オリンピックは儲からない。それでも開催するべき理由 飯田泰之×猫組長

日刊SPA!

3度目の緊急事態宣言下、五輪が2か月後に迫るなか、ゲームチェンジャーとして期待の高まるワクチン接種は一向に進まない……。日本を広く覆うこの閉塞感を打破する術はないのか? 元経済ヤクザと気鋭の経済学者による緊急対談を実施した。

◆オリンピックは儲からない。それでも開催するべき理由

ワクチン接種の遅れで、日本ではコロナ不況の長期化が懸念される。一方、株価は好調で、持てる者と持たざる者の差は広がるばかり。先進国のなかでも“独り負け”の様相を呈している日本が、V字回復する道はあるのか? 早い梅雨を予感させる5月中旬、対談は行われた。

猫組長:コロナ禍における菅内閣の経済対策ですが、規模自体は世界最大級ですよね。先生はここまでどう評価されていますか。

飯田:人口比で見たら、財政出動規模は世界トップクラス。でも広く浅くカネをバラまいただけで、あまり効果を生んでいない。結局、10万円の特別定額給付金は、消費には1~2割程度しか回っておらず、経済対策としての実効性は乏しかった。収入が急減した人の家賃やローン支払いの決済政策としては有効でしたが、景気刺激策としては非効率的と言わざるを得ないでしょう。

猫組長:本当にお金が必要な人に届いていない。

飯田:そうです。’08年のリーマンショックはある程度広く経済にダメージを与えましたが、コロナショックは違う。飲食や観光業、アパレル業界など、2割の人を地獄に叩き落としたけれど、残り8割の人はそれほど大きなダメージは受けていない。2割を救うため、対象を絞った政策が必要なんです。

猫組長:今後はわからないけれど、確かに現状はそうですね。

◆GoToは時期が悪すぎた

飯田:一方、非難ごうごうだったGo To事業は、経済対策としては非常によくできていた。トラベルの場合で言うと半額補助ですから、1億使えば、単純に倍の2億円の経済効果が生じるわけです。

猫組長:ただ、Go Toの場合、やった時期が悪すぎた。そのへんも含めて菅政権の打つ政策はどれも中途半端なものばかり。なぜそうなるのか。

飯田:ひと言でいえば、まだ総選挙で勝ったことのない弱い政権だから。これは昨年9月、総理に選出された時点で即解散総選挙に打って出なかったことに尽きます。

猫組長:政権発足時の支持率が歴代3位の74%。あのタイミングだったら確実に自民党は圧勝できたし、そうなれば菅首相は、安倍前首相のように絶大なパワーを握ることができたでしょう。

飯田:それができなかったから、周囲の顔色を窺って、反対が出にくい政策ばかりを選ぶようになってしまった。

◆景気回復も五輪もコロナ収束が大前提

猫組長:なるほど、それは納得ですね。金融政策はどうでしょうか。日銀によるゼロ金利政策と株の買い支えによって、日経平均は3万円台を一時回復。米国NYダウ平均も過去最高値を更新しています。

飯田:今がバブル的な状況かというと、そこまでではないというのが私の見方です。国債利回りがゼロ%の現状で、日経平均のPER(株価収益率)の逆数、つまり株式益利回りは4%台。この差が3%を切ってくると、ちょっと不安になりますが……バブル期の1%と比べたら、まだまだ健全な数値です。でも、実際にプレーヤーとして市場に参加している猫組長さんは、どうお考えなのでしょうか。

猫組長:僕ら投資家の目線から見れば、明らかにバブルです。超金融緩和バブルと言っていい。米国ではGDPの25%、日本でも15%もの経済政策が行われ、そのカネが株式市場に大量に流れ込んだ結果の株高であって、実体経済とは大きく乖離しているのは明らかです。

5月7日に公表された米国の雇用統計は予想をはるかに下回っていたのに、金融緩和や手厚い失業補償が続く期待から株価は上昇。「悪いニュースは良いニュース」と捉えられてしまう。あり得ない状況ですが、これが永遠に続くわけはない。

すでに米国ではインフレ懸念が見え始めている。インフレを抑制するには金利を上げるしかない。そうなれば一気に今のバブルは弾けますよ。

飯田:世界各国はリーマンショックの経験から、金融システムを安定させるためにはいくらでも公的資金を注ぎ込むようになった。そのため金融危機型のクラッシュはないかもしれません。ただ、コロナの影響を強く受ける中小企業経営者のような“中金持ち”が没落すると、ゆっくりと大企業の業績も落ち込んでいく。だからこそ、経済対策はピンポイントでやらなきゃならないと言っているんです。

猫組長:あまりいいたとえではないですが、“地雷”と一緒。致命傷を与えずに、多くの戦闘力を奪っていく。いつかツケは払わなければならない。いずれにしても、景気回復も五輪もコロナ収束が大前提。しかし、日本はワクチン接種がなかなか進まない。

◆東京五輪は開催一択?そしてコロナ後の世界

飯田:これもおかしな話で、日本はワクチンがあるのに、打つ人が足りない。自衛隊の医官を使うそうですが、一般の自衛官も動員すれば済む話じゃないですか。イギリスでは医療資格のないボランティアがオンラインの簡単な講習を受け、ワクチンを打っています。やろうと思えば、日本でもできるんです。

猫組長:薬物中毒者でも静脈注射が打てる。まして筋肉注射なんて難しいものじゃない(笑)。この非常事態にどうして超法規的措置が取れないのか。ワクチン接種の遅れで五輪反対の声は日に日に高まってきて、あれだけ強気だったIOCのバッハ会長までひよってきた。

飯田:経済効果からいえば、五輪は開催しようがしまいが同じです。五輪の経済効果って、ほとんどが準備段階で終わってしまう。すでに国は五輪関連で1兆7000億円ものカネを投じ、道路やスタジアムなどのインフラ整備を終えています。それにコロナ前は首都圏のホテル充足率は、常に9割を超えていて、インバウンド需要の追加効果も限定的でした。現代の五輪は儲からない。

僕は五輪賛成派ですが、それは先進国のノブレス・オブリージュみたいなものだから。何十年かに一度ぐらい世界のスポーツ文化に投げ銭しろ、という意味です(笑)。

◆絶望の中だからこそ見える光明

猫組長:経済効果だけを考えればまさにそうでしょうね。ただ僕は、ここまで来てしまったら、中止という選択肢はあり得ないと思う。昨年の早い段階で「損切り」を決めたなら意味はあったけど、アスリートやスポンサー企業をここまで待たせた揚げ句の中止では、国の信用も吹っ飛んでしまいます。なにより選手のために開催してほしい。池江璃花子選手のように、みなオリンピックを希望に生きているのだから。

飯田:感染リスクを考えれば、無観客開催の一択でしょうね。

猫組長:なんかお先真っ暗な話ばかりになってきたけど、絶望の中だからこそ見える光明っていうのも、僕はあると思う。アフターコロナの世界は、言うなれば戦後の焼け野原。これまでの既得権益が淘汰され、新しいチャンスがいっぱい芽吹く。だから、幸せのために、もっと図々しく生きてもらいたい。

困窮しているのに、真面目に融資を申請した人がお金を借りられなかった話をよく聞きます。書類にウソを書いてはいけないけど、そこは少々、少々ね(笑)。詐欺は絶対にダメだけど、借りられるものは借りて、もらえるものはもらわないと。悪いヤツらは本当にたくましい。闇市から再出発するためにも、そこだけは見習ってもいいと思う。

飯田:実際、コロナが収束したら、政府はスタートアップ融資枠や再起業のための補助金を手厚くするでしょう。そのときは新しくビジネスを始めるにはチャンスですね。

【投資家・猫組長】

神戸市生まれ。元山口組系二次団体幹部。若くして反社会組織に身を投じ、仕手戦やインサイダー取引を経験。今年4月には新刊『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 コロナ後の幸福論』(扶桑社)を出版

【経済学者・飯田泰之】

1975年、東京都生まれ。明治大学政治経済学部准教授。専門はマクロ経済学、経済政策、日本経済論。内閣府規制改革推進会議委員。著書は『経済学講義』(ちくま新書)、『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)など多数

<取材・文/根本直樹 撮影/山野一真>

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ