SUVでもアストンマーティン? 「DBX」に試乗して考えた


世界的なSUVブームは、高級車の世界でも新たなクルマの登場を促している。高級車の王様「ロールス・ロイス」からは「カリナン」、スーパーカーの「ランボルギーニ」からは「ウルス」が登場。その中で後発となるのが、今回の主役であるアストンマーティン「DBX」だ。

○「DBX」はアストンマーティンらしい?

「アストンマーティン」は100年以上の歴史を持つ英国の名門スポーツカーメーカーである。一般的には、映画『ジェームズ・ボンド』でボンドカーとして活躍するクルマといえば分かりやすいかもしれない。1964年公開の『007 ゴールドフィンガー』に秘密兵器満載の特殊車両として初採用されたのが、アストンマーティン「DB5」だった。それ以降、シリーズの多くの作品で、ボンドカーにはアストンマーティンが使われている。近年のダニエル・クレイグ演ずるジェームズ・ボンドの相棒もアストンマーティンだ。その優雅な姿と贅沢さから、かつては「貴族のクルマ」とも称された。

さて、話をDBXに戻そう。DBXはSUVであるため、スポーツカーであるほかのアストンマーティンと比べると、かなり車高が高い。それでも印象は、SUVというよりもスポーツカー的だ。これは、ほかのSUVと比べても極めて特徴的な点といえる。その秘密は、デザインにあると思う。

世の中にはスポーツカー顔負けの性能を備えるSUVがあふれているが、スポーティーさを演出する一方で、SUVらしいタフさも意識したデザインのものが多い。ところがDBXは、まずはアストンマーティンらしくあることを重視し、スポーツカーらしい流麗かつ柔らかなラインで構成されたデザインとなっている。斜め前から眺めたスタイルは、傾斜のキツいルーフラインの演出も相まって、かなりコンパクトに映る。それがクーペのアストンマーティンの放つ雰囲気とよく似ているのだ。

しかしそれは、デザインのマジックでもある。DBXを横から眺めると、その大きさに驚かされるだろう。私自身、思わず「デカい」と口にしてしまったほどだ。それも当然で、ボディサイズは全長5,039mm×全幅1,998mm×全高1,680mmもあるのだ。

ホイールベースも3,060mmと大きいが、これは同時に室内の広さを示すものでもある。その大きさは、超高級SUVらしい優れた快適性と高い積載性を実現させるものでもあるが、アストンマーティンらしいデザインを生む秘密でもある。サイズがデザインの自由度に結びついているのだ。

最もわかりやすいのが、リヤセクションの作りだ。ルーフとサイドからのラインをリヤに絞り込むことで、斜め前から見ると、引き締まったボディに見える。また、伸びやかなデザインとラゲッジスペースの確保のためテールゲートを段付きとしているが、これがクーペ風味を増し、さらに空力性能を高めるスポイラー効果も生む。このように、サイズ的なゆとりを活用することで、アストンマーティンらしいデザインが実現されているのだ。デザインの抑揚は車内の広さに影響を与える要素だが、ラージクラスならその心配もない。

事実、大人5人向けのインテリア空間は、実に広々としている。ラゲッジスペースも632Lとゆとりがあるので、旅の荷物もしっかりと飲み込んでくれる。SUVらしい実用性もしっかりと押さえているのだ。ただ、運転席周りの雰囲気は、あくまでスポーツカー的。センターコンソールには多数のスイッチが備わり、ちょっとボンドカーっぽくもある。もちろん、秘密の武器は隠されていないのでご安心を……。

ユニークなのがシフトボタンの位置で、ダッシュボード中央のモニター上にある。これは、近年のアストンマーティンのAT車に共通する仕様だ。エンジンスタートボタンと横並びの配置となっているので、最小限の視線移動で発進の準備が行える。安全性を考慮したレイアウトでもあるのだ。

○無敵のアストンマーティン、誕生

その内に秘めた性能はスポーツカーらしさにあふれている。パワーユニットは4.0LのV8DOHCツインターボエンジンを搭載し、最高出力550ps/6,500rpm、最大トルク700Nm/2,200~5,000rpmを発揮する。このエンジンは、ほかのアストンマーティンにも搭載されているものだ。トランスミッションは9速ATで、駆動方式は4WD。ゼロヒャク加速(停止状態から時速100キロへの加速に要する時間)4.5秒、最高速度291km/hという実力は、まさに見た目の期待を裏切らぬスーパーSUVのそれである。

スペックは刺激的な走りを予感させるが、乗ってみると、その予想はいい意味で裏切られることになる。乗り心地がとてもいいのだ。インテリアはスポーティーなのだが、決して攻撃的ではない。これは、レザーやウッドなどの天然素材が贅沢に使われていることにより、温かみが感じられるからだろう。もちろん、仕様によっては好戦的な雰囲気に仕上げることもできる。ただ、普通の運転ならば、同乗者には、超高性能なSUVというよりも、カッコよくて贅沢なSUVという印象を抱かせるだろう。

もちろん、アクセルを強く踏めばツインターボエンジンが強烈なダッシュを見せてくれるし、スポーツカーらしい軽快な動きも楽しめる。ただ、荒々しさはなく、サラブレッドのように優雅なのだ。その落ち着きとクレバーな振舞いこそ、英国車らしい魅力でもある。

アストンマーティンの本流のスポーツカーとは少し異なるDBXだが、その本質はしっかりと受け継いでいる。歴代のアストンマーティンはスポーツカーであると同時に、「GT」(グランツーリスモ)と呼ばれる長距離を快適に早く移動するためのクルマでもあった。その伝統からすれば、GT的な色合いの濃いDBXも、紛れもないアストンマーティンであるといえるのだ。

しかも、悪路の走行や最大500mmの渡河性能など、オフロードにも対応可能なDBXは、最高速や身軽さこそほかに譲るが、「無敵のアストンマーティン」といっても過言ではない。いつの日か、ジェームズ・ボンドを乗せて走る可能性も大いにありそうだ。私にとってDBXは、期待を裏切らないスーパーなアストンマーティンであった。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら

当記事はマイナビニュースの提供記事です。

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