トランプ元大統領も悪用!? 世界的人気キャラクターが味わったSNSの恐怖

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いまや私たちの日常に欠かせないインターネットやSNS。便利であるいっぽうで、危険な側面があるのを誰もが感じているのでは? そこで、ある人気キャラクターがインターネット上でたどった衝撃の出来事を目の当たりにする話題作をご紹介します。
■ 『フィールズ・グッド・マン』

【映画、ときどき私】 vol. 366

ハッピーなキャラクターたちが繰り広げる若者のリアルな日常を描いているマット・フューリーの漫画「ボーイズ・クラブ」。カルト的な人気を博していたが、主人公であるカエルのペペが「feels good man(気持ちいいぜ)」というセリフを放ったことがすべての始まりとなる。

いつからかインターネットの掲示板やSNSには、このセリフとともに“ネットミーム”として改変されたペペのイメージ画像が溢れだしてしまう。さらに、2016年のアメリカ大統領選時には、匿名掲示板「4chan」で人種差別的なイメージとともにペペが大拡散され、ADL(名誉毀損防止同盟)からヘイトシンボルとして正式認定される始末。マットの思いとは裏腹にペペの乱用は加速し続けることに……。

アメリカの映画批評サイト「ロッテントマト」で96%を叩き出し、「いますぐ必見の痛烈なポリティカル・ドキュメンタリー」と絶賛されている本作。今回は、その裏側について、こちらの方々にお話をうかがってきました。

■ アーサー・ジョーンズ監督&ジョルジオ・アンジェリーニさん

本作で監督デビューを飾り、サンダンス映画祭新人賞を受賞するなど高く評価されているアニメーターで脚本家でもあるジョーンズ監督(写真・左)。今回は、マットと同じアーティストとして感じている思いや制作過程で発見したインターネットが抱える問題などについて、本作のプロデューサーであるジョルジオ・アンジェリーニさん(写真・右)と一緒に語っていただきました。

―ペペの生みの親であるマット・フューリーさんが経験した一連の騒動を監督は、友人として間近でご覧になっていたそうですが、それを映画にしようと思ったのはなぜですか?

監督
 ペペがニュースに出たり、掲示板でミームとして扱われるようになったりしてから、この騒動ついてはずっと驚かされていたんです。以前からマットとはペペについていろいろと話し合っていたので、この数年間でペペの身に起こったことについて非常に興味深く感じていました。

そんななか、2016年にペペがヘイトシンボルに登録されてしまい、それによってマット自身がネオナチやオルタナ右翼なんじゃないかと勘違いしている人も増えていたので、ドキュメンタリーを作ることで「ペペを守って真実を伝えたい」「いまのアメリカの現状を世界に発信したい」と思うようになったのがこの作品を制作しようと考えた理由です。

―制作の過程では、それまで知らなかった事実に直面することもありましたか?

監督
 僕は普段あまりSNSを使わないですし、「4chan」を見たのも初めてだったので、新しい発見はたくさんありましたね。作品自体がリサーチプロジェクトでもあるので、SNSがいかに世界やコミュニケーションの方法を変えたのかという経緯や社会の変化をこの映画を通して伝えたかったというのもひとつです。

そのために、SNSのコミュニティを理解するように努力したり、現代の哲学やメディア論に関する資料を読んだり、学者の方にお話を聞いたりと、多方面から調べていきました。

■ インターネットには忍耐力を持って接することが大事

―ペペが置かれている立場については、どう思われましたか?

監督
 もうひとつ僕が驚いたのは、ペペがいかにファンたちと感情的なつながりがあるかということ。たとえば、「4ちゃんねらー」と呼ばれる4chanの投稿者であるミルズと話しているなかでも、彼らのような人たちにとって、ペペとの絆がどれほど強いのかを感じることもありました。それは、作品を作っていくなかでも、おもしろいと思った点です。

―そういった一連の出来事を目撃して、インターネットやSNSとの向き合い方は変わりましたか?

ジョルジオさん
 監督はあまりSNSをしないタイプの人なので、これに関してはこの映画の公式SNSなどを担当している僕が答えたいと思いますが、まずは忍耐力を持つことが大事だと気がつきました。今回のペペのようにインターネット上では、ネガティブな方向に用いられることもありますが、そんなときでも忍耐力を持って接していれば道は必ず開けていくということを学んだからです。

―では、利用している人に向けてアドバイスがあればお願いします。

監督
 まず頭に入れておくべきなのは、それぞれのプラットフォームはユーザーを操るためのツールであって、できるだけそこで時間を費やすように作られていたり、不安や恐怖をあおったりするようになっているということ。いま、SNSは空気のような存在とされていますが、もう少し批判的な目を向けていく必要があるのかなとは思っています。特に、この作品を通してみなさんにも考えてほしいのは、メディアリテラシーの大切さやSNSとどう接していくかということです。

■ いかに協力して平和な社会を作れるかを考えてほしい

―そのいっぽうで、いい面もあるとは思いますが、どうお感じですか?

ジョルジオさん
 インターネットやSNSというのは、あくまでもみんなが繋がることのできる“偽りのユートピア”のような場所なんじゃないかなと思っているので、正直言って、今回の過程ではあまりポジティブな面を見つけることはできませんでした。というのも、ネットカルチャーにおいては、愛情や共感よりも悪意やヘイトの感情のほうが広がりやすいんだと感じたからです。

なので、みなさんにもそういったことを忘れずに、インターネットに参加してほしいなと思っています。そして、SNSにコントロールされるのではなく、する側に立ち、いかに協力して平和な社会を作れるのかも考えてもらえたらいいなと。あとは、自分を偽ることなく、インターネット上でも自分らしさを見せることを恐れないでほしいので、そういったメッセージも受け取ってもらいたいです。

―こういう作品なのでインターネット上に投稿される作品に対する感想も気になったのではないでしょうか?

監督
 確かにネガティブなコメントを恐れていましたが、人々は驚くほどいい反応を見せてくれました。そのときに感じたのは、インターネットやSNSが与える影響について対話をする心の準備がみなさんできているんだなということ。そして、ネガティブなイメージがついてしまったものの、いかに人々がペペのことを愛しているのかを実感しました。

それによって僕たちは勇気をもらえましたし、ペペが歩んできた長い旅路の一部になれたこともうれしく思えた瞬間だったと思います。

■ ペペはアメリカ社会の鏡になっている

―もしも、ペペというキャラクターが存在せず、インターネット・ミームとしてここまで利用されることがなければ、アメリカの歴史も変わっていたと思いますか?

ジョルジオさん
 ペペは社会に影響を与えるキャラクターというよりは、社会の鏡だと考えています。なので、愉快でハッピーなペペから悲しいペペになり、怒りを抱えているペペを経て、最後は暴力的になるという変化がありましたが、あれはまさにアメリカの文化を象徴していると言えるでしょう。

アニメーションのなかで、ペペが見ている鏡が割れるシーンがありますが、そこでもアメリカの文化を比喩的に表現しているんですよ。ペペがいなければこの作品は生まれませんでしたが、ペペ自身が社会を変えたということはないと思います。

監督
 だからペペがいなくても、トランプは当選していたでしょうね(笑)。

―誰もがマットさんの立場になりうる可能性がありますが、同じアーティストとして活動するうえで監督も創作活動や表現の自由の難しさを感じることはありましたか?

監督
 マットは僕よりも才能がある人なので、同じ立場になれるとは思っていませんよ(笑)。ただ、いまの世の中で漫画は消費文化だと思われているところがありますが、社会のなかで重要なアートだと僕は考えています。

それまでは受け身なところもありましたが、自分自身が動くことで世の中を変えることができることを知れたので、不安や恐怖を感じるよりもワクワクした気持ちのほうが強かったですね。

―これからも、ミームは影響力を増していくのでしょうか?

ジョルジオさん
 「ミーム」というのは新しい言語だと思っているので、今後なくなることはないでしょうね。ただ、ちょっと影響力が大きすぎるという意味では問題だと思っているので、ミームに対して社会がどのように反応していくか、というのが課題なのかなと考えています。

2020年の大統領選挙のときに民主党候補者を目指していたマイケル・ブルームバーグ氏もお金を払って自分のミームを作成し、影響力を得ようとしていたほど。彼のような人でもミームを意識しているんだと知り、改めてミームの力の大きさを知りました。普通に見ているだけならミームはいろんなユーモアのセンスが融合されていて面白いので、いい意味で発展してもらいたいなとは感じています。

■ 世の中にとって何がベストかを考えていくべき

―今後、ミームとはどのように付き合っていけばいいと思いますか?

監督
 これはアメリカだけではなく、世界中で起きていることですが、ミームを使って力の弱い人たちを操ろうと悪用しているケースも見られるので、それに対しては、何かしらの形で戦っていかなければいけないと感じています。

―なかなか難しいことではありますが、みなが「フィールズ・グッド」と言えるようになるになる社会に必要なものは何だとお考えですか?

監督
 まずは、オンラインに費やす時間を減らすこと。そして、プラットフォーム自体が社会的責任を負うということが大事だと感じています。そのために、プログラマーや経営者たちと多様な思考を持った人たちが集まって一緒に作り上げていくことが必要なのではないかなと。

ユーザーも声を上げるべきですし、会社もグローバルな責任を持って運営をしていかなければいけないですが、とにかく世の中にとって何がベストなのかを議論しながら、プラットフォームを作り上げることが求められると思います。

あとは、コミュニティのなかでお互いに力を与え合って、幸せを感じることですね。そんなふうに社会のなかで役に立てているという感情が人々をフィールズ・グッドにさせるのではないかと考えています。

―最後に、おふたりが日常生活で「フィールズ・グッド」と感じる瞬間を教えてください。

ジョルジオさん
 一番幸せを感じるのは、家族や友人、ペットと時間を過ごしているとき、それからアーサーのようなクリエイティブな人たちとの仕事をしているときですね。

監督
 僕もジョルジオと同じで、大好きな仲間と一緒にコラボレーションして制作しているときがフィールズ・グッドな瞬間です。あとは、シャワーを浴びてさっぱりして、強いコーヒーを飲んで、好きな音楽を聴きながら犬を散歩させる時間に幸せを感じています。

■ 世界中で起きている問題にみんなで向き合う!

現代社会が抱える問題や闇の実態について、人気キャラクターを通して見ることができる本作。インターネットという世界では、誰もがいつ被害者や加害者になるかもしれない危険性があるだけに、これからの付き合い方を考える意味でもいま観るべき1本です。
取材、文・志村昌美
■ 痛烈な予告編はこちら!



■ 作品情報

『フィールズ・グッド・マン』3月12日(金)ユーロスペース、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開!配給:東風+ノーム

(C)2020 Feels Good Man Film LLC

当記事はananwebの提供記事です。

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