『鬼滅の刃』の“あの”グルメを、5分以内に全力で再現して、全力..
ハシビロコのおたスケ。
2020年12月4日、ついに最終巻となる第23巻が発売され、多くの書店に行列を生んだ『鬼滅の刃』。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開を機に、街中でもネット上でも『鬼滅の刃』を見ない日はないというほどの一大ブームを巻き起こしています。
最終巻を読み終え、“鬼滅ロス”の渦中にいる方も少なくないでしょう。
そんなあなたに、ぜひおすすめしたい単行本が存在します。それが『吾峠呼世晴短編集』です。
本作は『鬼滅の刃』の作者である吾峠呼世晴先生の読み切り作品4編が収録されている単行本です。同じ作者だけど『鬼滅の刃』とはあまり関係のない内容なのでは?と思う方もいるかもしれませんが、本作にはなんと、『鬼滅の刃』のルーツとも呼べる短編『過狩り狩り』が収録されているのです。
今回は、そんな『過狩り狩り』について紹介します。
短編漫画『過狩り狩り』は、『鬼滅の刃』の作者である吾峠呼世晴先生のデビューのきっかけとなった作品。『鬼滅の刃』を連載していた週刊少年ジャンプ上で実施されている新人漫画賞にて、2013年に「佳作」を受賞した作品です。
少年ジャンプ漫画賞はTwitterの公式アカウントでは、主人公の顔をカラスが隠す特徴的な扉絵に、「1ページ目から気になる漫画が来た」とザワついたというエピソードが語られています。
「鬼滅の刃」吾峠呼世晴先生も漫画賞投稿からデビューされました。投稿作「過狩り狩り」は主人公の顔を隠した意表をつく扉絵で、編集部が「1ページ目から気になる漫画が来た」とザワついたのをよく覚えています。下記リンクから無料で読めます!新世界漫画賞10月期も募集中!https://t.co/Zjx0qa6lz8 pic.twitter.com/jWLsX86O8H
— 少年ジャンプ漫画賞 (@jump_mangasho) October 17, 2020
本作は、明治・大正時代を想定した作品。町中で人を襲う異国からやってきた鬼に対して、日本の鬼が立ち向かいます。日本の鬼たちは苦戦を強いられるのですが、そこへ主人公となる剣士が現れて、日本の鬼たちに代わって、吸血鬼と戦うという内容になっています。
ジャンプ新人賞のサイトでは、1話が丸々配信されているので、気になっている方はそこで読むこともできます。
本作の驚くべきポイントのひとつが“登場人物”です。読み切りなので、漫画の中に登場するキャラクターは限られているのですが、どこか『鬼滅の刃』に登場したキャラクターを思わせる人物から、ほぼそのままというぐらいの人物まで登場しているのです。
『過狩り狩り』の主人公。
顔には大きな傷を持ち盲目。隻腕という身体でありながら、器用に刀を振るって鬼と戦う剣士です。唯一の片腕には“ウ-捨壱号”と書かれていたり、その刀には“惡鬼滅殺”と彫り込まれていたりと、身なりだけでない特徴を多く持っていますが、彼が何者なのか、作中では名前すら明かされていません。
ただし腕の文字を見て彼が何者なのか気づく人間がいることが書かれており、この剣士が知る人ぞ知る存在であることが分かります。
西洋の服を来た男の鬼。無差別に人々を殺して、騒ぎを起こしていた人物です。
縄張りに入ってきたことをきっかけに、“時川”たちの襲撃に遭いますが、圧倒的な力を持って単身で善戦を繰り広げました。体からは鋭利な棘のようなものを生やすことができます。
作中では、相手の話を理解できていない描写が挟まれていることや、基本的に作中のフキダシが彼だけ横書きになっていることから、外国語を喋っており、日本の言葉が通じていないことが想像できます。
白いスーツに身を包んだ男。“珠世”との共闘を持ちかけ、異国からやってきた鬼を協力して倒そうと奮闘する人物です。作中では、接近戦で猛攻撃を繰り広げるも、異国の鬼の棘で串刺しにされ苦戦します。再生能力があり、まだ奥の手があることを予感させるものの、作中では明かされませんでした。
その姿と高圧的な態度は『鬼滅の刃』の無惨を思わせるキャラクターとなっています。
着物に身を包んだ女性。時川に協力を打診され、協力して異国の鬼を倒そうと戦います。
自らの血の香りを相手に嗅がせることで、嗅覚と視覚を奪う幻覚を見せることができます。
その姿や特徴、そして名前からも『鬼滅の刃』に登場した珠世にかなり近いキャラクターとして描かれており、明らかにこのキャラクターがベースとなっていたことが伺えます
珠世に仕える青年。“目の形のお札”を自身の視覚のように使うことができる独自の能力を持っています。
珠世に続いて愈史郎も、『鬼滅の刃』に登場した愈史郎にかなり近いキャラクターとして描かれています。珠世に対して“様”付けをしていたり、珠世に対して偉そうな時川を威嚇する姿はまさにおなじみともいえる反応。能力やお札のデザインもほぼ『鬼滅の刃』そのままです。
多くの共通点があることからもわかるように、本作については吾峠呼世晴先生自身も『鬼滅の刃』のベースとなった作品と公言しており、
ハンデがあっても普通の人より強い剣士を描きたかったのと、着物を着た吸血鬼というものはあまり見ないような気がしたので明治・大正時代あたりで和風のドラキュラを描こうした
と当時を振り返るコメントを寄せています。(抜粋:吾峠呼世晴短編集)
時代感やキャラクターはもちろんのこと、その世界観も『鬼滅の刃』に近いものとなっています。作品単体ではその設定の多くが具体的には語られていないのですが、『鬼滅の刃』を読んでいる人にはその『過狩り狩り』の設定が想像しやすいものとなっています。
具体的な例を紹介していきます。
>『過狩り狩り』では“鬼殺隊”という言葉は登場しませんが、主人公がそれに類する存在であることが描かれます。
街中で軍人らしき男たちに引き止められた際には、主人公は腕に書かれた文字を見せるシーンがありますが、それを見て彼が人々を虐殺する犯人を捕らえる役目を担っていることを察し、深追いするのを止めます。
わずかに描かれた回想シーンでは、鬼がいる森の中で七日間生き延びるという試練が課せられており、『鬼滅の刃』でも描かれた鬼殺隊の最終選別の内容そのものとなっています。
時川たちには“アレ”と恐れられることから、彼ら、もしくは彼が鬼たちにとって宿敵となっているのでしょう。
忘れちゃいけないのが、表紙のイラストにも印象的に描かれたカラス。人間の言葉を使って、主人公に鬼の方角を知らせる描写が本作でも描かれており、これはまさに『鬼滅の刃』に登場した鎹鴉(かすがいがらす)そのものです。
特徴的な『鬼滅の刃』における鬼の設定も、『過狩り狩り』の頃から構想にあったことが伺えます。
異国の鬼によって、串刺しにされた時川が、徐々に身体の傷を癒していくのは、鬼の“再生能力”。珠世がその血の匂いで幻術を見せる能力は、鬼が固有で持つ特殊能力である“血鬼術”。さらには、主人公によって首をはねられた姿を確認した愈史郎が、異国の鬼が死んだと判断したことから、“鬼は首を斬ることで仕留められる”という弱点の設定もこの『過狩り狩り』の頃にすでに生まれていたことが分かります。
唯一、『鬼滅の刃』で描かれていない設定としては、異国の吸血鬼の存在。『鬼滅の刃』内では国内だけの抗争が描かれていましたが、もしかすると炭治郎たちが奮闘している頃に、海外でも鬼が並行して暴れていたという可能性もあるのでしょう。
こうして『過狩り狩り』の内容を紹介していくと、『鬼滅の刃』のベースとなる作品という点だけで推しているように見えてしまうかもしれませんが、『過狩り狩り』は独自の魅力を持っている作品。『鬼滅の刃』にはないその魅力もぜひ知っておきたいところです。
『過狩り狩り』は、説明もなく突然町に現れた鬼たちとの戦いの世界に放り込まれるので、『鬼滅の刃』における一般人の体験ができるような作品。
『鬼滅の刃』は、主人公・炭治郎の視点で描かれるので、鬼を退治する鬼殺隊側の視点を体験することになり、まるで鬼殺隊の存在が当たり前のように感じられますが、実際は大正の時代に陰ながら戦いを繰り広げた人知れずの存在です。『過狩り狩り』は、鬼の存在を信じていない人間となって、その裏で鬼を退治する人の姿を垣間見ることになるので、『鬼滅の刃』の世界を新鮮な形で味わえることになります。
『鬼滅の刃』と多くの共通項を持つ『過狩り狩り』ですが、『鬼滅の刃』では描かれていない設定を想像させるところもみどころ。『鬼滅の刃』では無惨によって鬼は統括されていましたが、『過狩り狩り』では時川たちの会話から鬼ごとに縄張りを持った勢力性となっていることを予期させます。読み切りだというのに会話のシーンで名前だけ登場する“西の伊勢尾”というキャラクターがいたり、舞台の裏側に広がりがあるところにも驚きです。一体この“伊勢尾”とはどんなキャラクターなのか、『過狩り狩り』のその後の世界も見たくなります。
まだまだ編集者の手も加わっていない作品ということもあってか、『過狩り狩り』は説明が足りていない部分が多い作品だということは否めません。しかし、それを補填するのが『鬼滅の刃』の知識。『鬼滅の刃』で知った知識が、より『過狩り狩り』をより読みやすく、深みを持たせてくれます。『鬼滅の刃』を読み終えたあなたにこそ、ぜひおすすめしておきたい一作です。