観客に「重力」「落下」を感じさせる『閃光のハサウェイ』のMSバトル

現在大ヒットを記録中のガンダムシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。CGディレクター・藤江智洋さんのインタビュー後編では、これまでの作品と比べて格段にCGの比重が高くなったという『閃光のハサウェイ』の現場で、どんな新しい試みが行われたのか。また、村瀬修功監督からの高い要求をいかにクリアしていったかが明らかにされていく。
▲CGディレクターを務めた藤江智洋さん。

――本作の制作にあたって、CG面での新たなチャレンジなどはありましたか?

藤江 むしろこれまで『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』と積み重ねて来たノウハウの集大成になればいいな、と思っていました。『閃光のハサウェイ』3部作が作られていく中で、またいろいろと進化することができるのではないかと期待しています。そういう意味での新しい取り組みとしては、シーンによって機体の色替えを行う方法でしょうか。

――それは具体的にどういうことを?

藤江 そもそも村瀬監督は世界観の色の明るさから色相まで細かく吟味する方で、「夜間だから青黒くすればいい」というレベルでは納得しません。同じ夜の風景でも街頭の真下、さらにそこから1メートル離れたところといった、光や色の細かい変化にもこだわるので、それに合わせてどんどん色を変えていかなければならない。
その作業はこれまでの作品ではシーンごとにCGモデルの色設定をコツコツと替える変換作業をやっていたのですが、今回はシーン別に全身の色替えをまとめた画像(テクスチャー)を作り、その画像を差し替えるだけで色味を変えられるようにしました。その結果、1カット内で細かく色変化が必要な場合でも、色替えを即時に対応できるようになりました。

――その色彩シートはどのくらい用意されたのですか。

藤江 Ξガンダムだけで20数枚、メッサーはもっと多いパターンを作りました。それこそビーム・ライフルから放たれるビームの色によっても機体の色が変わるので、負担が少ない形でそれに対応できるようにした感じですね。
▲MSのカラーリングはビームの照り返しにまで気を配る。

――モビルスーツのルックも、手描き作画のものとほぼ違和感ない印象でした。

藤江 セル調と言われる3D表現に関しては、今までだと質感表現を足してリッチな方向に持っていこうとしていましたが、今回はそうした処理はやらず、塗りだけで表現しています。もしそれが映像としてリッチに見えているならば、ライティングによる影付けを丁寧にやれたことで、形状の情報量を陰影で表現できたからだと思います。結果的にうまくまとまったので、格好良く言えばですが(笑)。
あと、セルルックで特徴となるアウトライン、作画で言う実線に関しても、今回はなるべく「作画さんが描いたらこれくらいだろう」というレベルを狙って作りました。人間の手では省略するような細かい描き込みの実線が画面に出てしまうとやはりCGっぽく見えてしまうし、線が多いと逆に黒くつぶれて形状が分からなくなってしまう。そういう意味では、線の量はすごく気にしました。線をどこまで減らしていけるかチャレンジしているような感じでもあります。これは業務というよりも趣味に近いですけれど(笑)。

――これまでの作品のCGでは、メカ作画の方がラフ原画を描かれて、それに合わせてCGモデルを動かすという作業をされていましたが、今回はその方式を取られていないそうですね。

藤江 そうですね。CGスタッフがコンテに合わせてラフ原画や叩き台を作る、実写でいうプリヴィズ(スタッフが共有する映像イメージを作る手法)をやっている感じです。村瀬監督も3DCGソフトを使っていたのですが、そこにはコンテを作った際のカメラの動きやアングルなどの情報も残っているので、それを活用してカットを作ることもありました。
村瀬監督は「スピードは時速何キロで」「上空〇〇メートルの高さで戦わせて」みたいな細かい指示は出されても、表現に関してはこちらに自由度を与えていただきましたし、いいものができればそちらを採用する形で内容を組み直してくれました。そこは、すごくありがたかったですね。
▲かつてないリアルさで届けられるMSの市街戦。

(C)創通・サンライズ

――増尾隆幸さんの担当されたCGパートに関しての感想は、いかがでしょうか。

藤江 海の液体表現や、カメラマップで動かす背景など面倒をみていただきましたが、贅沢な画になっていますよね、本当に素晴らしいです。作業的にはこちらでもイメージできる部分もあるのですが、ところどころの仕上がりで「これはどうやって作ったのだろう」と驚かされる部分が多くて。単純にソフトの機能を使っただけではなくて、増尾さんだからできる、もうひとつ上の画作りによってそんな光る部分が出ているのではないかと思います。
▲実写と見まごうほどリアルなビジュアルに圧倒される。

――では、CGディレクターの立場から、本作の見どころを教えてください。

藤江 ガンダム同士の戦い……は勿論皆さんが注目するところだと思うのですが、冒頭のハウンゼン356便が飛んでいるシーンや、メッサーが上空を滑空して降りてくるシーンなど、今回は本当に多くのシーンがCGで作られていますが、おそらく観客の皆さんは何の違和感もなくゴージャスなセルアニメのように感じられると思います。そういう意味ではまさに全編が見どころですし、「何かすごいものを観た」と感じていただけるのではないかと。

あとは、地上でのMS戦の見せ方ですね。『UC』『NT』は宇宙空間が主戦場だったので比較的自由に動き回っていましたが、今回は重力があるので常に「上」と「下」があるわけです。そこを意識してアニメーターさんがカットを作ってくれていて、画として上下方向がしっかりわかりますし、観ている方が自分も重力に引っ張られて落ちていることを感じられるような画になっているんじゃないかと思います。それに対して、メインである2機のガンダムは、重力下でも好き勝手に飛び回ることができる。そういう機体の技術的な差異を出すことが村瀬監督の狙いでしたし、アニメーターと密にやり取りをしてその表現を模索しましたので、そこも意識して観てもらえると嬉しいですね。
▲市街地でMSが活動する際の細やかな描写の積み重ねも必見。

――作品全体の感想に関してはいかがですか?

藤江 大人向けの作品ですよね。といっても「ガンダム好きな大人向け」という意味ではなく、普通の大人が観て満足できるという意味です。「ガンダム」と聞くだけで眉をひそめるような人でも楽しめる、重厚なSF映画に仕上がっているのではないかなと思います。今までもいろんな作品に関わらせていただきましたが、劇場用作品を本気で作ることはこういうことなんだ、とあらためて学ばせていただきました。

――アニメと実写の境界に立つ映像演出になっているところも必見ですね。

藤江 リアルな映像のテイストに持って行くならどうしても実写に近づきますし、CGもフォトリアルな方向でいきたくなるのですが、あえてそこを作画アニメのテイストや世界観で表現している、ギリギリのバランスがいいのかなと思いますね。増尾さんも「実写(のような見せ方)にはしたくない」とおっしゃっていましたし、手描きの美術背景が動いているような不思議な画でありながら世界観とか作風がリアルに迫る感じでした。僕らが手がけたMS描写もそのラインを狙ったつもりです。村瀬監督は音響や映像が最高スペックの劇場で観ることを前提に作っていますので、ぜひ映画館で、できればドルビーシネマで観ていただくことをお勧めします。

>>>『閃光のハサウェイ』場面カットを見る(写真11点)

(C)創通・サンライズ

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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