産後すぐガールズバーで働く妻。怪しいカネづかいに夫の決断は…

女子SPA!

【ぼくたちの離婚 Vol.18 パパはナンパ師 #2】

【前回までのあらすじ】

ナンパが趣味の大平正太さん(仮名/30代)は、趣味で書いていた釣りのブログ宛てにメッセージを送ってきた当時10代の少女ナオミさんと、遠距離交際をスタート。彼女はDV父親と貧困家庭から逃げ出したいがために、正太さんとの子作りと結婚を望んでいた。10代とはいえ、法に触れる年齢ではなかったが、あまりの若さにそれを長らく拒んでいた正太さん。しかし……

◆『美女と野獣』を観て子供が欲しくなった

「映画の『美女と野獣』を観に行ったら、子供が欲しくなっちゃったんですよ」

ここで言う『美女と野獣』は、1991年公開のディズニーアニメ版でも、2017年公開のハリウッド実写版でもない。2014年に公開された、フランス・ドイツ合作による実写映画(監督:クリストフ・ガンズ、主演:レア・セドゥ)だ。

「有名なアニメ版やハリウッド版と違って、すごく暗い映画なんですよ。なぜ王子から野獣になったのかの理由を、過去の回想で詳しく描いてるんです。で、その王子がまだ人間だった頃、『世継ぎが欲しい』みたいなことを言っていて、ああ僕も子供が欲しいなあと」

この映画は取材後に筆者も観てみたが、正直、正太さんの言葉はピンと来なかった。むしろ気になったのは、ラストで野獣と結ばれる女主人公・ベルの家庭環境の酷さだ。裕福な商人だったベルの父親は没落し、一家まとめて貧乏のどん底に叩き落される。ベルには3人の兄と双子の姉がいるが、末の兄を除いては富に執着し続ける醜悪な人間性の持ち主。彼らはベルの足を引っ張っている。

貧困家庭育ちのナオミさんと、父親がリストラされて大学を辞めなければならない危機に陥った正太さん。それぞれの状況が、この映画にうっすらオーバーラップした。

◆妊娠という“既成事実”で結婚へ

「ナオミの父親は、ナオミがXX歳(筆者注:本稿では伏せる)になるまでは結婚を許さないと言っていて、当時のナオミはまだその年齢に達していませんでした。だけど、先に子供を作って既成事実を突きつければ、彼も結婚を認めざるをえないだろうと、僕らは考えたんです」

妊活をはじめて3ヶ月で、ナオミさんの妊娠が発覚する。10代の母だ。

「心から子供が欲しかったので、『よしっ』とガッツポーズしましたね。そこで初めてうちの親にナオミのことを報告したら、相手の年齢に呆れてはいましたが、一応認めてくれました。ナオミの父親も『がんばれよ』と」

結婚式はしなかったが、婚姻届を提出し、ふたりは晴れて夫婦に。ナオミさんはついに実家を抜け出すことができた。しかし、正太さんに安寧は訪れない。

◆ガールズバーで月40万円稼ぐ新妻

「結婚してからのほうが、ケンカが激しくなりました。原因はやはりカネです。ナオミはとにかくカネをくれ、カネが足りないと。妊娠してからの彼女は専業主婦でしたが、金遣いがとにかく荒い。毎月お小遣いで4、5万円くらいは渡していたんですが、結婚前と同じく、何に使っているかわからないんです。昼間、僕がいない時に食事を作るのが面倒で、頻繁に出前を取っていたみたいですが、それで僕が怒り、ナオミも言い返す。そんな衝突ばかりでした」

正太さんの給料手取りは20万円。結婚して二人暮らし用のマンションに引っ越したので、とても足りない。そこで正太さんは週末のダブルワークをさらに増やした。引っ越しや各種現場作業などの肉体労働だ。

ほどなくしてナオミさんが芽衣ちゃんを出産する。しかし……。

「やっぱりお金が足りないからと、ナオミはガールズバーで働きはじめました。僕が帰宅したら芽衣の世話を僕にバトンタッチして、働きに出るわけです。月に40万円とか稼ぐんですよ。なのに、それでも僕におカネを借りようとする」

そのうち、ナオミさんが家であまり口をきかなくなった。ガールズバーと家を往復するだけのナオミさんに業を煮やした正太さんは、意を決して問いただす。

「『結婚生活を続けていく気あるの?』と聞いたら、『ない。芽衣を連れて出ていく』。僕は頭が真っ白になり、芽衣を取られてしまうと思って、その場で号泣してしまいました」

◆ぶっ殺そうと思った

しかし翌日、冷静になった正太さんは一芝居打つことにする。

「ナオミの真意を聞き出そうと思い、大げさに土下座をしました。『今までお金を返せなんて言って悪かった』と。悪いなんて全然思っていませんでしたけど(笑)」

その姿が哀れみを誘ったのか、ナオミさんはすべてを話しはじめた。

「ガールズバーで働き始めてから、ものの1週間で彼氏ができたそうです。相手は店の客。稼いだカネは彼氏に服を買ってあげたり、飲みに行って豪遊したりしてたみたいですね」

正太さんは改めて、結婚生活を続ける気があるのかを問うた。

「『芽衣もねー、どうしよっかなー、正直育てられないんだよねー』と、軽く言い放たれました」

今までにこやかに話していた正太さんの目から、笑みが消えた。

「そのとき僕、こいつをぶっ殺そうと思いました。もはや浮気したことなんて、どうでもいい。あまりにも軽すぎます。子供はアクセサリーじゃない、一体何を考えてるんだと、怒りが収まりませんでした。手は出しませんでしたが、かなり強い言葉で責め立てて……。誰かに殺意を抱いたのは、後にも先にもこの時だけです。でも、そんなことしたら芽衣と一生会えなくなると思って、こらえました」

◆「本当に、バカな奴です…」

その後はとんとん拍子だった。正太さんは探偵を雇い、相手を特定。「湘南乃風のメンバーみたいなガテン系」だったという。

「僕がいちばん譲れなかったのは芽衣の親権ですが、離婚届の『夫が親権を行う子』の欄にしれっと『大平芽衣』と書いてナオミに渡したら、特に何も言わずに署名して戻してきました。拍子抜けしたので一応確認すると、『育てらんないから任せるよ』。どこまでクソなんだと思いましたね」

ところが離婚後しばらくして、親権を手放したナオミさんが激しく後悔しているということを、正太さんは人づてに聞くことになる。

「芽衣の親権を放棄したことを後悔して何度もリストカットを繰り返し、障害者手帳(*筆者注:精神障害者福祉保健手帳)を持つほど重度の鬱状態だと聞きました」

それは……、と言いよどんでいると、正太さんは続けた。

「バカなんですよ、ナオミは。本当に、バカな奴です……」

嘲笑でも慈愛でもない、一言では言い表せない複雑な感情が、正太さんの口ぶりからうかがえた。

◆浮気した妻に慰謝料は請求せず

ちなみに、探偵を使って浮気の証拠をつかんだ正太さんだったが、離婚にあたっては、ナオミさんに慰謝料を請求していない。

「父親に言われたんですよ。慰謝料なんて請求したら、恨みに恨みが重なっていいことないぞって」

正太さんの父親は、かつてリストラに遭った張本人である。経済的窮乏が人間をどんな地獄に叩き落とし、どんな感情をもよおさせるかは、彼も、大学退学の危機にさらされた正太さん自身も、痛いほどわかっていただろう。「ただでさえ万年金欠のナオミさんに、多額の慰謝料が課せられたら?」を想像しなかったはずはない。

◆週イチでナンパするパパ

正太さんは離婚成立後、芽衣ちゃんと住むための中古マンションを、両親の住む実家近くにローンで購入した。

「両親が芽衣を見てくれているので、なんとかかんとか育てることができています。芽衣は週に1回、両親宅でお泊りなんですが、ナンパをするのはそういう日ですね。夜、帰ってこなくてもいいんで。飯行ったあとに、ワンチャンあるかもしれない(笑)」

呆れるというべきか、バイタリティがあると言うべきか。しかし正太さんに再婚の意思はない。

「会社関係で出会いはまったくないので、離婚後にマッチングアプリで再婚相手を探した時期もありました。2年くらいはがんばったかな。芽衣にお母さんがいないのは、かわいそうかなと思って。だけど……厳しかったですね。なんなら、離婚する時よりも、マッチングアプリで相手探しをしている時のほうが辛かった。わりと、人間不信になって……はは(笑)」

◆「私より年収の低い人は論外」

今までの笑いとは違う、力のない笑いだった。今まではどんな暗い話も能天気に笑い飛ばしていた正太さんの顔が、すっと曇る。

「バツイチ子持ちの状況と年収を正直に書いたんですけど、『私より年収の低い人は論外』とか普通に言ってくるし、離婚した状況を伝えると『押しに弱いあんたが悪い』と説教されるしで。痛いとこばかり突かれて、とにかく疲労しましたね。何人かと会いましたが、傷つくだけの2年間でした」

再婚直前まで行きかけた看護師の女性もいたそうだ。

「ディズニーランドまで行ったんですけどね。ある時、はっきりと言われました。『私、年収の低い人とは付き合えないです』って。今はもう、再婚なんてしなくていいやと思ってます。芽衣との生活にお金を使いたいし、早めにマンションのローンも返し終えたいなって」

正太さんは今まで以上にダブルワークに精を出している。

「派遣の仕事ガンガン入れてますし、ネットで株式売買もやってます。手取り20万じゃ全然足りないんで。……でも、今は人生で一番楽しいっすね。芽衣がすくすく育ってるし、たまに息抜きで釣りもナンパもできますし(笑)。いやー、ナンパ楽しいっすよ」

◆ナンパは公平

また、ナンパの話だ。やはり、正太さんがここまでナンパにこだわる理由がよくわからない。取材の冒頭でも、開口一番、銀座でナンパした37歳の女性と一夜をともにしたことを、楽しげに話していた。しかも再婚相手を探すためのナンパではない。あくまで「ワンチャン狙い」と言い切る。

「YouTubeやTwitterに有名ナンパ師の人がいるんですけど、それを見ていろんなテクニックを勉強しています。最初から下ネタの話はしないとか、女の子の好きなタイプをストレートに質問してはいけないとか」

細かいテクニックを楽しそうに解説する正太さん。どうしても、「子煩悩」と「ナンパ師」のミスマッチが解消できない。だが、正太さんの次の説明にはっとさせられた。

「ナンパって、みんなに公平なんですよ。男の年収や年齢、バツイチかどうかや子持ちかどうかが、成功率に関係しないんです。その場で自己申告するわけじゃありませんからね。狙った女の子の目の前にいる自分、そのトーク一発で勝負できる。気に入ってくれたら飲みに行けるし、ワンチャンもある。話がつまんなかったら、ついてきてくれない。ただそれだけです。努力すればしただけ成功率が上がる。それって、すごく公平だと思いませんか?」

そう言われれば、うなずくしかない。「マッチングアプリと違って……」と言いかけると、そこにすかさずかぶせてきた。

「ええ、マッチングアプリと違って、前もって開示したプロフィールで品定めされたり、人生にダメ出しされたりすることもありませんしね(笑)」

◆10代少女の「会いたい」に応えた本当の理由

そういえば、ナオミさんと交際するきっかけになった正太さんの釣りブログにも、正太さんのプロフィールは年齢と性別程度しか公開されていなかった。好きな釣りのことを、ただ一心に書いていただけだ。そんな少ない情報だけで突然連絡してきた素性の知れぬ少女の「会いたい」に、正太さんは応えた――。

取材を終えて正太さんと芽衣ちゃんを駅まで送り、彼を紹介してくれた女性編集者に「なぜかナンパの話で盛り上がりました」とLINEで報告すると、こんな返事が返ってきた。

「そうそう、当時、正太が突然ナンパにハマりだして、サークル同期のみんなで呆れてたんですよ。ちょうど、彼が大学を辞めなきゃいけなくなったけど、なんとか辞めなくてもよくなったくらいの時期です。何か、思うところがあったんですかね」

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>

【稲田豊史】

編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。

【WEB】inadatoyoshi.com

当記事は女子SPA!の提供記事です。

あなたにおすすめ

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ

あなたにおすすめ