スタックスのアーティストが集結したドキュメンタリー映画の傑作サントラ盤『ワッツタックス/ザ・リビング・ワード』

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1972年8月20日、ロサンジェルスのメモリアム・コロシアム(当時、NFLのロサンジェルス・ラムズのホームグラウンド)で行なわれたスタックスレコード主催によるコンサート『ワッツタックス』は、半日程度のコンサートであったにもかかわらず、11万2,000人を動員するという記録的なものとなった。これだけの動員数になったのは、貧困層のアフリカ系アメリカ人にたくさん来てもらいたいというスタックス側の思いから入場料が1ドルに抑えられたこともあるが、ルーファス・トーマスやステイプル・シンガーズら、スタックスレコードを代表するアーティストが出演したことや、コンサート前年の71年に公開され大ヒットしたアクション映画『黒いジャガー(原題:Shaft)』のサウンドトラックを手がけ、アフリカ系アメリカ人初となるアカデミー賞を受賞したアイザック・ヘイズが参加することも大きかっただろう。今回取り上げるのは、『ワッツタックス』の模様を収録(だけでなく、後録りも含まれる)したサントラ盤『ワッツタックス/ザ・リビング・ワード』。本作を聴くと、当時のスタックス所属のアーティストたちが絶頂期にあったことがわかる名演揃いである。なお、映画『ワッツタックス/スタックス・コンサート』はコンサートの翌年の73年に公開されている。

■ワッツ市の暴動とワッツタックスの企画

1965年8月11~16日、ロサンジェルス南部のワッツ地区で、飲酒運転の逮捕に端を発したアフリカ系アメリカ人による集団暴動が起こった。ワッツ地区は労働者階級のアフリカ系アメリカ人が多数住む地区で、警察による差別的な扱い(ご存知のように現在もアメリカ各地で見られる)と不十分な公共サービスに対して、そもそも住民は長年にわたって憤慨し続けていた。そんなことから、いつ暴動が起こってもおかしくない状態が続いていたのである。この暴動で、州兵14,000人が出動、住人の34人が死亡している。

この暴動は周辺住民の誇りでもあって、毎年この暴動を記念した大掛かりな夏祭りが行なわれていた。スタックス(本社はテネシー州メンフィス)の西海岸ディレクターがこのことを知り、貧困にあえぐワッツ地区のアフリカ系アメリカ人のために慈善コンサートを企画することになったのである。

■アル・ベルの手腕

スタックスレコードは、白人のジム・スチュワートと彼の姉のエステル・アクストンがオーナーで、設立当初(1958年)は南部のリスナーが好む泥臭いサウンドが持ち味のインディーズレーベルであった。スチュワートの耳は良く、大手のアトランティックレコードと配給契約を結ぶようになると、次々に全米レベルのヒット曲を生み出す。特にオーティス・レディングの存在は大きく、ロックやジャズ界にも影響を与えていく。オーティスは26歳の若さで事故死を遂げ、スタックスは大きなダメージを受ける。アトランティックとの契約も終わり、会社を売りに出すことになるのだが、60年代末に会社を立て直すのがアフリカ系アメリカ人のアル・ベルである。彼はスタックスをモータウンのような大きなレーベルへと成長させるべく奔走し、そこでワッツタックスの企画をまとめるのである。当初は『ウッドストック・フェス』をもじった『ワッツストック』というネーミングが検討されており、このコンサートには“黒いウッドストック”というキャッチフレーズが使われていた。

単なる音楽好きのスチュワートでは絶対に無理だったであろうこの企画は、スタックスの社長に就任したベルが主体となって進められ、結局ロサンジェルス・メモリアル・コロシアムを1日借りるという大掛かりなものになった。このあたり、ベルの手腕というか野心が垣間見える。面白いのはスチュワートが主導権を持っていた頃のスタックスの音作りは黒っぽく、ベルが主導権を持つ70年代以降の音作りは少しポップで白っぽく変化していることだ。スタックスを含め南部ソウルの特徴というのは、ブッカー・T&ザ・MG‘s(黒人2人、白人2人で構成されていた)に代表されるように、もともと白人と黒人の共同作業によって音楽を生み出していたところにあるのだが、この時にはすでにMG’sも解散するなど、ベルの配下ではアフリカ系アメリカ人主体でレコード制作が行われるようになっていた。

■映画『ワッツタックス /スタックス・コンサート』

コンサートの前日はNFLの試合があったため、ステージ設営は19日の試合後からコンサート当日の昼近くまでかけて行われている。また、観客席(10万席以上!)の清掃は全て人力で作業され、フィールド内は芝を傷めないように観客席を設置しないことになった。映画でスタックスの大スター、ルーファス・トーマスが登場すると、興奮した多くの観客がフィールド内へ乱入するのだが、トーマスは怒ることなく、実に巧みにユーモアを交えながら全員を客席に戻すことに成功する。このシーンはこの映画の中でもっとも感動的で、この場面を見るためだけでも観る価値があると思う。

映画にはワッツ住民たちのインタビューをはじめステージ設営の様子も描かれており、興味深い。また、スタックスの要請で映画のクルーたちもほとんどアフリカ系アメリカ人で占められており(監督のメル・スチュアートは白人)、ベルの“黒人主導”のこだわりは徹底していたと言えるだろう。

そして、このドキュメンタリー映画はコンサートの模様を描くだけでなく、ワッツ地区の住民へのインタビューを通して、当時のアフリカ系アメリカ人の置かれた状況が浮き彫りになっている。映画の主役とも言えるアメリカを代表するコメディアンのリチャード・プライヤーが繰り出す鋭い風刺を効かせた喋りは必見だ。

■本作『ワッツタックス /ザ・リビング・ワード』について

72年のリリース当時、LPでは2枚組で長時間の収録となっていたため、CD化されても2枚組であった。収録曲は全部で20曲、映画には登場するがサントラには収録されていないナンバーやその逆もある。

本作で最初に登場するのはステイプル・シンガーズ。冒頭のトラック「オー・ラ・デ・ダ」は声援や拍手が入っているが擬似ライヴで、実際にはスタジオ録音だ。大ヒットした2曲「リスペクト・ユアセルフ」「アイル・テイク・ユー・ゼア」が嬉しい。ただし、コンサートでは体調不良のためにイヴォンヌ・ステイプルズは参加していない。スタックスの看板スター、エディ・フロイドは十八番の「ノック・オン・ウッド」と「レイ・ユア・ラビング・オン・ミー」(これは擬似ライヴ)の2曲、カーラ・トーマスの「ジー・ウィズ」や、本作では唯一のブルースマン、アルバート・キングの「アイル・プレイ・ザ・ブルース・フォー・ユー」など、それぞれの代表曲を披露している、ソウル・チルドレンはローラー・リーでもおなじみの「アイ・ドント・ノウ・ホワット・ジス・ワールド・イズ・カミン・トゥ」や「ヒアセイ」を収録、スタジオ録音ではわからないノリに乗ったコーラスの掛け合い(というか喋りの掛け合い)が聴ける。バーケイズはオーティス・レディングに敬意を表し「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」を披露している。

ここに収録されているナンバーはどれも素晴らしいが、中でも白眉はルーファス・トーマスとアイザック・ヘイズである。ルーファス・トーマスの3曲「ブレイクダウン」「ドゥ・ザ・ファンキー・チキン」「ドゥ・ザ・ファンキー・ペンギン」は絶品のファンクで、彼の衣装といいステージ・パフォーマンスといい、どれもが最高(かなり笑える)なので、これはぜひとも映像を観ていただきたいと思う。

アルバム最後はアイザック・ヘイズの16分半にも及ぶビル・ウィザーズのカバー「エイント・ノー・サンシャイン」で、本来は「シャフトのテーマ」と「ソウルヴィル」が収録されるはずであったが、版権の問題(映画『黒いジャガー』の曲はMGMが著作権を持っており、使用できなかった)でカットされている。それでも、ここに収録されたヘイズの一曲はバックの分厚い演奏も含め、彼のカリスマ性を証明するのに十分だ。“黒いモーゼ”と呼ばれる彼の出で立ちは映像でぜひ確認してほしい。

2003年になって3枚組の完全に近いかたちで『ミュージック・フロム・ザ・ワッツタックス・フェスティバル&フィルム』がリリース(日本盤は2009年)されている。映画には登場するジェシー・ジャクソン牧師の「アイ・アム・サムバディ(私は人間だ)」を連呼する感動的なスピーチやキム・ウエストンの独唱、版権がクリアされアイザック・ヘイズの「シャフト」も収められているので、興味のある人はぜひ聴いてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Wattstax: The Living Word』

1972年発表作品

\n<収録曲>
■Disc 1
1. Oh La De Da
2. I Like The Things About Me
3. Respect Yourself
4. I'll Take You There
5. Knock On Wood
6. Lay Your Loving On Me
7. I Like What You're Doing (To Me)
8. Gee Whiz
9. I Have A God Who Loves
10. The Breakdown
11. Do The Funky Chicken
12. Do The Funky Penguin
■Disc 2
1. Son Of Shaft/Feel It
2. I Can't Turn You Loose
3. Killing Floor
4. I'll Play The Blues For You
5. Angel Of Mercy
6. I Don't Know What This World Is Coming To
7. Hearsay
8. Ain't No Sunshine

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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