峰なゆか×真鍋昌平対談/「クズ」と 言われる人間を描き続ける二人が考える「モラル」

日刊SPA!

2000年代のAV業界や自らのAV出演経験を描いた、峰なゆかの半自伝的作品である『AV女優ちゃん』2巻が発売中の峰なゆかと、国民的ダークヒーロー漫画『闇金ウシジマくん』に続き、法とモラルを描く『九条の大罪』の漫画家、真鍋昌平が対談! モラルや正論だけでは救われない人間たちを描き続ける真鍋は、AV業界におけるモラルをどう読んだのか。峰なゆかと語った。

◆女を商品化するまでの葛藤がすごく良かった

峰:今日は、久しぶりにお会いできてうれしいです! 多分10年ぶりぐらいですよね。

真鍋:え、そんなに前だっけ……。以前お会いしたときは、僕が峰さんに取材をさせてもらったんですよね。取材の後、飲んでいたら峰さんがものすごく怖い顔で、「死にたい」って話していて……。

峰:わ~! なんか、私、そのころめっちゃ病んでましたよね!

真鍋:その後、ご結婚されてお子さんが生まれて、状況も変わりましたか?

峰:今は毎日、イキイキライフを送っています! 仕事の合間に子どもちゃんを見るのが、最高の休憩タイムですね。今日は、子どもちゃんが熱を出しちゃったんですけど、夫が仕事を早退して保育園に迎えにいっているところです。うちは、家事も育児も夫が大体全部やるシステムなんです。

真鍋:すごいなぁ、めちゃくちゃいいパートナーの方ですね。今、子どもを産もうか迷ってる人にとっては、すごく希望になる話だと思います。

峰:夫のことは、結婚前からベタぼれしていたわけじゃなくて、ずっと「いいヤツだな~」くらいの感じだったんです。でも、子どもが産まれてからガラッと変わりましたね。3秒に1回くらい「死んでない? 死んでない?」と赤ちゃんが息をしているか確認して、夜中も起きてずっと面倒を見ていて。その偉大なる父ぶりに「なんて素敵な男なんだ!! しゅき♡」ってなりました(笑)。

真鍋:いやあ、よかった。実は10年前に峰さんが「死にたい」と言っていたことがずっと心に残っていたんです。そして今回、改めて『AV女優ちゃん』を読んで「ああ、あのとき峰さんがそう言っていたのは、こんな状況があったからなのか」と思いを巡らせました。

峰:そんなこと思ってもらっていたんですね!

真鍋:これは第1巻の話になるんですが、俺、峰さんがAV女優になるまでのストーリーがめちゃくちゃ好きなんですよね。中学時代に女として扱われていなかった状況から、高校でギャルになって、女を商品化するまでの葛藤がすごく良かったです。あとは、サイン会にやってき脚の不自由な男性が、AV女優の峰さんを罵倒してきたり。「人は自分よりも立場の弱い人間を叩く」と悟ってから、過去の話に入っていく展開も秀逸ですよね。何か偉そうですみません。

峰:わ~! うれしいです! あのシーンは自分でも「私、めっちゃ漫画の展開の切り替え上手じゃん!」と思ってました(笑)。そして「きっとこれ、真鍋さんも好きだろうな」とも思っていましたね。というのも私、クズい人間って昔から好きというか、なぜか興味があるんですよ。クズ、という表現をあえてしますが、あんまりいいとは言えない環境に生まれて、悪い奴らが周りにたくさんいて、自分からダメになろうとしている人、というか。わざわざサイン会にまで来てAV女優を自分より下の人間として罵倒する男性もそうだし、私が通っていた底辺女子校の子たちも、AV女優もそう。そして真鍋さんは、私以上にクズい人間が大好きですよね?

真鍋:そうですね。葛藤があるものがすごく好きだし、そういうものをしっかり描こうと思ってますね。

◆なぜ私たちは「クズい人間」に惹かれてしまうのか?

峰:『闇金ウシジマくん』そうですし、現在連載中の『九条の大罪』でも、クズがたくさん出てきますよね。主人公も弁護士という世間的にはステータスのある職に就いていながらも、バツイチで、ビル屋上でテント生活をしている……というなかなか「クズみ」のあるキャラクターです。そして彼の周りの人物も半グレやヤクザ、前科モチとなかなか濃いですが、彼らの細かな描写がすっごく好きなんです! 「クズ描写の大先輩」として、本当に尊敬しています!

真鍋:ウシジマくんは闇金業者、つまり違法な存在なので、それ自体に嫌悪感を抱く人も多かった。でも今回は弁護士が主人公なので、より多くの人に観てもらえて、なんなら「月9のドラマも狙えるかな」とも思っていたんですが、描き始めたらとても月9で放送できるような内容にはならなくて……(苦笑)。

峰:私も『AV女優ちゃん』を月9にしてほしいって思ってるんですけどね(笑)。 あの、ずっと聞きたかったんですけど、真鍋さんのその「クズい人間」への愛情って、どこから来てるんですか?

真鍋:自分を見ているような感じですかね。(即答で)

峰:えー! 真鍋さんは全然クズじゃないじゃないですか!

真鍋:いやいや。以前、取材ということもあってコロナ禍なのに外に飲みに出かけて、家族からヒンシュクをかって家を追い出されたこともありますし、家事や育児はほとんどできていないし……。

◆自分をクズじゃないと信じる人たちの傲慢さ

峰:10年前、真鍋さんと取材終わりに飲みに行ったとき、私は口説かれたりすんのかなと思ってたんですが、奥さんとお子さんの写真を私に見せながら「かわいいでしょう、えへへ」って言ったのを覚えています。そのときは、「なんていい男だ!」と思いました(笑)。

真鍋:え、そんなこと言いましたっけ。

峰:私が最近耳にしたクズエピソードは「今日こそ女子大生とセックスできるかもしれない!」と期待した既婚者の中年男が、居酒屋のトイレでチンコをおしぼりで拭いてきた……っていう話ですから。そんな「リアルクズ」と比べたら、真鍋さんが自分のことをクズ呼ばわりするなんて、クズい人間に失礼ですよ!

真鍋:確かにそう言われたら……(笑)。

峰:私は底辺女子校時代、どうしてもキティちゃんサンダルが履けなくて、コンビニのレジ袋をバッグ代わりに使うことも出来なかったんですよ。それだけは美意識としてダメでした。自分がクズになりきれない、一抹のもどかしさを感じてました。

◆何でも「自己責任」で断罪してしまうのは違うと思う

真鍋:以前、取材で生活保護受給者の自宅へ行ったんですけど、その人、鼻炎がひどくて、部屋には布製のマスクがズラッと干してあったんです。でも普段、寝ているベッドの周りを見たら、1cmくらいホコリが溜まってるんですよ。それを見て「ひょっとして鼻炎って、これが原因じゃないの!?」と思ったことがあって。いろいろツッコミどころを感じながらも、そういう感じの人って、つい惹かれてしまいますね。

世間的な基準で言えば「まず掃除しなよ!」って話なんだけど、彼らは彼らで自分なりのルールに従って真剣に生きているし、それを単純に嗤ったり、クズ扱いしたり、それこそ生活保護受給者に対してよく使われる「自己責任」という言葉で断罪してしまうのは違うんじゃないかなと思うんです。

峰:今思い返すと、私がいたころのAV業界も、女優も男優も変な人が多かったですね。でも好きなんですよね。その理由を考えたら、私の場合は、昔からの憧れが大きいかもしれませんね。私の地元では、不良的なクズがヒエラルキーのトップに君臨していたので、いまだにその価値観を引きずっているのかもしれない。

もちろんそんなのあくまでも田舎のごくごく一部の話なんですけど。そんな価値観、東京に来たら意味がないものだとわかっていても、「ボス猿になりたい」という憧れが大人になっても抜けきれないんです。

真鍋:クズもいろいろで、ギャンブルに依存して堕ちていくような「自己完結型のクズ」と、不良や輩(やから)の道を極めてノシ上がっていく「出世型のクズ」にわかれると思うんです。堕ちていく人を見ると、「ひょっとしたら自分もそうなってしまっていたかもしれない」と思うし、出世型のクズを見るとアウトロー的なヤバさを感じると同時に、峰さんのいうような憧れを持つ人も結構いますよね。

峰:私も真鍋さんも、真性のクズかは疑問ですが(笑)、自分を「絶対にクズじゃない」と頑なに信じている人たちの傲慢さもあると思うんです。私はこれまで一般の人に「なんでAVに”出ちゃった”んですか?」って聞かれたことが何度もあるんです。そういう経験をすると、なんだか「クズのほうが好き!」って思っちゃうんです。

真鍋:世間的には「良し」とされていることの中にも、おかしなことはあるし、逆に世間で「おかしい」とされていることの中にも、正しさがあったりしますよね。

●峰 なゆか

漫画家。女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん 無修正』(全7巻)、『アラサーちゃん』(KADOKAWA)はシリーズ累計70万部超のベストセラーに

●真鍋昌平

漫画家。神奈川県茅ヶ崎市出身。社会の底辺にいる人々の生活や心理を克明に描き続ける。代表作『闇金ウシジマくん』ドラマ化・映画化もされた。現在『ビッグコミックスピリッツ』で『九条の大罪』を連載中

(取材・文/アケミン 撮影/加藤 岳)

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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