殺人やクスリ…犯罪者が集結するダークウェブの深い闇

日刊SPA!

 サイバー空間で暗躍する犯罪者が跋扈し、中には殺人を請け負うと称する者が巣くうダークウェブ。犯罪者がこぞって集うネット上の特殊空間は今、劇的な進化を遂げている。インターネットの深海に潜むリアルを照らした。

◆世界中の犯罪者が集結する、ありとあらゆる犯罪の温床

脅しの対象となったのは、大手ゲーム会社のカプコンだった。11月中旬、「ラグナ・ロッカー」と名乗るサイバー犯罪集団は同社の顧客や個人情報を盗み出したとして一部をダークウェブ上に公開。さらに1テラバイトに及ぶ情報を持っているとし、公開されたくなければ1100万ドル(約11億円)の身代金を支払うよう要求したのだ。

ダークウェブとは、特殊なブラウザを使ってアクセスできる空間で、身分の秘匿をしやすいことから犯罪の温床となってきた。欧州や韓国などではテロ活動や人身売買組織の温床とされ、悪評は轟いている。

◆日本国内でもダークウェブを舞台とする事件が頻発

これまで多くの日本人にとっては馴染みのない世界だったことは事実だ。ただ、そんな状況が変わりつつある。日本国内でもダークウェブを舞台とする事件が頻発しているのだ。

11月初旬にはダークウェブ上でパソコンを遠隔操作できるウイルスを販売した21歳の男が不正指令電磁的記録提供の疑いで愛知県警に逮捕された。同日には匿名ブラウザを使い、複数の大学に爆破予告を行った22歳の大学院生の男も警視庁に逮捕されている。

3月には匿名ブラウザを使って児童ポルノを投稿した疑いで、32歳の公務員を大阪府警が検挙した。インターネットの最深部では、こうした犯罪が常態化しているのだ。

◆ダークウェブ事件簿

▼美人モデル人身売買未遂事件

’17年8月、共犯者とともに20代の英国人女性モデルを拉致し、ダークウェブのオークションサイトで売りに出そうとした男がイタリア警察に逮捕された。男はミラノの英国領事館で彼女を解放したのちに身柄を拘束された。取り調べではサイバー犯罪集団「ブラック・デス」に雇われて犯行に及んだと供述。

▼コインチェックNEM流出事件

’18年2月、仮想通貨取引所のコインチェックがハッキングされ、NEM580億円分が不正に引き出された。その後、不正引き出しされたものとみられるNEMを時価の15%引きで販売すると謳う不審なサイトがダークウェブ上に出現。このサイトは保有するNEMを完売したが、犯人はいまだに捕まっていない。

▼イスラム系テロ組織支援サイト

’18年2月、イスラム原理主義を標榜するシリアのテロ組織を支援するサイトがダークウェブ上に出現。同組織が戦闘に使用する兵器や弾薬の購入資金を仮想通貨で受け付けており、テロ組織の改たな資金獲得手段として当局は警戒を強めている。支援者は募金の使途を選ぶことができるようになっていた。

▼世界最大級の児ポサイト摘発

’19年10月までに、乳児や幼児が性的暴行される動画を配信するダークウェブ上の児童ポルノサイトの運営者の男と投稿者300人以上が韓国で逮捕された。同サイトは有料会員4000人以上から数千万円の仮想通貨を受け取り、その代価として児童わいせつ物20万件余りを提供していた。

▼n番部屋事件

’18年から’20年にかけ、主に韓国国内で女性を脅迫して撮影した性的で残虐な動画がテレグラム上で有料配信されていた。被害者は少なくとも74人に上り、このうち16人は未成年だった。有料会員数は1万人に達していたとも推測される。11月26日、主犯格の男には一審で懲役40年が宣告された。

◆ロシアのハッカーが請け負った2000ドルの仕事とは?

ここで頻出する匿名ブラウザとは、Tor(トーア)と呼ばれるものだ。一般的なブラウザでは訪問先のウェブサイトに閲覧者のIPアドレスなどが残るが、Torを使用したブラウジングでは、そうした痕跡が残らないとされている。その上、一般的なブラウザではアクセスできないコンテンツにもアクセス可能なことから、Torは「ダークウェブの入り口」とも呼ばれている。

関西を拠点とする半グレ集団に属するK氏も、Torを悪用する一人。実態についてこう明かす。

「日本だと一番の目的はクスリの売買でしょうね。ダークウェブ上には掲示板が無数に存在するのですが、プッシャーの書き込みがいくらでもある。要は秘匿性の高い5ちゃんねるみたいなもので、オレオレ詐欺をやっている連中は出し子の調達にダークウェブに書き込みしている闇派遣業者を使ったりするし、架空口座の買い付けにも使っています。

逆に、スキルを持ってる個人が『不正ソフトを使って企業を攻撃します』とか売り込んでいるケースもある。俺が実際に見たのはロシアのハッカーが2000ドルで企業のサイトを1週間ダウンさせるって内容でしたが、本当にできたので驚いた」

◆記者がダークウェブ上の掲示板で目にしたものとは

無法状態ともいえるダークウェブを覗くため、筆者も自前のPCにTorをインストールしてみた。

まず訪れてみたのは、ウィキペディアにURLが掲載されている「onionちゃんねる」という掲示板だ。一般ブラウザではURLを打ち込んでもたどり着くことができない。しかしTorを使うと遅めの通信速度ながら、サイトが開いた。掲示板内を数分巡回してみただけで圧倒された。

「薬、武器、基本どんなものでも用意します」「殺人、復讐代行、拉致等承ります」など、物騒な投稿が複数見られるのだ。中には個人の名前と住所を晒したうえで「室内に大金を所持」していることを示唆するなど、まるで空き巣や強盗をするよう煽る書き込みもあるではないか。

性犯罪系の掲示板も活況だ。

「児ポ売ります」「ロリ画像ください」などという文言が堂々と並び、画像へのリンクを張っているスレッドも少なくなかった。

◆犯罪の温床となりつつある「テレグラム」

そして、こうした書き込みに高い頻度で添えられているのが、メッセージアプリ「テレグラム」のIDだった。そこで投稿者と閲覧者は2者間のやりとりに移行し、取引を行うということなのだろう。『ダークウェブの教科書』の著者でホワイトハッカーのCheena氏が解説する。

「これまでダークウェブでなされていた犯罪性の高い情報交換が今、テレグラムに移行しつつあります。テレグラムは’17年にロシア当局からの通信記録開示の要求を拒否。この一件でダークウェブに代わる秘匿性メディアとして注目されたことも一因でしょう。

そもそも、ダークウェブのコンテンツは英語がメインで、Torは通信速度が遅い。その点、テレグラムはスマホで簡単にやりとりできて通信速度も速く、利便性を求めるユーザーに支持されています。掲示板に相当するチャンネルの開設も容易で日本語のコンテンツも増えている」

ネットを使った犯罪組織の摘発を描いた『サイバー・クライム』の監訳者・福森大喜氏は現在、インターポール(国際刑事警察機構)でサイバー犯罪と向き合う専門家である。そんな福森氏も、昨今の変化を危惧する。

「テレグラムのように、サーバーにデータが存在しないことを前提としているアプリ上での個別のやりとりとなると、捜査機関にとってはTorよりも手が出しづらい。犯罪のあり方がめまぐるしく変わっており、今後、凶悪化が懸念されます」

最近よく耳にするアポ電強盗なども、共犯者とのやりとりにテレグラムが使用されている現実がある。無限に拡大するサイバー空間に対応した治安体制の確立が急がれる。

◆ダークウェブと治安当局との戦い

各国捜査当局は匿名のネットの海で、どのような捜査で犯人らを追い詰めているのか。前出のインターポールに勤務、現状に詳しい福森氏が明かす。

「Torは、世界中の支持者によって提供される無数のサーバーのうち、ランダムに選ばれた3つを経由することで、匿名性を確保しています。

しかし、これらの中にFBIが設置したサーバーもあったりする。犯罪組織がアクセスしたときに偶然3つともFBIのサーバーだったら通信内容を入手できる、という研究もある。ダークウェブ上でハッカーを募集している犯罪組織もあり、捜査官が応募して潜入することもある」

前述のとおり、Torよりも難しいといわれるテレグラムを利用した犯罪行為については、どんな対応方法があるのか?

「目下議論されているところですが、スマートフォンやパソコンなどの通信端末にバックドアを作り、テロのような緊急性の高い事態が差し迫った時のみ、各国の治安当局がアクセスできるようにすべきという主張もある。民主主義国家では実現は相当困難とは思われますが……」

◆焦点は国家間協力

今後、国を跨いだ犯罪の横行は想像に難くない。日本の警察が取るべき道とは?

「サイバー犯罪捜査に関しては、予算的にもインフラ的にも日本の警察は恵まれています。喫緊の課題は国際連携でしょう。ダークウェブ関連の犯罪は各国との連携が必須ですが、ギブ・アンド・テイクでなければならない。他国の捜査機関に協力を要請するばかりではなく、他国からの要請にも応えなければダメ。

海外ではダークウェブを隠れ蓑とする犯罪組織に対して裁判所の許可のもと、合法的にハッキングすることも捜査手段として用いますが、日本の警察には難しい。法律の整備なども含め体制づくりが必要です」

【Cheena氏】

’97年、関東生まれ。ホワイトハッカーとして漫画村事件で警察に協力。コインチェックのNEM流出事件でも実態解明に貢献。著書に『ダークウェブの教科書』(データハウス)

【福森大喜氏】

筑波大学卒。’14年、所属するサイバーディフェンス研究所からインターポールに出向し、サイバー犯罪捜査や捜査官の育成に従事。監修書籍に『サイバー・クライム』(講談社)

<取材・文/奥窪優木>

【奥窪優木】

1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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