【細田守インタビュー・前編】もうひとりの自分と向き合い強くなる主人公

7月16日(金)公開の細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』は、10代の少女の悩み、迷い、葛藤、直面する現実を描きつつ前向きで力強い希望を感じさせてくれる、胸躍るエンタテインメント映画だ。
主人公は、全世界から50億人が集うインターネット上の仮想世界〈U(ユー)〉に、”もうひとりの自分” として参加することになる女子高校生の内藤鈴(すず)。
内気なすずは〈U〉の歌姫のベルとなり、誰もが「自分のために歌ってくれている」と感じられるような不思議な歌声で、たちまち世界中の人気者になっていくのだが……。
そんなストーリーと映像に込められた思いを、細田守が語るロングインタビューをお届けしよう。

【画像】『竜とそばかすの姫』場面カット(写真14点)
出発点はインターネットの現在

ーー今回の映画『竜とそばかすの姫』は、どんな発想から出発したのでしょうか。

細田 思い返すと、前の作品の『未来のミライ』(2018年)が完成する前だと思うけれど、何となく次の作品はインターネットの話かなと思っていたんですよ。20年前に『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)という作品を作り、10年前くらいに『サマーウォーズ』(2009年)という作品を作ったのですが、そこからまた時間が経って、ネットの環境ってすごく変化したなと思っています。だとしたら、その変化した環境をもとに今、ネットを題材に映画を作ったらどういうことになるだろうというのが、発想の最初のきっかけかな。実はかなり前、2017年くらいからそんなことを思っていたんです。

ーー「インターネット」が最初のキーワードだったんですね。

細田 そう、ちょうど『ぼくらのウォーゲーム!』から約10年後に『サマーウォーズ』を作り、そこから10年と少し経ってみたらネット環境がさらに変わっていた。いまネットといえば、誹謗中傷、罵詈雑言、書き込んだ人を特定、裁判…みたいなことまで現実には起きるような状況になってきた。でも、そうならざるを得ないくらい、ネットと現実が近づいているという感覚がありますよね。それに輪をかけてこのコロナ禍で、ある意味、ネットの世界がより身近になったじゃないですか。たとえば、こんなにテレワークが進むとは思わなかったし、本当はこのインタビューだってリモートでも可能だった(笑)。そういう風に、現実と変わらない存在になったインターネットをどう映画にして描くとおもしろいかな、というのがポイントです。

ーー現実のネット社会の変化と同様に、細田監督自身のネットの捉え方、接し方が変化している、ご自身のインターネット像も変わっているのかなと思うのですが。

細田 たとえばうちの子供はまだ小さくて8歳と5歳ですけれど、これからインターネットがあるのが普通の時代を生きていくわけでしょう。そこで、どういう人間関係を作っていくのか。ネットの存在が彼や彼女の生き方にどう関わってくるのかなと思うと、他人事ではいられないという思いはあります。でも、ネットを手放すこともできないですよね。今の子たちはTVを見ないでネットを見ていると言われるけど、僕らが小さい頃は「本も読まないでTVばっかり見て」と言われていた。今、「ネットばかり見ないでTVを見ろ」という人はあまりいないかもしれないけど(笑)、そのくらい変化しているわけじゃないですか。もちろん、本を読めと言っても電子書籍化したりして、出版の状況も変わっているけれど……でも、やっぱり紙の本も読んでほしいし、アニメージュも手に取ってほしいですよね(笑)。まあ、そういう変化はありますよね。

(C)2021 スタジオ地図

ネットと作品の変化

ーー今、お聞きしたことと通じるのですが、個人的に細田監督作品は続けて観ると楽しいという側面もあると思います。

細田 ははは(笑)、そうですか。

ーー過去の監督作品との関連や変化に注目すると、また違ったおもしろさに気づける。今回の『竜とそばかすの姫』もそうで。たとえば『ぼくらのウォーゲーム!』や『サマーウォーズ』では基本的に、インターネットの可能性を肯定的に捉えていたと思います。でも今回の映画では、ネガティブなイメージを前面に出している印象がありますが。

細田 そうですね。でも、これでもまだ緩いほうで。本当はね、今も言ったようにネットといえば酷い誹謗中傷みたいなイメージに変化しているということは、無視できないですよね。人間の「本音」が露わになる世界、そして、露わになっていることが平気な世界とでも言うのかな。そういう中で子供や若い人がどう成長していくのかと考えると、けっして生やさしくはない。ただでは済まないだろうという気がするわけですよ。ある人が何かを表現して世に出る力があるとして、でも、そういう人がネットの洗礼を受けて……ということも現実世界でたくさん起こっていますよね。確かにね、やはり『ぼくらのウォーゲーム!』の頃はもっと牧歌的でした、今から振り返ると。何が牧歌的って、若い人しか(インターネットを)やっていなかったということ。

ーー『ぼくらのウォーゲーム!』の時は、大人がまだよくわかっていないインターネットを子供たちが肯定的に使いこなす話だったわけですよね。

細田 そうそう、そうです。

——『サマーウォーズ』はインターネットがさらに一般化して、「これ使ってみんなで上手くやろう」という話だったと思いますが、今回は逆に「便利だけどいろいろネガティブな面もある」ということが見えてきて、それが現実になっていることを真正面から描いている。

細田 『サマーウォーズ』の頃から、多くの世代がインターネットに触れる世の中になって、それがさらに現実化しているのが現在。そういう変化はあると思います。2000年より前は、仕事上でインターネットを使ったとしても、日常生活にこんなに深くは食い込んでいなかったわけですから。思えば、インターネットが一般化してからまだ25年も経っていないんですよ。『ぼくらのウォーゲーム!』が20年前って言ったけど。

ーー今思うと、早かったですね。

細田 でしょう(笑)? それを考えると、世の中にこれからどういう変化が起きるか。何が起きてもおかしくない時代に、僕らは生きているわけですよ。25年前に、僕らが今みたいな現在を想像できたかというと、できていない。ということは、今の子供たちが25年後にどういう世界で生きるかもまったく予想できないと思います。

(C)2021 スタジオ地図

バーチャルな存在のリアリティ

ーー今作の主人公・すずはインターネット上の仮想世界で、バーチャルシンガーとして注目されるという設定ですね。

細田 これはアニメージュの記事だから言うわけじゃないけど、今、アイドルもののアニメってすごく多いじゃないですか。もちろん『(超時空要塞)マクロス』の時代からアイドルものはあったけれど、今はより現実のアイドルグループを模したアイドルものが多い。そして、それを演じる声優さんも現実でアイドルユニット的なものを結成して、歌も出して……みたいな在り方が、すでにバーチャルな感じがする。そういう意味で今回、そばかすだらけの下を向いて歩いているような内気な女の子が、バーチャルなキャラクターとしてインターネットの中心で歌っているという構図は、実は声優さんのあり方ともすごく近い気がする。本来で言えば、声優さんって(実写や舞台の)俳優さんと違って ”声だけ” ですよね。現実にはみなさん顔を出しているけれど、お芝居をする前提としては自分の顔を見せず、その上でアニメのキャラクター演じるというバーチャルな存在とも言える。で、アイドルものだとさらに輪をかけて ”バーチャル性” が高まるわけだけど。

——アイドルのキャラクターを演じ、そのキャラクターを通して自身がアイドル的に活動もする。あらためて考えるとおもしろい構図ですよね。

細田 そういうバーチャル性みたいなもののおもしろさは、本質的には『竜とそばかす姫』で描いているようなことと同じじゃないかなと。そして、そういうことを今、声優ファンの人はもちろん、声優さんご本人たちはどう感じているのかなっていうことに興味はありますよね。今回、オーディションでバーチャルシンガーの人も何人かお話をしたり、歌を聴かせてもらったりしたけれど、歌の世界でもそういうバーチャル的な人は多いです。ミュージシャンなのに絶対に顔は出しません、と。そこに何か現代における物事の本質があるような気もする。

ーー確かに、インターネットの空間のなかで、バーチャルな自分として活動する人は増えています。自分をキャラクター化しつつ、自分自身でもある。

細田 なぜそうなるかといえば、今の世の中がそれだけ閉塞している、過酷だということの現れだと思います。「顔を出さない」ということにリアリティを感じ、共感するということは、それだけ今の若い子たちが抑圧を受けていることの証だという気がして。

ーー作中でも現実の顔や身元を明かされるということが、仮想世界〈U〉の中でいちばん忌避されることとされていますね。

細田 そう、裸になっても顔は見せたくない、くらいのよくわからないことになっている。現実のネットでも、みんながもっとも怖れているのは「身バレ」することですよね。その結果、世界に向けて発信しているのに、自分が何者かは絶対に明かしたくないという両義性、二面性が生まれていて、その矛盾を受け入れないとネットの世界では楽しめない。逆に言えば、そのくらい抑圧されているということですよ、きっと。そして、そんな風に ”自分自身” がどこにいるのかわからなくなりがちな時代で、もうひとりの自分と向き合うことで強くなる主人公。それがしっかり描けたらいいなというのが、今回の映画です。

(C)2021 スタジオ地図

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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