夫の帰宅が近づくと動悸が…これってDV? 覚えておきたい「DV加害者」の常套句【臨床心理士が解説】

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叱責されても仕方がない。家事も育児も完璧にできない私が悪い。自分の意見は聞いてもらえない。夫の帰宅時間になると動悸がして落ち着かない。思い当たることがある人は、モラハラ被害を受けているかもしれません。

モラハラは精神的DV

「これってDVなのでしょうか?」

初回の相談の中で、よく聞かれる質問です。

配偶者や恋人など親密な関係性の中で起きる暴力を「DV(ドメスティックバイオレンス)」といいますが、殴る蹴るなどの身体的暴力がないDVの場合、DVかどうかの判断がつきにくいようです。

手を上げられたことも、怪我をさせられたこともない。自分も悪かったので、怒られるのは仕方がない。でも、夫との関係がとてもしんどい。そんなふうに感じる自分はおかしいのだろうか。そんな疑問を抱えて相談に来られます。

モラルハラスメントという言葉があります。略して「モラハラ」。相手を精神的に傷つけるための、言葉や態度による加害行為のことを指します。それが夫婦間で行われると「精神的DV」となります。

「モラハラ」という言葉の普及によって、「それって、モラハラじゃない?」と、周囲の人が気付くことが増えてきました。しかし、加害者も被害者もそれがDVであるということに気付きにくいのが、モラハラの特徴です。

「夫の顔色をうかがう」のはモラハラ被害のサイン

怒鳴られたり、物を投げたり壊したり、「バカ」「死ね」といった人格を否定するような暴言や罵倒は、比較的わかりやすい精神的DVです。しかし、モラハラは「お前には常識がない」とか「そんなこともわからないのか」といった否定の仕方をするため、被害者は「自分が悪い」「自分がおかしいのだ」と思わされてしまうのです。夫の「自分基準」を押し付けられて、一方的に責められるのがモラハラです。

ここ最近、とても増えていると感じるのが「長時間の説教」です。コロナ禍で夫婦が顔を合わせる時間が増えていることとも関係しているのでしょう。

自由に外出できなくなったストレスを発散するために、あるいは、将来への不安を紛らわせるために、妻をネチネチと説教するDV夫が増えています。「至らない妻」を「指導」してやっている、と、自分が上に立つことで、なけなしの自尊心を回復しようとしているのかもしれません。

モラハラ被害を受けている妻は、常に緊張し、夫の機嫌を気にして、顔色をうかがっています。夫にとっての「正しい行動」を求められ、それから少しでも外れると激しく罵られるため、「夫の目線が窓枠にとまっただけで動悸がする」といったことが起きてきます。掃除が行き届いていないと責められるのではないかと不安になってしまうのです。

日常の中に組み込まれていくモラハラ

家庭内には、それぞれルールやしきたりがあります。例えば「目玉焼きには醤油」という家もあれば、ソースや塩コショウ、ケチャップをかける家もあります。しかし、それは何かの拍子に話題にならない限り、他人には話しません。それが当たり前だと思っているから、わざわざ人に話そうとは思わないからです。

結婚した当初であれば「うちの夫、目玉焼きにタバスコかけるのよね」と自ら話題にするかもしれません。しかし、変わってるなと思っても、周りに話せる人や機会がないままそれに慣れてしまうと、目玉焼きのタバスコは日常の中に組み込まれていき、それほど変なことだとは思わなくなります。それと似たようなところが、モラハラにはあるのです。

なお、夫がタバスコを目玉焼きにかけて食べること自体は個人の自由ですので、問題でも何でもありません。しかし、タバスコを切らすと罵倒されたり、不機嫌になって何日も口をきかなかったり、辛いのが苦手な妻にタバスコを強要するのはDVです。

モラハラはエスカレートしていく

モラハラの背景には「タバスコを常備しておくのは妻の役目だ」といった性別役割分業意識があります。そうした価値観が夫のみならず妻の側にもあった場合、「タバスコを切らした私が悪い」と、被害者が自分を責めることにつながります。

「俺を怒らせたお前が悪い」というのは、DV加害者の常套句です。いい大人なんだから自分の感情のコントロールくらい自分でしろよ、と思いますが、DV夫は「妻に気持ちをケアしてもらって当然」だと思っています。幼い頃、母が自分にしてくれたように。

家庭内でのモラハラは、夫が「妻の役割」だと思っている家事や子育てにおいて「ケチをつける」という形で始まることが多く、ほとんどの場合エスカレートしていきます。

長時間の説教は「精神的DV」のみならず「身体的DV」でもあり、心身ともに疲弊します。明日に備えて早く寝たいこともあるでしょうし、子どもへの影響も考えます。

そのため、被害者の多くは、加害者の言い分が理不尽だと思って反論しても意見は通らないため「私が悪かった」と自分が悪いことにして説教を終わらせようとします。反論すればするほど痛めつけられ、言い方を間違えても説教が長引くため、 夫の言い分を呑んで謝るのです。

しかし、それは更なるエスカレートに繋がってしまいます。妻が不本意ながら折れたことなのに、夫は「妻が謝ったのだから、やはり自分が正しかった」と、自分の正当性を担保する既成事実にするからです。

より完璧な家事を求められるようになるほか、反省文を書かされたり、一日の行動の詳細を記録させられたりといった強い抑圧に発展することも少なくありません。妻が頑張れば頑張るほど、夫の「当たり前」の基準が上がり、モラハラはエスカレートしていくのです。減点方式で評価されるため、どんなに頑張っても感謝されることはありません。

モラハラが自覚されにくい理由

長時間の説教や罵倒、物に当たるなどの精神的DVは、身体的な不調に繋がることが少なくありません。恐怖により身体が緊張したり硬直したりするために、身体の痛みやだるさが残り、回復には時間を要します。身体が弱ると心も弱り、自分の感覚に自信が持てなくなって、夫の言うように自分が悪いのだと思えてきます。

一方、加害者は翌日には何もなかったかのように接してくることが多いようです。「ダメな妻に迷惑をかけられた俺こそが被害者」だと思っており、妻を傷つけたという自覚はありません。「これくらいで許してやった俺は心が広い」くらいに思っています。

加害者が自分を「被害者」だと思い、被害者が自分を「加害者」だと思うという、加害/被害の逆転が起こるのがモラハラの特徴で、それゆえに当事者は自覚しにくいのです。

自分の意見は聞き入れられない。夫の主張をいつも受け入れているけれど、「どこかおかしい」と感じたり、ザラリとした感触が残るようであれば、「これってDVですか?」と相談機関で専門家の意見を聞いてほしいと思います。

「精神的DV」も通報や保護の対象に

これまで、DV防止法による保護命令の対象は、身体的DVの被害者のみに限られてきました。精神的DVでどれだけ追いつめられていても、身体的暴力がなく命に危険がないと見なされれば、緊急一時保護や、加害者に接近禁止などを命じる保護命令の対象にならなかったのです。

しかし、2021年3月、内閣府の「女性に対する暴力に関する専門調査会」は、身体的DVのみならず、精神的DVや性的DVにも通報や保護命令の対象を拡大すべきだという報告書をまとめ、DV防止法の改正を視野に検討を進める方針を打ち出しました。

身体的な暴力のあるなしに関わらず、精神的DVは被害者を追いつめていきます。夫に恐怖や息苦しさを感じながら「殴られていないからDVじゃない」と相談をあきらめてきた人も、地域のDV相談にまずは電話をしてほしいと思います。

地域の相談機関がうまく検索できなかったり、相談してもうまくいかなかった時は、DV相談プラス(0120-279-889・つなぐはやく)や、よりそいホットライン(0120-279-338・つなぐささえる)に相談してみましょう。いずれも24時間対応、無料です。
(文:福田 由紀子(臨床心理士/メンタルケア・子育てガイド))

当記事はAll Aboutの提供記事です。

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