ソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』ワークショップ公演プロローグ 観劇レポート

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西川大貴が作詞・構成を務め、桑原あいが作曲を手掛けたソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』のワークショップ公演 プロローグが、2021年7月10日(土)に東京・コットンクラブにて上演された。

本作は、2021年4月にウェブサイト上で歌詞が公開されたのが始まりだ。その後ポエトリーリーディングとして、12名のゲスト俳優(内海啓貴、可知寛子、森崎ウィン、熊谷彩春、浅野和之、内藤大希、小此木麻里、南沢奈央、服部杏奈、spi、吉原光夫、和音美桜)と西川による歌詞の朗読が映像作品として発表された。2021年6月からは“作品のためのワークショップ”が実施され、小此木麻里、田中秀哉、畠中洋、和田清香ら4人の俳優が実際に脚本を読み、楽曲を歌い、クリエイター陣と共に話し合いながら作品のブラッシュアップを重ねてきたという。このワークショップの最終工程が、観客の前で初めて披露される本公演となる。以下、7月10日(土)昼公演の模様を写真と共にレポートする。


連日雨が続いていたが、偶然にも快晴で真夏のような暑さとなったこの日。会場に一歩足を踏み入れると、シックな照明の涼し気な空間に、雨音のBGMがしとしとと流れていた。ついさっきまでいた外の世界とのギャップがおもしろい。自然と“雨が止まない世界”に入り込むことができた。

バンドは3人編成で、ステージ下手にグランドピアノ、上手にヴァイオリンとチェロが並ぶ。ステージ前方には4つのマイクスタンドと譜面台、後方にはそれぞれイスと小道具が備えられている。そこへ、客席の合間を縫ってバンドメンバーと4人のキャストが順に姿を現した。ニュースキャスターの声が流れ始めるのと同時に、会場は徐々にライトダウンしていく。

「謎の液体、通称“ame”が空から降り続けて100日目。依然止む気配はありません。未だに成分の解析には至らず、人体への影響も不明のままです。現在、1日の外出時間は5時間以内と定められていますが・・・・・・」

雨音が続く中、ピアノの前奏が始まる。いよいよソングサイクル・ミュージカルの始まりだ。

上演時間は休憩なしの90分、全17曲。“ame”が降り続くパラレルワールドを舞台にした物語が、1曲の中で完結していく。基本的には曲ごとにそれぞれ独立したストーリーが描かれているが、曲と曲、もしくは曲の中の登場人物がリンクしているものもある。曲ごとに変化する照明は、各楽曲が持つ色合いをステージ上に鮮やかに映し出す。この光の演出は観ている者にとって、1曲1曲頭を切り替えるための手助けにもなっていただろう。





日常風景を感じさせつつ、ありそうでありえない絶妙な世界観に誘ってくれるのは、バンドメンバーが紡ぎ出す旋律と、4人の俳優による多彩な歌声だ。





キラキラとした輝きを放つ、伸びやかな歌声がとても魅力的だった小此木。「海に潜ったクジラ」では、「わたしの背中に翼が生えたなら」と、変わりゆく世界に思いを馳せる少女の切なる想いを歌に乗せて響かせた。田中とのデュエットナンバー「Blue Blue Earth」では、地球に住む人々への鮮烈なメッセージをしたたかに歌い上げ、その幅広い表現力を見せてくれた。


クマのぬいぐるみを片手に、「こう見えて5歳です」の一言で笑いを取っていたのは田中だ。「正気を気取った狂人」は、子ども目線で見た親の夫婦喧嘩を皮肉交じりにロックに歌うナンバー。5歳という設定のわりに、激しく力強い曲調と大人びた言い回しの歌詞が斬新だ。「きつねぇさん」や「逃げのびるだけでいいだろう」では、ストーリー展開がよりドラマチックに感じられる熱の込もった演技と歌を披露していた。


ステージ上に現れるだけで、その場の空気を変えてしまう和田。等身大の演技は非常に共感でき、心の奥底を揺さぶられる。「今ならきっと」では、実家を出てからなかなか親に連絡できずにいる一人暮らしの女性を、「東京漂流」では、時代のアップデートにどこか疲れてしまった女性を、それぞれ飾らない演技で表現。ワンピースの裾をギュッと握りしめ、遠くを見据えながら歌う彼女からは、歌詞に込められたメッセージがダイレクトに伝わってくる。


ベテランの畠中は、熟練の歌と芝居で客席を圧倒する。「知ろうとしない」では、不気味な旋律におどろおどろしい演技を乗せた迫力満点のパフォーマンスを披露。情念の込もった眼力と共に、言葉の刃がグサグサと突き刺さってくる。和田とのデュエット「雨蛙の主張」では、登場から「ゲロゲーロ」と客席に向かって蛙語で話しかけるなど、賑やかなナンバーで喜怒哀楽の詰まった様々な表情を見せてくれた。


4人揃っての歌唱パフォーマンスでは、厚みのある華やかなハーモニーが会場中に響き渡る。「We’re Singin’ in the Rain」は、全員が傘を手に歌い踊るとびきりハッピーなナンバー。4人の笑顔と明るい歌声に和ませられ、ホッと一息できる。アップテンポでリズミカルな「NEWS!NEWS!NEWS!」は、メトロノームにマイクを向けてまるで楽器の一つのように取り入れた一風変わったナンバー。俳優陣は非常に複雑な言葉の掛け合いを、それは見事に歌いこなしていた。




歌詞の公開、ポエトリーリーディング、ワークショップ、そして今回のワークショップ公演と、徐々に形を変えて世界観を構築してきた『雨が止まない世界なら』。文字が音となり、音楽が加わり、そして役者を通して言葉が発せられることで、ここまで立体的に変化するものなのかと驚かされた。一観客としても、作品の創作過程を体感できるという意味で非常に貴重な公演となった。

カーテンコールでは、作詞・構成の西川と作曲の桑原から一言挨拶があった。西川は公演を終えた明日も稽古があることを明かし、ぜひアンケートやSNSを通してフィードバックをしてほしいとアピール。桑原は、短いワークショップ期間の中で作品を形にしてくれたメンバーに対し、心からの感謝を述べた。




ワークショップ公演は昼・夜の2公演で幕を閉じたが、これはあくまでも“プロローグ”である。観客から寄せられたフィードバックを元にさらなる検証を重ね、作品は進化し続けていくことだろう。なお、本作はYou TubeクロネコチャンネルやSNSを通して創作過程が随時公開されている。この先の展開も楽しみに見守っていきたい。

「雨が止まない世界なら」密着!【ミュージカル】創作の裏側を覗き見!

取材・文・写真=松村蘭(らんねえ)

当記事はSPICEの提供記事です。

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