし」を印象付けた選挙で終わった。

今年は選挙の年だ。7月4日に行われた東京都議会議員選挙を皮切りに、9月に自民党総裁選挙、10月に衆議院選挙が行われる予定だ。そして来年7月には参議院選挙。この長い戦いの緒戦を小池百合子東京都知事が制し、政局の主導権を握った。

通常、選挙は1か月前に大勢が固まる。自民党と公明党は小池都知事の与党である都民ファーストを包囲し、壊滅寸前まで追い詰めた。そんな最中に総大将の小池都知事が病気で入院。「不戦敗」「敵前逃亡」と批判されていた。

事前調査では、自民党は50議席を回復して都政第一党を回復、都民ファーストは一桁に転落する見込みだった。しかし、「火事は最初の5分間、選挙は最後の5分間」とは、よく言ったものだ。

投票日直前の金曜午後4時、既にワイドショーが終わっている時間に、突如として小池都知事は復帰記者会見を行った。そして土曜日は、激戦区を回った。公明党が当落線上の選挙区ばかりだ。

◆事前調査を覆した小池都知事の戦い

小池都知事は、乾坤一擲の勝負を挑み、勝った。負けた陣営の人間は「あれは仮病だ」「タヌキ寝入りだ」と悔しがるが、その負け惜しみに何の意味があるのか。聞けば、入院直前の小池都知事は、18歳の愛犬を亡くしたとか。周囲は「本当に落ち込んでいた」と証言が一致する。

私は小池都知事を「冷血漢」と見做し批判してきた立場だからこそ、その落ち込みは本当だったとの心証を抱く。小池氏のように、独身で子供がいない女性にとって、愛犬は夫と息子を兼ねた存在だ。しかも犬の平均年齢の12~13歳をはるかに上回るまで生きた。並大抵の愛情の注ぎ方ではないし、よほどの力を込めねばありえない。

自分のすべてを失いかけたギリギリの状況で、最後の力を振り絞って戦った。しかも勝てる保証のない戦いだ。明らかに出遅れだし、1日強の動きで何ができるのか。最終日に東京中を回る小池都知事を、「何もしなかったと言わせないためのアリバイ的動き」と自民党筋は揶揄していた。

ところが、日曜日の朝の出口調査では都民ファーストの勢いが止まらず、午後にも伸びた。

◆都民ファーストは僅差の第2党。惜敗だが、実質は大勝だ

結果、都政127議席の過半数を制する会派は無く、膠着状態だ。

自民党は、前回の25から33に回復、なんとか第1党の地位を取り返したが、惨敗に等しい辛勝だ。小池旋風の前に2日で20議席を失った格好だ。

自民党は「公明党と合わせて過半数」を勝利条件としていたので、大敗だ。

公明党は、何とか23人の候補全員の当選。必死の防戦に成功した。最後の1週間の『公明新聞』など、鬼気迫っていた。

都民ファーストは、45議席から減らしたが31議席。僅差の第2党なので、惜敗だが、実質は大勝だ。誰にも小池都政に拒否権を行使させない勢力を確保した。

共産党は18から19に増やしたが、宿敵の公明党が誰も落選しなかったので、悔しくて仕方なかろう。

◆「勝利者無き選挙」? ユリコの勝負度胸と公明党の底力が見えないのか

涙を禁じ得ないほど滑稽なのが、立憲民主党だ。国政では第2党だが、都政では共産党の後塵を拝する第5党。しかし8議席から15議席で「倍増」「勝利」とはしゃぎ回っている。「枝野信者」「立憲カルト」の連中は「これで枝野体制は3年安泰だ」と勝利の美酒に浸る。

立憲民主党には何かの間違いで所属している真人間が少なからずいるのだが、その人たちには心の底から同情せざるを得ない。

多くのマスコミは「勝利者無き選挙」などと寝言をまき散らしているが、節穴か。ユリコの勝負度胸と公明党の底力が見えないのか。

そして真の敗者は、菅義偉首相だ。

◆真の敗者は、菅義偉首相だ。「政界の一寸先は闇」、真の味方は誰だ?

4月の衆参両院の補選で不戦敗も含めて全敗。その他、与野党対決の地方選挙で全敗。そして今回。

今のところ、安倍晋三前首相、麻生太郎財務大臣、二階俊博幹事長の三大派閥の領袖に加え、実力者として台頭している世耕弘成参議院自民党幹事長がそろって、「菅再選支持」を打ち出している。だから盤石だと最も思っていないのは、菅首相自身だろう。利害が異なる勢力の誰からも支持されるとは、誰からも裏切られる可能性があるということだ。「政界の一寸先は闇」「人間万事塞翁が馬」を最も体現しているのは、菅首相なのだから。

満身創痍の菅内閣だが、本欄でも再三指摘しているように、政策は着実に進めている。何よりも劇的に成果が出る寸前なのが、皇位継承問題である。この問題があるから菅内閣には生き残ってもらわねばならないのだし、仮に政権交代しても皇室の問題は大事にしなければならない。

経済に関しても、日銀委員に野口旭委員を押し込むなど、コロナ禍が終息した暁には、劇的な景気回復策を打つ気満々だ。看板の規制改革も、地道に成果を出している。

◆ワクチンが普及さえすれば、コロナが終息するのか

だが、そのすべてをコロナが押しつぶす。

オリンピックは、サミット(日本以外の6大国)を味方につけて、なんとか開催に漕ぎつけた。しかし、コロナに怯える公明党から無観客試合を押し付けられそうになり、そこを「小池百合子首相」の実現を願うマスコミが後押しする。それを原理主義国家の宗教指導者の如き分科会や医師会が呪術の如き煽り方で人々を不安のドン底に陥れる。

菅首相は、「ワクチンが普及さえすれば、感染者が減る。そしてコロナが終息する」と思い込んでいるようだ。しかし、ワクチンが普及しても感染者(本当は陽性者)が減っていない国など、いくらでもある。

◆本当にコロナがペストやエボラのように危険な伝染病なのか

今の菅首相は「どうやってワクチンの接種率を増やすか」という議論には耳を傾けるかもしれないが、「そもそも感染者を減らす意味があるのか。それが本当にコロナ禍の収束なのか」との議論に聞く耳を持たないように見える。

しかし、あらゆる政策において、「何を成功か」と位置付けるのは、最高指導者の哲学だ。この意味で政治は、人文科学だ。

あえて菅首相に問う。何の為にコロナの感染者を減らし、ワクチンを普及させるのか。本当にコロナがペストやエボラのように危険な伝染病なのか。

誰が真実を説き続けたのかを見つめれば、本当の味方が見えるはずだ。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】

’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾(https://kurayama-school.com/)」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、最新著書に『保守とネトウヨの近現代史』がある

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