「自分をごまかさずなりたい自分になるために自分の声を使うことほど大切なことはない」ケイト・ウィンスレット『アンモナイトの目覚め』インタビュー

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1840年代のイギリスという男性優位の社会で、労働者階級ながら独学で学び、大英博物館に陳列されるほどの化石を発掘した実在の古生物学者メアリー・アニングをインスピレーション源に、『ゴッズ・オウン・カントリー』のフランシス・リー監督がその愛を描いた『アンモナイトの目覚め』。男性たちに功績をかき消され貧しい暮らしを続けながらもプロフェッショナルな仕事と独立した生き方に誇りをもつメアリーをケイト・ウィンスレット、彼女の感情を揺り動かし自らも大きく変貌を遂げる裕福な夫人シャーロットをシアーシャ・ローナンが演じ、抑えても迸る互いへの想いを表情から身体の動きに至るまでの緻密な機微で魅せた。互いに惹かれ合う二人の姿を追う中、私たちは当時女性たちの独立がいかに難しく、足かせをつけられていたかをも目にすることになる。

ーーまず、メアリーという実在の人物を演じるにあたり、このキャラクターをどのように捉えていたか教えてください。

ケイト「貧しい家に生まれたメアリーは、生涯を通じてとてもストイックな人でした。意志が強く頑固で、決して自分を曲げず、自分を変えることを頑なに拒否した人。強くて知性があって優れた人物です。彼女は学校に通う余裕がなく、日曜学校で読み書きを覚え、父親から化石発掘を教わったのです。10歳で父親を亡くし、13歳でイクチオサウルスを発掘しました。メアリーは探求心が強くとても幅広い知識を持っていました。貧しい家に生まれ学校へ行けなかったメアリーが偉大な科学者になる可能性は、極めて低かった。でも彼女には独学できる能力があり、生涯学び続けたんです。本当に称賛に値する資質の持ち主です。彼女は男性優位の階級社会の中で生きていて、科学界からは認められず隅に追いやられており、彼女の功績や大発見の数々は無視はされなかったけれど男性科学者たちに奪われていました。彼らは、メアリーの発見の大部分を自分の手柄にしたんです。また、メアリーはとても親切で情け深い人でもありました。私生活に関する文献が少なく分からないことが多いけど、化石で稼いだお金は全部母親に渡して家計を支えながら、わずかな私財を貧しい人々に施していました。それに彼女が発見していたのは、実は化石だけではなかったんです。密輸業者が海岸や洞窟に隠した密輸品を見つけることもありました。当時は密輸品を見つけたら当局に引き渡す決まりでしたが、メアリーは別の場所に隠し直して、自分も貧困に苦しんでいるのに自分より貧しい人々に譲ったんです。メアリーという人を読み解くのにこの情報がとても役立ちました。わずかな私財を人に施すなんて、誰にでもできることではないから」





ーーフランシス・リー監督はスタンドやボディダブルなどを使用しないことでも知られていますが、役作りについてどのようなことを試みましたか。

ケイト「役作りのために新しい技術や技能を学ぶことはよくあるけど、まさか化石採集を習うとは思いませんでした。いまではあなたをライム・レジスに連れて行ってレクチャーできるくらいの腕前になっています。ごく基本的な手法ですけどね。メアリーにとっては身体に染み込んでいる作業ですから、ボディダブルを使わずに撮影するために技能の習得は重要だったんです。ライム・レジスの化石専門家パティ・ハウがユーモアを交えながら指導してくれました。来る日も来る日も海岸で化石が入っていそうな石を打ち砕いて、化石採集を習得しました。博物館の協力もとてもありがたかった。メアリーの自筆の文、それも日々の出来事を記した日記ではなくて、感じたり考えたりしたことを記述したものが所蔵されているんですが、博物館の厚意で閲覧することができたんです。ライム・レジスの町にも助けられました。1800年代初頭と比べると町自体は大きく変化したけど、雰囲気や連帯意識は変わっていません。全員が知り合いのような町でメアリーは町の誇り。撮影前に滞在した3週間は役作りに大いに役立ちました。さらに重要だったのが衣装。ウィッグを被り、衣装を着て初めて本当の意味でメアリーの気持ちになれました。衣装は役作りの上で非常に重要な要素でした。けれど身体の動きを作るのはとても難しかったです。メアリーは冷静沈着で感情を抑え込むタイプだけど、素の私は声が大きく活発で、動き回るタイプ。だからフランシス(・リー監督)は私を身体から変えました。シーンに合った身体の動きやエネルギーレベルを把握し、私を静めてくれました。撮影中は1日のほとんどを動作、呼吸、発話のリズムを抑えて過ごしていました。より静かで親密なシーンであればあるほど私には難しかったんです。意思疎通に焦点を当てたシーンなので、表情や視線のわずかな動きで感情を伝えなければなりません。当時は異性間の恋愛しか認識されてなくて、同性間の関係や恋愛感情はひた隠しにされていました。内に秘めた愛を表現するのが私にはとても難しくて。でも新しいことを学ぶのはとても面白かった」

ーーシャーロットとメアリーの関係や感情の変化が本作の鍵ですが、二人の関係についてはどのように捉えていましたか。

ケイト「シャーロットの世界に、夫を持たず独りで生きる強い女性はいなかったんです。だからメアリーに触発され、尊敬の念を抱いた。女性が養ってくれる夫を持たず、自分の力だけで生きている。それどころか母親を養い、かつては一家をも養っていた。そんなメアリーを見てシャーロットはひらめくんです。“私もあんなふうになれるかもしれない”“あんなふうに強く生きられるかもしれない”と。メアリーにとってシャーロットは美しくて可憐で魅力的な女性。そしてメアリー自身はその対極にいる女性です。手は節くれだって荒れ放題だし、鏡を見ることも髪をとかすことも滅多にない。入浴だって立ったままキッチンの桶で済ませる。だから香水の香りを漂わせ、上質なドレスに身を包んだシャーロットの何もかもがとても魅力的に見えるんです。メアリーが生きているのは香水とは無縁の世界。シャーロットの行く先々に漂ううっとりするような香りが、メアリーにはとても新鮮に感じられたんだと思います。シャーロットはメアリーにふさわしくあろうとするんですが、そこにこそフランシス(・リー監督)はこだわりました。メアリーは類いまれな歴史的人物だから、メアリーの恋愛関係を描くならメアリーの偉大さにふさわしい、敬意のある平等な関係でなければならない。最初は正反対だった2人が最後には対等になるんです。同時に、メアリーの感情も大きく変化していきます。これほど感情の振れ幅が大きな役を演じたのは本当に久しぶりで、物語の初めと終わりでは感情面では別人になります。でも精神面は変わらない。感情と精神は別物ですから。物語の初めのメアリーは疲れ果てています。貧しい暮らしにうんざりし、病気の母親へのいら立ちを日に日に募らせている。威張り散らす人を世話するのは、たとえ愛する母親であっても本当に大変なことだと思います。仕事に対してもやや落胆している。映画の冒頭で寒い海岸へ向かうのですが、その時のメアリーの足取りはとても重いんです。やる気は徐々にそがれ、体も昔のようには動かなくなった。20代の頃のような気力もおそらくもうない。いろいろなことに対して心を完全に閉ざしていて、人生でいいことは起こらないと思ってる。ところがシャーロットが現れ、メアリーの中に彼女への愛情が芽生える。最初は、愚かでしゃくに障る上流階級の女の世話なんて絶対にごめんだと思っていたけど、知らないうちにシャーロットの見方がどんどん変わっていって尊敬の念を抱くようになります。住んでいた世界は全然違うけど、実際には多くの意味で2人には共通点が多いんです。2人とも愛に飢えていて、理由は違えど自分の世界に囚われている。メアリーに経済的余裕があれば、町を出られて世界が広がって、別の人生があったかもしれない。でも自由に使えるお金を持ったことがない。一方でシャーロットはお金に縛られて、身動きが取れず衰弱している。夫に“飼われている”だけの声なきか弱い妻。そんなシャーロットの活力をメアリーが引き出し、シャーロットは本当の自分を知る。メアリーに出会わなければ知らずに終わっていたんです。これはすごいことですよね」





ーーシャーロット役のシアーシャとの共演はいかがでしたか。

ケイト「シアーシャとの共演はとても気持ちがよくて楽しく、そして大変でした。あまりに上手だから。私たちはとてもよく協力し合って仕事をしました。でも役への取り組み方は意外にもまったく違って、彼女は瞬間を大切にするんです。メアリーは動きが最小限なので感情を表現するのに的確な表情を導き出す必要がありました。自由奔放なイメージは私のほうが強いと思うけど、本作では抑圧から解放されるシャーロットをシアーシャが見事に演じています。私たちは敬愛し合っていて、その気持ちをカメラの前で隠す必要がありませんでした。メアリーとシャーロットを彼女と演じてとても力づけられました。役からこんなに力をもらったのは初めてです。彼女が25歳、私が43歳と、私が年上なことで生まれる関係性もとても好きでした。シアーシャとの共有体験も役に反映できたし、単純にシアーシャよりも生きてきた時間が長いことが役立つこともありました。メアリーとシャーロットには母と娘のような側面もあり、実生活で母親であることが大いに役に立ちました。相手役には自然と気を配るようになるものだけど、私たちは進んで支え合ったんです。本当にすばらしい経験でした」

ーーいま、メアリーを描く意義に関してどう考えていますか。

ケイト「時代が求めている物語だと思います。いま、女性全体がかつてないほど他の女性への関心を高めています。私たちが関心を持っているのは見た目や気分ではなく、女性が持つ“声”。女性の発言力が強くなればなるほど私たちは一体感をより強く社会で示すことができる。歴史上の偉大な女性が多ければ多いほど、女性が鼓舞され、結束が強まる。女性が支え合い、励まし合い、刺激し合えるコミュニティーがこれまで以上に求められています。私たち女性は本当に長い間批判の対象だったし、それは今でも変わりません。服装、髪型、働き方、私たちの選択は常に疑問視され、その度に弁明しなければならない。私たちはいまも社会規範に苦しめられているのです。だからこそいま、歴史的な偉業を成し遂げた女性の存在が大切です。社会規範を打ち破ってくれるキャラクターに魅力を感じるし、演じたいと思います。だって、女性の歴史の新章が開いたのだから。#MeTooに端を発し、女性を取り巻く環境は確実に向上しています。メアリーのような女性がいるからこそ、女性は声を上げ、議論を促し、影響力を発揮しようと思えるのです。メアリーは従順なタイプではないし、誰かに支配されることもない。さまざまな運命を受け入れたけど同時に諦めませんでした。自分をごまかさず、ありのまま自分に正直に生き続け、自分の存在を一切否定しなかった。これこそが女性全員が持つべき資質。今回メアリー・アニングを演じて、経験したことがないほどインスピレーションをもらいました。この役を演じることができて本当に光栄に思います」





ーー社会規範を打ち破るメアリーというキャラクターに感化され、気づいたことはありますか?

ケイト「本作でシアーシャと親密なシーンを撮影していた時、あることに気づいて自分に腹が立ちました。親密なシーンならそれ以前にも経験があったけど、ほとんどの相手役は男性で何の違和感もありませんでした。だけど突然気づいてしまった。男性が相手の親密なシーンだと、おのずとある力関係が働くんです。“舵を取りシーンを先導するのは男性キャラクターで、女性キャラクターはそれに身を任せるものだ”と初めから決めてかかってしまうんです。私はその立場に甘んじ、そのことに疑問すら抱いてきませんでした。だけどシアーシャと完全に対等になった瞬間に怒りが湧いてきました。“男性共演者に対して自分が対等だとなぜ思わなかったのか”とね。残念ながらそれが今の社会の現実で、私たちはもっと声高に“女性と男性は対等であるべきだ”と言うべきなんです。北欧諸国はとっくに理解してるのに、なぜ私たちは遅れてるんだろう? 今こそ、本作のような社会規範から脱却した女性の物語が必要。そして私たち俳優、監督、製作者、脚本家はそういう物語を伝えることが許されています。これは一過性のブームではなく、今やムーブメントです。映画はムーブメントの決定的な役割を担っていて、女性たちが声を上げ続ける後押しをしています。本作のような物語を、嘘偽りなく感情豊かに紡いでいくことが重要です。もう1つ、自分に愕然とする出来事がありました。アレック・セカレアヌ演じる地元の医師とのシーンです。彼はすばらしい医師でとても紳士的な男性で、メアリーに軽くモーションをかけるんです。その時、こんな気持ちが私の中に沸き上がってきました。“よくも私の前で軽薄な男の振る舞いをできたものだ”と。メアリーに同化しすぎて私は本気でいら立っていました。男性の見せびらかすような仕草を見て“なぜ私は今までこれを許してきたんだろう”と。女性であるとはどういうことか興味深い発見がたくさんありました。私はいつも地に足をつけ自分の意思を表現してきました。それを誇らしく思うけど、まだ出発地点に立ったに過ぎなかったんです」

ーー最後に、観客に本作からどのようなことを感じとってほしいか聞かせてください。

ケイト「メッセージを受け取ってほしいです。“どこで、どんな人生に生まれついても関係ない。可能性は無限にある。自分をごまかさずなりたい自分になるために自分の声を使うことほど大切なことはない”観客にはそう感じてほしいです」

『アンモナイトの目覚め』4月9日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国順次ロードショー https://gaga.ne.jp/ammonite/監督:フランシス・リー『ゴッズ・オウン・カントリー』 出演:ケイト・ウィンスレット『愛を読むひと』、シアーシャ・ローナン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

時は 1840 年代、舞台はイギリス南西部の海沿いの町ライム・レジス。主人公は、人間嫌いで、世間とのつながりを絶ち暮らす古生物学者メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)。かつて彼女の発掘した化石は大発見として一世を風靡し、大英博物館に展示されるに至ったが、女性であるメアリーの名はすぐに世の中から忘れ去られ、今は土産物用のアンモナイトを発掘しては細々と生計をたてている。そんな彼女は、ひょんなことから裕福な化石収集家の妻シャーロット(シアーシャ・ローナン)を 数週間預かることとなる。美しく可憐、何もかもが正反対のシャーロットに苛立ち、冷たく突き放すメアリー。だが、次第にメアリーは自分とはあまりにかけ離れたシャーロットに惹かれていき――。

R-15配給:ギャガ(C) 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

当記事はNeoLの提供記事です。

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