BTSとファン繋ぐWeverse、音声アート体験を提供するArtistspoken…etc 新感覚デジタルコンテンツが次々に生まれる背景とは

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 ネットメディアやSNSが、私たちの生活にとってあまりに密接すぎる存在となって久しい。

多様に存在するネット上の他人とのコミュニケーションが生むストレス、「インスタ映え」に代表されるような綿密に作りこまれた情報がこぞってフィーチャーされる風潮、また映像メディアの普及による“画面疲れ”に、ウンザリする人も多いだろう。

そんななか新たに勃興するコンテンツ様式が、情報の発信者と受信者双方が抱える辟易した気分を解消し得る存在として、急速な普及をみせている。

その一つは、クローズドコミュニティだ。例えばTwitterやInstagramなどのSNSは不特定多数に対する情報発信を目的とした、いわゆるオープンコミュニティと呼ばれるものだが、文字通りあまりに開かれた場で文脈を共有しない他人同士が交わすコミュニケーションは軋轢を生みやすく、誹謗中傷なども避けられない。

そこで、やり取りしたい者同士がプライベートな場で情報を発信しあう用途のクローズドコミュニティの需要が高まった。かつての前略プロフィールやmixi、またfacebookなど、クローズドコミュニティが求められていた時代は過去にも存在するが、現在はSNSのような個人発信の場だけでなくメディア側がクローズドコミュニティの形式を利用して情報発信するようになったことが新たな潮流と言えるだろう。

例えばK-POPグループのBTSは、彼らが所属する芸能事務所BigHit Entertainmentの子会社であるbeNXが2019年にリリースした「Weverse」を通じ、世界中のファンに情報を届けている。

https://twitter.com/weverseofficial/status/1396790719776321536?s=19

Weverseとは、Instagramストーリー風のコンテンツやボイスメッセージ機能などを登録者であるファンへ発信するプラットフォーム。BTSは、このWeverseをファン向けのクローズドコミュニティとして活用し、オープンコミュニティであるTwitterやInstagramでの情報発信と差別化を図っている。

こうしたクローズドコミュニティを活用するアーティスト側のメリットとしては、既に彼らの人となりを理解するファンを対象に絞ることで、オープンコミュニティよりも炎上のリスクが軽減され、気楽かつ込み入った情報発信が出来る点がある。またファン側としてもアーティストのフランクな姿や声が発信されることで、他の場では得難い詳細な情報や親密さが感じられるといった利点が大きい。

BTSやSEVENTEEN、TXTなどの人気グループが参加し、今後はBLACKPINKの参入も予測されているこのWeverseのほか、TWICEやNCT、Stray Kidsらが参加するプライベートチャットプラットフォーム「Bubble」なども多くのユーザー数を集めている現状からは、K-POPシーンにおいてクローズドコミュニティが一つの主流となりつつあることがうかがえる。

同時に目を引くのが、デジタル音声コンテンツの台頭だ。作業中などに聞き流すことができるうえ情報の即時性にも長けることから、Spotifyポッドキャストなどの音声メディアや、今年頭に日本でも話題となったClubhouse、TwitterのSpacesといった音声SNSは、近年本格的な盛り上がりを見せている。

特に、ユーザー同士で身元が把握しやすいクローズドコミュニティとしての側面を持つだけでなくアーカイブが残らず聴衆者に会話内容の守秘義務が求められているClubhouseは、気楽なコミュニケーションがとりやすい利点とともに、コロナ禍の時勢も相まって爆発的に普及した。

著名人のユーザーも多いClubhouseは、マスメディアではお目にかかれないユニークな座組によるトークを聞ける場としての需要が高い。著名人であったとしても所属事務所などを通さずにスピーカーとして登壇でき、また、事前打ち合わせもなくその場に居合わせた面子が流れのまま輪に加わることで編成される意外な組み合わせは、狙い撃ちの企画では実現しないランダム性に富んだ面白味があるのだ。

一方で、Clubhouseには数々の問題点も指摘されている。特に不満の声を強く上げるのは、聴くことを専門の用途とする、通称“聴き専”のユーザーたちだ。

例えば、Clubhouseの規約には、スピーカーによる会話内容の録音や記録の禁止が明示されているのだが、規約違反の罰則はアカウント停止といったライトな措置に止められているために、利用規約が有名無実化してしまっている。

以前には藤田ニコルの発言内容が週刊誌に取り上げられたケースもあり、リリース当初は盛り上がりをみせていたトークも、だんだんと当たり障りのないものに変化していっているという。

加えて、あくまでもスピーカー同士によるコミュニケーションがメインの目的であるため、“聴き専”ユーザーからは「あまり実のある会話を聴くことができない」といった声も散見される。

たとえリスナーにとって実のあるやり取りが展開されていたとしても、アーカイブ機能が設けられていないClubhouseの特性が仇となり、たまたまその場に居合わせた人たちのみにしか共有されないのが惜しいという意見もある(もちろん、そのリアルタイム性がClubhouseにおける一つの特異性であることも事実だ)。

ある程度の閉鎖性が保たれたコミュニティ内で特定の受け手を対象とするコンテンツ様式が確立されているなか、求められるのは発信される情報の“自由性”と“ランダム性”に加えて“有意性”ではないだろうか。

そしてここに強く訴求するのが、昨年9月にローンチしたアーティスト特化型音声配信サービス「Artistspoken」だ。リスナーが1アーティストごとに月額300円を課金することで、それぞれのトークをアーカイブ形式で聴けるこの「Artistspoken」は、PerfumeやBABYMETALなどの振付でも知られるコレオグラファーMIKIKOや、『愛がなんだ』『あの頃。』などの映画作品を手がけた今泉力哉監督、お笑いコンビAマッソの加納愛子、歌手の加藤登紀子、映画『おくりびと』でも知られる脚本家で企画作家の小山薫堂、歌舞伎役者の市川弘太郎など、多岐にわたる分野で活躍するアーティストたち63名(2021年5月現在)が参加する。

“今この時代をどう感じ、何を思い生きているか?”という自由度の高いテーマが掲げられる本サービスでは、参加アーティストによる切り口もそれぞれだ。

例えばAマッソ加納は自身が出場した「THE W」準決勝の結果を待つ緊迫した心境を届けたり、加藤登紀子は自身の歌手人生や私生活についてその時々の時代観が映し出される貴重なエピソードを交えながら語る。またRIP SLYMEのPESは「瑠璃色の地球」や「君は天然色」といった本人セレクトの名曲をギターの弾き語りで聴かせるなど、多彩な内容が楽しめるところが特徴となっている。

その名の通り“アーティスト”に特化した音声サービスとなっているこの「Artistspoken」は、各界で活躍するアーティストたちだからこそ発信できるトーク内容が、情報の有意性を重視するリスナーの需要にマッチする。

また、トークテーマや配信時間さえも各アーティストに委ねられているからこそ実現する自由性の高さも、本サービスにおける重要なポイントの一つとなっている。

例えば、今泉力哉監督の「003_恋愛ものばかり作る理由」を聴くと、“恋愛に対する自身の好奇心こそがクリエイティビティの源となっている”というトークが展開される最中に「......ちょっとお客さんが来たんで、一回切りますね」という発言とともにエピソードが終了する。ここから伺える、語り手が“話したいこと”を“話したいとき”に“話したいだけ”発信できる場ならではの空気感をたたえる本サービスらしさは、気負わずマイペースな情報収集を求めるリスナーを惹きつける要素だ。

さらに、この「Artistspoken」が6月からスタートした全話聴き放題プラン(各月1200円)は、同サービスの持つ可能性をより拡張することとなるだろう。

リスナーがそれぞれ既に周知するアーティスト以外のトークにもリーチすることが可能となることで、これまで踏み込むことのなかった分野で活躍するアーティストの思考に触れる機会が設けられるわけだ。

興味深いのは、本サービスにおいてもランダム性に富む座組によるクロストークが実現している点である。

例えば、Aマッソ加納と今泉力哉監督や、歌舞伎役者の市川弘太郎と“煽りパワポ”で知られる覆面レスラーのスーパー・ササダンゴ・マシンといった各界を飛び越えたユニークな組み合わせが創造的議論を白熱させるだけでなく、互いのトークを聴いた所感を交えることで、どこかラジオ文化を感じさせるメタ的なトーク展開を呼び寄せているところも思わぬ魅力として映る。

アーティスト同士が“越境”し合いながら、話したいことを話したいときに話したいだけ発信することで、本人たちの予想も超えるトーク展開が生じるところも、情報の“自由性”“ランダム性”“有意性”を求める今の時代の気分に寄り添っているのではないだろうか。

デジタルコンテンツの豊穣とともに起こる新たなニーズへ応えるべく、多様なプラットフォームが誕生している。“情報爆発時代”とも言われる現代において、発信者にも受信者にもなり得る私たちも各自に合ったプラットフォームの選択が要求されるだろう。

(菅原史稀)

著者の過去記事はコチラ→菅原史稀

当記事はwezzyの提供記事です。

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