【今週はこれを読め! エンタメ編】義肢装具士への道~山本幸久『神様には負けられない』

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『神様には負けられない』の主人公は、渋谷医療福祉専門学校(通称シブイク)の2年生である二階堂さえ子。義肢装具士を目指している。さて、義肢装具士とは。義肢装具とはいわゆる義手や義足のことで、それらを製作するのが主な仕事だ。冒頭は、下腿義足の製作実習の場面。下腿というのは、膝下からくるぶしまでの部分のこと。ここから先の失われた、あるいはもともとなかった部分の義足を作るにあたって、同じ四班のメンバーである永井真純・戸樫博文・さえ子が協力して作業を進めていく。出席番号順で班分けされた3人だが、2年生クラス内では異端というところが共通していた。真純はド派手な外見・言葉遣いの荒さ・歯に衣着せぬ物言いといった強烈なキャラクターの持ち主、戸樫は猫背・小声・極端な無口という地味さ、さえ子は企業で7年間働いた後に退職してシブイクに入学した26歳(周りは19か20歳の子がほとんど)。

変わり種ではあるが、彼らの意気込みは本物だ。真純は無遅刻無欠席を貫き、授業態度は真面目、製作実習にも真剣に取り組んでいる。戸樫は工業高校出身の強みを生かし、実技の成績が抜群。シブイクに入学する前から将来を見据えてリサーチを重ねたり資格を取ったりしていたというふたりを見てさえ子は焦りを覚えるが、彼らを含む周囲の人々に刺激を受け、義肢装具士への道を着実に進んでいく。なんといっても、「実習生には義肢装具士になるきっかけを話してもらっている」と語る臨床実習先の企業のベテラン社員・武川寛江に「ダントツで聞きごたえがあったわ」と言わせしめたような逆境も乗り越えてきた強者なのだから(強すぎるエピソードが披露されたりもするけれども...)。

障害者と一口にいっても、人によって状況はさまざま。障害の種類や程度に関してもそうだし、障害と言うものについてどのように受け止めているかも、個人により異なる。「かわいそう」などと上から目線で言われたりすることに抵抗を感じるのは当然として、障害を乗り越えてパラスポーツの大会に出場するなんてすごいというさえ子の心からの称賛にさえ不快感をあらわにした人物もいる。よかれと思って口にした言葉が、相手を傷つけることはいくらでもあるのだ。

相手の立場に立って考えることが大切なのは、相手が誰であっても同じ。それでも、経験のないことにはなかなか思いが至らないのもまた事実。あらゆる人々が義肢装具士並みの知識を持つ必要はないとしても、義手・義足ユーザーが不自由を強いられるケースは多いということくらいは心に留めておきたい。他に知識を得るために有効なツールとしては、我々が大好きな本というものがある。しかもその本が、こんなに痛快でユーモアにあふれた作品として存在していることに感謝しなくては。

「神様には負けられない」というのは、さえ子たちの実習にボランティアで参加した義足の写真店二代目・穂高優太の言葉に、真純が反応して発したものだ。とてもぐっとくるシーンなので、ぜひお読みいただければと思う。本書を読んで印象的だったのが、義肢装具士とユーザーの間に信頼関係が築かれていく様子。一方的な力関係ではなく、お互いの心の支えにもなり得るところに胸を打たれる。そう、私たちが心から望んで行動すれば、お互いの立場を超えて手を取り合うことだって可能なのだ。

(松井ゆかり)

当記事はBOOKSTANDの提供記事です。

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