京都の劇団「ユリイカ百貨店」主宰のたみお、新作『LAPU!』と、育児と創作の両立を語る~「子どもを生んでなかったら、むしろ演劇を辞めていたと思います」

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見知らぬ国の絵本が立体化したような、キュートかつファンタジックなストーリー&ビジュアルで観客を魅了する、京都の劇団「ユリイカ百貨店」。現在は、よく知られた童話をアレンジした物語を、ショーウィンドウサイズのコンパクトな舞台で上演するシリーズ「1.Block.Planet(以下1BP)」を展開中だ。最新作『LAPU!』は、ディズニー映画でもおなじみの童話『ラプンツェル』を、母と娘の自立をめぐる音楽劇に。三児の母となった作・演出家のたみおの、自らの思いも反映された作品となる。

10年ほど前は「女性の作家・演出家は、出産をしたら創作活動はできない」と思われがちだった小劇場界(少なくとも関西では)だが、たみおは第二子出産後から、無理のないペースで演劇活動を継続。彼女が前例を作ったおかげで、関西では少しずつ「演劇を作る母親」が増えてきている。この機会に、たみおに『LAPU!』の内容をうかがうとともに、育児と創作活動の両立についても、いろいろと聞いてきた。
[ユリイカ百貨店]主宰で作・演出を務めるたみお。 [撮影]吉永美和子
[ユリイカ百貨店]主宰で作・演出を務めるたみお。 [撮影]吉永美和子

■未来への楽しみを閉じ込めた、ショーウィンドウのような世界。

──1BPは2018年から始まりましたが、そもそもなぜショーウィンドウをコンセプトにした芝居を作ろうと思ったんでしょうか?

子どもを育てながらの生活は、すべてが自分の思い通りとはならないので、せめて芝居ぐらいは思ったようにやりたいなあ、と思いました。俳優さんだけを迎えて、美術や照明や音響、当日の受付も一人でやる。という時に、百貨店のショーウィンドウぐらいの大きさの舞台なら、自分だけでも作れるのでは、と思ってやってみたら、なんとか、できたんです。

ショーウィンドウは、次の季節のお洋服を飾る空間じゃないですか。昔私が書いた台詞で「ショーウィンドウは未来を閉じ込めている。今はつらくても、この中に入っている次の季節の景色が、あなたを待っていますよ」というのがあるのですけど、小さなスペースの中に、未来を楽しみに思えるような物語を閉じ込めるショーウィンドウ、というイメージです。

──今回『ラプンツェル』を題材にしようと思ったのは。

次の作品について話している時に、メンバーから提案されたんですけど、調べてみたらいろいろ面白い設定を持ってる物語で。そもそも「ラプンツェル」って名前自体が、魔女が大切に育てていて、そして彼女を産んだお母さんが食べたかった物(注:サラダ菜の一種)でもある。そんな食べたいものの名前を付けられた娘、って設定がすごくないですか?
『LAPU!』衣装のイメージ画。
『LAPU!』衣装のイメージ画。

──ちょっとした呪いを感じますねえ。

ですよね。自分のお腹の中に別の生命体がいるという、よく考えたら奇妙な体験を3回も繰り返して、考えるようになったことがあります。どんな人も成長する過程で、親とか環境からいろんな影響を受けることで、何かがゆがんだ状態で人生を始めてしまうんじゃないか? そして(この世に)必ず出会うべくして待ってる別の命があり、その命は、このゆがみを解消してくれるために現れるんじゃないか? と。

生まれてすぐ塔に閉じ込められたラプンツェルは、まさにゆがんだ状態ですよね。今回の『LAPU!』は彼女が髪の毛……過去の「呪い」を切り落とすまでの話であると同時に、大切にしていたものを踏みにじられた被害者であり、加害者でもある魔女が、一人の人間に戻っていくというお話にしました。

──小さい空間ながらも、おもちゃ箱のようにいろんな仕掛けが出てくるのも1BPの楽しみですが、今回は新型コロナウイルスの対策でマスクが推奨されるという状況を、逆に生かした仕掛けを入れると聞きました。
『LAPU!』で使用する球体ヘルメット。 (C)ユリイカ百貨店
『LAPU!』で使用する球体ヘルメット。 (C)ユリイカ百貨店

海外のアーティストが「isphere(アイスフェア)」という、透明のヘルメットのような、パフォーマンス用のプロダクトを発表したんです。オープンソースとして、みんなで開発していきましょう……という作品なので、今回の舞台に合うように、デザインし直しました。球体なのでいろいろ仕掛けがしやすくて、めちゃくちゃかわいいものになりました。

それと今回は、メンバーの岡本(遼)君と、Gapudaさんがオリジナルで作成した音楽がめっちゃいいんです。上演時間35分の間ずーっと鳴りっぱなしで、いろんな音色(おんしょく)を分厚く入れているので、音楽だけでも楽しんでもらえるようになっています。だから今回は、音楽劇ですね。

──さらに一番上の娘さんが、ダブルキャストで参加してますよね。

小学4年生で、家でも「宿題終わったら、台詞覚えだよ。覚えたの?」なんて会話が(笑)。でも、脚本に書かれた社会の状況や価値観の話を、ちゃんと説明して理解して(演技に)反映してくるんですよ。それはもう一人の、10歳のキャストの子(西田凪)も同じ。通し稽古の時には「この小道具は、上手に置いた方が渡しやすいで」とか、ちゃんと2人で考えてプリセットを作っているんです。この年齢の頃って、もっと私はアホだったのになあ……と感心しています。
『LAPU!』稽古の様子。 (C)ユリイカ百貨店
『LAPU!』稽古の様子。 (C)ユリイカ百貨店

■出産後、死ではなく生の方にロマンチシズムが加速しました。

──その娘さんを授かった11年前の頃は、女性劇作家・演出家で、妊娠・出産をしても創作活動を続ける人は、確か存在してなかったと思います。

そうですね。私も芝居はもう作らないだろうな、そういうもんやろうなと思ってました。

──そこから2013年に、活動を再開したきっかけは。

出産後、ずっと子育てだけをする中で、子ども相手にエチュードというか、本格的なごっこ遊びをしてたんです。日頃から「妖精さんが現れたよ」とか、声色まで変えてやってたら、子どもたちの想像力がたくましくって、見えないものを本当に見えるように、子らが振る舞うみたいになったんです。一度、長女のほっぺたがかわいくて「食べちゃうぞ」と食べたふりをしたら、本当に食べられたと思って号泣したんですね。その時に「よくないぞ」と思いました。
『銀河鉄道の夜』をモチーフにした、第一作目の『1.block.planet』(2018年)。 (C)ユリイカ百貨店
『銀河鉄道の夜』をモチーフにした、第一作目の『1.block.planet』(2018年)。 (C)ユリイカ百貨店

ほかの所に、このエネルギーを向けないと、全力で子どもに向かってしまって、全部を奪ってしまうことになるんじゃないかと。そう考えていた頃に、ちょうどユリイカ常連の俳優さんにバッタリと会ったんです。彼女も子育てのために女優を辞めていて「これからどうやって生きていったらいいかわからへん」と言われて。それで「じゃあ、彼女が出る小さい舞台をやろう」と言って、朗読劇を作ったのがリスタートでした。

──そこから、子どもたちのエネルギーの向け方は変わりましたか?

やっぱり50:50ぐらいになりましたし、そうなると過保護にならなくなりましたね。100%子どもに視点を向けてたら「いいご飯を食べさせなきゃ」と思って、いろんなものを取り寄せたり、しょっちゅう怒ったりして。でも目を離す時間があると、その分怒る機会が減る……というか、私が外で楽しいことをしてくるから、だいたい家でも笑ってるようになりました。逆に演劇を再開してから、家庭が上手く回り始めました。

──家庭のことが滞るかと思いきや。

『シンデレラ』を原作にした『1.block.planet/DRESS!』(2019年)。 (C)ユリイカ百貨店
『シンデレラ』を原作にした『1.block.planet/DRESS!』(2019年)。 (C)ユリイカ百貨店

芝居作りの方も、昔は上手くいかなかったり、辛いことがあったら、ずっと一人でウジウジ悩んでたんですけど、今は帰ってきたら子どもたちが「ママー、どこ行ってたの?」と、抱きしめて愛してくれるから、落ち込んだままにならなくなりました。だからもし産んでなかったら、上手く行かないことを誰かのせいにしたり、自分のダメさのせいにして勝手に潰れて、完全に演劇を辞めていたんじゃないかと思います。

──作る芝居の内容も、子育て前と後で「変わったな」と思う所はありますか?

出産前のユリイカは、死ぬことに対してのロマンチシズムがすごくあったんですけど、今は生きていることへのロマンチシズムが加速してきた感じです。

──確かに昔は、死んだ人を中心に物語を動かしていく世界でしたよね。

物語とは言え、人を死なせるのがつらくなってきましたし、病んだ言葉を書こうと思っても書けないんです、何か怖くって。今作ってる芝居は、子ども(に見せること)を意識しているということはないんですけど、子どもの存在を排除しない内容ではありますね。客席には結構小さなお子様がいらっしゃるんですけど、いつもおおむね静かに観てくれています。
たみお。 [撮影]吉永美和子
たみお。 [撮影]吉永美和子

■夫に言葉で「大好き」と伝えることで、すべてが守られます。

──旦那様は、芝居活動に理解がある人だったんですか?

お付き合いしてる頃から、私はお芝居を作ってたんですけど、観に来ても「よくわからへんかった」という感想を残す人(笑)。でも育休中の4年間、何も(芝居作りを)していない私を見ていて「大変そうだな」と思ってたみたいです。「もう一回やる」と言った時は「赤字さえ作らなきゃいいよ」ぐらいしか言われませんでした。

──何か物を作らないと生きていけない人だ、と思ってたんですかね?

それは大きいと思います。「(育児中に)いろんなスキルが身についたから、別の職に鞍替えしても頑張れると思うよ」という話もしたんですけど「誰かの下で働くのは多分向いていないだろうし、自分で作るのが一番平和やと思うから、好きにやる方がいいよ」と……いい夫なんです。
『1.Block.Planet.3-the blue bird!-』(2021年)は映像作品として発表。 (C)ユリイカ百貨店
『1.Block.Planet.3-the blue bird!-』(2021年)は映像作品として発表。 (C)ユリイカ百貨店

──まだまだ家事の負担は女性の方が大きい世の中で、こういう質問をするのは癪なんですが、子育てと創作の両立を目指す時に、特に必要だと思うことはありますか?

夫に「大好きだよ」「いつもありがとう」と、言葉で伝えることだと思います。子どもが大好きなのは隠しようがないけど、夫のいい所や大好きな所は、必ず見つけて声に出す。そうすると家事の分担や、子どもやお互いの実家のケアも、自然にしてくれるんですよ。元から、そういう人だったのかも……でも、夫を好きでいるというのは、家庭も守ることだし、外にいる自分も守ることになると、すごく思います。

──では法制度とか公の施設などで「こういうのがあればいいなあ」というのは?

まだちゃんと調べてないんですけど、海外では(稽古中の)劇場に子どもを連れていく方がいるそうなんです。現場に子どもを連れていけるって、お迎えの手間が減るから一番いいんです。でも劇場には、子どもが怪我をする原因がいっぱいあるから、座組とか劇場にベビーシッターがいて、稽古の間だけ見てもらって、終わったら一緒に帰れるというシステムができたらありがたいですね。

あとは子どもが熱を出して、急に稽古場に行けなくなった時に、オンラインで稽古の進行を見ることが、ポピュラーになったらいいなと思います。俳優さんはリアルで対応しないと難しいけれど、照明や音響だったら……実際ユリイカは今、オンラインで動画を共有したり、「notion」というアプリを使って、各部署の進捗状況を、どのタイミングでも全員が確認できるようにしています。20代のメンバーが「こういう情報整理の仕方がありますよ」と、いろいろ教えてくれるので、オンライン上のいろんな手段を用いています。

1.Block.Planet “the blue bird!” music.1 “finger waltz”

──舞台はアナログっぽいけど、稽古はデジタル化が進んでるんですね。でもたみおさんがそうやって、育児と並行しながらも、しっかりと自分の美意識を反映した舞台を作り続けていることが、他の女性クリエイターの指標になったと思うし、実際子育てと創作活動を両立する女性が、少しずつ増えてきたと思います。

そうだったら何よりです。みなさん無理せず、やってほしいです。芝居の内容も、40歳を過ぎてから、やっと自信が付いてきました(笑)。1BPも最初は一人で始めたけど、だんだん関わる人が増えてきて、自分なりの「ここは超えたい」という所を、ちゃんと超えられるようになったと思っています。『LAPU!』もこの前通し稽古をしたんですけど、満足感の高いものになりました。

──それは心地いい空気感に酔うか、それとも何か強い感情が引き出されるかでいうと、どっちになるでしょう?

やっぱりテーマが「女の子の自立」だし、この先の未来を見るような眼差しで終わりたい。「私は私のものだ」という、どストレートな台詞もありますし、10代の(俳優)2人は「古い価値観をぶっ潰す」と意気込んでますし(笑)。特に今はコロナ禍で、みんないろいろ我慢してるはずだから、観た後に何かスカッとしてほしいです。きれいごとかもしれないけど「未来って明るいな」と思ってもらえる舞台にしたいです。
ユリイカ百貨店『1.Block.Planet.4 LAPU!』ビジュアル。
ユリイカ百貨店『1.Block.Planet.4 LAPU!』ビジュアル。

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