「ファントムの心情を掘りたい」池上直子が語る、ダンスマルシェ オペラ座の怪人『Phantom ファントム 』

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Dance Marché (ダンスマルシェ)vol.9Dance Performance ダンサー育成プロジェクト第3弾 オペラ座の怪人『Phantom ファントム』が、2021年4月15日(木)~16日(金)東京・スクエア荏原ひらつかホールにて行われる。気鋭の振付家として注目される池上直子が、ゲストと育成プロジェクトによって育てた新進を起用して取り組む意欲作。池上にダンスマルシェの来歴や育成プロジェクトの目的、オペラ座の怪人『Phantom ファントム』への意気込みを聞いた。

■ダンスマルシェ第1章を振り返って


――ダンスマルシェは2010年にスタートし、4年間で7回の公演を行いました。音楽家、映像作家、ヘアメイクアーティスト、空間デザイナーなどとのコラボレーションに積極的でした。当時を振り返っていかがですか?

がむしゃらでしたね。「ダンス×オリジナル楽曲×生演奏」にこだわっていました。スタッフも一緒になって盛り上げてくれて、勢いがあった感じがします。照明の前田文彦さんを始めとするスタッフチームが揃っていたから公演を打てたと思うんですよね。

――ご苦労された点は?

自分自身の経験がまだそこまでなかったので、次から次へといろいろなことをやるうちに、だんだんワンパターン化してしまうことでした。最後は、ちょっと飽きていたかもしれません。
『moondial~月と会話~』(2010年)
『moondial~月と会話~』(2010年)

――特に印象に残る作品は?

砂を使った『moondial~月と会話~』(2010年)や『羽音(heart)~光の幸福は・・影~』(2011年)、『テロメア』(2012年)は楽しかったですね。北沢タウンホールで2日間3回上演した『テロメア』なんかは凄く頑張って創ったので、自分でもよくやったなと思います。

――観客の反応はいかがでしたか?

続けるうちにファンが増えていく実感はありました。コラボレートしたアーティストのお客さんから広がったりして、一般のお客さんが徐々に増えたんです。「面白かったから、友だちを連れていくね!」という人たちが、今も見に来てくれます。
『テロメア』(2012年)
『テロメア』(2012年)

■ドイツでの研修、そしてダンサーとして踊り切った『Macbeth』


――2016年12月より3か月間、文化庁新進芸術家海外研修制度(特別派遣)を利用してドイツのレーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーで研修しました。当時、振付家・ダンサーの森優貴さんが芸術監督を務めていました。研修の目的は?

「振付・芸術監督」として応募して研修しました。森さんのアシスタントとして入り、準備作業から現場での作業、リハーサルまでプロダクションの全部を見せてもらいました。劇場内ではいろいろなことが同時並行で動いている様子に関われたので、とても勉強になりました。
レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーにて研修
レーゲンスブルク歌劇場ダンスカンパニーにて研修

――帰国後の2017年8月、森さんの振付作品『Macbeth』にレディ・マクベスとして出演しました。全2幕の大作を森さんと二人だけで踊りました。そのときの印象は?

1日7時間のリハーサルを死ぬほどやりました。それを何か月も繰り返していたので、本番1回の踊りが全然大変じゃなかったんですね(笑)。森さんの目指すものに私の技術力などが追い付いていないことは最初から重々分かっていました。彼の求めるものに自分をどう持っていけるか。今までの経験とかは全部捨てて、新たに挑戦していかないと絶対に無理でした。

――人生賭かっていましたよね?

賭かっていましたね! それくらいやらないと、彼の求めるものが自分のクオリティ的にも出せない。私を信じて使ってくれたので絶対に返そうと思ったし、踊り切った感があるんですね。
『Macbeth』(2017年) 撮影:松本豪
『Macbeth』(2017年) 撮影:松本豪

――当時、森さんが取材時に池上さんのことを「表現に対し真っすぐ」と評していました。

ありがたいですね。たぶん表現することが好きなんだと思います。基本的に女優体質で役に入りこむ。自分で踊っても創っても、そういうのが好きなんだと思います。

――踊り切ったことで、何か進境は変わりましたか?

舞台に立つ以上、あそこまで自分を持っていかなければいけないというのが分かったので、人前で簡単に踊ることができなくなりました。そのあと『ジョルジュ・サンドへの手紙』(2019年)を自分でやったときは大変でした。自分で創って自分で踊ることは難しいですね。
 『ジョルジュ・サンドへの手紙』(2019年) (C)bozzo
『ジョルジュ・サンドへの手紙』(2019年) (C)bozzo

■ダンサー育成プロジェクトを開始


――2019年にダンスマルシェ第2章としてダンサー育成プロジェクトを始め、同年6月に第1弾「Destiny」(『Carmen カルメン』『ジョルジュ・サンドへの手紙』)を上演しました。海外のカンパニーのように毎日のレッスン(無料)、毎日のリハーサル、交通費支給を実現して踊る環境を作り、日本で踊りに専念できる若手ダンサー育成を目指しています。立ち上げた動機は?

日本だとレッスンが無く稽古のみのリハーサルが週に何回かなので、前回の思い出しから始める感じで内容が薄くなる。それで舞台に立ってしまう。もちろん皆一生懸命やっていますが、クオリティをもっと上げられないのかなと考えました。ドイツに比べると根本的に時間と練習量が足りない。大人になってダンサーとしてではない立場から研修したので、そう思えたのでしょう。質の高い舞台を創りたいならば先に条件を作らないと難しい。レッスンで育てながらリハーサルに時間をかけられるかどうかで全然違いますね。

『Carmen カルメン』(2019年)  (C)bozzo
『Carmen カルメン』(2019年)  (C)bozzo

――そのためにクラウドファンディングも行い成立させています。

単にお金を集めるというだけでなくて、日本の若いダンサーの状況をいろんな人に知ってもらえる機会になったのではないでしょうか。それがクラウドファンディングの意義だと思うんです。「ダンサーって、こんなに大変なの?」って、皆が共感してくれたことが大きくて。

――そうした支援が実際に舞台の質の向上につながっていると思いますか?

そう思いますね。リハーサルを毎日できることも、家から遠い子もいるので電車賃を出せることも大きい。私にかかるプレッシャーも大きいですが……。
 『Carmen カルメン』(2019年) (C)bozzo
『Carmen カルメン』(2019年) (C)bozzo

■新作の題材は「オペラ座の怪人」!


――ダンサー育成プロジェクトは2020年に第2弾を予定していました。しかし感染症拡大の影響で中止になり、本年仕切り直して第3弾を行います。オペラ座の怪人『Phantom ファントム』は、ミュージカルや映画で人気の題材です。テーマに選んだ理由は?

物語のある作品を創りたいからです。私のバージョンとして広げられるので選んだんですね。実は「オペラ座の怪人」を凄く好きというわけではないんです。好きすぎると、それを忠実にやりたくなってしまうので……。そうではなくて「ファントムのこの表情が見たい!」とか、そういうふうに深めていける要素があります。私はファントムの裏の面・見えていない部分に惹かれます。なぜ彼がそうなってしまったのか、どういう経緯で闇みたいなものが生まれたのか。それは現代人にも通じるし、いまの私自身にもつながるところがあるので惹かれました。
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』フライヤー
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』フライヤー

――池上さんの考えるファントム像とは?

愛されなかった過去が、大人になってからの人格形成に影響していると思います。愛されなかったがためにこうしてしまうとか、自分の愛し方がわからないとか。ファントムは愛されてきたら、どんな人生を送ったのだろうかと。クリスティーヌに対して母親像をダブらせるような部分もあります。今日は虐待みたいな問題もあるし、そういうニュースとかも見ているから、問題提起のように心に引かかったのかもしれません。

それから子役のファントムが幻想として出てくるんです。辛かったけどちょっと希望も見えた子供時代のファントムと、今のファントムが出会うみたいな感じでファントムの心情を掘っていく。人物像を創るときに、私自身にとっても、お客さんにとっても、どこか自分と重なる部分を深堀りすることによって裏とか奥にあるものを引き出せれば。

[予告編vol.1]Dance Marché vol.9 オペラ座の怪人『Phantom -ファントム- 』

――クリスティーヌをどう描くのですか?

ファントムの心情を掘るためには、クリスティーヌの心情も掘らなければいけません。原作ではパリ・オペラ座の若手歌手ですが、ここではとあるオペラ座のダンサーという設定です。クリスティーヌ以外のダンサーはコロス的に動いたり、劇場ダンサーとして登場したりします。そこにクリスティーヌの幼なじみで支配人のラウルがいて、ラウルが一方的に彼女を愛している。クリスティーヌとラウル、周りのダンサーとの関係性は、出演者とも話をしながら創っています。1時間に収めるので、要所要所のポイントは押さえつつバサバサと切っています。人は死なないですし、大事件も起こらないです。シャンデリアも落ちません(笑)。ファントムがマスクを外す場面、最後にラウルがクリスティーヌを助けにいく場面はあります。

オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE

ーー音楽の構成はどのようになりますか?

今回はミュージカル(アンドリュー・ロイド・ウェバー版)からは2曲しか使いません。その1曲のいろいろなバージョンを聴いていると、パイプオルガンの音色がしっくりときて、そこからバッハ→チェンバロというように自然とバロック音楽を中心とした選曲になりましたね。

オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE

――ファントムが吉﨑裕哉さん(ゲスト)、クリスティーヌが松岡希美さん(ゲスト)。ラウルが戸田折さん。ダンサーが大上ののさん、冨岡瑞希さん、小泉朱音さん、後藤華歩さん、森加奈さん。それにファントム(子供)が生沼澪奈さんです。配役の狙いは?

吉﨑さんは前回の「Destiny」で上演した『Carmen カルメン』のホセ役をやってもらいましたが、いいダンサーなので今回もお願いしようと。裕哉くんがいいダンサーだという理由は、ただ踊りが上手いというだけじゃなくて、ちゃんとその人物像になれるところ。私の作品は物語が多いので、その中の人物として存在してくれるどうかが大事なのです。

松岡さんは最初に平山素子さんの作品で見ました。私は意思のあるクリスティーヌがほしかった。原作のクリスティーヌはおしとやかで、きらきらオーラいっぱい。私からすると、当時の時代が作り上げた女性像みたいなイメージがあって、そうではない今にも通じる少し強い感じのクリスティーヌ像が欲しかったんです。希美ちゃんは海外(ドイツ、スイス)のカンパニーで主役を踊ってきているだけのことがあって、意志のある踊りをする。そういうところから新たなクリスティーヌ像が見えるといいなと。

ダンサーたちにはオペラ座の地下の場面でファントムの分身になってもらったりもします。
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE
オペラ座の怪人『Phantom ファントム』リハーサル (C)DUKE

■「日本にも踊ることができる環境を!」次世代につなげたい想い


――リハーサルの手応えはいかがですか?

育成ダンサーは日に日によくなっています。それから育成プロジェクトに賛同してくれた希美ちゃんが自分の経験をシェアするように2か月間みっちりいてくれて、ダンサーに対してみずから週1回レッスンをしてくれたり、細かいところをみてくれたりしています。そこに裕哉くんが加わってくることで、一つの作品になってくることを感じています。

ダンサーたちは凄く素直で、どん欲に何でも挑戦しようとする。それは大人だからこそかもしれません。平均年齢25~26歳くらいなので覚悟があってやっているから、なんでも挑戦をしてくれる。今後、それがどうつながるのかは本人次第です。私はどこまで続けられるか……。ダンサーたちがもう少し年齢が上がったときに、下の代に返してほしい。循環していかなくては何の意味もなくて。日本にも作品があって、踊ることができる環境があることは私の代では無理かもしれないけれど、今踊っているダンサーにやってもらいたいし、つながっていってほしいんですね。
池上直子&ダンサー育成プロジェクト(2021年)メンバー
池上直子&ダンサー育成プロジェクト(2021年)メンバー

――池上さん/ダンスマルシェの今後の展望をお聞かせください。

私自身の話でいえば8月に大和シティー・バレエ公演で作品発表させていただきます。主宰の佐々木三夏先生は「振付家を育てなければ日本の作品が育たない」とおっしゃられています。前回の『Carmen カルメン』を気に入っていただいて、それからは公演の振付に声をかけてくれています。凄くありがたいですね。三夏先生とは理念において通じるところがあります。

ダンスマルシェを海外でも通用するようなカンパニーに育てたいという想いがありますが、ダンサー育成プロジェクトを毎日やるのはやっぱり大変です。今までの感じだと次の募集は今年の秋か冬ですね。私自身他の振付もしなければいけないし、外部の仕事もあります。でも皆が踊って創る場は必要なので、来年も同じことができるのかと考えると正直分からないですが続けていきたい。気力、体力、それにお金のこともあり大変なので「この子たちのために!」と思わないとできないですが、賛同・応援してくださる方も多いので頑張っていきたいですね。

ファントム リハーサル&インタビュー動画

取材・文=高橋森彦

当記事はSPICEの提供記事です。

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