『逃げ恥』でネット激論。「最高!」から「嫌い」まで真っ二つ

女子SPA!

 2016年に社会現象クラスとなった人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系列)のスペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(同)が1月2日放送されました。

みくり(新垣結衣)と平匡(ひらまさ 星野源)が契約結婚から生まれた恋を経て、ついに本当の“結婚”を決めた連続ドラマのその後が、海野つなみによる同名の原作漫画の10巻と11巻をもとに描かれました。

放送を楽しみに待っていた視聴者の熱狂はSNSを席巻し、「#逃げ恥」がツイッターの世界トレンド1位に輝いたほか、「恋ダンス」などの関連ワードが多数トレンドとなりました。

一方で、ネガティブな反応を示す視聴者の投稿もありました。(以下、ドラマのストーリー展開についての言及があります)

◆女性の結婚や出産やおひとりさま問題への疑問がはっきりと描かれた

というのも、今回のスペシャル版では、私達を取り巻く多くのことについて問題提起がされていました。4年前の連続ドラマ版でも、主人公・みくりが大学院卒ながら氷河期世代で就職口が見つからず、派遣社員として働くも“派遣切り”として無職になることからスタートしたこのドラマ、今回はさらにはっきりとメッセージ性が打ち出されたものでした。

たとえば、妊娠順番ルール。女性が多い職場で産休育休で働き手が減った場合でも、増員ができないために、子供を産む順番が暗黙のうちに決められていたり、なかには上司や経営者が決める場合もあるといいます。みくりが働く会社でも、女性の多い部署では妊娠の順番待ちが発生しており、「子供を産むのに順番待ちが必要ってなに?!」「時代は令和だっていうのにどうして産みたい時に産めないんだろう…」と、彼女は問いかけます。

また、これまで事実婚であったみくりと平匡は、選択的夫婦別姓の法制化を待って入籍しようとしていましたが、「選択的夫婦別姓、ちっとも進んでいませんね」というみくりのセリフの通り、現状ではかなわず、それを残念がる様子が、NHK・Eテレ『ねほりんぱほりん』とのコラボでユーモラスに描写されていました。

加えて、妊娠を知った平匡が「サポートします!」と力強く宣言するも、みくりから「サポートって何?手伝いなの?一緒に親になるんじゃなくて?」と問い返すシーンも。

他にも、平匡の働くIT企業のイキった上司の男性が、女性の容貌の「劣化」などの見た目いじりをカジュアルに繰り出すのに、平匡が疑問を投げかけるなど、身近な“あるある”から紡ぎ出された問題提起も多くありました。

そしてドラマ全体を通じ、そのシーンがいつの設定であるのか、年月日が時折表示され、現実の時間にあわせてストーリーは進んでいくため、2020年の部分ではコロナ禍が大きな要素として物語に影響しています。

こういった日本の連続ドラマではあまり見かけない問題提起の多さや現実社会とのつながりに、ツイッターでは「よく言ってくれた!」「これが妊娠、出産の現実。共感しかない」「政府に見てもらいたい!」「問題から目をそらさずに取り入れ、話をうまくまとめてて最高」との声がある一方で、「説教くさい」「フェミっぽくて無理」「ポリコレぽくて嫌い」「啓蒙的でキツい」との反応も多く、賛否両者とも相互に反論するなどして現在まで白熱した議論は続いています。

そこで、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』などの著書があるドラマライターの田幸和歌子さんは、今回のスペシャル版をどう見ているかを聞きました。

(以下、田幸さんの寄稿)

◆作り手・演者が背負った責任感

今回のスペシャルドラマのテーマはタイトルにもある『ガンバレ人類!』でした。

それだけに、「今」の人々の様々な不安やモヤモヤなどをありったけ掬(すく)い上げた内容になっていたと感じます。

女性の多い職場ならではの理不尽な妊娠順番ルールというマタハラ、妊娠初期のつわりの辛さや情緒不安定、夫婦別姓制度、男性の育児は「サポートする」が正しいのかどうか問題、育休問題、女性の「劣化」発言に見るルッキズム、加齢と病気・一人で生きること、介護などなど…。

もともと女性たちや、社会的弱者たちの小さな声に耳を傾け、丁寧に拾い上げることに長(た)けている野木亜紀子さんの脚本だけに、いま社会が抱えている様々な問題提起をし、気づきを与え、共に考える意義は大きいと思います。おまけに、現在進行形のコロナによって生まれる距離までも、作品にリアルに盛り込んできたところに強い思いを感じます。

それは名実共に今、最も影響力を持っている脚本家・野木さんと、逃げ恥という絶大な人気を誇るコンテンツの演出家やプロデューサーなどの作り手、演者さんたちが背負ったエンタメの発信力に対する責任感に見えます。

それだけに、「よく言ってくれた!」と溜飲(りゅういん)を下げる視聴者が多数いたり、「政府はドラマ見て!」といった声があがったりするのは納得です。

コロナ禍の現在を描くなどのドラマオリジナル要素もあるものの、盛り込まれている社会問題は原作に描かれているものばかり。ただしかし、その一方で、「説教くさい」、「ポリコレぽくて嫌い」という声があるのもちょっとわかります。

◆背負わされているものが多すぎて息詰まる思いも…

なにしろ人気脚本家・人気俳優・人気コンテンツゆえに、背負わされているものの大きさ・重さが尋常(じんじょう)じゃない。

このコロナ禍にみんなを元気にすること、様々な社会問題を描くこと、取り上げるべき現代のイシューやメッセージが多すぎて、それぞれをタスクとして、みくりや平匡さん、百合ちゃん、風見さん、みんながみんな背負わされているところに、息詰まる思いがしなくもない。

しかも、正解を押し付けるのではなく、あくまで気づきを与え、考えるきっかけを提供しているだけに、Twitter上では「無痛分娩」の賛否が盛り上がったり、男女差や世代差、個人差によって価値観の分断が見られたり、ドラマ終了後にも本心を曝(さら)け出し、ぶつけ合う様が見られました。

これはすごい影響力で、野木さんだから、逃げ恥だからできたことです。

◆息詰まるしんどい時期だからこそ会いたいのは…

2021年正月の現在にこのドラマを作った意義は非常に大きなものだと思いますし、それによって励まされた人、モヤモヤが晴れた人、気づきを得た人も多いでしょう。

その一方で、個人的にはこんな息詰まるしんどい時期だからこそ、様々なイシュー・メッセージをタスクとして課された逃げ恥の面々よりも、同じ野木亜紀子さん脚本作品の『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系列 2020年1月期放送)のような色々間違えまくっていて出鱈目(でたらめ)でダメダメで愛すべき人たちに会いたいな、とも少し思ってしまうのです。

<文/田幸和歌子>

【田幸和歌子】

ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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