サッカーの神様・マラドーナの栄光と転落が、秘蔵映像で明らかに

日刊SPA!

 2020年11月25日、世界で最も偉大なサッカー選手のひとり、元アルゼンチン代表FWディエゴ・マラドーナがこの世を去った。FCバルセロナに所属するアルゼンチン代表FWリオネル・メッシや、ユベントスに所属するポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドなど、多くの現役スーパースターがSNSなどで哀悼の意を表明したことからもわかるように、世界中のサッカー少年があこがれ愛されたスーパースターだった。

◆“サッカーの神様”マラドーナの光と闇

それからおよそ2か月が経ち、彼の栄達と凋落を描いたドキュメンタリー映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』が2月5日に日本で公開となり反響を呼んでいる。

アルゼンチンのプロサッカーリーグ戦史上最年少となる15歳でデビューを果たしたマラドーナは、スペインのFCバルセロナを経て1984年にイタリアのナポリへ移籍。1986年に開催されたメキシコ・ワールドカップで母国を優勝に導き世界的な名声を得た。その直後の1986-87シーズンではナポリに国内リーグ戦初優勝をもたらし、“サッカーの神様”と称されるようになった。

本作では本人の協力を得て約500時間の秘蔵映像をもとに、本人や関係者のコメントを編集して構成されている。マラドーナが神格化されるまでに起こした奇跡のようなスーパープレーの数々も収録されており、彼が栄華を極めた理由が本作でもはっきりと理解できる。

◆本人が「見ないでほしい」とまでコメント

しかし、本作が昨今のドキュメンタリーと異なるのは、その後に堕落していく理由まで描かれている点だ。カンヌ映画祭でのワールドプレミアのポスターには、『Diego Maradona』の原題のすぐ下に“Rebel. Hero. Hustler. God.”との言葉が並ぶ。「反逆者であり英雄であり詐欺師であり神である」という意味だ。このポスタータイトルに対してマラドーナ本人は納得していないことを明かし、「見ないでほしい」とまでコメント。本人にとっては、見られたくない闇が赤裸々に描かれている。

◆弱冠15歳で一家の大黒柱に

貧困地区で生まれ育ったマラドーナはサッカー選手としてプロデビューを果たしたことで、弱冠15歳で一家の大黒柱となった。家族の期待に応えようと厳しい世界を瞬く間に駆け上がっていった少年には、活躍の度に人々が寄りつきその都度多くの期待も寄せられるようになった。パーソナルトレーナーを務めたフェルナンド・シニョリーニは、ディエゴ・マラドーナをこう表現している。

「“ディエゴ”と“マラドーナ”という2つの人格が彼にはある。“ディエゴ”は不安定ながらもすばらしい青年だ。“マラドーナ”は後から生み出された人格だ。フットボールビジネスとメディアの要求に向き合うためだ。“マラドーナ”は絶対に弱さを見せない」

また、後に妻となるクラウディア・ビジャファーネは、「彼は常に自分の価値を認めてもらいたがっていた」と承認欲求が強かったことを明かしている。最初は家族の期待に応えているだけだった“ディエゴ”少年は、日増しに増える取り巻く関係者の期待にも応えようと“マラドーナ”という人格を生み出し、いずれはアルゼンチン国民やナポリ市民の大きな期待を背負うことになった。

◆なぜマフィアに取り込まれたのか

そういった重圧を抱えるなかで、マラドーナは悪魔の囁きにも応えることになる。万年下位に沈むイタリア南部のクラブで活躍すると同時に、その街を縄張りにするマフィアが近づいてきた。イタリアンマフィアは映画『ゴッドファーザー』で世界的に有名となったが、『ゴッドファーザー』はシチリアを縄張りととするコーザ・ノストラという組織を基に描かれている。

マラドーナに近づいてきたマフィアは、そのコーザ・ノストラと肩を並べイタリア4大マフィアと称されナポリを縄張りとするカモッラという組織のジュリアーノ一家だった。ナポリの神様となったマラドーナにジュリアーノ一家は違法薬物であるコカインと娼婦を供給。いわゆるドラッグ漬け、セックス漬けにしてしまったのである。その事態を察した周囲が救いの手を差し伸べようとしたが、取り巻きが増え多くの期待を背負うにつれ“ディエゴ”は孤独になってしまい誰の手もつかもうとしなかった。

◆薬物所持で逮捕、15カ月もの出場停止に

1990年にイタリアのナポリで開催されたワールドカップ準決勝のイタリア代表戦で、マラドーナ率いるアルゼンチン代表がPK方式の末に決勝戦へ駒を進めた。この一戦が転機となり、マラドーナはイタリア国内でも味方が減少。その数カ月後には、違法薬物の所持で起訴されることになった。

そして蜜月の関係を築いていたカモッラにも見捨てられてしまった。本作では逮捕に至るまでの盗聴捜査の音声が公開されており、違法薬物の売買と買春の生々しい現場を実感できる。その後、前代未聞の15カ月間の出場停止処分となり、イタリアを去ることになった。

◆神であっても、重圧と孤独から逃げられない

再起を懸けて1994年に開催されたアメリカ・ワールドカップに出場したが、本大会中に使用禁止薬物が検出されて再び出場停止処分が下され、選手として大きな表舞台に戻ってくることはなかった。

一時は神にまで上り詰めたマラドーナだったが、重圧と孤独を抱えて堕落してしまった。その一部始終を描いた本作は、SNS主流の現代人に一石を投じる作品と言えるだろう。自身が見せたい良い部分だけを拡散して承認欲求を満たしても、周囲からの重圧や孤独からは逃れられない。それが、サッカーで世界的名声を得たスーパースターの最後に残したかったメッセージなのかもしれない。

<TEXT/スポーツライター 川原宏樹 (C)2019 Scudetto Pictures Limited>

【川原宏樹】

スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる

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