男性から女性に性別移行して考えが変わったこと。サリー楓さんに聞く

女子SPA!

 建築家でトランスジェンダーであるサリー楓さんを追った、6月19日公開のドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』(英題『You Decide』)。女性として踏み出した瞬間をメインとして、彼女の日常をはじめ、心の葛藤、両親や姉との関係が映し出されています。

サリー楓さんのインタビュー前編では、「私たちの日常がいかに普通であるかを知ってもらいたかった」と、日常をさらけ出す映画への出演を決めた思いを話してくれました。今回は社会が求める「女性らしさ」や女性ならではの不自由さについて感じることを聞きました。

◆コロナ禍で困難になったもの

――今なおコロナ禍のもとでの暮らしが続きますが、サリーさんはどのように感じていますか。

働き方が変わりましたよね。オンラインで仕事を進めるようになってから、世の中で「タスク型」と呼ばれているように、意思決定などのタスクを整理し分担して処理するような仕事の進め方になったと思うんです。いったん自分のやること、相手のやることの間に線引きをして、それぞれが仕事をして最後にオンラインですり合わせる、みたいな。

でも、そうすることによって、人を理解する思考回路や、自分のなかでの物語の組み立て方に分断が起こっているような感じはします。

コロナと暮らす生活になってから、よく見ていたドキュメンタリー番組がものすごく味気ないものになってしまったんですよね。在宅勤務でつくっているのかなって思うくらい、複数の人がそれぞれのノルマをこなしてつなぎ合わせただけで、一本筋が通っていない、CMからCMまでの間の10分ぐらいの動画を寄せ集めただけのような映像だと感じてしまって。

そういった「タスク型」の映像メディアでは、一人の人間を知ることなんてますます困難になると思うんです。

◆自分がどう生活したいかがそのまま「家」に表れる

――ところで、サリーさんはどうして建築家になろうと思ったのですか?

小さい頃から絵を描くのが好きで、新聞に挟まってるマンションの広告が大好きだったんですよ。「ここは私の部屋」とか想像しながら眺めるのがすごく楽しくて。そのうち、間取りと間取りを合体させて「こんな家に住みたい」と言っていたら、それを見た親が「それは建築家という職業だよ」と教えてくれたんです。小学校2年生、8歳のときでした。

小さい頃は自分の部屋がなくて、一つの部屋を棚などで仕切って姉と使っていました。

基本的に表現をすることに興味があって、小学校の頃は遠足のしおりやポスターなどを描くことが多かったんですよ。媒体(メディア)って、それをつくった人の体(てい)をそのままなすと思うんです。どういう本を書くか、どういう絵を描くか、どういう歌を歌うか、どういうダンスを踊るか、全部その人の意思が表れていますよね。特に建築とか洋服って肌に直接触れるものなので、自分の身体がそのまま大きくなった感覚というか。

服だと、どういう服を着ているか、今日スーツを着ているのは真面目っぽくフォーマル感を表現したいからだとか、黒じゃなくて青なのは堅苦しくならないようにとか、自分をどう見せたいかという意思が反映されると思うんです。

そういった表現の中でも、特にサイクルが長いのが建築だと思っています。特に住宅建築だと、自分がどう生活したいか、どういう未来に生きたいかという考えや気持ちがそのまま「家」に表れていると思うんです。

――どんな建築や場所が好きですか。

肩ひじ張らない建築が好きです。温かみのある木造住宅とか。

モデルルームの建築写真って生活感がないんですよね。マンション広告もピカピカしてキレイな部分しか見せていない。でも、私はむしろ20年、30年使われた後の建築のほうに魅力を感じます。

香水って、つける人の体臭と交わって初めて完成するらしいんです。同じように、家も人が入居したときに完成するものだと思うんです。そんな人間臭さが加わったときに完成するようなモノをつくりたいですね。

◆世の中の常識って、男性の常識を中心につくられがち

――社会が求める「女性らしさ」や女性ならではの不自由さについて、女性の立場から意見はありますか。

トランスジェンダーの日常があまり知られてないという危機意識から、それを発信しようと思ってこの映画に出演したわけですが、今、女性としての日常を送っているなかで、実は女性のリアルも全然発信されていないと感じていて。というのも、基本、世の中の常識って、男性の常識を中心につくられがちになっていると感じるんです。

ほとんどの女性が日常で困難に感じていることがあまり発信されていないように思います。たとえば、キャッチとか強引なナンパとか、通りすがりのセクハラまがいの声かけとかが街で普通にあったりしますが、当事者にならないとわからないくらい怖かったりするわけで。

――確かに女性からしたら、かなり威圧的というか恐怖を感じる乱暴な行為ですよね。

私は自分が性別移行するまで、女性専用車両の必要性があまり理解できなかったんです。でも、自分が女性として生活してみるとやっぱり必要だと思うし、そうやって一人称に立ってみないとわからないことに対して、もっと私も関心を持っていかないといけないと思いました。

今、私が働いている建築業界はデザインの部門ですが、建設現場によっては女性を見る機会がほとんどないといいます。小さな現場などでは、女性が働いていることを想定していなくて、女性用の仮設トイレや更衣所が用意されていない現場も少なくないといいます。

実際に男性用・女性用それぞれのトイレを2つ用意できるかどうかは別として、「いない」ことにされているのと、「いる」ことが認識されているのとでは全然違うと思うんです。ジェンダーの問題に限らず、今「いない」ことにされている存在がいる、という認識はどんどん広まって欲しいです。

◆自分らしくなくていい決断をすることのほうが困難な時代

――そういったことを含め、改めて「自分で決める」ことの大事さをこの映画から受け取りました。

今って、自分らしくあることのほうが楽というか、自分らしくなくていい決断をすることのほうが困難な時代なのだと思います。

どうしても“○○らしさ”を求められてしまうなかで、人と違う部分を強調することは簡単ではあるけど、それは本当に自分で決めた自分らしさなのか。内からにじみ出てきたものなのか、取ってつけたものなのか、自分としっかり向かい合い、自分で決められる社会になればいいと思います。

【サリー楓】

’93年、京都生まれ、福岡育ち。建築学科卒業後、現在は建築のデザインやコンサルティング、ブランディングからファッションモデルまで多岐にわたって活動。トランスジェンダーの当事者としてLGBTに関する講演会も行う。公式HP

映画『息子のままで、女子になる』制作・監督・撮影・編集/杉岡太樹 出演/サリー楓 Steven Haynes 西村宏堂 JobRainbow 小林博人 西原さつき はるな愛

<文/中村裕一 写真/林紘輝 ヘアー&メイク/TAYA>

【中村裕一】

Twitter⇒@Yuichitter

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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