小沢道成×中村 中が語る EPOCH MAN『オーレリアンの兄妹』の“はじまり”【プレイガイド横断企画/e+ SPICE編】

SPICE



俳優・小沢道成が演劇をゼロからつくる企画「EPOCH MAN」による新作公演『オーレリアンの兄妹』が2021年8月13日(金)から22日(日)まで、東京の下北沢・駅前劇場にて上演される。

およそ2年ぶりの新作となる本作は、シンガーソングライターでありながら俳優として映画や舞台でも活躍中の中村 中との二人芝居。小沢の作・演出・美術×中村の音楽によって、“現代に生きる「ヘンゼルとグレーテル」の物語”が生み出される。

果たしてどのような作品となるのか、今回は、型破りの「プレイガイド横断企画」として、本記事を皮切りに、3つの記事が続きものとして順次配信される。SPICE編のテーマは、本作の「はじまり」。なぜ『ヘンゼルとグレーテル』をテーマにして、小沢と中村の二人芝居をつくることになったのか、ふたりに語ってもらった。


■長い付き合いの中でふと生まれたタイミング


――『オーレリアンの兄妹』は、去年1月頃に中村 中さんが「ヘンゼルとグレーテル」を現代版に置き換えた二人芝居をやってみたいとおっしゃったところから始まった作品だそうですね。

中村 私が言い出したというよりは、ふたりで喋っていてそういう話になったんだよね。

小沢 そうだね。あれは『鶴かもしれない2020』(2020年1月上演/EPOCH MAN)を観に来てくれた後だったよね。コロナ禍に入る直前だったと思う。

中村 その時期によくふたりで電話をしていて。私もその頃アルバム(『未熟もの』)を出したんですけど、その曲についての話とか長電話している中で、そういう話になった。

――おふたりはもともと交流があったのですか?

小沢 8~9年前に(小沢が所属する「虚構の劇団」の主宰である)鴻上(尚史)さんのワークショップで知り合ったんだよね。僕はアシスタントとして、中ちゃんは参加者としてそこにいて、そこで仲良くなって、散歩したり、コーヒー飲んだりするようになりました。夜中に駐車場に寝転んで、

中村 星を見たよね(笑)。

――なんとロマンチックな。

小沢 (笑)

中村 その間にも みっちー(小沢)は芝居をつくっていたので、構想を聞かせてもらったりもしていました。私たちは同世代なんですけど、同世代でこんなふうに作・演出・美術までこだわってやっている人ってあまりいないんですよ。だから目立っているし、すごくいいなとずっと思っていて。で、『鶴かもしれない2020』の後、家で一緒にご飯を食べて。

小沢 ちょうど中ちゃんの「うれしい」のMVができた時で、それを一緒に観ていたんですけど、僕が感動しちゃったんだよね。中ちゃんの歌の力がすごくて。

【動画】MV 中村 中 / うれしい

中村 制作過程の話をしていたときに、「うれしい」は直近で瞬間的にすごい燃え上がって、あっという間に消えてしまった恋の体験から作った曲だと話したら、みっちーが「およそ歌になりそうにない話なのに歌になるんだ」みたいなことを言ってくれて。で、みっちーもそういうつくり方をしたことがあるよって話をしてくれたの。

小沢 そうそう。ただ僕の場合は自分と作品の距離をごちゃまぜにしちゃうとうまくいかないんです、まだ今のところはね。でも中ちゃんは、そこから人が共感できるようなものをつくっていたので本当にすごいなと思って。

中村 でも私も みっちーの、おとぎ話から『鶴かもしれない』や『Brand new OZAWA mermaid!』への変換が面白いなと思ってた。『鶴の恩返し』や『人魚姫』のおとぎ話を現代に置き換えることで、いろんな気づきがあるから。中でも印象的だったのは…人魚姫が人間に恋をしたんだけど、人間の生き方とか、恋愛の仕方とか、セックスの仕方がわからないから、東京湾に捨てられた雑誌とかで勉強するっていうところ。

小沢 要するに、地上からも遠く離れた海の深いところにいるから、知る術は人が海に捨てて流れ着いたものになっちゃうんだよね。

中村 そこに、人魚姫の本気度と、環境汚染のこととかも入っていたから、そういう奥行きがやっぱりいいなと思いました。
中村 中
中村 中

――タイミングは今だったのですか?

中村 そうですね。去年の1月に、とにかくよく話していたんです。それまでも時々会ってはいましたよ。その都度、お互いどんな活動してるかとか話してね。

小沢 ははは! その「活動」っていうのは仕事だけではなく、プライベートの恋愛活動なども含まれるんですけど(笑)。

中村 (笑)。でもなんか去年の1月くらいのタイミングで、お互いのグルーブが合った気がしました。だったら今、ふたりでなんかつくるのもいいなと思った。

――それで『ヘンゼルとグレーテル』をやろうと。

小沢 それは中ちゃんが言ってくれたんだよね。でも実はその頃僕、『ヘンゼルとグレーテル』を混ぜた四人芝居をやろうとしていたんですよ。

中村 え、そうなの⁉ 知らなかった。

小沢 そしてその想定キャストとして実は中ちゃんの名前を書いてたんですよ。

中村 ほんとに!?!?

小沢 でもそのタイミングで中ちゃんが「二人芝居」という単語を出してくれたから、「ふたりでやるか」と思って。「二人でやれるとしたらなんだろう」って探し始めました。それで……ここからは中ちゃんに話してもらったほうがいいかもしれない。

中村 さっき話題に出た「うれしい」という曲が入っている『未熟者』というアルバム(https://ataru-atariya.com/mijukumono)があるのですが、そのアルバムにも家庭内暴力をテーマにした曲があって、私の体験もあり、ずっと気にかけているテーマなんですけど。その曲が出来るまでの話とかもしていて。しかも、このアルバムをリリースした直後は、コロナでずっと家にいなきゃいけない状況になってしまって、私が関心があるからなのか、ストレスのはけ口が家族に向けられてしまう事がどうしても目立って見えてしまって。それで、もっとこのことを考えたいんだって話の流れで、『ヘンゼルとグレーテル』って読んだことある?って話になっていったんですね。

小沢 『ヘンゼルとグレーテル』ってネグレクトの話でもあるんですよね。親に捨てられた子どもがお菓子の家に辿り着いて……という。そうやって話をするまでは、『ヘンゼルとグレーテル』を現代版にするのがなかなか難しいなと思っていました。お菓子の家で魔女が出てくるって記憶しかなかったから、どう現代版にしたらいいだろうなと悩むようなところがあって。でも中ちゃんの話を聞いて、そういうしっかりした「これを描きたいんだ」というベースのようなものがあれば、組み立てられそうだなと思いました。それで、「果たして希望があるかどうかわからない話ではあるけど、書いてみよう」と思ったのがきっかけですね。

――小沢さんが良いと思った“中村さんのリアルな思い”と、中村さんが良いと思った“小沢さんのおとぎ話をベースにした表現”が、ここで重なり合うわけですね。


■ふたりで考えるという、新しいつくり方


――ちなみに「希望があるかわからない話」を書くってどうですか?

小沢 これは僕の場合の話ですが、僕はできれば「エンターテインメントでありたい」というか。つまり「楽しんでもらえる作品」とか「劇場を出た時になにか前向きになれるような作品」を常につくり続けたいと思っているんです。そういう思考をもともと持っているので、なんとか明るさだったり笑いだったりでバランスを取ろうとするのですが、どうしても暗い作品になりそうだなと思って、どうしようと悩んで、仲のいい一色洋平に電話で相談してたんですよ。

中村 私に相談してよ(笑)。

小沢 ははは! いや、ちょっと客観的になろうと思ったの。いつも相談してるじゃん!

二人 (笑)

小沢 台本の中に兄妹を導く存在がいなかったんですよ。例えば『夢ぞろぞろ』なら、おばちゃんがいて、悩める青年がいて、おばちゃんが青年を励まします。でも今回は、ふたりとも同じ環境で育って、同じものを抱えているから、どちらも答えを知らないし、同じようにさまよっている。
小沢道成
小沢道成

――『ヘンゼルとグレーテル』と同じで、兄妹とも家で辛い目に遭っていて、一緒に家を出たから、ということですよね。

小沢 そうです。そのふたり以外に登場人物もいないから、導いてくれる存在がいないんですね。だからこの構造だと明るい方向に行けない、どうしようと思っちゃって。それで相談した一色は「悩めるふたりを救うことができるとしたら、演じ手側、作り手側なんじゃないか」と言ってくれました。確かにそうだなと思って。例えば演出で、光を強く当てるか暗く見せるかでも印象は変わりますから。作り手側が希望を持って、物語に取り組めば、少しは背中を押してくれるものになるんじゃないかなって。だから今回は、そうなればいいなという気持ちを抱いて作品に挑もうという感じですね。

中村 みっちーと話していると、よく「明るくできない」とか「暗いものになっちゃうかな」という心配をしているんですよ。さっきの「希望があるかわからない話を書くってどうですか?」という質問もだけど、私は「希望がないと描いてももらえないの? そんなに気になるんだ?」というのはあるんだよね。今回、家庭内暴力もテーマのひとつにしたいって私から言い出したもんだから、自分の体験も含めいろいろ話をしたのですが、その「希望を見出さなくては」ということだけに引っ張られて、出来もしない解決みたいなことを書かないで欲しいって話はしたんです。例えば「家族だからって許さなきゃいけない」とか「いつかは話し合えなきゃいけない」とかっていうのは、それができる間柄だったらやってるよ!って話で。許せない人って存在するわけで、それを隠さないで欲しくて。創作だからといって、無理に救う、みたいなことはしてほしくないんだって話はしたんですよ。

小沢 そうだね。ただ、だからこそ難しい。

――たしかに。

中村 でも みっちーはそこを見事に書いています。私はそういう意味では救いがある本だと思う。なんの裏付けもない「大丈夫」ではない物語になっているから。

小沢 ありがとう。

中村 「救われなきゃいけない」ってことで一生救われない人がいたら嫌だなと思うんです。絶対に和解しないといけないのかなっていうことに縛られてきついってあるじゃないですか。

小沢 そういう中ちゃんが実際に言った言葉もめちゃくちゃ込められている台本になります。中ちゃんと僕の人生を半分ずつ混ぜてディスカッションしながら、「どう思う?」って考えながらつくっているから、新しいつくり方です。

中村 でもそこは正直、心配なんですけどね。EPOCH MANってみっちーが輝いてる場所だから。

小沢 僕がしたいことをとにかくしてるからってこと?

中村 そう。それが超素敵だから。やっぱ みっちーが生き生きしていることがEPOCH MANにとって大事なんじゃないかって思うし。

小沢 大丈夫、生き生きしてるよ、今。


取材・文=中川實穗  撮影=石阪大輔

当記事はSPICEの提供記事です。

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