【それぞれの『アリージャンス~忠誠~』vol.2】 ブロードウェイ版の思い出と日本版への期待

SPICE



【シリーズ/それぞれの『アリージャンス~忠誠~』】

『アリージャンス~忠誠~』が、2021年3月12日より東京国際フォーラム ホールCで上演される。第二次大戦下のアメリカで、日系人が「敵性外国人」として扱われ強制収容所に移送された史実に基づき創作され、ブロードウェイで上演されたミュージカル作品。その日本語版の開幕が迫る中で、ブロードウェイ版を観たことのある日本の演劇ライター諸氏が、それぞれの観劇経験を綴った。シリーズ第二弾は、演劇ライター町田麻子氏。(SPICE編集部)

◇ブロードウェイ版の思い出と日本版への期待

TEXT:町田麻子

『アリージャンス』という作品(名)に初めて触れたのは、今から8年近く前のこと。別の作品のために来日したブロードウェイ女優、レア・サロンガにインタビューする機会があり、最後に今後の夢を尋ねた際、彼女が「素晴らしい作品に携わるチャンスに恵まれて、今、人生でとても充実した時期にいるんです」と語り出したのが本作のことだったのだ。

■レア・サロンガの夢、ジョージ・タケイの使命感


 言わずと知れた『ミス・サイゴン』の初代キムであり、世界中のミュージカルシーンで活躍する彼女ほどの女優にとっても、ワークショップの段階から創作に携わるのは本作が初めてだったそう。発起人であるジョージ・タケイがこの物語を伝えることに使命感を持っていること、自分を含めたキャスト・スタッフもまた情熱と誇りを持って取り組んできたこと、トライアウト公演で確かな手応えを得たこと…。「この作品をブロードウェイに持って行くのが今の夢」と語る彼女のキラキラとした瞳を、今でもはっきりと思い出すことができる。

それ以来、彼女が「うまくいけば今秋には実現すると思う」と言っていたブロードウェイ公演をずっと楽しみにしていた。そうスムーズには進まなかったようで、“ブロードウェイ進出”というのがそう簡単なことではないことを実感しながら、待つこと2年。サロンガの夢は2015年秋に実現し、そして翌1月、筆者もめでたく見届けることができたのだった。
その年の街頭で配られていた『アリージャンス』宣伝用のレア・サロンガ団扇(表/裏)
その年の街頭で配られていた『アリージャンス』宣伝用のレア・サロンガ団扇(表/裏)

『アリージャンス』が描くのは、第二次世界大戦下のアメリカで、真珠湾攻撃を仕掛けた日本人と同じ見た目であるというだけで強制収容所に入れられた、ある日系アメリカ人家族の物語。人気テレビシリーズ「スター・トレック」で知られる日系アメリカ人俳優、ジョージ・タケイとその家族の実体験が元になっており、ブロードウェイ公演ではそのタケイが“Ojii-chan(おじいちゃん)”を、物語の主軸となるキムラ姉弟の姉ケイをサロンガが演じた。

ブロードウェイではどの作品のどの公演でも、キャスト・スタッフのプロフィールなどが載った冊子PLAYBILLが全員に無料で配られる。筆者が観た回の本作では、この冊子の中にさらに1枚のチラシが。一見するとただのグッズ販促用チラシなのだが、裏面にびっしり、タケイからのメッセージが印刷されていた。内容は、この物語を伝えるという生涯の夢が叶うことの喜びと感謝とともに、観客へのド直球な口コミ宣伝のお願い。サロンガから聞いてはいたが、彼の使命感がここまでとは…と、開演前から胸が熱くなったものだ。

「スター・トレック」未履修のため、恥ずかしながら開演するまでよく分かっていなかったのだが、アメリカにおけるタケイ人気は相当なもの。“Ojii-chan”が茶目っ気を見せる度に客席は沸きに沸き、カーテンコールの拍手などはサロンガよりも大きいくらいだった。戦争の記憶を風化させないためには、体験者本人が語ること、フィクション作品にして伝えること、影響力ある著名人がその作品を宣伝することが有効だと思う。タケイがサロンガらの力も借りながら、そのすべてを一人で担った作品、それが『アリージャンス』だと言えるだろう。
筆者が観た回で配られたPLAYBILLとタケイのメッセージ入りチラシ
筆者が観た回で配られたPLAYBILLとタケイのメッセージ入りチラシ

■演出家以外のスタッフ・キャストが一新される日本版


 大好きなレア・サロンガの夢を見届け、ジョージ・タケイという日系人俳優の偉大さに触れ、知るべきなのに知らなかった史実を学ぶことができた『アリージャンス』は、間違いなく観られて良かった作品。またもちろん、アジア系の才能がブロードウェイに確かな足跡を刻んだ、革新的な作品であることも疑いようのない事実だ。だが、いち“ミュージカル作品”としてすごく筆者の好みだったかと言われたら、実はそうでもなかったりも、しなくもない。

要因の一つは、セリフや歌詞のところどころに差し挟まれる“不思議な日本語”。日系アメリカ人の間で実際に使われていた言葉なのだろうから、間違っているということではないのだろう。また、もしかしたら『イン・ザ・ハイツ』に登場するスペイン語にも、ヒスパニック系の間では普通でもスペイン語圏の人からしたら不思議みたいな言い回しがあったのかもしれない、という気付きがあって面白かったりもした。だが『アリージャンス』の物語を受け止めるにあたって、“不思議”とか“面白い”がちょっと邪魔だったことは否めない。

もう一つは、装置、衣裳、振付といったビジュアル面のセンス。これこそ好みの問題だし、この年の“並び”(=前後に観た作品)に大きく影響されてもいる。何しろ、ブロードウェイ旅行は一週間で10本観るような強行日程になりがちなため、並びの影響は毎年不可避。その上この年は、タケイ自身が前述のメッセージでも触れていたほどの激戦シーズンだった。結果、『ハミルトン』、『春のめざめ』(デフ・ウエスト・シアター版)、『オン・ユア・フィート!』などと比べてしまい、洗練度や物語との融合度が足りない印象を受けたのだ。
2016年1月のブロードウェイ。左上には『アリージャンス』のサイネージも
2016年1月のブロードウェイ。左上には『アリージャンス』のサイネージも

とここまで、そもそもどうでもいい筆者の“そこまで好みじゃなかった話”を、しかも並びに影響された心許ない“印象”に基づいて語ってきたわけだが、理由は一応ちゃんとある。不思議な日本語もビジュアル面も、ブロードウェイ版とは演出家以外のスタッフ・キャストが異なる今回は変わる可能性があり、それが日本版を観る楽しみになっているからだ。

この作品を日本版として上演するのは、とてもチャレンジングなことだと思う。同じ物語でも、アメリカで伝えるのと日本で伝えるのとでは当然意義が異なるだろうし、日本人が日本語で日系人を演じるのはどう考えたって難しい。だが今回、そんな高い壁を乗り越えることのできるスタッフ・キャストが揃った。観られて良かった――ブロードウェイ版とはまた別の意味でそう感じられる日本版『アリージャンス』の誕生を、今は心待ちにしている。
『アリージャンス/忠誠』レア・サロンガ、マイケル・K・リー  Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy
『アリージャンス/忠誠』レア・サロンガ、マイケル・K・リー Original Broadway Company of Allegiance / photo by Matthew Murphy

当記事はSPICEの提供記事です。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ