茂木健一郎の「日本のお笑い批判」は的外れ。4年前も炎上したのに

日刊SPA!

文/椎名基樹

◆茂木健一郎、4年ぶり2度目の「日本のお笑い」批判

脳科学者の茂木健一郎が「ぼくは、前は松本人志さんに謝ったけれども、今回は謝らない。」と題して2月5日にブログを更新した。茂木健一郎は4年前に以下のツイートをした。

『トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン。』

当時、このツイートが「炎上」したことを受けて、茂木健一郎は「ワイドナショー」(フジテレビ系)に出演して、松本人志に謝罪した。文頭の小学生じみた物言いのブログタイトルは、そのことを指している。そして4年経って、件の自身のツイートをリツイートした上で、ブログで再び同じ主張を蒸し返した。実に粘着質である。

今回4年前の主張を蒸し返した理由は「時代が変わった」からだそうだ。4年の間に「若い世代の地上波テレビ離れが深刻になった」ことと「ネットフリックスやアマゾンプライム、そしてもちろんユーチューブなどで海外のコメディアンの仕事も簡単に見られるようになった」ことが、彼が主張する「時代の変化」だという。

そのように時代が変化したにもかかわらず、日本のお笑い芸人が「先輩後輩の沼につかっているのは機会損失であるだけでなく大きなリスクだと思う」そうだ。だから「スタンダップコメディ大会をゴールデンにやり」、その大会が「社会ネタ、バンバン」ならば、「日本人は、もっと広々としたネタで笑って、こころをほぐせる」し、「お笑い界だけでなく、日本の社会自体が」変わると主張した。

◆社会の風通しが悪いのは「お笑い」のせい!?

若い世代の地上波離れと海外のコメディーが簡単に見られるようになったことが、どうして4年前の謝罪を取り消して、同じ主張を蒸し返す理由になるのだろう?

地上波離れの程度が進むと「オワコン」と言っても許されるようになるとでも思っているのだろうか。頭髪が薄くなった人に対して「ハゲ」と言って、咎められたので謝罪して、4年後にその人に会った時、さらに薄毛が進行していれば「ハゲ」と言っても許されると思うのだろうか? そもそも本当に地上波離れが深刻になっているのか? むしろ、私にはこの数年でテレビタレントとYouTuberのクロスオーバーが進み、両メディアの可能性をお互いに高め合う時代になっているように見えるが。

海外コメディー作品に触れやすくなったから、謝罪を撤回したという理屈の方は、さっぱりわからない。余計なお世話にも、自分が非常に良質だと思えるエンターテイメントメディアが登場したから「旧メディアは、もうおしまいですよ」と教えてあげたと言うことなのだろうか? だがそれが、人が生きる糧として生業にしているものを「オワコン」と言っていい理屈にはならない。

先輩後輩の沼につかっている芸人とは誰のことを指しているのだろう? もしそういう人がいたとしても、芸人全員がそうじゃないだろう。むしろ私は「有吉の壁」(日本テレビ系)を見ていると「芸人って鍛えられてんなぁ」と感心してしまうが。

茂木健一郎の言う「大きなリスク」とは誰にとってのリスクなのだ?(学者ならもう少し正確な記述をするべきじゃないか?)。芸人にとっての「リスク」と言うならば、これまた余計なお世話だ。しかしむしろ、後の文脈からすると「社会にとってのリスク」というふうに読める。

芸人の姿勢が社会にとって「大きなリスク」になっていると言うならば、それは完全に論理が逆立ちしている。「お笑い」が社会の風通しを良くする作用があるからと言って、社会の風通しが悪いのは「お笑い」のせいだと言うのはイチャモンだ。

◆なんでそんなに「日本のお笑い」に絡むの?

件のブログ投稿の後にアップされた、森喜朗の女性蔑視発言に対する、茂木健一郎のブログの主張は完全なイチャモンだ。

『森さんのご発言は不適切そのものだけれども、森さんだけを非難しても仕方がない気がする。(略)日本におけるジェンダーの不均等はもっと根が深いものだと思うからだ。そして、お前、それ関係あるのか、と言われそうだけど、日本の地上波を中心とする「お笑い」の惨状と大いに関係していると思う。日本のお笑いの惨状を含めて、日本の社会、文化全体がもたらした結果が森喜朗さんという方が政治家として長年活躍し、今東京五輪組織委員会会長をされているという結果につながっている。』(2021/2/7更新「森さん一人を叩いても仕方がない」より)

もうここまでくると、日本のお笑い芸人やテレビ業界に対する歪んだ感情しか伝わって来ない。なんだか不憫にすら思えてくる。なぜ茂木健一郎はテレビ業界をそこまでストーキングするのだ? また、このブログ投稿では、こんなことも言っている。

『海外ではスタンダップ・コメディだけじゃなくて、モキュメンタリーとかでも、ジェンダーやエスニシティについての偏見や固定観念にとらわれている人を笑いでメタ認知することで相対化するという仕事をたくさんしている。』

◆海外のお笑いがすごいって言うけど……

これってもしかして、イギリスのコメディアン、サシャ・バロン・コーエンの映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』のことを言っているのか? この映画はサシャ・バロン・コーエンが偽のカザフスタン人「ボラット」を演ずるモキュメンタリー(フェイクドキュメント)である。カザフスタン人を文明が行き届かない辺境に住む、野蛮なエスニシティ(民族)として描いている。

ボラットは写真だけを見てアメリカ人の女性に恋をして渡米する。その女性の居場所の手がかりをつかむために、“非常識な”カザフスタン人は、アメリカの一般人と触れ合う。その人たちに対して、(キャラで演じている)野蛮人ゆえに、迷惑YouTubrさながらに、ガチの狼藉を働くのがこの映画である。最高に面白い。私は大ファンだ。だがその迷惑は度を越している。嫌悪感を抱く人もいるだろう。内容はほとんど狼藉と下ネタである。そしてこの度を越した悪趣味こそが、イギリスのコメディーの真骨頂である。

茂木健一郎は「お笑い」に対して一家言あるようだが、そのバックボーンは落語とイギリスのコメディー『モンティパイソン』であるとインタビュー(’20年8月29日「WANI BOOKS NewsCrunc」)で答えている。サシャ・バロン・コーエンはモンティパイソンの流れを汲む、現在最高のコメディアンだ。茂木健一郎が言及したモキュメンタリーにボラットが含まれている可能性は高いだろう。

ただ、イギリスのコメディーは「偏見や固定観念にとらわれている人を笑いでメタ認知することで相対化する」、つまり偏見に満ちた人物を演じるコメディアンを反面教師にして、視聴者が自分の中の偏見に気づくために、悪趣味を連発しているわけではない。コメディーをセラピー術みたいに言わないで欲しい。そんな思惑で作ったコメディーは絶対に笑えない。イギリスのコメディーにあるのは「ただ悪趣味たれ」、ただそれだけの信念だ。正義でも悪徳でも、すべてのタブーを否定するのための悪趣味である。悪趣味こそバイタリティーだからだ。

◆4年前のツイートにも疑問

炎上した4年前の茂木健一郎のツイートで、最初に疑問に思った事は、いまどき「権力者の批評」で笑いが取れるか? ということだった。そのコメディアンって誰? 権力批判と言うと、過激なことのような印象を与えるが、その逆だ。そんなコメディー、「マジメか!」である。王様の耳はロバの耳じゃないんだから。

今回の「ぼくは、前は松本人志さんに謝ったけれども、今回は謝らない」というブログ投稿にも違和感を感じた箇所が2つあった。「もちろん社会ネタ、バンバンで」と「『オフィス』のアメリカ版の吹き替えを日本のお笑い芸人さんがやって地上波で放送するところから始めたらどうか」

と言う部分だ。なぜ「権力者の批評」が「社会ネタ」に変わってしまった? どうして元祖の『オフィス』イギリス版でなくアメリカ版?

イギリスのコメディーに権力批判などほとんど登場しない。特に現在は、『ボラット』のカザフスタン人の扱いを見てもわかるように、むしろ弱者に対する差別で笑う方が多い。茂木健一郎はそのことを知っているから「社会ネタ」と、こっそり言い換えたのだろう。

コメディードラマ『The Office』は、元祖のイギリス版では、ひどいセクハラ発言が連発されるが、アメリカ版では全面的に削られている。イギリス版を推したら、あたかもコメディーが社会正義のためにあるかのように語った4年前のツイートと著しく整合性を欠いてしまう。だから、アメリカ版を推したのだろう。非常に姑息に思える。

◆再び「日本のお笑い批判」をした目的は……

この姑息さと、逆立ちした論理、結論に綺麗事を並べることで、何かを主張しているように見えるが、よくよく読んでみると何が言いたいのかわからない文章を見ると、茂木健一郎の今回のブログ投稿は、「はじめに松本人志に絡むことありき」で書かれているように思えてくる。

4年前のツイートによって、茂木健一郎は「ワイドナショー」や「しくじり先生」に呼んでもらえたが、今回はどうだろう? コメディーで同じネタは2度通用しないと思うけれど。

【椎名基樹】

1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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