『分島花音の倫敦philosophy』 第十一章 ロンドン住宅事情とちょっと怖い体験の話

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シンガーソングライター、チェリスト、作詞家、イラストレーターと多彩な才能を持つアーティスト、分島花音。彼女は今ロンドンに居る。ワーキングホリデーを取得して一年半の海外滞在中の分島が英国から今思うこと、感じること、伝えたいことを綴るコラム『分島花音の倫敦philosophy(哲学)』第十一回目となる今回は、分島花音のロンドン物件探しと、ちょっと怖い体験の話。

私がロンドンから帰国して1ヶ月が経ち、2020年は終わりに近づいてきました。予測できない1年となったロンドン生活でしたが、振り返るとさまざまな思い出がありました。今回はロンドンに来て間もないころ、初めて物件を探しに行った体験をお話しします。

ロンドンの家探しは大変と聞いていましたが、私も寮生活を終えた後の家に引っ越すときに少し怖かった体験をしました。

家探しの方法はいろいろあります。日本人が簡単に探せる方法としてはMixBというロンドンのコミュニティサイトを使うことです。物件だけでなくバイト求人やリサイクル品の売買などもできるサイトです。英語もままならず右も左もわからなかった私はそのサイトに掲載されていた、エリアの相場より安めの部屋が気になったので貸主に内見希望のメールをしました。
ロンドンの町並み 撮影:分島花音
ロンドンの町並み 撮影:分島花音

サイト上ではメールアドレスや電話番号が掲載されていて、直接貸主と連絡が取れるようなシステムになっています。返事はすぐ返ってきましたが、「綺麗なお部屋です。いつ見にきますか?」という簡素な日本語の文面でした。その家には日本人の留学生がいるようで、大家さんの代わりにメールを返信しているとのことでしたが、日本人らしい「ご連絡ありがとうございます」「よろしくお願いします」などの定型文もありませんでしたのでその時点で少し不審に思いました。

内見は夕方の6時からに決まり、その日は授業があったので学校へ行きました。同じ日にそこの学校の生徒だったミュージシャンを共通の友人に紹介してもらっていたので、学校が終わってから内見までの間ラウンジで話をしたのですが、その時内見にいくという話をしたら「自分の家の近くだから一緒に観にいこう」ということになり、土地勘のなかった私は友人にも例の物件へ付いて来てもらうことにしました。

冬のロンドンはあっという間まに日が落ちて、6時でも住宅街は街頭の小さな灯りだけで暗く、静かでした。指定された住所に行くと、家の入り口の電気は消えていて真っ暗でした。不安になりつつもベルを押し、待っていると中から80代くらいのイギリス人のおじいさんが出て来ました。

内見に来たことを説明すると、「まずは部屋を観なさい、質問はそれから。」と言われ、私が何か言おうとしても「後で。」と会話をさせてもらえず、彼が大家なのか誰なのかもわからないまま、友人と私はそろそろと2階に上がりました。2階は空き部屋の他に2部屋とバスルームがあって、どの部屋も鍵がかかっておらず、ドアが少し空いていたので部屋の中の様子が伺えました。

チラッと観ただけですが、どうやら残りの2部屋も女性が住んでいるような雰囲気で、肝心の空き部屋はセミダブルほどのベッドのほかに机のような家具がある、きれいに掃除された生活するには十分なスペースでした。1階に戻ると先程のおじいさんがキッチンの説明をして、奥のリビングに通されました。

古めかしいソファーとローテーブルのあるリビングの壁にはドガのバレリーナの大きな絵と、誰だかわからない若いアジア人の女性の写真が1メートルほど引き伸ばされてデカデカと飾られていました。そこで私の不安はピークに達し、友人をチラッと見ると「ここはちょっと危ない」と警戒するような表情をしていました。

ソファに座り質問することを許された私たちは、この家の大家さんがこのおじいさんであること、この家には留学生の日本人とワーホリできた日本人の女性2人が住んでいること、おじいさんもこの家の1階で暮らしていることを教えてもらいました。私が「日本人女性にも会いたいのですが何時に帰って来ますか?待ってもいいですか?」と聞くと大家さんは「何時に帰ってくるかわからないし多分遅くなると思う」と他の入居者と会うことを嫌がるような返答をして来ました。

「それよりその人は誰?」と友人の方に質問をしてくる大家さん。警戒心からか、咄嗟に友人は「兄です、妹が心配だったのでついて来ました。」と答えてくれました。「あの女性は誰ですか?」と友人が壁のアジア人女性を指差して尋ねると、「昔付き合っていた恋人だ。昔日本で教師をしていたときに付き合っていた女性だ。」と返答し、なぜ昔付き合っていた女性の写真を引き伸ばしてリビングに飾るのか? とそれを聞いた私と友人は一気に怖くなりました。

大家さんはなんだかよくわからないワインを私たちに勧めて来ましたが、この謎の絵画と写真に埋め尽くされたリビングから早く脱出したく、「今日は帰ります。」と言ってそそくさと家を出ました。帰り際、玄関に荷物がたくさんぶら下がって埃をかぶっているママチャリがあったので「これは誰のですか?」と聞いたら「日本人の留学生のものだ」と言っていましたが、何年も使ってないような自転車が果たして本当にその留学生のものなのかはいまだに謎ですし、そもそも生活感はありましたが本当に2人の日本人女性が住んでいるかも定かではありませんでした。
文中の家ではないんですが、一般的に一軒家に見えても、若い人は家をシェアして使ってる人が多いです 撮影:分島花音
文中の家ではないんですが、一般的に一軒家に見えても、若い人は家をシェアして使ってる人が多いです 撮影:分島花音

「あそこはやばい、絶対やめた方がいいよ。」と友人に言われ、私はいまだざわざわする心の中で物件探しの大変さを身に染みて理解しました。友人に付いて行ってもらわなかったら恐怖心はもっと増していたでしょうし、今思えばあの簡素な日本語のメールも大家さんが日本人のふりをして打っていた可能性もあります。若い女性が部屋に鍵をかけずに家を開けていたのも疑問でした。

後から知ったことですが、アジア人女性のみを入居者に迎えて夜中部屋に侵入する大家さんがあのエリアのあたりにいるという情報が以前からあり、あの家はそこそこ話題に上がっていた家だったそうです。知識のないまま物件を探すとこういうことになるのかと思い知った体験でした。

人を信じすぎるのも、警戒しすぎるのもよくないとは分かっていますが、未知の世界に行くと今までの常識は通用しない場合もありますし、何を基準に判断したらいいのかわからず失敗してしまうこともあります。人生に失敗は付き物ですが、今回は友人に助けられ、こうして1つのエピソードとしてコラムのネタにすることができました。

その後、私は以前友人が住んでいた物件が空いたという情報を得て運よく楽器の演奏も許される素敵な大家さんのいる家と巡り合います。次回はそんな大家さんとの思い出をお話ししたいと思います。

それでは皆様、良いお年を!

文・写真:分島花音

当記事はSPICEの提供記事です。

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