「シンプルで、クラシックで、タイムレスで、2人の登場人物が一つの部屋にいるだけで成立するスリラーを作りたかった」アニーシュ・チャガンティ監督『RUN/ラン』インタビュー

NeoL

[caption id="attachment_106336" align="alignnone" width="650"] Sarah Paulson as 'Mother / Diane' and Kiera Allen as 'Daughter / Chloe' in RUN. Photo Credit: Allen Fraser.[/caption]

ストーリー全編をパソコンのモニター上で展開した『search/サーチ』で、現代のスリラーの旗手として注目を浴びたアニーシュ・チャガンティ監督による最新作『RUN/ラン』が公開される。生まれつきいくつもの慢性の病気を持ち、車椅子で生活する娘クロエ(キーラ・アレン)を献身的に介護する母親ダイアン(サラ・ポールソン)。クロエは自宅学習をしながら大学進学と寮生活を目指し、合格通知を待っている。その最中、彼女は自分の食事や薬全てを管理している母親の態度に疑問を抱き、その管理、監視からの脱出を試みるようになるーー。緊迫した2人の心理描写と行動で展開する本作を支えた名優サラ・ポールソン、新人ながら傑出した演技を見せたキーラ・アレンについてなど、アニーシュ・チャガンティ監督に聞いた。

――本作を作るきっかけとなったのは何でしょうか。何かイメージなり、展開してみたら面白いかもしれないと思うようなひらめきなどはあったのでしょうか。

アニーシュ・チャガンティ監督「本作を作るきっかけとなった2つの要因がありました。1つは僕の個人的な監督としてのあり方、2つめはストーリーです。まず、個人的な話からすると、本作に着手したのはちょうど初監督作品の『search/サーチ』を完成させたばかりの時期なんです。『search/サーチ』はとても斬新で、複雑で、多くのギミックが仕込まれた作品でした。僕は一つの型に収まるのが嫌で、同じジャンルに進んでいって、ギミックばかりを使うような監督にはなりたくないという思いがあった。そこで、『search/サーチ』の逆をいくような作品を作りたかったんです。いわゆる“普通”の映画も作ることができるということを自分自身に証明するためにも、『search/サーチ』とは真逆のストーリーを語りたいと考えました。シンプルで、クラシックで、タイムレスで、2人の登場人物が一つの部屋にいるだけで語ることができ、奇をてらって何かクレイジーなものに仕立てる必要のないような、それだけでしっかりと成立して存在感がある作品を作りたかった。結果、『RUN』という作品ができあがったわけです。『RUN』のストーリーはニュースの見出しからヒントを得ました。脚本を書いている時に、僕と共同執筆しているセヴ( セヴ・オハニアン)と気づいたんです。記事の見出しの1つから、1人の人物がもう1人に隠している秘密を示唆することができる、そしてそれはもう1人の人物からしたら喉から手がでるほどに欲しい情報であると設定すれば、もうそれだけでヒッチコック作品のようなスリルのある物語ができる。物語はその秘密を暴いていくことで展開されていきます。さらに『search/サーチ』では父娘の関係をポジティヴに描いたけれど、同じ親子関係を基に、閉鎖的空間で起こるシンプルなスリラーである本作では、『search/サーチ』とは真逆の、非常にネガティヴな母娘関係を描くことが可能だということを思い付きました」

――実際に2人の登場人物のみで展開していく作品ですが、クロエ・シャーマン役を演じるキーラ・アレンは素晴らしかったです。彼女は映画初出演であり、実際にも車椅子で生活しているそうですね。

アニーシュ・チャガンティ監督「そうなんです。キャスティングは大変難航していましたが、キーラのオーディションテープを観た直後に全てが動き出しました。ロサンゼルスに飛んで、キーラと打ち合わせをして、ダイアン役のサラ(・ポールソン)と対面して、すべてがぴったり符号したんです。キーラのオーディションテープは、彼女が通っているコロンビア大学の寮の自室で撮影したものだったけど、その2カ月後にはハリウッドスターと映画で共演することになるという彼女の旅路を目撃することができたのは、僕にとっても素晴らしい体験でした。キーラがどれほどの才能を持っているのかを本作でお見せすることができるのは嬉しいですね。彼女は本当に見事なパフォーマンスを見せてくれましたから」

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Kiera Allen stars as 'Daughter / Chloe' in RUN. Photo Credit: Allen Fraser.[/caption]

――本当に見事で、何度も映像を止めては場面ごとに研究をしなければならないほどでした。新人のキーラとプロフェッショナルな俳優であるサラという2人をどのようにディレクションしていったのかを教えてください。2人のバランスはどのように保ったのでしょうか。

アニーシュ・チャガンティ監督「おっしゃるとおり、サラは素晴らしい経歴の持ち主で今やハリウッドを代表する俳優。一方、キーラはまったくの未経験という立場からの参加です。監督としての2人へのアプローチはまったく異なるものでした。サラへは、キャラクターの背景をビッチリと詰め込んだ15ページぐらいのブックレットを作りました。ダイアン・シャーマンというサラが演じる女性の幼少時代からの人生、ダイアンの母の人生、さらにはその祖母の人生までも書き記したブックレットです。そこに記した内容は、実際の作品には出てこないけれど、キャラクターを形づくるものとしては重要な役割を果たしています。サラは現代を代表する名優の1人で、彼女ならこれを呑み込み、咀嚼して、吐き出すことができるだろうと思いましたし、実際に彼女は見事にやってのけました。多くの時間をかけて2人でダイアンという人物の背景をなぞっていき、いよいよ撮影が始まると、サラのすべてのテイクは宝物のように素晴らしく、完成版から漏れてしまったテイクを観られる自分はなんて幸運なんだろうと思いながら作業をしていましたね。サラへのディレクションは、演技の良し悪しに基づいてではなく、映画とキャラクターをどういう方向性にしたいのかという考えに基づいて判断していました。一方キーラへは、キャラクターについて説明するのではなく、キーラが役になり切れる方法を探しました。キーラにお願いしたのは、彼女自身でクロエというキャラクターの背景を描いた15ページのブックレットを書いてもらうこと。彼女は分厚いブックレットを整然と書いてきて、僕がそのブックレットを読み、彼女に質問して詳細を教えてもらうという手法を取りました。例えば、2人で脚本を読み合わせている時に、家のセットにある物について、『どこで手に入れたのか。最後にそれを使ったのはいつなのか。どのようにして買ったのか。何故そこにあるのか』ということについて聞かせてもらうんです。それをもう一度現場でやりとりして、キーラがその場のすべてを把握していることを確認しました。撮影が始まる頃には、キーラの答えや情報はより緻密になっていました。このやり方はおおかた成功したと思いますが、キーラの持って生まれた才能こそがすべてを決定付けてくれるものであり、僕はそのサポートをしたに過ぎません」

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Kiera Allen stars as 'Daughter / Chloe' in RUN. Photo Credit: Allen Fraser.[/caption]



――サラは脚本には書かれていない即興のような演技をして、自ら味つけをするようなことはありましたか。

アニーシュ・チャガンティ監督「ええ。サラは100%出し切った演技をしていました。とにかくサラのパフォーマンスが良すぎて、言葉がなくともサラの表情だけで十分に伝わるシーンがたくさんあったので、完成版に入れなかった対話の場面もあったくらいです。僕らがどんなに頭をしぼって書いた脚本よりも、サラは言葉一つ、行動一つで見事に表現するんですよ。彼女ほどの度量がある役者というのは、役柄を身体に染み込ませているものです。だから咄嗟の反応もとても自然で、人間味溢れています。彼女はすべてに対して反応する、それが本当に素晴らしい。例えば、カメラを回している時に壁にハエが止まっていたとします。その場合の反応も全てダイアンとしての反応になるんです。今は役を演じているからこれは見なかったことにするなどということはなく、何もかもに対してキャラクターとして反応している。彼女は身体に役を染み込ませ、その人間として存在し、常に周囲のすべてを受け入れているんです。だからこそ、サラのパフォーマンスは人間味に溢れているのだと思います」

――サラのそうしたパフォーマンスは、近くでサラを見ているキーラにどのように影響していましたか。

アニーシュ・チャガンティ監督「キーラ本人もきっと同じように答えると思いますが、本作の現場は最高の演劇の授業だったのではないでしょうか。サラ・ポールソンを相手に演技することで、多くを学べたと思います。ダイアンの機嫌が悪く、怒りに満ちている場面では、普通は恐れおののいてしまうと思うけど、我々はキーラにサラの上をいくようなクロエとしての感情の爆発を望みました。そのためにはサラ・ポールソンの存在は助けになったはず。現場でサラ本人がキーラの面倒をよくみてくれていたのも良い作用を生んだと思います。サラはキーラに多くのアドバイスをして、コツを教えてくれていました。人生について、演技について、キャラクターについて、様々な話題についてサラはキーラに対して親身になって教えてくれたんです。撮影初日と30日目のキーラを比べると、役者としてとんでもない成長を遂げたことがわかります。終盤ともなるとテイクを4、5回重ねることもなく、1、2回で済んでいました。撮影終盤の頃のキーラはサラから多くを吸収して見事なオーラを放っていましたね」

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Sarah Paulson as 'Mother / Diane' and Kiera Allen as 'Daughter / Chloe' in RUN. Photo Credit: Allen Fraser.[/caption]

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Kiera Allen stars as 'Daughter / Chloe' in RUN. Photo Credit: Allen Fraser.[/caption]

――最後に、10代は親との関係に疑問を抱き始める頃です。この物語のベースにあるのはそうした事実ですね。

セヴ・オハニアン「そう。私たちはこの映画で、若い女性が自分の自由や正義、自立というものを手に入れようとする様を目撃することになります。私たちは親の管理下にいた頃、悪いことをしたら部屋に閉じ込められましたよね。それが本作ではエスカレートしたものになっていて、何も悪いことはしてないのに閉じ込められている。親の押し付けに子どもが抵抗するのです。そこに気づいてくれてありがとうございます」

『RUN/ラン』6月18日(金)TOHOシネマズ日本橋ほか全国ロードショーhttps://run-movie.jp監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ 製作・脚本:セヴ・オハニアン 出演:サラ・ポールソン キーラ・アレン (C) 2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.2020/英語/アメリカ/90分/5.1ch/カラー/スコープ/原題:RUN/G/字幕翻訳:高山舞子提供:木下グループ

当記事はNeoLの提供記事です。

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