リアル『下町ロケット』? 世界初「木のストロー」を実現させた女性社員の情熱

日刊SPA!

 最近、よく耳にするSDGs(エスディージーズ)という言葉。国連が提唱する、2030年までに人類が達成すべき17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略だ。

日本でもメディアが特集を組んだり、企業や地方自治体がさまざまなSDGsへの取り組みを掲げている。でも、実のところよくわからない、という人も多いのではないだろうか。

◆「木のストロー」の開発秘話が「下町ロケット」のよう

そんな中、はからずもSDGsの推進に貢献することになった「木のストロー」をご存じだろうか。

開発したのは、アキュラホームという住宅会社。中心になったのは同社の若き広報担当・西口彩乃さんだ。西口さんが著書『木のストロー』で明かした開発秘話は、まるで「下町ロケット」のようだ。

なぜ住宅会社がストローを?と思うだろうが、きっかけは2018年、西口さんに旧知である環境ジャーナリストの竹田有里さんからかかってきた一本の電話だったと、西口さんは話す。

「木のストローをつくれないか」という相談だった。

竹田さんは、同年7月に発生した西日本豪雨の現場を取材し、土砂災害が拡大した原因の一つが間伐など適切な森林管理がされていなかったことだと知った。また、ちょうどそのころ、海洋プラスチックごみ問題からプラスチックストローの廃止が話題になっていた。

そこで、間伐材を再利用した木のストローを思いつき、木造注文住宅を手掛けるアキュラホームの西口さんに電話したのである。

アキュラホームの宮沢俊哉社長は元大工で、カンナ社長として知られている。

また当時、間伐材を使った木のストローというものは存在せず、完成すればちょっとしたニュースになるだろうとも思われた。

「最初は、住宅会社でストローを作るということに、あまりピンときていなかった」と西口さん。

ただ、「お世話になっているジャーナリストの方に、何もせずできないとは言いたくない」という一心から、ストロー作りの模索が始まった。

◆「うちはストロー会社じゃない」と反対された

社内で、開発のゴーサインを得るのは簡単ではなかった。

当然ながら、「うちはストロー会社じゃない」と反対された。それでも、何度も企画書を書き直し、ようやく「開発だけならOK」という条件付きの許可を得た。

とはいえ、これまで誰も、木のストローなど作ったことはない。間伐材をどうすれば、ストローの形にできるのか。

「答え」がない中、西口さんは社内や社外のいろいろな知恵を借り、広報の仕事のあと、毎日実験を繰り返した。発案者の竹田さんも材料の調達や販路の開拓に奔走し、「ド素人」女子二人の試行錯誤が続いた。

最初の転機は、製造会社が見つかったこと、次の転機はザ・キャピトルホテル東急が、導入先として開発に協力してくださることになったことだと、西口さんは振り返る。

どちらもまだ先の見えない段階で、協力を申し出てくれた。

こうして、「薄くスライスした木材を斜めに巻く」という手法にたどり着き、「木のストロー」が誕生することとなる。

◆記者発表の直前に、ストローから油が

ところが、である。

いよいよ記者発表というとき、木のストローから油が浮いてくるという問題が発生した。

あわや記者発表中止という絶対絶命のピンチをなんとか乗り超え、ようやく「世界初」の木のストローがお披露目されたのは、2018年12月のことだった。

当初の目的を果たした西口さんは、これで肩の荷を下ろせるはずだった……、のだが、そこから木のストローは、さらなる展開をしていくことになる。

◆大反響を受け、会社が下した決断とは

廃プラ問題が注目され、環境問題意識が高まるなか、木のストローの反響は大きかった。翌日から問い合わせが殺到し、メディアでも連日報じられた。

この大反響を受け、会社は木のストローを事業化し、自社で製造して木のストロー普及に努めることを決断した。

ちょうどそのころ、SDGsを推進する横浜市から、同市のシンポジウムで「木のストローについて紹介したい」という依頼が入った。横浜市は2018年に「SDGs未来都市」に選定され、そのキックオフとなるシンポジウムだった。

実は、一本の木のストローで、SDGsが掲げる「つくる責任つかう責任」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」などいろいろな目標に貢献できるのだが、この時点ではまだ、「SDGsが何かよくわかっていませんでした」というのが西口さんの正直なところ。

ただ、シンポジウムの参加者に木のストローを配布したいという横浜市からの依頼を受け、自社で初めて製造する木のストローを納品することになった。

◆G20のすべての会合で木のストローが採用された

それからほどなくしてビックニュースが飛び込んでくる。

2019年6月にG20の大阪サミットがあり、史上初の環境閣僚会合(持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合)が軽井沢で開催されることになっていたのだが、そこで木のストローが採用されることになったのだ。

新聞に掲載された木のストローの記事が、当時の環境大臣政務官の目にとまり、とんとん拍子で話が進んだ。

さらに他の省庁からも、G20で使いたいという問い合わせが入った。

大阪サミットの大きな課題の一つが海洋プラスチックごみ問題で、G20のすべての会合で、徹底してプラスチック製品が排除されることになっていた。

特に林野庁の人が木のストローを強力に後押しして、最終的には、G20の首脳会合と関連会合すべてで木のストローが採用された。

木のストローには人を呼びこむ力があるようだと、西口さんは感じている。環境閣僚会合の会場に併設された「G20イノベーション展」に出展したときのこと。木のストローがあまりに注目されるので、他の企業の方が「これ持っていると話しかけられるから」と、スーツの胸ポケットにさしてくださったそうだ。

後日開催された別の環境系イベントでも、目立たない場所にあった出展ブースの木のストローに人が集まり、会場の人の流れがかわるほどだったと言う。

◆木のストローで社内のSDGsも推進

実はこの木のストローは、アキュラホームにも変革をもたらした。

横浜市との縁がきっかけで、横浜市内にあるアキュラホームのサスティナブルなモデルハウスに、イケアのサスティナブルな家具を期間限定で設置してSDGsハウスをつくるという初のSDGsプロジェクトが実現したのだ。

これを機に、自社のSDGsへの取り組みを紹介するパンフレットがつくられ、社員の間でもSDGsへの理解が深まっていったと、西口さんは話す。今は社員がSDGsバッチをつけるまでになったそうだ。

「私も最初は環境には興味がなかったのですが、ちょっとしたきっかけで、ここまでのめり込むようになりました。バッチ一つでも、それを身に着けることで、その行動の意味を考えるきっかけになるといいなと思っています」

いまひとつよくわかりにくいSDGsも、身近にあるちょっとしたことをきっかけに環境や社会に目を向ける「入口」と考えれば、少し距離が縮まるかもしれない。

◆それぞれの熱い思いがつながっていく

その後も木のストローは、小さな木の芽が枝葉を広げて大きくなるように、いろいろなつながりを生んでいる。

横浜市と進める木のストローの「地産地消モデル」、1000万本プロジェクト……。

「グッドデザイン賞」は2年連続で受賞し、2020年は「第29回地球環境大賞 農林水産大臣賞」というビックな賞も受賞した。

西口さんは昨年、『木のストロー』という本を出版した。ここに描かれた開発舞台裏に、新しいものを世に出すというのは、かくも大変なものなのかとドキドキする。また、木のストローに関係した社外の人たちのコラムが濃厚で、それぞれの熱い思いが伝わってきた。

そして改めて、持続可能な社会につながるビジネスを生み出すことの意義を考えるのである。

【西口彩乃さん】

1989年、奈良県生まれ。立命館大学理工学部環境システム工学科卒業。2012年、木造注文住宅会社の株式会社アキュラホームに入社。営業職を経て、2014年より広報を担当。2018年から「木のストロー」の開発に携わり、2019年1月、ザ・キャピトルホテル東急に木のストローが導入された。2019年に開催されたG20のすべての会合で木のストローが採用され、その後も様々な広がりを見せている。

<文/日刊SPA!取材班>

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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