結婚式の3週間後に脊髄損傷したYouTuber「障がいを使命だと思って」

日刊SPA!

 いまや現役タレントや芸人を始め、ゲーム実況から、メイク動画などあらゆる分野の動画が配信されているYouTube。そのなかでも、300万回以上再生された動画がある。『脊髄損傷リハビリ動画』は、たくさんの参列者に囲まれた幸せそうなカップルの結婚式から始まる。

「本当に幸せだった。そして、この幸せが当たり前だと思っていた」

その後、「結婚式から1カ月後、僕は交通事故で全身不随となり医者から一生歩けないと宣告された」というテロップが入ると、さっきまで元気だった男性がベッドに横たわる痛々しい姿が映し出される。それは、事故から3日後の様子だという。これがYouTubeにアップされると、大きな話題を呼んだ。

投稿者は、YouTuberのかしわせさん。彼の運営する“かしわせチャンネル”では、事故に遭った直後の入院中から、車いすでの生活まで包み隠さずに配信されている。なかには、「#ワンオペ介護」のハッシュタグが付けられて、かしわせさんの妻の一日を紹介しているものもある。これは600万回以上の再生を記録した。

このような大事故を経て、なぜ動画配信をしようと思ったのか。果たして、かしわせさんが伝えたいこととは。今回は直撃してみた。

◆深夜に自転車事故、全身不随に

「金属バッドで思い切り殴られたような衝撃のあと、気づいたら道路に横たわっていました」

事故に遭った瞬間を振り返るかしわせさん。脊髄を損傷し、自力歩行ができなくなるほどの大怪我だが、いったい、どのような事故だったのだろうか。

「時間は深夜2時とか3時だったんですけれど、友人と食事をして帰る途中でした。電動自転車に乗っていたんですが、車が後ろから来た音がしたので、振り向いたんです。だけど、車が来ていなくて、振り返った瞬間にタイヤが取られて転倒してしまった……。スピードを出しすぎていたのかもしれません。些細な事故です……」

事故の直後も意識があったため、記憶に残っている。

「転んだとき、電柱に頭をぶつけてしまって。気づいたら倒れていました。でも声が出ない。声を振り絞って『助けて』と叫んでいたら、すぐに女性の声で『大丈夫ですか』と聞こえたんです。意識はボヤッとしていましたが、救急車に入っていくところは覚えています」

そのような大事故にもかかわらず、次の日には海外旅行に行く予定が入っていたため、内心では行けるかどうかという心配をしていたそうだ。これまで大きな怪我をしたこともなく、自分の身体がどうなっているのかわからなかったという。

「すぐに首の血を抜いたりする処置をしました。首の骨の手術は、通常は、翌日に手術をするのですが、2日後に行われました。僕は再生医療を受けたいと思ったので、その希望を伝えたら、調整などのため2日後になったんです」

かしわせさんは事故から3日後には全身不随となった姿を撮影し、YouTubeに動画をアップしている。そのような姿を見せることに抵抗はなかったのだろうか。

「もともとYouTubeに興味があったんで、せっかくだから『動画撮って』と妻に伝えて。動画をアップすれば、知り合いにも僕の状態がどうなのかがわかるし。面白半分じゃないですけれど、上げてみたんです。動画撮影は、最初の集中治療室のときは、周りが映らなければいいですよって言われて。札幌に転院してからは個室だったので大丈夫でした」

◆39度の高熱なのに、水も飲めない

前向きに話しているが、入院当初は体中にチューブや管が通され、「夢か現実かもわからない」状態だったという。

「毎日39度とかの熱がずっと続いているのに、水も飲んではいけないんです。首の骨が折れていると、飲み込む力が弱くなっているので。点滴とか、チューブを胃に通して、栄養を摂っていました。

咳をする力が今も弱いのですが、入院中は、首に穴をあけて、痰を穴から吸い取ってもらっていました。睡眠剤を入れてもらっても痛みで眠れないような状態で。面会も1日2時間だけだったんですが、家族には無理を言って面会時間以外にも来てもらったりしていました」

かしわせさんは「入院してからの1週間は、首の激痛で地獄のようだった」と語る。では、自身の脊髄損傷や後遺症については、どのタイミングで知ったのだろうか。

「実は、病院に着いてから、先に母や妹や妻は、医者から脊髄損傷について聞いていたようでした。一方で、僕には医者からの説明がなくて、おかしいなあと思っていたのですが、ずっと体が動かない状態だったんです。

お医者さんが僕の足を触って、『感覚はありますか? 』って聞いてきた。僕が『あります』って答えたら、『あるってことはちょっとだけいい状態ですね』って言われて、なんとなくもう動かないんだろうなって気が付いて。妹と二人になったときに、『足はもう動かないの?』って聞いたら、気まずそうに『うん』と。妹も病院で、症状を聞いたときは泣いていたそうです」

◆受け入れるというよりも慣れていった

事故に遭うまでは、飲食店を経営していたというかしわせさん。

もともとは外に出かけることが好きだったというが、自由が利かない身体となったことを受け入れるのには、どれくらい時間がかかったのだろうか。

「どこかのタイミングで受け入れたというよりは、だんだんこの状態に慣れていったという感じです。失恋したときの苦しみに似ているというか、徐々に深く落ち込まなくなっていきました」

明るく振る舞うかしわせさんだが、死にたいと感じるほどの喪失感も経験している。

「一回だけそういうこともありました。退院してからのことなんですけど、すごい鬱みたいになっちゃって。毎日、“死にたい”って思うことが多くて。『そういう状態なんだけれど』って、隠さずに妻に伝えました。そうしたら、『病院に行こうか』と言ってくれて。結局、病院には行かず、だんだん落ち着いて元気になりましたね。今はそんなことは思わなくなくなりました」

◆高度な再生医療に望みを託し、札幌に移住

あくまで、自分の身に起こった出来事を淡々と語るかしわせさん。事故にただ落胆することなく、再生医療を受けるため、都内の病院から札幌の病院に転院することを決意する。

「初めは都内の病院に搬送されて、そこで首の固定手術、ボルトを入れる手術を行いました。今、チタン製の20センチくらいのボルトが、首から胸に入っています。事故から2週間後に、札幌の病院に転院し再生医療を行いました。

保険適応される再生医療ができる病院が、札幌だったんです。間葉系幹細胞といって、自分の細胞を一回抜いて、培養して増やしてまた体に戻すっていう。自分の細胞なので、安全性が高いんです。それを増やす治療を受けました」

かしわせさんのYouTubeでは、実際に札幌医大に出発する様子がアップされている。妻も一緒に札幌まで移住した。

「札幌で再生医療が受けられるから、行った方がいいんじゃないかって、色んな人から連絡をもらって。家族や友人が、僕の怪我を知って調べてくれたんです。主治医から札幌の病院に伝えてもらい、転院が決まりました。当時は都内に住んでいたんですけれど、札幌には半年入院しなければならなかったんで、マンションを解約して、妻と札幌に引っ越しました。

妻が付いてきてくれたのはありがたかったです。本当に苦労を掛けたなって思います。札幌は冬だったんで、髪やまつげにも雪が降り積もってましたね(笑)。大雪で転びそうになっても、毎日、娘をおんぶしながら病院に通ってくれたんです」

◆ポジティブな妻に感謝「なんとかなるでしょう。大丈夫でしょう」

札幌の病院に入院中は、回復に向けてリハビリも開始した。少しずつだが、日常生活に戻れるように前進し始めた。

「札幌で入院しているときに、理学療法士と作業療法士とのリハビリはやっていました。腕を曲げたりはできるんですが、伸ばしたりはできない。この状態で、スプーンとかで食べる練習をしました。手の使い方のリハビリですね。入院してから退院するまでの間で、身体がどこまで動くようになるのかは、全然わからない状態でした。でも退院する頃にはこれくらいできるようになるかなって、希望を持ちながらリハビリをしました」

かしわせさんは、半年ほどの入院で自らの意志で退院した。

「普通、これだけの怪我をしたら2年くらいは入院するのが普通だったみたいなのですが、お医者さんとか、ソーシャルワーカーさんの大反対を押し切って、半年で退院したんです。結局、2年間も入院したところで、大部分の時間をリハビリに費やすんです。

僕は、頭がかゆくたって、自分ではできなくて。それを、わざわざ忙しい看護師さんに頼むのが嫌だったんです。でも家族なら頼みやすかった。僕は入院しているよりも、家に帰るのを希望しました。関東に戻って、賃貸のマンションに引っ越しをしました。玄関の段差だけスロープにして住みやすくして、介護用ベッドも用意しました」

すべて前向きに進んでいるようだが、一度だけ弱音を吐いてしまったこともあるという。

「怪我した直後は、“一生歩けない”っていうのが辛くて、泣きながら『元の生活に戻りたい』って妻に言ったことがあります。妻はポジティブなので『なんとかなるでしょう。大丈夫でしょう』って。そこで一緒に暗くなられてしまうと、こちらもより辛くなってしまう。

彼女がポジティブでよかった。妻は僕に涙を見せたことがないんです。もしかしたら、陰では泣いてることもあるのかもしれないけれど……。本人も『泣いたことは一度もない』って言うんです。すごく助けられていますね」

◆動画で「弱い部分をさらけ出すことも、恥ずかしいとかはあまりなかった」

入院中は、怪我などで闘病生活やリハビリに励むYouTuberの動画を観ていたという。

そして、かしわせさん自身もリハビリ生活の動画をアップし始めた。動画には排せつした瓶を洗うシーンや、入浴姿まで。

「僕のように怪我をした人の動画を観ていたのは、退院したらどのような生活をしているのだろうって、気になったからなんです。僕自身の生活は、YouTubeに動画をアップしてからも変わっていません。僕の動画は、カメラに向かって『はいどーも』って話す形ではないので。カメラを置いて、記録して、編集して出すので。

僕は全然オープンだったので、嫌だなっていうのはなかったです。観てくれる人がいるのであれば、弱い部分をさらけ出すことも、恥ずかしいとかはあまりなかった」

かしわせチャンネルでは、最初の動画が投稿されてから、しばらく動画をアップしていない時期があった。そこから動画配信を再開したきっかけは、予想以上の反響があったからだ。

「結婚式から3週間後に交通事故に遭ったという話にリハビリの様子をつけて、“こんな悲劇もありますよ”的な動画を出した。適当にその場にある素材で、妹に編集してもらったんです。

最初は再生回数は5000回だったのが、1万、3万と増えて、『おー凄い!』と言っていたら、1か月で200万回再生までいったんです。ほかにも上げてみたら、同じように再生回数が伸びていった。それで、動画を増やしていこうと思って」

動画の撮影には、かしわせさんの飲食店時代のアルバイトなども手伝ってくれているそうだ。

◆YouTubeでは「僕個人ではなく境遇に対して興味をもってもらえる」

YouTubeは、ほかのSNSとは違い、反応が大きかったそうだ。

「TwitterやInstagramは、僕個人に興味がないとフォローにつながらない。YouTubeは、僕に興味がなくても主婦目線で、この境遇に対して興味をもってもらえるというか。介護されている人が観てくれたりするため、いろんな層にアプローチできるのが面白いなって感じました」

彼のチャンネルの視聴者は、女性が大半だという。

「僕のYouTubeチャンネルを観てくれている人って、80パーセントが女性なんです。主婦層というか、25歳くらいから50代の年齢層の方が観てくれているんです。妻の立場に自分を置き換えて観てくれている人が多いのかなって思いました」

動画のなかには、「#ワンオペ介護」や「#ワンオペ育児」というハッシュタグが付けられ、妻がかしわせさんの身の回りの世話から、育児に奮闘する姿も垣間見られる。

「妻はポートレートモデルをやっているんですが、『あの介護のYouTuberの人』って思われると、仕事の方に支障が出ちゃうとも言っていて。もしかしたら、YouTubeはそこまで出たくないのかもしれないですが」

事故に遭ってから、夫婦仲に変化はあったのだろうか。

「実は、怪我してから夫婦仲がよくなったんです。それまでは毎週喧嘩していたのですが、怪我をしてからは一度も喧嘩していないんです。夫婦の会話が増えて、喧嘩がなくなった。怪我の前は、僕は“仕事が一番大切”と考えていて、仕事のつきあいの飲み会にも週3回~4回は行っていました。妻との時間より、仕事を優先していたんです」

かしわせさんの動画には、家族で遊園地に出かけたときのものもある。

しかしそれを観ていると、健常者と同じように楽しむためには、まだまだバリアフリーなど受け入れ側の体制が整っていないことに気づかされる。

「僕は家族で出かけるのも好きだったので、出かけるのも大変な身体になってしまったのは残念。今は家族で遊園地に行っても乗れないアトラクションが多くて、以前ほどは楽しめないんです。それでも怪我する前のことが忘れられないので、行きたくなるんですけどね」

◆「障がいを使命だと思って」新しい介護サービスを発案

もともと経営者だったかしわせさんだが、今後についてうかがうと、長期間に及ぶ入院の経験から「障がいを使命だと思って」新しい介護サービスをつくる決意をしたという。

「入院していた頃、ヘルパーさんに排便とか身の回りの世話を全部やってもらっていました。ある男性のヘルパーさんが、妻にも排便の処置や洗浄のやり方をていねいに教えてくれたんです。とても優しくて、志を持っているんだなって感心したのですが、彼は口癖のように『収入が低くて、自分に自信が持てない』なんて言うんです。

こんなに人のためになることをしているにもかかわらず、仕事に誇りが持てないなんて悲しいなと思って。そんな環境を少しでも変えたい。それで、介護施設とヘルパーさんをマッチングするシェアワーキングサービスのアプリを開発しようと考えたんです」

YouTubeは、多くの人に影響を与え、介護サービスを知るきっかけにもなると考えている。

「視聴者から『勇気をもらえた』と言ってもらえることも多くて。僕と同じように障害を持っている人にも、勇気を与えられるようになりたいですね。また、次にやろうとしている介護ビジネスとの相乗効果があればいいと思っています」

脊髄損傷という大怪我を負いながらも、悲観することなく前向きな姿勢で着実に進んでいくかしわせさん。その姿を見ていると、一日一日を大事に生きようと元気をもらえるはずだ。<取材・文/池守りぜね>

【池守りぜね】

出版社やWeb媒体の編集者を経て、フリーライターに。趣味はプロレス観戦。

ライブハウスに通い続けて四半世紀以上。家族で音楽フェスに行くのが幸せ。Twitter:@rizeneration

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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