子ども虐待は行政だけでは防げない。孤立するママを助ける訪問サービスとは

女子SPA!

 何年も前から問題となっている児童虐待。今は虐待サバイバーとして自身の虐待経験をイベントや講演会などで語る当事者も少なくありません。しかし、児童虐待が起こる背景にはさまざまな事情が潜んでいるといいます。今回は児童虐待を未然に防ぐため、家庭訪問型の支援を行っているNPO法人バディチームの代表理事・岡田妙子さんに児童虐待の現場について話を聞きました。

◆子育て支援・虐待防止を目的とした家庭訪問型の支援活動

――訪問型の支援という形が珍しいと思ったのですが、2007年にバディチームを起ち上げたきっかけを教えてください。

岡田妙子さん(以下、岡田)「まず、2000年に児童虐待防止法という法律ができました。その法律ができる前までは児童虐待という言葉も聞いたことがなかった時代だったのですが、そのタイミングで虐待のニュースや事件が多く報道されるようになりました。

それと、私自身、その頃にちょうど妊娠・出産を経験したので他人事ではないと感じて。虐待を受けて育った人は大人になっても心理的に苦しんでいる人がいることも知りました。そう思ったとき、やはり子どもの時期の虐待防止がすごく大事だと思いました。

それで、自分も何かできないかと考えていろいろと活動を探していたとき、とある地域が養育困難家庭への訪問ヘルプサービスを先駆けでやっていたんです。そこで私もスタッフ登録をして、2年ほど現場で支援をしていくなかですごく手応えを感じたんです。

家庭の中に入るということで、子どもも親も含めて見守ったりお手伝いをする、そんな支援があるかないかで虐待防止の力が違ってくるだろうと思い、バディチームを起ち上げました」

◆家庭訪問型の支援でその家庭のニーズに合った家事も行う

――バディチームのホームページを見ると、主な支援方法として食事を作る支援がありますよね。他にはどんな支援があるんですか?

岡田「本当にさまざまです。対象の家庭のお子さんの年齢も産前から18歳までなんです。だからニーズも保育だったり、掃除などの家事だったりします。特にお掃除のニーズは高いです。産前産後で体が動かなかったり、子どもがいると片付けや掃除ができずイライラしてしまうお母さんも多くいます。

不衛生で掃除ができていない家庭もある一方で、富裕層で高級マンションに住んでいて床の大理石もピカピカに輝いているのにお母さんはそれでは納得がいかないという場合もあります。そのご家庭に一番合ったニーズで支援を行うことを基本としています。

また、睡眠時間を確保できていないお母さんのために2時間子どもを預かり、その間にお母さんに仮眠を取ってもらうと、その2時間の仮眠前と後だと全然顔が違うんです。『このために生きてきました!』と仮眠から生き生きとして帰ってこられます」

◆「自分ひとりでなんとかしなきゃ」と思っている母親を助けたい

――バディチームに繋がるご家庭はどのようないきさつが多いのでしょうか? また、家庭への訪問を拒否する方などはいませんか?

岡田「行政からの依頼が一番多いです。今、行政も児童相談所もいっぱいいっぱいな状態です。

支援を拒否する人もいます。それは、児童相談所に通報されて子どもを連れて行かれてしまうのではないかと恐れている方ですね。子どもを怒鳴ってしまっていても連れて行かれたくはないんです。でも、親にとっても子どもにとってもこれはお互いちょっと離れたほうがいいなというケースもあり、そういう場合は一泊二日のショートステイを利用してもらうこともあるようです。

最初は拒否していたお母さんもこの支援を利用したことで『とてもリフレッシュできた』と、また子どもに優しく向き合えるようになることもあります。それと、子どもにとっても一旦親と離れて、施設などで他の大人たちから可愛がられたり優しくされたりという経験をすることで、『いろんな大人が一緒に見てくれているんだよ』という体験をしてもらうのも重要だなと思います。

自分ひとりでなんとかしなきゃ、というのではなく、もう少し気軽にお母さんが社会的に子どもをいろんな人に預けながらやっていける必要があるなと思っています」

◆ひとり親であっても二人親であっても虐待は起こる

――虐待が起きやすい家庭に共通しているものはあるのでしょうか? また、虐待する親はどういう人が多いですか??

岡田「まずは『孤立』という言葉がキーワードになります。社会からの孤立があったり、家の中でも孤立があったりします。そしてその背景には、経済的な困窮や子どもの病気や障害、それから保護者の方の精神的な不調などいろいろあります。でも、ご自身が病気だったりお子さんに障害があっても困難はあっても虐待にはつながらずに子育てしている家庭が大部分です。

逆に経済的に豊かであっても、ひとり親でなく二人親であっても虐待が起きることはあります。例えば親御さんがたくさん習い事をさせて高学歴に育て良い会社に就職させないと子どもが幸せになれないと思いこんでいる場合、親の方も必死になってしまうので『孤立』に入ります。

また、虐待する親はどういう人が多いかですが、これはなんとも言えませんが、ひとり親の方はやっぱり一人でやっていく大変さがありますから。それと親御さんの年齢ですが、極端に若年の若いお母さんはいろんな経験がなかったり、実家のサポートがないと孤立していくケースはあります。今まで、10代半ばのお母さんの支援をしたこともあります」

◆虐待としつけの違いは、子どもの立場で心が傷つくかどうか

――根本的な質問になるのですが、虐待としつけの違いはどこにあるのでしょうか? 私は現在33歳ですが、私を含め同年代だとピアノの練習をサボったことで手足を縛られて押入れに閉じ込められたとか、嘘をついた罰で夕飯抜きとか、私自身も何かで怒られて外に放り出されたことがあります。今は法律もできたおかげか、そのような折檻は事件になったときしか聞かない気がします。

岡田「これは厳密には難しい線引きですね。でも、基本的には親の事情や都合ではなく、子どもの立場で心が傷つくことがあれば虐待と言えます。親は子どものためにと考えていても、実際は親と子の間に深いギャップがあるように思います。虐待には『身体的虐待』『ネグレクト』『性的虐待』『心理的虐待』の4つの種類があるのですが、教育過多と言われるところは心理的虐待と言われています。しつけと虐待の区別は難しいし、発見も難しいし、子どもはそれが当たり前だと思っていることもあります。

海外では児童虐待のことを『マルトリートメント』といって、『不適切な養育』という意味があります。また、『アビューズ』という『乱用、悪用』という言葉もあります。これは、親の事情や都合で子どもを取り扱うという意味合いがあります。だから、子どもにとってどうなのかという視点で本当は考えていかないといけないところです」

◆虐待問題はバッシングだけでは解決しない

――児童虐待の事件が報道されると、必ずといっていいほど親、特に母親へのバッシングが起こりますよね。それに対してはどうお考えでしょうか?

岡田「子どものことを考えると、虐待は本当にあってはいけないことです。どこかに責任を負わせてバッシングしたくなる気持ちは人としては普通の感情だと思います。ですが、二度と虐待を起こさない観点で考えていく中ではそのバッシングだけで終わってはいけません。虐待が起こった際に実際どんな背景があったのかを見ていったとき、親のこれまでの人生などに思いを馳せてほしいところはあります。バッシングだけでは解決しませんから」

◆専門家だけでなく地域の人たちのサポートも重要

――虐待の事件があったとき、児童相談所はどうしていたんだというバッシングもありますよね。

岡田「児童相談所ももちろんいろいろ変わっていかないといけないところもあるのですが、児童相談所だけでは無理というところがあります。私たちのようなNPOや民間団体や企業も含めてそこでもできることがあります。あとは、地域の人もできることがあるんです。そういう家庭に入るのは必ずしも専門家がいいとは限りません。私たちも年齢性別資格経験問わずスタッフの募集をしているんですけど、みんなできることがあるんです。

実際に虐待のリスクがあって弱っていたり、いろんな背景がある人のもとに児童相談所や行政、専門家が来て指導をすることになっても拒否されてしまうことがあるのですが、近所のおばちゃんみたいな人がお掃除や手伝いに来てくれて心を開いた親御さんもいます。他にも、若年の親御さんで心配をしているご家庭に80代の地域の人が入っていったら、それまでは全部拒否していたのにそのおばあちゃんなら来てもいいよ、となったケースもありました。

このような地域の普通の人たちの力はとても大事です。アメリカでは、本当に分離して保護しないといけない状況では専門家が必要なのですが、予防的な観点だと非専門家が親の強みを活かすとか、批判や指導じゃなくて、できているところを認めて寄り添って親をサポートすることに効果があるという調査結果が出ています。ですので、日本もそうならないといけないなと思うところがあります」

◆コロナ前と今で虐待の状況は変わらないほど元々が大変

――昨年からのコロナ禍で家にいる時間が増えたことでDVが増えたニュースはありましたが、虐待のほうも増えているのでしょうか?

岡田「コロナで大変な状況になり、虐待は増えていると思います。ただ私たちが伺うご家庭にはもともとコロナ以前からの貧困の問題があってコロナではびくともしないぐらい大変なところもあります。コロナ以前とコロナ禍でも支援はずっと続いています。ただ、コロナだから家にうかがうのを拒否されてしまうことは一時期あって、それで見守りができず心配していたことはありました」

◆虐待を防ぐために私たちができることは

――最後に、虐待を未然に防ぐために私たちができることを知りたいです。実は友人がワンオペ育児・家事の状態で愚痴をSNSに投稿していることがあり、虐待はしていないと思うのですが、ちょっと心配だなと思っておりまして。彼女の場合はSNSからSOSが読み取れますが、他にどんなところにSOSが出てくるのでしょうか? また、SOSの声を挙げられない人やどこに相談すればいいのかわからない人もいますよね。

岡田「今、私たちはSOSを見逃さない意識で取り組んでいるので、出産、産前の段階からお母さんの様子や言動に注目しています。『私は虐待してしまうかもしれない』と言ってくるお母さんも中にはいますし、あとは病院や保育園、保健師や予防接種の病院や歯医者さんなどで、なんとかSOSの声を拾おうとしています。

相談場所ですが、地域だったら子ども家庭支援センターというところが地域の子育て支援を調整する窓口になっています。そこがどこかに繋げてくれるので自分が住んでいる地域の子ども家庭支援センターに連絡を入れると親身に対応してくれるはずです。また、SOSを挙げられない人は、おっしゃったようにSNSでの発信を気にして「これっておかしいよ」と周りが言ってあげるのはすごく大事で大きな力になります。

大変な状況の親御さんは精神的にいっぱいいっぱいで自分では虐待しそうな状況なことに気づかないこともあるので、例えば「子ども家庭支援センターっていうところがあるんだって」などなど情報を伝えることも防止策の一つではないでしょうか」

<取材・文/姫野桂>

【姫野桂】

フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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