『ウィー・アー』ジョン・バティステ(Album Review)

Billboard JAPAN



1986年生まれ、米国ルイジアナ州出身のジョン・バティステ。ミュージシャンの父親とミュージカル界で活躍する叔父を持ち、幼少期にはパーカッションやピアノを習得。学生時代にインディーズ・レーベルから曲を発表し、米ニューヨークの名門音大ジュリアード音楽院でピアノの学士号と修士号を取得するという、ミュージシャンになるべくしてなった輝かしい経歴をもつ。

2018年にリリースしたアルバム『ハリウッド・アフリカンズ』は、米ビルボードのトップ・ヒートシーカーズ・チャートで1位を獲得。翌2019年開催の【第61回グラミー賞】では、本作収録の「セント・ ジェームス病院」が<最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス賞>にノミネートされ、翌2020年にはディズニー&ピクサー『ソウルフル・ワールド』の音楽を手がけ、イギリス版エンド・ソングとして作られたセレステとのデュエット「イッツ・オール・ライト」が話題となり、年々知名度を高めていった。

自身の作品のみならず、米ニューヨークの「ナショナル・ジャズ・ミュージアム・ハーレム」でクリエイティヴ・ディレクターを務めたり、人気トーク番組『ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア』の音楽監督をするなど、幅広いシーンでも活躍。音楽以外では、有名ブランドのモデルやスパイク・リーの映画に俳優として出演するなど、ビジュアル面においても注目されてきた。また、昨年世界中に波及した<ブラック・ライヴズ・マター>運動における“平和的”パフォーマンスなど、人種差別に抗議する活動も積極的に行っている。

本作『ウィー・アー』は、前述の『ハリウッド・アフリカンズ』から約2年ぶりとなる新作で、全曲を自身が制作・プロデュースした意欲作。マーチング・バンドとゴスペル・ソウル・チルドレンをバックに従えた、スピリチュアルでグルーヴィーなオープニング曲「ウィー・アー」には、前述の<ブラック・ライヴズ・マター>運動や新型コロナウイルスによる世界情勢を受けての願いが込められている。

エンディングのような壮大な幕開けから、直線的なホーンとジャズ譲りのピアノが揺さぶる肉体感溢れるファンク「テル・ザ・トゥルース」へ。男臭いボーカルと“泣かせ”のギター・プレイが唸る、酸いも甘いも噛み分けたメロウ・チューン「クライ」が続き、70年代に隆盛したファンク時代を見事なカタチで蘇らせた。

「ウィー・アー」にも参加した女性シンガー・ソングライター=オータム・ロウとの共作曲「アイ・ニード・ユー」は、スウィングを交えて歌うニューオーリンズ風のジャズ・ファンク。次曲「ワッチュトーキンバウト」も、ツイストっぽいリズムにスキャットを融合したナンバーで、ジャズを巧みに取り入れ自在にシフトさせていく。キックとスネアに呼応する「ボーイ・フッド」では、ラップ&コーラスを二役務めたジャジー・ヒップホップにもトライ。ジャズの音階に乗せた心地よいループ、フリー・スタイルでプレイしたような雑味のあるピアノの旋律など、どれをとっても最高。この曲には、ジャズ・シーンで高い注目を集めるニューオーリンズの奇才トロンボーン・ショーティと、マルーン5のツアー・メンバーであるPJモートンがクレジットされている。

後半は、ライブ感を味わえるジャズピアノによる即興演奏(的な)インスト「ムーヴメント11」から、ディアンジェロをそっくり焼き直した生音重視のスムース&メロウ「アダルトフッド」で再開。「アダルトフッド」のハーモニーとファンク・セクションによるプレイには、ずっと浸りたい中毒性がある。ゴスペル界の女王メイヴィス・ステイプルズのイントロからはじまる、独自の解釈で蘇らせたゴスペル・ファンク「フリーダム」も、ファレルっぽくてカッコいい。

サウンド・センスはもちろん、ラップにソプラノ、ジャズ譲りのムーディーな歌いまで熟すボーカル技量も、ジョン・バティステの魅力。ミドル・スクール世代を基調としたストリート感覚のスウィート・ソウル「ショウ・ミー・ザ・ウェイ」では甘美なファルセットを、リッキー・リードを制作陣に招いた「シング」では、高らかにシャウトする爽快で粗削りなボーカルを聴かせる。後者はジャズ、ソウル、ゴスペルが混在した高密度なアレンジの、黒く温かみのあるグルーヴが心地よい。

ジョン・バティステは影響を受けたアーティストにハービー・ハンコックやウィントン・マルサリス、スティーヴィー・ワンダーにプリンス、レニー・クラヴィッツなどを挙げていて、本作にもその影響が色濃く出ている節が見受けられる。平和的解決を求める姿勢に通ずる温かみのある歌詞、世代の垣根を超えてたのしめるグルーヴ、自身のルーツである「ブラック・アメリカン・カルチャー」に敬意を示した姿勢。なんて素敵なシンガーなんだろう。レジェンド・アーティスト等が絶賛し、米フォーブス誌の名物企画「世界を変える30歳未満の30人」に選出されたのも納得できる。

Text: 本家 一成

当記事はBillboard JAPANの提供記事です。

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