『女たち』が女優たちの“演技バトル”ほとばしる映画になった理由/奥山和由インタビュー

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6月1日より、篠原ゆき子主演映画『女たち』(監督:内田伸輝)が公開される。

『女たち』は、母の介護、恋人の裏切り、友人の死、失業などが重なり閉塞感に喘ぐ主人公・香織を演じた篠原をはじめ、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズといった女性出演者たちの鬼気迫る演技が魅力的な映画である。

この演技はどうやって引き出されたのか。その秘密を『女たち』でプロデューサーを務めた奥山和由氏に聞いた。

奥山和由
1954年生まれ。映画プロデューサー・映画監督。『ハチ公物語』『226』(監督:五社英雄)、『その男、凶暴につき』(監督:北野武)などヒット作多数。1997年に製作をした『うなぎ』(監督:今村昌平)では、第50回カンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞した。『RAMPO』『熱狂宣言』といった作品では自ら監督も担当している。2019年には映画史・時代劇研究家の春日太一氏によるインタビュー本『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』(文藝春秋)が出版され話題を呼んだ。

ーー『女たち』は出演している俳優たちの“演技バトル”が印象的な映画だと思いました。

『女たち』は、出演している女性たちが活き活きとする構成にしたいと思っていたので、まさにそれが狙い通りでした。

内田伸輝監督は一風変わった監督で、映画監督には珍しく強引なところがない。「絶対こうやってください!」といった演出はせず、まわりの意見にも耳を傾ける人なんです。

だから、篠原さんにも「自分の主演映画なんだし、内田監督は俳優の要望も受け入れてくれる監督なんだから、どんどん話して、脚本づくりに入りなさい」と指示を出していました。

ーー演者が映画づくりの初期段階から関わっていたんですね。

この映画が生まれた発端は、「篠原ゆき子を主演に据えて、女性の観客を想定した、女性たちの群像劇をつくろう」という企画に、もともと内田監督が温めていた養蜂場を舞台にした物語を組み合わせたところから始まりました。

“養蜂場”という舞台設定が面白いと思ったんですよね。ミツバチって、オス蜂はたいして働かず交尾ぐらいしか役割がない。だから働き蜂からは疎まれた末に巣から追い出されて死んでしまったりする。

そんな蜂たちの社会が、いまの日本社会にオーバーラップするなと思ったんです。男たちがダメになってしまったいまの日本社会と、オスが機能しているようで機能していないミツバチの社会は似ている、と。

ーーなるほど。

ただ、脚本づくりは難航しました。改稿を重ねてもいっこうに面白くならない。

そんなこんなで足踏みをしている間にコロナがやって来て映画業界は危機的な状況となり、制作費を圧縮しなければならないという話まで出てきた。

もう、篠原さんが「やめる」と言ったら、この企画をやめてもいいとさえ思ったんだけど、篠原さんはあくまで映画を実現させようと頑張っている。だから、やめるわけにはいかないが、打開策は見えない──そこでスイッチを押してくれたのが倉科カナさんだったんです。

ーー倉科さんは、篠原さん演じる美咲の親友・香織を演じています。

倉科さんをキャスティングしたのは本当に偶然で。去年の2月、コロナで全公演が中止になってしまった彼女の主演舞台『お勢、断行』のゲネプロ(本番前に行われる通し稽古)を観に行ったんです。

この舞台はゲネプロを1回やっただけで終わりだったんです。にも関わらず現場でつらい顔を見せず頑張る倉科さんの姿を見て、思わず「ちょうど探している役があるんだけど、出ない? 1日か2日で済む役なんだけど」と言ってしまった。

小さな役だし、舞台が中止になってスケジュールが空いていたとしても断るだろうと思って言ったんだけど、驚いたことに倉科さんからはふたつ返事で「やらせてもらいます」という返事が戻ってきた。しかも、脚本を読んで、「髪をバッサリ切っていいですか?」とまで言ってきたんです。

ーーショートカットになったのは、倉科さんからの提案だったんですね。

この役のために切るの?と、びっくりですよ。

もともとの脚本は、倉科さん演じる香織は出番も少なく、キャラクターの設定もしっかりしているような役ではなかったんだけど、彼女は「長い髪のまま演じるのはイメージが違う。香織は女に生まれたことを恨んでいるような役だと感じるから」と言ってきた。

倉科さんは脚本に書き込んでいなかった設定をいろいろと考えてくれて、キャラクターを活き活きとしたものに変えてくれたんです。

ーー映画づくりの現場には、そんなこともあるんですね。

倉科さんの一件を経て、思ったんです。『女たち』は女性の観客を想定した女性たちの物語だけれど、それを我々のような男が勝手に解釈して「分かった振り」をするのが一番最悪だと。

それで、演じる女優さんたちに「自分で考えて」と託すことにしたんです。キャラクターの生い立ちも、どうしてそういう行動に至ったのかも、すべて脚本ではなく、自分の内側にあるもので進めてほしいと指示を出した。

それは倉科さんだけでなく、主人公(美咲)の母を演じた高畑淳子さんに対してもそう。

たとえば、本読み(稽古前に監督や脚本家などが台本を読んで、出演者に意図を伝える作業)の時に高畑さんから「どう演じていいか分からない」と言われたことがありました。

普通はそういったとき、細かく意図を伝えて演出するんだけど、このときは「韓国ドラマに出てくる最悪な鬼母」というざっくりとしたキーワードだけ伝えて、「あとは自分で演出してください」とお願いしたんです。

ーー高畑さんの鬼気迫る演技にはそんな背景が……。

高畑さん演じる美津子は、身体を動かすことや話すことが不自由な役だけれども、高畑さんが「手をうまく動かせない人はこうやって封筒を切るだろう」と自分からアイデアを出し、どんどん演出してくれました。高畑さんのこの映画への貢献は演技だけではありません。メイクや服も自前だったし、そうめんが入っている木箱の蓋まで家からもってきてくれたんです。

この映画が観客の心を動かすものになっているのだとすれば、それはもう完全に、演じている女優さんたちのすさまじいエネルギーがそうさせたのだと思います。

ーー韓国映画・ドラマが世界中で高い人気・評価を得るなか、日本の実写映画は水をあけられてしまっています。その原因はどこにあると思われますか?

いまの日本映画界には、明らかに作り手の「無力化」があると思います。

たとえば、日本では『パラサイト 半地下の家族』(2019年)みたいなものも、『ミナリ』(2020年)みたいなものもつくれないでしょう。

それはなぜかといえば、日本の映画の作り手たちが、ぶつかり合いを避けるからですよ。

ーーぶつかり合いですか。

たとえば、『女たち』にコメントを寄せてくれた伊藤詩織さん。彼女の性被害告発をテーマに踏み込んで迫ったドキュメンタリー『Japan’s Secret Shame』(2018年6月放送/BBC)は大変話題になりましたけど、これをつくったのは日本ではなくイギリスのテレビ局だったわけじゃないですか。

自分たちの国・社会で起きていることなのにも関わらず、そうした映画をつくらない──そもそもお上に楯突くと思われそうなものは企画会議の俎上にもあげない──その理由は、「権力への忖度の結果生じた表現媒体の自主検閲」だったりする。自由表現が強みの映画すら、です。

こんなことは他の国ではあり得ないわでけすよ。2021年9月に日本公開が予定されているジョニー・デップ主演映画『MINAMATA』も本来なら日本人が発案すべきものです。

ーーそこが、韓国映画界と日本映画界の違いですか。

韓国社会には、不正に対して命がけでぶつかっていく、良い意味で向こう見ずな“バカな作り手”がたくさんいるじゃないですか。

国民性なのか、教育によるものなのかは分からないけれども、韓国の人たちは、庶民が権力に対して破れかぶれの主張をムチャクチャしますよね。人間としての根源に触れる主張は、たとえ強者を相手にしたとしてもゆずらない。その結果、向こうではちょくちょく政治家が吊るし上げられているわけです。

一方、日本にはそういったところがないですよね。それどころか、「勝ち組・負け組」といった言葉が象徴するように、卑怯なことをしてでも勝つことをリアルな是とする価値観すらある。

おいしい思いをするためには余計なことはせずに大人しくして社会に迎合し、権力には逆らわずに生きていった方がいい──日本ではそんな考え方があらゆる表現媒体をはじめ、社会全体に広がってしまった。

ーー本当にそうですね。

主張することが合っているか間違っているかはともかく、忖度で押し込めたりせず、まずは世にきちんとした表現で発信すること。それが大事だと思います。

もしも出した意見に対して反論の声が出てきたら、議論を戦わせればいい。そうやって切磋琢磨していくことで鍛えられ、「表現力」というものは育っていくんです。

いまの日本の状況は、社会に対して問題提起を投げかけたり批判したりする主張がそもそも世に出ないから、それに対する反論も出て来なくて、議論も起きない。その結果として、どんどん表現力がなくなっている。無気力化していく。

どうしたらこの状況を打破できるのか──そのためには、表現に関わる人間が、自分の身を守ることだけを考えるのはなく、自分はどう思っているのか、感じているのかをシンプルに主張するようにならないとダメなんだと思います。

(取材、構成:WEZZY編集部、撮影:細谷聡)

『女たち』
6月1日(火)TOHOシネマズシャンテ他全国公開!!
配給:シネメディア、チームオクヤマ

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