渋谷天外、藤山扇治郎が南座で幕を開ける松竹新喜劇への意気込みを語る「松竹新喜劇は”人間喜劇”、登場人物が真剣だからこそ面白い」

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●松竹新喜劇には歴史が作り上げてきた芝居の深みというものがある●


2021年の元旦から京都・南座で幕を開ける『初笑い!松竹新喜劇 新春お年玉公演』。今回は、Aプロの「二階の奥さん」と、Bプロの「鴨八ネギ次郎」の2作品を交互に上演する。「二階の奥さん」は、息子の嫁より若い妻をもった小山吾平が後ろめたさから息子に再婚を告げられずにいたところ、息子夫婦が帰ってくることになり……という嘘が嘘を呼ぶ松竹新喜劇の名作で、京都に拠点を置くTHE ROB CARLTONの村角太洋が初演出を担う。Bプロの「鴨八ネギ次郎」は、親子二組が織りなす恋模様を描いた作品。大人気の男女漫才コンビ、鴨八ネギ次郎だが、舞台を降りると二人は犬猿の仲。一方、鴨八の父とネギ次郎の母は子供らに隠れて熱愛中、ついには駆け落ちを決行することに……という物語で、演出を劇団新派の齋藤雅文が務める。幕開けを前に、松竹新喜劇の代表・渋谷天外と、次世代の担い手として活躍する藤山扇治郎が取材会を行い、意気込みなどを語った。
渋谷天外
渋谷天外

まずは、来年の目標や抱負を込めた一字を表してもらう「書初め」を披露してもらった。渋谷天外は「一」。「今までのことは今までのこととして、来年1からもう1回始めるという想いを込めました。新しい生活様式という言葉もよく耳にしましたし、1から始め直すこともいいのではないかと。明るく1から始めたいと思います」と話す。
藤山扇治郎
藤山扇治郎

藤山扇治郎は「〇」。「僕は左利きで、書道が苦手なので「〇」にしました。コロナ禍で会いたい人に会えませんが、今後、いろんなことが丸く収まって良い世の中になっていけばいいですね」と気持ちを込めた。

Aプロの「二階の奥さん」に出演する天外は、息子の嫁より若い妻をもつ小山吾平役は初めてという。「今まで名優がやってきたお芝居で、とても面白かったことを覚えています。今回は、台本も現代風に書き換えられているので、その面白さをどこまで出せるのかと期待しています。僕は若い妻を持つ役なのですが、40歳違いの嫁はんだそうです。僕は66歳になりましたから、26歳ぐらいの嫁さんをもらうということ。その辺の面白さが出たらいいなと思います」と意気込む。
『初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演』
『初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演』

一方の扇治郎は、Bプロの「鴨八ネギ次郎」で男女漫才コンビ・鴨八ネギ次郎のネギ次郎役をつとめる。「10カ月ぶりの舞台ということで、初舞台のような緊張感もあります。今回は泉しずかさんが演じる鴨八との漫才コンビで、前までは子供の役などが多かったんですけども、僕が子供の時から知っていて、お姉さんみたいな存在の泉さんとコンビを組ませていただけることが嬉しいです」と笑顔を見せた。

「鴨八ネギ次郎」は天外の父にあたる先代が「舘直志」のペンネームで書いた作品だ。先代は現在放送中のNHK連続テレビ小説『おちょやん』にも登場、それが成田凌演じる天海一平だ。天外ものちのち『おちょやん』に出演する。「主役の杉咲花さんは、とてもお芝居が上手ですね。私の出演しているシーンは、セリフがあってないようなものばかり。それぐらいアドリブがございまして、現場の雰囲気もものすごく盛り上がりました。何か傷跡を残してやろうと思って、思いっきり残しました。楽しみにしていてください。『おちょやん』という作品が出来上がるにあたって、「うちの親父を悪く書くなよ」と散々、NHKに言いました(笑)。今の親父役の成田さんはものすごく男前ですね」と顔をほころばせる。

『おちょやん』では松竹新喜劇が生まれる過程も描かれる。世代によっては「新喜劇」と聞くと、吉本新喜劇が真っ先に浮かんでくる人も多いのではないだろうか。それについて天外は、「『おちょやん』で松竹新喜劇という名前がどんどん広がっていると思うので、非常にありがたいなと思います。吉本さんは私たちが1948年に旗揚げした松竹新喜劇をご覧になって、あんなことをやりたいと10年後の1959年に吉本新喜劇を立ち上げました。松竹新喜劇には歴史が作り上げてきた芝居の深みというものがありますから、なんとか潰さないように頑張ってきまして、扇治郎さんにも次の時代に向けて頑張ってもらいたいなと思います」と話した。

お互いの個性がぶつかり合うことで良いものができる

渋谷天外
渋谷天外

続いて、渋谷天外に個別インタビューを行った。

――取材会で松竹新喜劇と吉本新喜劇の話もありましたが、改めて松竹新喜劇の魅力を教えてください。

松竹新喜劇は吉本新喜劇さんとジャンルが違うと思うんです。芝居のやり口も違いますし、松竹は松竹に、吉本さんは吉本さんに芝居の流れがあります。松竹新喜劇はちゃんとストーリーを積み上げていって、笑いがあって、涙があって、幕が下りる。ただ、涙は悲しい涙じゃないんですね。うちの芝居は共感の涙です。人生の様々なことに触れてきた方に見てもらえればいいのではないかと思います。演じている方も、歳を重ねるごとに理解する部分が変わってきますので、先人たちはとてもいい台本を残してくれたと思いますね。

――松竹新喜劇は、上演時間もコンパクトですし、セリフひとつとっても、いいなぁ……とつくづく思います。

うちの父が言っていたのですが、上演時間は1時間20分ぐらいがいいと。その間で、ストーリーを全てやってしまう。1時間40分くらいになってくると、ご高齢の方はトイレが我慢できなくなるので(笑)。今回は軽めのお芝居なので、上演時間も1時間前後になると思います。

――先ほど、『おちょやん』の話も出ましたが、お父様の人生がテレビドラマとして取り上げてもらえることに対して、どんな思いをお持ちでしょうか?

ヒロインの相手役になるとは思いませんでした。ほんまもんのことを書いたら生臭いので、それはうまいこと浄化して書いてくださっているみたいですね(笑)。

――『おちょやん』ではお祖父様が亡くなって、劇場葬で弔うシーンもありました。そのなかで、「人の世は笑えん喜劇と笑える悲劇のよじれあい」というセリフがあり、SNSでもこのセリフが話題になりました。天外さんは、喜劇というものをどのようにお考えですか?

人は何で笑うと思いますか? それは、位置エネルギーの差なんですよ。よくあるのが、偉そうにしている社長がバナナの皮で滑って転ぶ。そうすると位置が逆になるでしょう。このエネルギーが笑いになるんですね。松竹新喜劇の芝居は「人間喜劇だ」ということをよく言っていました。はたから見ていたらめちゃくちゃおもろいけど、本人らは真剣やと。藤山寛美先生も「真剣に芝居しろ」と仰っていましたね。
渋谷天外
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――取材会では若手座員のご活躍についても話題に上がりました。今、若手座員に期待されるのは、どういったところなのでしょうか?

役者としては10年もおったら大概の事は分かってくるんです。僕は今、自然体で芝居をしたいと思えるようになったのですが、彼らもそういうふうに思えてきたら、もっと面白い芝居ができると思います。いつか気がつくんです。早いうちの方がいいんですけど、かといって自分で気づく前に、他人が指摘しても伝わらない。芝居するというのは、禅の修行のようなものなんです。

――それはどういうところがでしょうか?

「真髄を知ることが大事」というところですかね。藤山先生がよくおっしゃっていたのは、「見てきたような芝居をするな」と。「誰かの芝居を見て、その人の面白い部分を持ってきてもあかん」と。僕はもうちょっと咀嚼して若手に言うのですが、「いくら君が頑張って(見てきた)彼/彼女の芝居をしても、彼/彼女にはなれないんだよ」と。「まず、その芝居の真髄、中身を知って君が演じなさい。そしたら個性も出てくるし、お互いの個性がぶつかり合うことで良いものができる」と。
渋谷天外
渋谷天外

――自分と向き合うことでもありますね。

そうですね。どれだけ遊んだか、どれだけ飲んだか、どれだけ何かをしたか。人生の中でどんどん傷ついていったらいいんです。仕事で失敗してもいい。成功のために失敗を重ねていくわけでしょう。そうするうちに、自分の感情にいろんな襞が出てくるんです。その襞をうまいこと表現できるのは誰やと言ったら、誰でもない自分です。芝居の上手い、下手じゃないよと。これはあくまでも僕の持論ですが。若手はいいところもたくさん持っていますが、自分たちで気付いていないんです。それが分かってきたら、いいんですけどね。

――最終的には自分を信じるということですね。

さっき禅という話をしましたけど、やっぱり自分自身の中身をどれだけ探れるかが役者の人生やと思っています。30歳前半やったかな、僕もいっぺん、自分の心の中を旅したことがあったんですよ。もう嫌なことが山ほど出てきて、ノイローゼになるくらい自分の気持ちを探っていきました。さっき遊べとか、何をしろとか言ったのは、心の襞の中に嫌な感情もたくさんあるので、若い人たちにはそれを頑張って探してほしいと思います。

――今回も久本雅美さんが出演されます。久本さんが松竹新喜劇に出演されることで、どんな効果をもたらされていると思われますか?

松竹新喜劇が彼女の芝居を受け止めていて、そのことで彼女が自由にお芝居ができる環境を作っているのではないかなと思います。彼女が色々考えて、ああでもない、こうでもないと様々なことを仕掛けてくる。それを新喜劇の連中がどうやって受け止めるか。それが面白いと思います。松竹新喜劇には10回目、南座での公演は4回目ということで、もう1劇団員のような感じです(笑)。今回も「鴨八ネギ次郎」で暴れてくれはると思います。
渋谷天外
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取材・文=Iwamoto.K 撮影=ハヤシマコ

当記事はSPICEの提供記事です。

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