朝ドラ『おちょやん』で注目の若手俳優・井上拓哉とは何者なのか、現在抱えるもどかしさ、そして劇団Patchの一員としての気持ちを語る

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2020年11月から放送されているNHK連続テレビ小説『おちょやん』に富川福助役で出演し、じわじわと注目度が増してきている俳優・井上拓哉。関西を拠点とする劇団Patchの一員として知られる彼は、『あさが来た』(2015年)から『まんぷく』(2018年)まで4年連続でNHK連続ドラマ小説に出演したことでも話題に。そのほか、ドラマ『大阪環状線 ひと駅ごとの愛物語 Part1』(2016年)の第1話「天王寺駅『偽装カップル』」でも印象を残す芝居を披露。着々と実力を磨いてきた中で、『おちょやん』のレギュラー出演となった。2012年に劇団Patchで俳優としてのキャリアをスタートさせ、活動10年目を目前にしていよいよブレイクの気配が漂ってきた井上。そこで今回は、彼のこれまでの歩みや今後の展望などについて話を訊いた。

『おちょやん』富川福助役 (C)NHK
『おちょやん』富川福助役 (C)NHK

――『おちょやん』のレギュラー出演で、井上さんへの注目度が日に日に増している感があります。ご本人としては今の状況をどのように捉えていますか。

ありがたいことにこうやって取材の機会も多くなり、「なぜ役者の道を選んだのか」といった質問に答えていく中で、改めて自分について考える機会が増えました。

――ただ、2020年の夏以降から『おちょやん』と、舞台『マインド・リマインド ~I am…~』の仕事が並行状態になりましたよね。しかも『マインド・リマインド』は2役でしたし。かなりハードなスケジュールだったはずです。

常に台本と向き合っている状態で、過去で一番忙しい状況が続いています。でもこれは、自分が憧れていた環境なので、休む暇もなく何かの作品に没頭できるのは幸せですね。

――朝ドラと東京・大阪公演の舞台が重なって、正直なところスケジュールの不安はあったんじゃないですか。

そうですね。確かに「スケジュールが被ってしまったな」となりました。でも、そういう不安以上に充実感が優っています。『マインド・リマインド』は劇団Patchの結成8周年を記念して、カンテレさんとコラボした大事な舞台。そして朝ドラは、これだけ長い期間、ひとつの作品に関われることはなかったこともあって、すごく貴重な機会。これまでにない経験でした。

――新型コロナウイルスの感染拡大で舞台の上演が次々と中止・延期となる中、『マインド・リマインド』は久しぶりの舞台出演となりました。

約1年ぶりですね。僕は普段から緊張をするんですが、今回は特に「板の上ってどんな感触だったっけ」と緊張感が増して、楽しみと不安が入り混じりました。どの舞台に出るときもそうなんですけど、舞台袖からお客さんの前に出て行って、一言目の台詞を発するまでは緊張が解けないんです。

――そこに慣れはない、ということですね。

劇団Patchを旗揚げしてから2回目の公演『岩窟少年』(2013年)のとき、緊張のあまり頭の中が真っ白になって台詞が飛んだことがあったんです。ちょうど僕の役が静かでダークだったので、問題を抱えているような雰囲気を醸し出して、ただただ黙ってメンバーの助けを待ちました。今でも緊張はすごくするけど、大きなNGはなくなりましたし、もしミスがあったとしても何とか乗り越えられる。場数を踏んで、一つひとつの自信に繋がっていきました。
井上拓哉
井上拓哉

――井上さんはいつも、どのような考え方で役にアプローチしていますか。

アプローチの仕方って大きく分けると、自分の人間性に役を近づけるのか、役に自分が寄っていくかだと思うんです。僕はどちらかというと自分を基にして役に近づくタイプ。『おちょやん』の福助役は、ダメさ加減が自分と似ている部分があったので、馴染みやすいですね。

――逆に自分とかけ離れていてアプローチが難しかった役の設定はありましたか。

2019年の舞台『SPECTER』のヒューゴ役ですね。僕は人間性を役に近づけたいけど、ヒューゴはかけ離れていたんです。あのときはずっとキャラクターに対して違和感があって、非現実的な世界観に溶け込む難しさを初めて知りました。ヒューゴのようなニヒルな生き方を僕はしてこなかったですし。クールで抑えてはいるけど、でも感情が溢れる役をどう演じるか、それが僕にとっての課題。どうしても飾ってしまう部分があるので。

――井上さんが芝居をする上で大切にしているものはいかがですか。

相手の台詞をちゃんと聞くことを毎回心がけています。普段の会話って、相手の間があってこちらも言葉を発するものですよね。相手の台詞を聞かないと勝手なお芝居になるので、そこは気をつけています。映像作品だとリアルな反応がより求められるから、特に間を大切にしています。

――「間が大事」という考え方は、活動初期から持っていたものですか。

劇団Patchを立ち上げた当初の演出家・末満健一さんに教わりました。末満さんから「相手の台詞をちゃんと覚えましたか」とずっと言われていました。たまに相手の台詞を食ってしまうときなんかは、厳しく注意されましたね。「相手の台詞をきっちり聞いていたら、自分がそのあと何を言うのか、台詞の意味を理解できるはず。話を聞き取らずに食ってしまうのは、自分のことしか考えていないからだよ」と。
井上拓哉
井上拓哉

――そうやって様々なアドバイスを吸収して、今に至るわけですね。そもそも井上さんは、この仕事に就くキッカケとなったのが、ご友人とUSJに行ったことですよね。そのお友だちがタレントで、周りを取り囲まれたとか。

そうなんです。15歳くらいのときなんですけど、複雑な気持ちになりました。正直、その友だちにヤキモチも焼きましたし(笑)。彼が何者なのかなど詳しいことは、芝居で共演するまで言わないようにしていて。

――USJではどんな光景が広がったんですか。

友だちが大勢に「握手してください」と囲まれて。そのあとファンの人たちがパッと僕の方を向いて、「誰?」って顔になるんです。幼馴染なのになんでこんなに差があるんだと、悔しい気持ちになりました。彼と一緒に遊ぶと、1日1回以上はザワザワってなる場面があって。やっぱり憧れるところがありましたし、同時に、自分も人に認められたいという気持ちも強くなりましたね。あと芸能活動を始める前は無口で主張もしないタイプで、そういう自分もちょっと嫌だった。それを克服できたのは、お芝居のおかげですね。とは言っても、最初は役者も全然楽しくなかったです。

――何故、楽しくなかったんでしょうか。

当時は台詞を覚えることで僕は満足していて、その台詞を会話として相手と交わす、という意味が分からなかったんです。「覚えて喋るだけとは、何が違うんだ」となってしまって……。そう思いながら役者を始めて1年くらい経ったとき、映像に出たんです。台詞を覚えたつもりで本番をやったら、何も言葉が出てこなかった。監督にも「別日に改めて撮るのでその日までに覚えてきてください」と言われて。めちゃくちゃ泣いて、落ち込みましたね。今でもトラウマ。その時に覚えるだけではだめなんだ、と痛感しました。

――そして少しずつ舞台のおもしろさが自分のなかに浸透していったと。

大きなキッカケは『巌窟少年』あたりですね。役に対して掘り下げていくことも自分なりにやったりして。あと、お芝居で初めて褒められたんです。ある台詞を言ったとき、「今のは感動した」と。そのときは感動してもらえた理由が分からなかったのですが、でもとにかく楽しかったですね。
井上拓哉
井上拓哉

――一方で、『マインド・リマインド』の演出をつとめられた木村淳さん(カンテレ)は、劇団Patchについて「まだ覚醒していない」、「物足りなさがある」とおっしゃっていましたね。

それは僕たち自身も感じています。今も、どこかもどかしい。各々で大きい仕事は増えてきてはいますが、劇団Patchの強みを100パーセント出しきれていない。全員が集まったとき、ものすごいパワーを生み出せる集団なんです。みんな貪欲だし。それを多くの方に知ってもらうにはどうしたら良いか、模索中です。

――個別で仕事が増えてきていると、劇団Patchとして過ごす時間が少なくなってきているんじゃないですか。そのあたりで危機感は募っているのではないかと。

そうですね、確かに複雑な思いです。昔は毎日のようにみんなと会っていた。だけど最近ありがたいことに、個人の仕事も増えてきて、舞台がないとみんなで集まれないことが多いです。仕事が増えているのはありがたいことなんですが、劇団として力を出すには、やっぱり全員が揃わなきゃいけない。そこへのもどかしさもありますね。自分たち自身で劇団をプロデュースもしたり、とにかく今は考える時期だと思っているので、そうやって悩みながら動いているところも見て欲しいです。

――井上さん自身は朝ドラ効果もあって、この先は仕事がどんどん決まっているんじゃないですか。

ありがたいことにお話はいろいろといただけるようになりました。でも、みなさんが想像するほどスケジュールは詰まっていないんですよ(笑)。

――えっ、そうなんですか! てっきり、よくある話で「2023年くらいまでスケジュールが埋まっていて……」みたいな状況かと想像していました。

それがね、意外とそうでもないんです。理想はおっしゃるように、オファーをいただいても「そのお仕事、ぜひやりたいんですけど2年先までびっしりで」みたいな状況なんですが(笑)。だけど、まだまだ現実はそういうワケにはいかない。だから今は「芝居なら何でもやる」という気持ちです。もっともっと貪欲に仕事に取り組んでいきたいです。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

当記事はSPICEの提供記事です。

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