半世紀以上に及ぶ活動の中で最高傑作のひとつに挙げられるロッド・スチュワートの『ナイト・オン・ザ・タウン』

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ロング・ジョン・ボールドリーのフーチー・クーチー・メンを皮切りに、ジェフ・ベック・グループやフェイセズといったブリティッシュロック界の名グループを渡り歩き、ソロシンガーとして頂点にまで上り詰めたロッド・スチュワート。若いロックファンからすると、現在のロッドはポップスシンガーにしか見えないかもしれないが、彼はミック・ジャガー、ロバート・プラント、ポール・ロジャースらと並ぶブリティッシュのスターシンガーのひとりだ。60年代後半から70年代にかけて彼がロック界に与えたインパクトはとても大きい。今回紹介する『ナイト・オン・ザ・タウン』は自身初のアメリカ録音となった前作の『アトランティック・クロッシング』(’75)と対をなす作品で、彼の長いキャリアの中でも、間違いなく最高の瞬間を記録したアルバムである。

■ジェフ・ベック・グループ~フェイセズ

1965年にロンドン東部で結成されたスモール・フェイセズは、スティーブ・マリオットの黒っぽいヴォーカルが売りのR&Bをベースにしたビートグループ。当時のモッズたちのお気に入りはマニアックなR&Bで、そこにぴったりハマったグループがスモール・フェイセズだった。ライヴでは圧倒的なパフォーマンスで観客を魅了したものの、ヒット曲を作るためのスタジオ作業に嫌気が差したマリオットは、真のロックを求めてハンブル・パイを結成するために脱退する。

69年にジェフ・ベック・グループが解散した後、ロッド・スチュワートとロン・ウッドは流行になりつつあったハードロック系のサウンドではなく、ルーツロック系の音楽を模索していた。当時、ロッドとロンはイギリスのアーティストたちの間で大きな話題となっていたザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』(’68)の音作りに惹かれていたからである。スモール・フェイセズからマリオットが脱退したことを知り、グループのメンバーで旧知の間柄のロニー・レインとコンタクトを取り、ふたりの参加が決まった。彼らの加入を機にスモール・フェイセズはフェイセズと改名する。

■アメリカへ渡りスーパースターに

ロッドはフェイセズの活動を並行してソロ活動を行なっていた。ソロシンガーとしては「マギー・メイ」(全英1位、全米1位)の大ヒットで成功するのであるが、グループの運営やレコード会社とのトラブルなどで行き詰まり、75年にフェイセズは解散する。精神的にも肉体的にも疲れたロッドはアメリカへと向かう(イギリスの重税から逃れるという理由もあった)。心機一転、トム・ダウド(アレサ・フランクリン、デレク&ドミノスなど)をプロデューサーに迎えて、初のアメリカ録音となる6thソロアルバム『アトランティック・クロッシング』(’75)をリリース、収録曲の「セイリング」が世界的な大ヒット、アルバムも全英1位、全米9位という輝かしい結果となる。

『アトランティック・クロッシング』には彼の尊敬するソウルシンガー、オーティス・レディングのバックグループのMG’s(ブッカー・T・ジョーンズ、スティーブ・クロッパー、ドナルド・ダック・ダン、アル・ジャクソン)や、マスルショールズ・リズム・セクション(ジミー・ジョンソン、デビッド・フッド、ロジャー・ホーキンス、バリー・ベケット)、メンフィスホーンズら南部のスタジオミュージシャンをはじめ、デビッド・リンドレー、ジェシ・エド・デイヴィス、リー・スクラー、ボブ・グロウブ、フレッド・タケットら西海岸を代表するスタジオミュージシャンの豪華なメンバーが参加したというだけでなく、憧れのバックメンに支えられてか、ロッドのヴォーカルも冴え渡っていた。この作品にはメンター・ウィリアムスの「ドリフト・アウェイ」、ジェリー・ゴフィン&バリー・ゴールドバーグの「イッツ・ノット・ザ・スポットライト」、ダニー・ウィッテンの「アイ・ドント・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・イット」といった名曲のカバーが収録されているのも大きな魅力になっている。

■本作 『ナイト・オン・ザ・タウン』について

バックを務めるミュージシャンは前作よりも小振りになったものの、本作でも基本路線は変わっていない。LP時代は、A面がファストサイド、B面がスローサイドになっていた(前作はスローとファスト面が逆)。収録曲は全部で9曲(2009年にリリースされたデラックス版では24曲)。

カバー曲については前作ほど有名曲が収められているわけではないが、キャット・スティーブンスの「さびしき丘(原題:The First Cut Is The Deepest)」やラルフ・マクドナルド&ウィリアム・ソルターの「貿易風(原題:Trade Winds)」、マンフレッド・マンでヒットした「プリティ・フラミンゴ」など、今回も佳曲を取り上げている。面白いのはギブ・ギルボーのケイジャン・カントリー「ビッグ・バイユー」とハンク・トンプソンのカントリー・クラシック「人生の荒波(原題:Wild Side Of Life)」という2曲のカントリーナンバーが収録されているところ。「ビッグ・バイユー」は盟友ロン・ウッドのソロアルバム『ナウ・ルック』(’76)にも収録されているだけに、ふたりともこの曲にハマっていたのだろう。

アルバムは大ヒットした名曲「今夜きめよう(原題:Tonight’s The Night(Gonna Be Alright))」(8周連続全米1位)から始まる。途中に出てくるフランス語のダイアログはボンドガールで知られる映画女優のブリット・エクランドによるもの。当時エクランドはロッドのガールフレンドであった。続く「さびしき丘」(全英1位)、「フール・フォー・ユー」、「キリング・オブ・ジョージー・パート1&2」(全英2位)のどれもが紛れもない名曲。「フール~」と「キリング~」で聴けるジェシ・デイヴィスの泣きのギターが素晴らしい。「キリング・オブ・ジョージー・パート2」では、物語がビートルズの「ドント・レット・ミー・ダウン」のメロディーに乗せて歌われている。

LPではファストサイドとなっていた6曲目以降はカントリー(前述の「ビッグ・バイユー」と「人生の荒波」)でもロックンロール・スタイルで演奏されており、後のヒット曲「ホット・レッグス」の原型はここで生まれたことが分かる。ロッドがもっとも得意とするスタイルではあるが、本作以降のアルバムでは形骸化してしまっているのは残念だ。「ビッグ・バイユー」と「人生の荒波」に登場するフィドルのクレジットはないが、どちらもデビッド・リンドレーによるもの。

前作と本作の大ヒットでロックシンガーの頂点を極めたロッドであるが、次作の『明日へのキック・オフ(原題:Foot Loose & Fancy Free)』(’77)後はロックだけでなく、ジャズやディスコも歌えるポップスターとして活躍の場を広げている。ただ、ジェフ・ベック・グループ時代からロックシンガーとしてのロッドの歌を愛聴しているロックファンにとっては、少し寂しい気持ちになるというのが正直なところかもしれない。

TEXT:河崎直人

アルバム『A Night on the Town』

1976年発表作品

\n<収録曲>
1. 今夜きめよう/Tonight's the Night (Gonna Be Alright)
2. さびしき丘/The First Cut Is the Deepest
3. 君に首ったけ/Fool for You
4. キリング・オブ・ジョージー/The Killing of Georgie (Part I and II)
5. ボールトラップ/The Balltrap
6. プリティ・フラミンゴ/Pretty Flamingo
7. ビッグ・バイユー/Big Bayou
8. 人生の荒波/The Wild Side of Life
9. 貿易風/Trade Winds

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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