借金500万円男。届いたDMに誘われてタクシー代3万円を手にする

日刊SPA!

―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。

それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は53回目を迎えました。

今回は、呼び出された人にタクシー代をもらって男同士で語り合ったお話です。

◆突然のDMは何の誘いか

「ここにきてください、なう」

胡散臭いDMだった。インターネットで悪目立ちしていると、この手の連絡はよくあることだ。悪い仕事の誘いや、普通の仕事の誘い、借金の相談など。そもそも僕は毎月の借金の返済には絶賛失敗中なので、くれぐれも真似はしないでほしい。

今まで一度もインターネットで関わったことのない相手だったが、その素性は知っていた。

金持ちだ。確かどこかの会社の社長とかだった気がする。

たまたまバイトを終えたばかりだった僕はそのメッセージを確認してから3秒で返信をした。

「行きます」

こうして理由なく誘われたとき、大体かなり横柄な態度を取られる。金によって自分の価値を磨き、金によって他人の価値を測ってきた人間にとって僕は敬意を払う対象ではないからだ。

◆「タクシー代払います」

きっと直面するであろう不快感と太い人脈を両方皮算用して天秤に載せる。今回はわずかに人脈のほうが重かった。コロナ禍で人との関わりが希薄になった今、仕事をもらえるチャンスは多い方がいい。

ホームレスのこの身の上、手札が尽きたら座して死すのみ。

「タクシー代払います」

これはアツい。

電車はあったがタクシーの方が早かったのですぐに捕まえて乗った。

タクシー代の話が出てくるということは、タクシー代が清算できるということだ。この場合領収書さえあれば、彼らは全く損をしない。貧乏諸君にはこのパターンを覚えておいてほしい。

そこで使ったタクシー代は返してもらえる。ケチらずに経済を回そう。この世界には金より時間のほうが大事な人もいる。

◆向かった先は…

直接住所を入力してもらい、

「すいません急ぎなんで一番早いルートでお願いします。」

と言う。到着してみるとそこはどう見てもガールズバーだった。

しまった、と思う。

一旦踵を返してコンビニでウコンドリンクを買った。

備えあれば憂いなし。お前あれば嘔吐なし。

◆なみなみと注がれるテキーラ

「一番奥の席にいるのが私です」

女の子のお店に僕を呼ぶ場合、僕はあくまで「いつでも呼べるちょっと有名なヤツ」として消費される。何度も何度も繰り返し話して少しずつ洗練されてきた借金エピソードトークを思い出リストから引っ張り出す。

出し入れしすぎて擦り切れた思い出は、何度も話しているうちにオチ部分を少しずつ嘘で着色しすぎたせいで、本当の形を忘れてしまった。

相手はすでに酔っ払っている。女の子たちは僕を見るや、酒瓶を手に取る。

「ウェルカムテキーラ!」

グーで肺のあたりを叩く。第六感調査兵団の成果は何もなかった。心のピエロが顔を出す。

「肝臓を捧げよ」

◆タクシー代をもらってもすぐには確認しない

ショットグラスをすり切りカップと勘違いしたのか、なみなみに注がれたテキーラを渡される。日本酒が升に溢れるほど注がれるのは、元々最高級の歓迎の意を表すためだという。そうか、ここは日本だった。

溢れたテキーラが、升の代わりに一着しか持っていないズボンに溢れる。

ここが、「可愛いヤツ」と「いけすかないヤツ」の境目だ。酒が強いほうがいいなんてことはないし、飲みっぷりがいい人間ほど信用できるなんてバカなデータもない。

だが、人は抗えない。

「こいつ、飲めるな」

という感情に。

僕はあまり酒が強いほうではないので、酒でカマすには最初の1時間での勝負のみになる。一本勝負、只者ではない印象を植え付ける。

席はすでに2時間くらい経っているのだろう。すでにショットグラスが複数転がっていた。乾杯の直後に一つ飲み干すと、さらにもう一つ渡されたのでそれも飲み干す。

「初めまして、犬です」

ここで初めて相手と握手をする。思ったより手がデカい。

◆めちゃくちゃいい人か、真なる悪人か

「ここまでお疲れ様、はいこれタクシー代」

暗がりの中、札を数枚手渡された。領収書を求められずに先に金を渡されて確信に至る。この人はめちゃくちゃいい人か、真なる悪人のどちらかだ。普通ではない。

さて、こうして金を受け取ったとき、すぐに金額を確認してはならない。相手は、自分の目線と手をよく見ているからだ。

タクシー代をちゃんともらえたか、自分はこの瞬間にいくら得したのか、そんな打算は目線と手先に出てしまう。きっと相手は思うだろう。

「なんだ、ただの貧乏人か」と。

学も資格もない以上、ハッタリと口先で自分を大きく見せるしかない。「只者じゃない」雰囲気作りはこういった細部に拘ってこそ生み出せる。金に執着してる様子を見せてはダメだ。

「かわいそうだから小遣いをあげよう」



「面白そうなヤツだから優しくしてやるか」

この差は、あまりにも大きい。

◆「お前は本当につまらなくなった」

その人はカジノも好きだった。僕のカジノ話も最初から伝わる。

「結局借金は踏み倒さないんだ」

「いや、結局支払い遅れてモタモタしてるんで変わらないですよ。相手からすれば踏み倒してるようなもんです」

借金の話になると、なぜ自己破産しないか、とよく言われる。

「競馬とかパチンコもあんまりやらなくなったね」

「ホント最近はあんまりグッとこなくて……面白くないですよね、すいません」

この連載に関してもそうだが、最初はギャンブルブログみたいにするつもりだった。タガの外れた若者が、自分の身も振り返らずに無謀な鉄火場に飛び込んでいく……。

そんなストーリーを期待されているのも知ってはいた。それが今では毎日バイト三昧でギリギリの返済を続けている。何も刺激的なことはない。

「お前は本当につまらなくなった」とよく言われるが、自分でもそう思う。客観的に見て簡単に面白かったのはギャンブルをしていた時だ。こうして自分がコンテンツになった今、気づかないフリはできない。

◆なぜ借金を返し続けるのか

ではなぜ、借金を返しているのか。

呼ばれたにも関わらず、ガールズバーの女の子ともほとんど話さないまま自分語りを始めてしまった。一気にテキーラを飲んだせいだろう。

「たぶん、今まで一番面白かった記憶がバカラをやってたあの瞬間で、次に行ったときに何の気負いも持ちたくないんですよね。

自分で賭けた分を自分で全額返したって実感さえあれば十分なんで、だから”借りたら返さなきゃいけない”とか”相手に対して誠実ではない”とか、そんな気持ちは本音のところでは一切なくて、たぶん僕が次にカジノに行った時に楽しくバカラをするためだけにこんな生活をしてるんですよね……」

言葉にすると整理ができると言うが、自分でもこの説明が一番しっくりきている。

「そっか、お会計するね。今度はメシ食べに行こう」

そう言って解散をした。最初のほうこそよく飲まされたが、たまにこうしてお互いに話すのに熱中してしまい、ガールズバーなのに男同士顔を合わせたまま解散になることはある。

帰りのタクシー代も渡してこようとしたので、それはさすがに断った。

タクシーの中で、受け取った札を見てみると3万円もあった。今日は当たりの縁だったようだ。

〈文/犬〉

―[負け犬の遠吠え]―

【犬】

フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。

Twitter→@slave_of_girls

note→ギャンブル依存症

Youtube→賭博狂の詩

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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