トランスジェンダーは“普通じゃない人”としてメディアに取り上げられている。サリー楓さんに聞く

女子SPA!

 6月19日からユーロスペースほかで公開されるドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』(英題『You Decide』)。建築家でトランスジェンダーであるサリー楓さんの姿を追ったこの作品では、彼女の日常をはじめ、心の葛藤、両親や姉との関係などがリアルに収められています。

社会において多様性や“自分らしさ”が求められるなか、女性として、建築家として今、どのようなことを考えているのか。サリー楓さんに話を聞きました。

◆私たちの日常がいかに普通であるかを知ってもらいたかった

――まずは本作の英題である「You Decide(あなたが決める)」について聞かせてください。

自分がどういうふうに生きるか、自分のあり方を含めて、“自分らしさ”というものは自分でDecide(決める)するものだと私は思っています。

一方で、自分が心地よいジェンダーや本当にやりたい格好で生活したい、そう思いながらできない人もいます。それはなぜかというと、やはり世間がそうさせてくれないからだと思うんです。

たとえば、今、私は女性として会社で働いていて、周りの人たちも女性として扱ってくれていますが、それは周りの方々が私を女性として生活させてくれているのであって、私はそれに頼っている部分がある。

私が自分のことを女性だと思うことも大切ですが、自分らしくいられる環境を私だけがつくるのではなく、周りも一緒になってつくっていく必要がある、そのためにはこの映画を見たあなたがどういう未来をつくるのか一緒に決めて欲しい、という私の思いが込められているのだと思います。

――カメラの前に自分をさらけ出すことはかなり覚悟がいったのでは?

やっぱり初めての経験だったので緊張しました。ただ、なぜわざわざドキュメンタリー映画を撮ることに応じたかというと、撮り始めた頃は学生だったのですが、まだその頃は芸能界や夜の世界のイメージが強くて、トランスジェンダーはちょっと遠い世界の存在だと思われていたと思います。

そんな中で、私たちの日常がいかに普通であるかを知ってもらいたかったし、私自身、学生生活や就職活動でカミングアウトするときに大変な思いをしたので、ここで自分の生の声を世間に届けないと10年後、20年後も同じ困難を感じる当事者の方がきっといると思って出演することにしました。

◆私が女性であるかどうかも映画を観た後に決めてもらって構いません

――映画を見て、私たちは男らしさや女らしさなど、“○○らしさ”という言葉に縛られすぎているのではないかと感じました。その上で、この作品を観た人が少しでも自分に置き換えることで相手に対する理解が深まると思いました。

私が女性であるかどうかも、この映画を観た後に決めてもらって構いません。あなたの目に私がどう映ったのか。その結果「いや、男じゃん」とか「トランスジェンダーと女性は別なのでは?」と思っても、それはそれで一つの感想でいいと思うんです。

今って“多様性”が肯定的な意味合いで使われていると思いますが、「人と違っていい」という考え方が「人と違う方がいい」という考え方にまで発展しているように私は感じていて。普通でいたい人、みんなと同じであることが心地よい人、多様性のなかに心地よさを発見できない人もいるはずだと思うんです。

――確かに、どこか“○○らしさ”の押しつけが生じているかもしれませんね。

それに、“自分らしさ”って、本当は闘って獲得するものだと思うんです。みんなと一緒はイヤだ、自分はこうなんだと貫いた上で最後まで残った芯のような、身も心も削って削ってそれでも残るものであるはずなのに、“自分らしさ”を見つけるために焦ってしまうような、またそうせざるを得ない風潮を感じます。

私もメディアに出演する際、トランスジェンダーであることやLGBTであることの特殊さを期待されますけど、私の持つ普遍さにはなかなか言及されません。個人的にこの映画はLGBT映画だと思っていなくて、普通の女子が普通の生活を送っていて……で、あなたはどうなんですか? と問いかける作品であると。

ジェンダーに限らず、譲れないものって誰しもが持っていますよね。私にとっての「建築」であるように、人から反対されてもそれでもやるもの、それが自分の本質なのではないかなと。そういう“自分だけの譲れないもの”がいっぱい共存する社会が本当の多様な社会であって、みんなに違いを求めていくのは多様な社会とは言えないと思うんです。

◆“普通じゃない人”として取り上げられている

――これまでテレビなどのメディアで描かれるジェンダー像に違和感を持つことはありましたか?

あります。トランスジェンダーがメディアにでる場合、その特殊さを売りにした扱いというか、極端に容姿ばかりクローズアップされて、女性よりも女性らしい、みたいな感じで取り上げられがちですよね。その一方で「けど、こういうところは男っぽいよね」みたいな感じで笑いのネタにされたり。総じて“普通じゃない人”として取り上げられている印象は強いです。

LGBTという言葉はここ2、3年で急に浸透した感があるので、最初からLGBTとは何かを説明しなくても伝わるし、より踏み込んだ議論や意見ができるという意味では進んでいると私は思います。けれども、LGBTという言葉がでるたびに「LGBTらしさ」みたいなカテゴライズがされてしまい、そこからはみ出ることをすると「LGBTらしくない」と思われてしまう。たとえば、マイノリティはどこか常に弱者であって欲しい、みたいな思いは感じますね。

――どうやったら「○○らしさ」という決めつけ・押しつけは無くなるのでしょう?

ただ、私もそうですが、他者を理解するときには一度何かのカテゴリーに当てはめないと理解できないと思うんです。「男の人」「女の人」「おじさん」「おばさん」といった具合に。「LGBT」という言葉は確かに浸透しているけど、「男らしさ」「女らしさ」から「LGBTらしさ」にただスライドしただけのような気がします。本当の意味でのジェンダーからの解放はまだ実現していないと私は思います。

――最初の段階としてのカテゴライズは仕方ないとしても、そこから先が大事であると。

そうですね。カテゴリーを越えてどういう人間なのかを知って欲しいし、自分がどういう人間なのか、どういう自分らしさを持っているかは、自分一人で意識するだけでなく、周りも一緒に理解し、一緒に決めていかないといけないと思います。

19日掲載予定の後編では、社会が求める「女性らしさ」や女性ならではの不自由さについて、サリー楓さんが感じることを聞きました。

【サリー楓】

’93年、京都生まれ、福岡育ち。建築学科卒業後、現在は建築のデザインやコンサルティング、ブランディングからファッションモデルまで多岐にわたって活動。トランスジェンダーの当事者としてLGBTに関する講演会も行う。公式HP

映画『息子のままで、女子になる』制作・監督・撮影・編集/杉岡太樹 出演/サリー楓 Steven Haynes 西村宏堂 JobRainbow 小林博人 西原さつき はるな愛

(C) 2021「息子のままで、女子になる」

<文/中村裕一 写真/林紘輝 ヘアー&メイク/TAYA>

【中村裕一】

Twitter⇒@Yuichitter

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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